5分で読める短編小説集 風刺編

あーく

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社会人免許

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「以上が説明になります。何か質問はありますか?」

司会の声がマイクを通して響き渡る。

会場内はシーンと静まりかえっていた。

「それでは、あなたたちは今から『社会人免許』を持った大人の一員です。社会人として恥じない振る舞いをしましょう」

会場にいた人たちは次々と立ち上がり、帰宅の準備を始める。

18歳以上になると『社会人免許』がもらえる。

これは、僕たちが社会人として生活することを保証してくれる免許だ。

最近、パワハラや過労死の事件が後を絶たない。

困った政府は『社会人免許』を作り、これを持っている人は安全だということを保証することにした。

社会人として必要最低限の知識を問われる試験に合格した人が『社会人免許』を持つことができ、持っているだけで安心して生活ができる。

何か事件を起こすと、すぐに『社会人免許』が取り上げられる。

『社会人免許』は、持ってるだけでも大きなアドバンテージとなる。



企業は『社会人免許』を持ってる人を積極的に採用する。

僕も『社会人免許』を取り、今は新人として働いている。

しかし、入社したはいいもののトラブルが絶えなかった。

「ねぇ、何度言ったらわかるの?遅刻するなって。社会人として当たり前だろ?」

僕は思った。

始業時間が10時なら間に合うのに。

僕は遅刻はするものの、持ち前の集中力でいつも終業までには業務が終わる。

一方、他の人は時間通りに来て時間通りに業務を終える。

つまり、他の人よりも僕の方が作業効率がいい。

作業が早いことと遅刻をしないこと、どちらの方がいいかは聞くまでもないだろう。

どうやら社会人は遅刻をしないことは業務をこなすことよりも大事らしい。

「君、仕事終わったの?これも追加でお願いね」

「え?」

「このくらい残業すればいいじゃん。困っている人を助けるのは社会人として当たり前だよね?じゃあよろしく」

自分が困っているときは人に頼るのに、僕が困った時には手を貸してくれない。

社会人として――なんて都合のいい言葉だろう。

社会人免許試験では当然、『人が困っている時には手を貸さなくてよい』とは出題されていない。

僕はなんとか追加作業を終えた。

「やっと終わったようだね。ご苦労さん。」

「あのー。始業時間を9時30分にしてもらえないでしょうか?その代わり、終業時間を30分遅めるので――」

「ダメだ」

「どうしてですか!?」

「ルールだからだ。君も社会人ならルールを守らないと」

「でも・・・」

「君『社会人免許』持ってるんでしょ?」

「え?・・・はい」

「試験に出なかったのかな?『ルールは守るものです』とかさあ、当たり前だと思うんだけど」

『ルールは守るもの』。

僕が試験を受けた後解答を見直したのだが、その問題は不正解だったと思う。

僕は『ルールは作るもの』だと思っている。

おかしなルールや、合わないルールは変えるべきだと思うのだが、社会人は『ルールを守ること』しか言われていない。

法律ですら人が作っているのにも関わらず。



それから色んな問題を起こしたが、やはり僕は社会人に向いていないということを気付かされた。

実は僕は、試験にはギリギリで合格していた。

僕なんかが社会人になってしまうと、他の人に迷惑がかかるだろう。

僕は退社し『社会人免許』を返上することにした。
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