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第45話 手懐けられた?
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「テオがしてくれるって言ってたよ」
そう言うロイは、貰ったばかりの袋から、菓子をひとつ取り出して既に食べていた。ロイの口の周りについた菓子の粉がそれをものがたっている。
「テオ……テオドールか」
セドリックは一瞬その名前が誰なのか思い出せなかったが、ロイ越しにみた母親が物凄い顔をしたのですぐに思い出せた。そして、やはり、母親の思惑も理解した。
「だが、俺も騎士科の総代ではあるので、やはり、手続きはあるんだ」
セドリックはそう言いながら、そっとロイの手を取った。母親は、ロイに見えないように意味ありげな微笑みをセドリックに向けてきた。
セドリックはその微笑みを見て、急に許嫁の顔を思い出した。今朝見たあの顔は、なんと表現すればいいのだろうか?セドリックが口を開こうとした時、母親の手にした扇が、セドリックの口を軽く叩いた。
「役立たずは切り捨てます。公爵家として成すべきことを成すだけですよ」
その満足そうな顔を見て、セドリックは息を飲んだ。そうして無言のまま転移魔法を展開した。
セドリックとロイが学園に戻った頃、既に午後の授業は終わりに差し掛かっていたから、セドリックはそのまま教員室へと向かった。もちろん、ロイも連れていく。今までの無断外出について、今更だけど届出をしなくてはならないからだ。
「これに書いて」
教員室に入った途端、無表情の事務員がセドリックに用紙を渡してきた。もちろん二枚。
「ロイ、俺と同じように書いてくれ」
セドリックは渡された用紙に必要なことを記入して、ロイにみせた。ロイは見せられた用紙の通りに記入していく。
「ちっ、違うって、ロイ!」
最後の最後で、ロイは重大なミスをおかしてくれた。
「なんで?同じに書いたよ?」
何を間違えたのか分からないロイは、不思議そうな顔をセドリックに向けてきた。
「ここは名前の欄だろう?」
セドリックが指さす箇所を、ロイはじっくりと見つめた。そうして、ようやくそこの欄を確認した。
「あ、ホントだァ」
そう言って、魔力で名前を消すと、改めて自分の名前を記入した。
「これでいーい?」
「うん、あっている」
セドリックは、ロイの記入した用紙と合わせて提出しようと、事務員の元に進んだ。そうして、明日からの予定について確認しようとした時、事務員の後ろに普段は見かけない人影を見た。
「えっ?」
「久しぶりだね、セドリック。息災なくすごしているようで良かったよ」
「ご、無沙汰しております」
セドリックが頭を下げると、宰相は軽く微笑んだ。
「君が英雄となって嬉しいよ。近年スタンピードが発生しそうな兆候が増えてきているからね」
「心得ております」
まだ学園に所属してはいるけれど、セドリックが正式に英雄の肩書きを拝すれば、そんなことは関係なくなる。王の名のもとに指示が下されれば、セドリックはその地に赴かなくてはならない。
「明日からもよろしく頼むよ」
そう言い残し、宰相はセドリックに背を向けて、そのまま姿を消した。
「ねぇ、今のテオのお父さんだよね?」
ロイが突然口を開いたから、セドリックは驚いてロイを見た。
「知っているのか?」
学園に入るまで、領地で暮らしていたというロイが、政治の中枢にいるような宰相の顔を知っているとは思わなかった。
「領地にいた時、月に一回は遊びに来てたよ」
ロイの言う遊びというのが、どんなものなのか気になるところだが、宰相はウォーエント子爵とかなり親密なのだろう。王都に暮らす貴族だって、月に一回と定期的に会うことなんてしない。政治的な絡みなのか、その辺の事情が気にはなる。
「お父上の友人か何かなのか?」
こんな事、聞きたくはないが、思わず口から出てしまった。
「ん?税収の確認かなぁ、うちダンジョンあるからね」
ダンジョン絡みでの金の流れの確認らしい。隣国からも冒険者がやってくるため、人と金の流れの把握が重要な様だ。ついでにダンジョンの確認をしていくから、ロイにとっては遊びと捉えてしまっていたらしい。
「うちの領地はダンジョンがないから、とくに面白みもないな」
魔力や魔石を使って作物を育てるから、どんな天候になっても収穫に変動はない。スタンピードレベルの魔物の襲撃でもなければ、平和なものだ。
「遺跡があるんでしょ?」
「随分前に発掘がされて、いまでは単なる観光地だ」
セドリックはそう答えて話を終わらせた。事務員に確認をしたら、やはりテオドールが手続きをした後だった。
「明日の朝、朝食を食べてから出発になりそうだな」
セドリックはロイにそう話しながら、教員室を出た。廊下を数歩進んだ先に、見知った人影があった。ゆっくりと近づいてきて、セドリックの正面に立つ。
「英雄の剣ができたそうですね、おめでとうございます」
「ありがとう」
相手の真意がわからないまま、セドリックは返事をした。
「もし、良ければ、私にも英雄の剣を見せてくれませんか?」
そう、頼まれれば否とはいえない。
大切な許嫁の頼みなのだから。
そう言うロイは、貰ったばかりの袋から、菓子をひとつ取り出して既に食べていた。ロイの口の周りについた菓子の粉がそれをものがたっている。
「テオ……テオドールか」
セドリックは一瞬その名前が誰なのか思い出せなかったが、ロイ越しにみた母親が物凄い顔をしたのですぐに思い出せた。そして、やはり、母親の思惑も理解した。
「だが、俺も騎士科の総代ではあるので、やはり、手続きはあるんだ」
セドリックはそう言いながら、そっとロイの手を取った。母親は、ロイに見えないように意味ありげな微笑みをセドリックに向けてきた。
セドリックはその微笑みを見て、急に許嫁の顔を思い出した。今朝見たあの顔は、なんと表現すればいいのだろうか?セドリックが口を開こうとした時、母親の手にした扇が、セドリックの口を軽く叩いた。
「役立たずは切り捨てます。公爵家として成すべきことを成すだけですよ」
その満足そうな顔を見て、セドリックは息を飲んだ。そうして無言のまま転移魔法を展開した。
セドリックとロイが学園に戻った頃、既に午後の授業は終わりに差し掛かっていたから、セドリックはそのまま教員室へと向かった。もちろん、ロイも連れていく。今までの無断外出について、今更だけど届出をしなくてはならないからだ。
「これに書いて」
教員室に入った途端、無表情の事務員がセドリックに用紙を渡してきた。もちろん二枚。
「ロイ、俺と同じように書いてくれ」
セドリックは渡された用紙に必要なことを記入して、ロイにみせた。ロイは見せられた用紙の通りに記入していく。
「ちっ、違うって、ロイ!」
最後の最後で、ロイは重大なミスをおかしてくれた。
「なんで?同じに書いたよ?」
何を間違えたのか分からないロイは、不思議そうな顔をセドリックに向けてきた。
「ここは名前の欄だろう?」
セドリックが指さす箇所を、ロイはじっくりと見つめた。そうして、ようやくそこの欄を確認した。
「あ、ホントだァ」
そう言って、魔力で名前を消すと、改めて自分の名前を記入した。
「これでいーい?」
「うん、あっている」
セドリックは、ロイの記入した用紙と合わせて提出しようと、事務員の元に進んだ。そうして、明日からの予定について確認しようとした時、事務員の後ろに普段は見かけない人影を見た。
「えっ?」
「久しぶりだね、セドリック。息災なくすごしているようで良かったよ」
「ご、無沙汰しております」
セドリックが頭を下げると、宰相は軽く微笑んだ。
「君が英雄となって嬉しいよ。近年スタンピードが発生しそうな兆候が増えてきているからね」
「心得ております」
まだ学園に所属してはいるけれど、セドリックが正式に英雄の肩書きを拝すれば、そんなことは関係なくなる。王の名のもとに指示が下されれば、セドリックはその地に赴かなくてはならない。
「明日からもよろしく頼むよ」
そう言い残し、宰相はセドリックに背を向けて、そのまま姿を消した。
「ねぇ、今のテオのお父さんだよね?」
ロイが突然口を開いたから、セドリックは驚いてロイを見た。
「知っているのか?」
学園に入るまで、領地で暮らしていたというロイが、政治の中枢にいるような宰相の顔を知っているとは思わなかった。
「領地にいた時、月に一回は遊びに来てたよ」
ロイの言う遊びというのが、どんなものなのか気になるところだが、宰相はウォーエント子爵とかなり親密なのだろう。王都に暮らす貴族だって、月に一回と定期的に会うことなんてしない。政治的な絡みなのか、その辺の事情が気にはなる。
「お父上の友人か何かなのか?」
こんな事、聞きたくはないが、思わず口から出てしまった。
「ん?税収の確認かなぁ、うちダンジョンあるからね」
ダンジョン絡みでの金の流れの確認らしい。隣国からも冒険者がやってくるため、人と金の流れの把握が重要な様だ。ついでにダンジョンの確認をしていくから、ロイにとっては遊びと捉えてしまっていたらしい。
「うちの領地はダンジョンがないから、とくに面白みもないな」
魔力や魔石を使って作物を育てるから、どんな天候になっても収穫に変動はない。スタンピードレベルの魔物の襲撃でもなければ、平和なものだ。
「遺跡があるんでしょ?」
「随分前に発掘がされて、いまでは単なる観光地だ」
セドリックはそう答えて話を終わらせた。事務員に確認をしたら、やはりテオドールが手続きをした後だった。
「明日の朝、朝食を食べてから出発になりそうだな」
セドリックはロイにそう話しながら、教員室を出た。廊下を数歩進んだ先に、見知った人影があった。ゆっくりと近づいてきて、セドリックの正面に立つ。
「英雄の剣ができたそうですね、おめでとうございます」
「ありがとう」
相手の真意がわからないまま、セドリックは返事をした。
「もし、良ければ、私にも英雄の剣を見せてくれませんか?」
そう、頼まれれば否とはいえない。
大切な許嫁の頼みなのだから。
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