魔技師のマギシ

あーく

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第2話 美の追求者

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「着いたわよ。」

「『着いたわよ』じゃねーよ。」

マギシは肩で呼吸しながらミリィに不満をぶつける。

「遠いとは聞いていたが、この町まで来るのに5日もかかるとは思わなかったぞ。他にルートはなかったのか?」

「あら、体力がないのね。私は平気だけど。」

「俺は平気じゃねぇ!」

「物作りが得意なら乗り物でも作ればいいじゃない。」

「こいつ……。おい!アックスもなんか言ってやれ!」

「……いや、お前は少し体力をつけた方がいい。その体力でこの先やっていけるのか?」

「アックス、お前もか……。」

マギシは体を動かすということをしてこなかったため、他の二人よりも体力が少なかった。

「さぁ、休んでる暇はないわよ。こっちへいらっしゃい。」

ミリィはある建物の前に二人を案内した。

建物の中から香ばしい匂いがする。

どうやら酒場らしい。

「俺、酒飲めないんだが。」

マギシがいちいち毒突く。

「いいから入るわよ。みんなー!元気ー!?」

ミリィは酒場の扉を開けた。

酒場の中は賑わっており、すでに満席のようだった。

座る場所がない者は、立って談笑したり飲み食いしていた。

「……。」

「ちょっと、大丈夫!?口から魂が抜けてるわよ!」

「マギシは人混みが嫌いなんだ。悪いが俺たちは外で待ってる。」

「……アックス、肩を貸してくれ。」

無理もない。

マギシは体力的にも精神的にも疲弊しきっているのだ。

「しょうがないわね。じゃあ、うちのシェフ連れてくるわ。」

マギシはアックスに担がれ、退場した。



10分ほどすると、ミリィは酒場から出てきた。

「お待たせ。紹介するわ。料理長のソワレよ。」

ミリィの隣に立っている人物は、アックスに引けを取らないくらい長身だった。

白い制服を身にまとい、金髪を肩まで下ろした男だった。

「おい貴様、座りながら話を聞くつもりか?美しくねぇな。」

「許してくれ、マギシは今疲れ切っているんだ。」

「……ほう?その青年、中程度の水分不足のようだな。早く水を飲ませてやれ。」

「わ、わかった。」

アックスは慌ててマギシに水を飲ませた。

「すまない、アックス。」

「いいんだ、休んでおけ。」

「それとミリィ、君は肌が荒れているようだが、脂は足りているのか?肉は食べていないのか?」

「え!?え!?そ、そんなことないわよ!……多分。」

マギシは驚いていた。

この男はこちらを見回したと思えば、二人の健康状態を分析していたのだ。

確かに、マギシも少し水を飲んで楽になっていた。

「……それは個性魔法か?」

「ああそうだ。俺は物体の水分量、鉄分、タンパク質、脂肪分、その他の成分を一目で把握できる。この個性がなければ俺は料理をしていない。」

「へぇ~。材料の焼き加減とか味付けとかが分析できるから、それでおいしく調理できるってわけね。」

「そういうことだ。」

個性魔法は、基本的に一人一人が異なる能力を持つ。

例えば、ミリィの場合は相手を魅了する魔法のように。

「それにしても、その男は美しいな。」

ソワレはアックスを見て恍惚の笑みを浮かべていた。

「え、ソワレってそっちの気があるの?」

「違う!その筋肉量、体脂肪、水分量――ほとんど完璧なバランスではないか!美しい!」

アックスは頬をぽりぽりと掻いた。

ミリィは男が男を見つめるという暑苦しい光景に呆然としていたが、ふと我に返った。

「あ、そうそう!今日はソワレに見てほしい物があって――」

ミリィは火の出る魔法石のこと、マギシがそれを作れること、これで困ったことが解決できるかなどを伝えた。

「なるほど。確かにそれは便利だ。これさえあれば魔力だけで料理ができるな。いちいち木を燃やす必要もなくなるわけだ。」

「そういうことね。」

「だが断る。」

「どうして!?便利なのは分かったでしょ!?」

「見てみろ。そいつはどう見ても石ころだ。俺はその石で料理するんだぞ。美しくねぇ。それに、そんなに火が近かったら火傷するだろ!バカか!」

「それは……。」

ミリィは圧倒され、すっかり黙り込んでしまった。

「失礼。俺としたことが美しくない言葉を使ってしまったな。つまりはそういうことだ。そのままだと誰も使えねぇ。使いたくもねぇのさ。」

そう言うと、ソワレは酒場の中へ入っていった。

三人はすっかりと気を落としてしまった。

「……ごめんね、マギシ。何か役に立てると思ったんだけど――」

「いや、役に立ったさ。」

「え?」

「ククク……。そうか。『このままだと』誰も使えない、か。そりゃそうだ。」

「……もしかして!」

「ああ、これからこいつを加工する。俺もこいつで火傷しかけたからな。ユーザーのことを考えていない魔技師は魔技師失格だ!」

「さすがマギシ!……で、どうするの?」

「わからん。」

「あら……。」

「だが、これを見てくれ。」

マギシは首から下げたアクセサリーを手に持った。

「これは親父が俺に作ってくれたお守りだ。」

「そのアクセサリー、手作りだったの!?」

それは、ミリィの魅了魔法を防いだお守りだった。

「ああ。このアクセサリーは魔法石でできているらしい。だから、加工はできると思うんだ。」

「そうか!加工の方法をお父さんに聞けば――」

「いや、それはできない。」

「どうして!?」

「親父は俺が子供の時から行方不明だ。今どこにいるかわからない。」

「……そうだったのね。ごめん。」

「いや、今さら気にしてない。とりあえず実験するのに数が必要だ。いつもの採掘所にいくぞ、アックス。」

「やれやれ、力仕事か。」

「よし、行くぞ!」

「待って!二人とも!」

ミリィは出かけようとする二人を止めた。

「どうした!」

「今、重大なことに気付いたわ。」

「……重大なこと?」

「ええ。それは――」

マギシはゴクリと唾を飲んだ。

「そういえばご飯食べてなかったなーって。」

「……おい。」



マギシは心配していた。

「そんなにおかわりして大丈夫か?」

「大丈夫よ!ソワレ!どんどん持ってきて!」

ソワレは厨房から料理を持ってくると、ミリィのお腹を見て言った。

「そんなに食べたら太るぞ?」

「大きなお世話よ!」

「いや、俺が心配してるのは金の方で……。」

「ああ、大丈夫よ。ここのお客さんが代わりに払ってくれるから。」

マギシは周りを見回した。

「ミリィちゃーん!俺がお代払っておくよ!」

「どけ!俺がミリィちゃんのために!」

「おい、俺はミリィちゃんに払ってんだ。お前ら男は自腹な。」

「……。」

「そんなこと言わないでぇ。二人とも困ってるの~。」

「ミリィちゃんがそう言うならいいよ!」

「……おい、魅了魔法の乱用はやめろ。」

「魔法なんて使ってないわよ、失礼ね。二人ともじゃんじゃん食べちゃって。」

「……鬼か。」

三人は今後に備え、空の胃袋に料理を詰め込むのだった。
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