ヴァンパイアキング、コンビニでバイトする

山口三

文字の大きさ
2 / 59

2・「The Prizoner」

しおりを挟む
 ヴァンパイアキングはすぐさま勇者達に襲い掛かった。
 サッと上空を仰ぎ両手を上げると巨大な氷結の刃が凄まじい勢いで勇者一行目掛けて飛んできた。

 ヒーラーは物理バリアを展開。ヘイストを掛けられた勇者は素早い斬撃でキングに物理攻撃を与えて行く。
 タンクはヘイトを取りつつ雷撃をぶつけるがキングは感電に耐性があってほぼ効かない。

 だが勇者の攻撃は確実にキングのHPを削っていた。氷結属性のキングにはアークメイジの火炎攻撃もかなり効いている。

 このゲームの素晴らしい所はその美麗なグラフィックと臨場感溢れるバトルだ。火の粉をまき散らしながら火炎魔法が渦巻く様子は凄まじいの一言に尽きるし、キングの氷結の刃が飛んでくると思わず体が反応してしまうほどリアルだった。
 
 キングのHPが半分になった所で属性が変わり無属性になった。その上でマジックバリアが展開されアークメイジの攻撃が効かなくなった。

 タンクも物理攻撃に転向して、ヒーラーは勇者とタンクにヘイストと精度アップのバフを掛ける。アークメイジはボスに速度低下のデバフを掛けた。

 ボスの攻撃は主にタンクに向けられたが攻撃回数が減ってタンクのHPは半分以上を保っている。ヒールの回数を抑えられるヒーラーは味方にバフを掛けることに集中出来た。

 キングのHPはあと3分の1。もう少しだ! 

 キングのマジックバリアが切れた。するとキングの背中から大きなコウモリの様な翼が生え上空から左右に自由自在に攻撃してくる。羽ばたきと共にかまいたちの物理攻撃がくうを舞う。見えない刃物に切り裂かれ勇者とタンクのHPがみるみる減っていく。

 だがヒーラーがすばやく掛けた物理バリアがかまいたちを弾いた。アークメイジは再び強力な魔法でキングを追い詰める。タンクの雷撃がヒットするとキングが低空まで下がり、そこを勇者がすかさず斬撃をお見舞いした。

 キングは地に落ちた。耳をつんざく断末魔と共にその体は無数のコウモリとなり空中に舞ったがすぐ灰色の火の粉になって消えた。

 残り36秒。



「なんか・・割とキング弱くね?」

 アークメイジさえ育成すれば簡単に倒せそうだ。男はまたVRのゴーグルを付けコントローラーを握った。



_____



 もうひとつのパーティーはキングが最後に上空から攻撃を仕掛けてくることを考慮してアーチャーを仲間に入れていた。命中率に極振りしているアーチャーの攻撃にキングはあっさりと撃墜された。

 耳をつんざく断末魔。無数のコウモリと化したキングの体は宙を舞い、灰となって消えた。


 次のパーティーはバランス型。攻略サイトに動画を投稿したゲーマーと同じようなパーティー構成だ。
 時間はかかるがぎりぎりキングを倒すことが出来た。

 耳をつんざく断末魔。無数のコウモリと化したキングの体は・・・・・・・・・・・・・


 


 ヴァンパイアキングは地下100階、広いボス部屋の最奥に座している。周囲には霧が立ち込め部屋の様子が図れない。冷たくごつごつとした石の玉座はこれまでキングが倒してきた勇者たちの血のりで彩られている。

「ケツが痛ぇ」

 どうして自分はこんな薄暗く寒い部屋でまるで石の様に硬い椅子に座っているのだろう?

「まんま石じゃねぇか」

 石で出来た玉座を見下ろしたキングは毒づいた。すると玉座から対極にある扉が開くのを感じたキングはその真っ赤な舌で唇を舐め、不気味な笑みを漏らした。

「来やがったな‥」


 今度のパーティーはタンク2名、勇者とアーチャーのごり押し系パーティーだった。タンクの一人がヒールを扱えたがキングのHPを半分も削れないで撃沈した。

「未熟者め!」ヴァンパイアキングは勝利の決め台詞を吐いたが、何か違和感がある。

 ‥‥気付くとまた冷たい玉座に座っていたキングは呟いた。

「喉が渇いた」

 血への渇望はヴァンパイアの宿命だ。

「コーラが飲みてぇ」

 ――白いボトルの『コーラプラス』だな。あれはカロリーゼロだし‥ちょっと待て。コーラって何だ? ヴァンパイアが欲するものは血に決まっているだろう。

 どうもおかしい。さっきのパーティーは事もなく退けたがその前は? 我はアーチャーが放つ無数の矢に貫かれ地に落ちたのではなかったか? 

 考え込んでいるとまた扉が開く気配が感じられ、眷属のコウモリが扉目掛けて飛んでいく。その大軍勢の羽ばたきで霧が一瞬晴れ、こちらに向かってくるパーティーのシルエットが浮かび上がった。

 そうだ。その前も時間ぎりぎり一杯まで粘った勇者が我の翼を切りつけ、この高貴な肢体は地にひれ伏したのだ。

 ――ではなぜ我はまたこの玉座に座っているのだ?

 だがキングに考える暇を与えず勇者パーティーが玉座の近くまで攻め込んで来た。



 ‥‥‥‥耳をつんざく断末‥

「ハッ!」

 ――倒されたはずの我はまたこの玉座に復活している。

 今やロダンの「考える人」のような姿勢でキングは苦悶していた。

 ――これは一体‥
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

処理中です...