ヴァンパイアキング、コンビニでバイトする

山口三

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9・ヴァンパイア、パンケーキを焼く

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 午前2時。俺のシフトはここまでだ。

「お先に失礼しま~す」

 廃棄になったお弁当やパンを貰って俺は帰路についた。行きはキングに送って貰ったが帰りは歩きだ。

 飛んでバイト先まで送ってくれるなんて案外いい奴なのかも。ゲームの世界に帰れるまでの間、うちに居させてくれって言ってたけど、どうやって帰るつもりなんだ? そもそも帰る事なんて出来るのか? 

 とりあえずキングがこっちの世界に来た状況や経緯をもう少し詳しく聞いてみなければ・・。あれこれと考えているともう自宅に着いていた。

「ただいま~」
「おかえり~」

 へっ? 誰かいるのか? 声がしたリビングへ入って行くとキングがソファでテレビを見ていた。

「キングの他に誰かいるのか?」
「いないぞ」キングは俺のほうを見もせず、そう答えた。

「だって今、おかえりって・・」
「我が言ったが」

「ええっ」
「なぜそんなに驚くのだ。『ただいま』と言われたら『おかえりなさい』とみんな返事をしていたぞ」

 ああ~テレビで見たのか。「いや、良い事だね。そうそう! コミュニケーションは大事だよね。なんたってこれから共同生活していくんだからさ」

 俺はうんうんと頷きながら機嫌良くでキッチンに向かった。「弁当貰って来たから食うか?」

「ベントウ?」
「まぁ、来なよ」

 テーブルに広げられたコンビニ弁当やパンにキングは興味津々で、目を向けたまま椅子に腰かけた。

「俺がバイトしてるのはコンビニで、ここのオーナーは余ったらタダで分けてくれるんだ」
「コンビニ・・コンビニエンスストアか。スーパーマーケットとは違う、営業時間が長い小規模店舗だな」

「お、おう。そうだ。それもテレビで知ったのか?」
「テレビと2階の部屋にある本を読んだ」
「俺の部屋に入ったのか。まぁいいや本を読むくらいなら・・」 

「女の裸しか載ってない本もあったな」キングは弁当から顔を上げ、意味ありげな横目で俺を見た。
「なっ! お、お、お前だって男なんだから女の裸に興味くらいあるだろう!?」

 狼狽える俺を面白そうに眺めていたキングは答えた。「女の裸か。悪くはないな」

 何が悪くはない、だ。チクショー。イケメンが言うとなんか嫌味に聞こえるんだよなあ。

「そうだ、明日はエアコンの修理に人が来るから部屋から出るなよ。その目を見られたら正体がバレるかもしれないぞ。間違っても襲ったりするなよ」

「お前はバイトか?」
「いや、俺は休み。前期のテスト勉強をそろそろ始めないといけないから、家で勉強だな」



_____



 翌日は梅雨らしいお天気だった。俺が昼頃起き出すとキングはもう起きてキッチンで何やらごそごそとやっている。カチャカチャと食器の音がしていた。

「おはよう、何やってるんだ?」
「おはよう。ここにある物でパンケーキを作ってみたぞ」

「えっ、料理できるの?」
「テレビと本で学習したのだ。我はキングだぞ、出来ぬ事はない」

 ヴァンパイアのキングである事と料理は何の関係もないと思うんだが・・ここは聞き流しとくか。

 テーブルの上には綺麗な円形に焼かれたパンケーキが2枚ずつ皿に盛られて乗っていた。きちんとナイフとフォークも添えられている。

「紅茶を淹れよ」
「わ、分かった」

 言われるままに紅茶を淹れてカップに注ぐ。砂糖を出そうと棚を開けるとハチミツがあったので、それも一緒にテーブルに並べた。

「ハチミツか。パンケーキに合うな」そう言いながらキングはパンケーキにハチミツをたっぷりとかけて、おいしそうにパンケーキを食べ始めた。

 ヴァンパイアがパンケーキをうまそうに食べる姿ってシュールだな。そんな事を考えながら俺もそっとナイフを入れ一口食べてみた。「う、美味い!」

「当たり前だ。それからお前、もう少し冷蔵庫に物を入れておけ」
「お前が来た日に色々食っちゃうから・・」フォークでキングを指しながら、そう言いかけた俺の手はピタリと止まった。

「キング・・あんた、目」
「なんだ?」
「目が・・やっぱり昨日見たのは見間違いじゃなかったんだ。目が黒いよ」

 キングは赤いボディスーツを着て髪を後ろで束ねていたが、その瞳は金色に縁どられた紫ではなくただの黒。こうして見ると普通の日本人に見える。

 俺はスマホの『どこでもミラー』を起動してキングに見せた。ガチャン、とキングの手からナイフが落ちた。

「よこせっ」俺の手からスマホをひったくってキングは自分の目を覗き込んだ。

「これは・・これは一体どういう事だ!」
「わ、分かんないよ・・でも昨日の夜はいつもの色だった気がする。寝てる間に何かなかったか?」
「何もない。きちんとスウェットを着て寝たぞ」

 それは関係ないと思うけど・・。

 すると玄関のチャイムが鳴った。

「あ、エアコンの修理だ。ちょ、キングさ、着替えて来なよ。俺の服、適当にクローゼットから出していいから」
「分かった」キングは困惑した面持ちのまま、2階へ上がって行った。


「こんにちは~早井電機です。エアコンの修理に伺いました」

 


 

 
 

 

 
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