光魔法の使い手は闇魔法の使い手を何とかしたい

久乃り

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第8話 おれちゃまは俺様なのだ

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 翌日、謁見の間には神官と名だたる貴族が集められた。警備が手薄になるといけないので、魔法使いは少ししか来ていなかったが、魔力で声が聞こえるから構わないんだそうだ。
 で、アカデミーの生徒たちは講堂に集めてここの様子を中継で見せるそうだ。つまり、ここにいる魔法使いは中継要員らしい。
 俺様としては立たせっぱなしも可哀想だと思ったのだが、謁見の間で着座が許されているのは本来皇帝だけなんだと。貴族めんどくさいねぇ。

 が、だがしかし!
 俺様たちは、ちびっ子。たってなんぞいられるわけがない。ってことで壁際に椅子を用意させた。
 皇帝が入場するまでに準備を整えなくてはならないので、俺様も準備に取り掛かる。
 ここはアラザム帝国の城の謁見の間。色々と計算されて作られている。はずだ。つまり、俺様が俺様であるために最適の場所が必ずある。
 俺様はゆっくりと謁見の間を歩いた。
 俺様が語らうのに最適な場所を探す。五歳のちびっ子が一人、ウロウロしているのが気になるのか、謁見の間に集まった貴族が俺様を凝視している。
 まぁ、確かに見事な黒髪だからな俺様。服装も、昨日着ていたものを今日も着ている。他のちびっ子たちも同様だ。
 そんな俺様をジェダイドのやつはキラキラした目で見つめているのだ。そう、キラキラした目で、だ。それはもう、乙女かっ!とツッコミを入れたくなるほどの熱い目線だ。

「このへんだにゃ」

 俺様はようやく最適な場所を見つけた。魔力の流れが程よい場所だ。

「こちら、ですか?」

 ジェダイドがやってきて床に手を着いた。

「なるほど、確かに」

 ジェダイドも魔力の流れを感じ取れたらしい。触れた床の感触に微笑んでいる。

「じゅんびしゅるか」

 俺様はそう言うとそこに椅子を置いた。もちろん、置いた椅子は俺様の愛用のものだ。

「アトレ?この椅子は」

 俺様が置いた椅子をみてジェダイドのやつが声を上げる。見覚えがあるのだろう。

「おれちゃまのいすだ」
「自宅から?」

 ジェダイのやつは何度も瞬きを繰り返した。まぁ、それはそうだろう。俺様、かつての自宅から椅子を取り出したんだからな。魔法で。

「あたりまえだろう?おれちゃまのじたくだじょ」

 俺様がそう言うと、ジェダイドはものすごく嬉しそうな顔をした。

「アトレ、あなたの自宅は無くなったわけではないのですね」
「だれがなくすきゃ」

 俺様はそう言いながら、椅子の位置を調整する。床を流れる魔力を的確に捉えられるようにしなくてはならない。

「ここだな」

 俺様はそう言って椅子に座ろうとした。

「にゃ」

 椅子に座ろうと肘掛をつかんだ途端、俺様の体は宙に浮いた。そして、ふわりとしたかと思うと、椅子の上に降ろされた。もちろん、目の前にはジェダイドの顔がある。

「こちらで準備は整いましたか?」
「しょうだにゃ」

 俺様はそう返事をして、深く背もたれに体を預けた。程よい魔力が椅子から俺様の全身に流れ込んでくる。やはり皇帝の玉座から斜めに魔力の流れがあった。それはつまり、護衛の騎士が立つ位置だ。

「わるいにゃ」

 本来この位置に立たねばならない騎士は、だいぶズレた位置に立つことになる。なぜなら、俺様が座ることにより、ジェダイドがその脇に立つからだ。
 だいぶ立ち位置を変更された騎士は、俺様を見てそれからジェダイドを見て、また俺様を見てからゆっと距離を取った。おそらく、ジェダイドとの距離感が分からないのだろう。ゆっくりゆっくりと離れるが、玉座が見えない位置には立てないのか、なんだか中途半端な位置に立たれてしまった。
 まぁ、俺様には関係ないけどな。

「さて」

 俺様はゆっくりと体の中に回る魔力を確認すると、魂の姿になった。

「アトレ、なんと素晴らしい」

 俺様の姿を見た事のあるジェダイドは感嘆の声をあげるけれど、その他の連中は驚きすぎて目を見開いていた。ああ、そうだった。
 俺様、ちょっと忘れていた。

「皇帝陛下のご入場」

 皇帝が入場してきたので、貴族たちは皆膝を着いた。騎士たちは直立不動である。魔法使いたちも膝を着いた。
 俺様とジェダイドは動かない。
 入場してきた皇帝は、俺様とジェダイドを見て、眉ひとつ動かさずに玉座に座った。

「おもてをあげよ」

 皇帝の一声で貴族たちが顔を上げる。それを見て、俺様はニヤリと笑った。

「忘れていた」

 かつての俺様の姿になる。
 その途端、貴族や魔法使いたちからざわめきが起きた。

「こちらの姿しか、見せていなかったな」

 かつての俺様の姿。アカデミーに入り、この城に勤めていた頃の俺様の姿は、銀の髪にすみれ色の瞳だった。この帝国において、闇を纏いし者とされる黒髪と黒い瞳を隠し、尚且つ侮られないような見目となるため、光をまといし者であるジェダイドより目立たないようにとった姿だ。

「アトレ様が……闇を纏いし者?」

 呆然とした顔で魔法使いの一人が口にした。それが耳に届いたのか、皇帝の目線がこちらに向けられる。
 俺様は、皇帝の顔を見て軽く笑った。そうしてジェダイドに目線だけを向ける。ジェダイドは心得ているようで、口元に緩く笑みを浮かべた。

「さて、皇帝よ」

 俺様がぞんざいな口を開くと謁見の間の空気が変わった。貴族共だけでなく、騎士たちも俺様を鋭い目で見てきた。

「かつて俺様は皇帝であるあんたに言ったはずだ。俺様をかしずかせたければ皇帝たる技量を見せてみろ。とな」

 それを聞いて皇帝の眉間にシワがよる。
 俺様がこのような態度をとるわけだがら、未だに俺様は皇帝の技量を見ていない。と言うことになるわけだ。

「まぁ、出来ないことぐらい最初から分かっていたけどな」

 俺様がそう言うと、一番近くにいる騎士が微かに動いた。だが、皇帝からなんの指示もなければ行動には移せない。なにより、俺様の隣にはジェダイドが立っているのだ。この帝国において最も敬われる光魔法の使い手の前で、粗相は許されない。

「さて、今日ここに集められたことについて異存は?」

 俺様がそう言うと、誰もが目線だけを動かし隣にいるものと静かに確認しあった。もちろん、皇帝は黙っている。ただ、指先が少しだけ肘掛を叩いたようではあった。

「では、この帝国を救いし闇魔法の使い手であるアトレより、この帝国の罪につての話を賜ります」

 ジェダイドがそう宣言すると、貴族たちはざわめき出した。ジェダイドからの招集により謁見の間に集まりはしたものの、理由など聞かされてはいないのだろう。まぁ、いちいち面倒なことだから、ジェダイドも理由なんて言いもしなかったということは理解出来る。
 ただ貴族であると言うだけの連中に、わざわざ理由を説明するのなんて手間なのだ。

「このアラザム帝国の者は誰も知らない。だが、他国の者たちは誰もが知っているこの帝国の罪だ」

 俺様がそう言うと、謁見の間に集まった連中は隣の者と顔を見合わせた。まるで心当たりのない罪を突然問われたのだから仕方の無いことだ。

「知らなくて当然。五百年も前に犯した罪を、この帝国は見事に隠蔽し、闇魔法の使い手にそれを押し付けた」

 俺様の言葉を聞いて魔法使いたちは俺様の事を凝視した。俺様、既に変身を解いているからな。黒髪に黒い瞳で椅子の上でふんぞり返っているというわけだ。

「アカデミーの封印された部屋に禁書としてその事実は隠されている。ってもな、他の国々の連中はしってるんだぜ?」

 俺様がそう言って皇帝を見れば、皇帝は静かに目を閉じた。おそらく、その玉座に着く時に帝国の歴史を体感させられているはずだ。あの頭上に頂く冠にそういった魔法がかけられているからな。

「帝国の罪か……心当たりがある、な。そうだろ?ジェダイドよ」

 言われてジェダイドはゆっくりと瞬きをした。そうして口を開く。

「そう、ですね。私よりも神官たちのほうが実感していることでしょう」

 ジェダイドがそう言えば、謁見の間の後ろの方にひとかたまりとして集まっている神官たちの姿が見えた。神官たちはみな白い布で作られた服を着ている。それはこの帝国にいる神官たちは、光の神殿にしか所属している者がいない。
 皇帝から投げられた言葉をジェダイドは神官たちにそのままパスした。素晴らしい連携だ。
 だが、神官たちは誰も口を開かない。何を言われているのか理解出来ていないのだ。

「あなたがたは、誰一人として中央大陸の光の神殿に足を踏み入れられないでしょう?」

 ジェダイドがそう言えば、ようやく一人が口を開いた。

「そんなことはございません」

 他の神官に比べれば布の量が多い服を着ている。つまりは神官長あたりの人物なのだろう。

「光の神殿に登録をする際、中に入りまして名前を申請しております」
「手前の大広間でしょう?奥にある祈りの間には入れないでしょう?」

 ジェダイドがそう言えば、相手は黙った。それは肯定を意味する黙りだ。それを聞いて貴族たちもざわついた。神官ならば奥にある祈りの間にはいり、神と死者のために祈りを捧げるはずなのだ。
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