5分で読める短編小説集 風刺編

あーく

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アンチチート系

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「ん……ここは……」

 コンビニの帰り道にトラックに轢かれたところまでは覚えている。

「何だここは! あたり見渡す限りの大自然! 見たことのない生物!」

 もう少しあたりを観察しようと移動するが、体が重い。

「鎧? 剣もある。そうか、これは異世界か。異世界へ転生しちまったんだ!」

 あてもなく歩いていると、目の前にスライムが現れた。

「こいつを退治すればいいんだな」

 右手に持っている剣でスライムを倒すと、どこからともなく声が聞こえた。

『レベルが2に上がりました。気合い斬りを覚えました』

 どうやら、このままゲームのような感覚で敵を倒していけばいいみたいだ。

 モンスターを探して歩いていると、目の前に冒険者らしき団体が歩いていた。
 リーダーから話を聞いてみることにした。

「すみません」
「やあ。その装備は初心者かい?」

「ええ、まあ」
「なるほど。ちなみに目的はあるかい?」

「目的?」
「そうだ。この世界では何をしてもいい。強いモンスターを倒すのもいいし、レアアイテムを集めるのでもいい。他の冒険者と対戦してもいい。何をするのも自由さ!」

「魔王とかはいるの?」
「魔王? あれを魔王というのかは分からないが、最強のモンスターはいるな。俺たちはレアアイテムを集めてるから関係ないけどな」

 一人でもくもくとゲームする方が気楽でいいや。
 とりあえず、このリーダーが言う最強のモンスターを目標にしよう。

 リーダーたちと別れると、モンスターを探した。
 もっと強いモンスターを探すため、洞窟へ入っていった。

「こいつは強そうだぞ」

 火を吐く狼だ。レベルは5くらいか。
 幸い火を吐くタイミングが読めたため、ノーダメージで倒すことができた。
 こう見えてもアクションゲームは得意だ。

「やった。レベルアップだ!」

『レベルが3に上がりました。ヒートブレスを覚えました』

 これは……さっきのモンスターのスキルか?

 次はクモのモンスターだ。

『ミニスパイダーを倒しました。スパイダーウェブを覚えました』

 どうやら倒したモンスターのスキルを覚えられるようだ。

 このままどんどんモンスターを倒していった。
 やがてスタミナが無くなり、街へ行って休むことにした。

 街は洞窟のそばにあった。

「お、お前さんはさっきの」
「あ、さっきのリーダー」

 先ほどのリーダーとばったり再会した。
 アイテムの情報を探しに街へ来たらしい。

「よかったらお前さんもうちのパーティーに入らないか?」
「え? いいんですか?」

「おうよ。お前さんはまだ初心者だろうし、経験値稼ぎにももってこいだろ」

 なんて優しい人なんだろうか。
 地獄に仏とはこのことだな。
 別に地獄でもないけど。

「僕、あれから強くなりましたよ」
「そうか。じゃあステータスを見せてみな」

 ステータスを表示すると、冒険者の表情が曇り始めた。

「お前……その技、どこで手に入れた」
「え? モンスターを倒したら覚えましたけど」

「……悪いことは言わん。この技は忘れろ」
「え!? どうして!」

「お前『チート』を使ってるな」
「チー……ト?」

「お前が覚えている技は本来、お前が覚えることができない技なんだ」
「で……でも……」

「とにかく、ゲームバランスを乱さないためにもその技は忘れるんだ」

 そう言われたものの、忘れることはできなかった。
 これを使えば簡単に最強のモンスターを倒せると思ったからだ。
 でも、忘れないとパーティに入れてもらえない。

 ……そうだ。



「よし、ちゃんと忘れて来たな」

 この世界にはステータスやスキルを感知できないモンスターが存在することがわかった。
 そのモンスターと戦い、ステータスを隠すスキルを手に入れることができた。
 とにかく、敵から奪った技は使わないようにしよう。

 こうしてチートがバレないように冒険を進めていったが、それにも限界が来てしまった。
 僕たちのパーティーは重大なピンチに陥った。
 目の前には大きなドラゴン――チートを使わないと全滅だ。

「た、たすけてくれ」

 チートなんて関係ない! ここで全員を助けてヒーローになるんだ!

「ヒートブレス!」
「……!! その技は!」

 敵から奪ったスキルで見事ドラゴンを撃退した。
 アイテムを盗むスキルも持っていたので、レアアイテムもゲットできた。
 回復スキルで全員の回復を癒し、MP回復のスキルも使った。

「……」

 リーダーは呆気に取られている。
 僕がいなかったらこのパーティは全滅だったのだ。
 感謝してもしきれないのだろう。

「今、運営に通報した」
「え!?」

「君はチートを使ったからな」
「でも、僕がいなかったら全滅していましたよ!」

「いくら俺たちが助かろうと、君がやっていることはチート。悪い行為だ」
「で、でも、全滅したら――」

「全滅したら復活すればいいだろ!」

 全滅してもやり直せるシステムだったようだ。

「しょせん俺たちの実力がそこまでだったってことだ! また腕を磨いて出直せばいいんだよ! 負けたら反省してまた挑戦する、それがゲームの醍醐味ってもんだ! いつでも勝てるゲームは楽しいはずがない!」

 まさか、感謝されるつもりが怒られることになるとは。
 しょうがない、この人たちとは別れて――

「おい、どこへ行くつもりだ!」
「どこでもいいでしょう。今から飛翔のスキルで――」

『その技は使うことはできません』

「――え?」

『不正を感知しました。アカウントを凍結させます』

「俺が通報するのは2度目だからな。てっきり反省したと思ったが」
「に……2度目!?」

「チートはゲーム性を著しく乱す。最初に街であったとき念のため通報しておいたんだ」
「そんな!」

「俺だけじゃない。街でお前のステータスを見ていた人の中にも通報した人はいただろうな」
「僕を信じなかったってことですか!」

「お前はいま俺を裏切っただろ! 運営は様子見もかねて1度目は目をつむってくれたんだろうが、2度目はない! このゲームから出て行け!」
「待って! 僕は現実世界でも悲惨な目に遭ってるんだ! 僕にはもうこの世界しかないんだ! だから――」






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