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12・憧れのコーラ
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「ぎゃぁぁぁぁ」
すぐ俺の手を振りほどき、窓から引っ込めた手をもう片方の手で覆いながらキングは床を転げ回った。
「ゆ、指だけと言ったではないか! この悪魔め!」キングは恨みがましい目で俺を睨み付けた。
だが俺は平然としてキングの手を指さしながら返した。「でもさ、手を見てみろよ」
手は日光に焼かれ灰色の煙を上げながらプスプスと火ぶくれを起こしている・・はずだった。
「な・・なんともない」床に尻餅をついたままキングは唖然として自分の手を眺めていた。
俺は手を貸してキングを立たせた。そして洗面所へ行き鏡にキングを映して見せた。
「ほら、昼間は目の色も黒くて普通の人間と変わりないんだよ」
鏡に映ったキングの瞳は黒く、顔色も健康そうな肌色だ。
「そんでもってお前って鏡にも映るんだよな。映画とかじゃヴァンパイアって鏡に映らないじゃん」
「ううむ。鏡に映る、日光は平気、血もいらない・・我は・・最強じゃないか?!」
「えっ、それって最強なの?」
俺の疑問は無視してキングは意を決したように玄関に向かった。
「よし、我は最強のヴァンパイアだ。外に出るぞ」
スニーカーを履いて立ち上がったキングはそのまま玄関の扉に手を掛けると思いきや、傘立てに突っ込んである中から黒い大きめの傘を取り出した。
俺もキングに続く。そぅ~っと玄関の扉を開けたキングは傘をさして日光がギラギラと照りつける庭へ足を踏み出した。
傘の下から人差し指をちょこんと突き出したキングは、指が無事なのを確認すると傘を地面に投げ出した。「なんともないぞ!」
「いつぶりの太陽だ?」キングは両手を高く掲げながら空を仰いだ。
「でも夜は目も元に戻ってるから気を付けろよ」キングの後ろで俺は笑顔で釘を刺した。
「分かった。しかし暑いな。もう中に戻るぞ」
キングはそのままキッチンへ向かった。ニヤニヤしながら「暑い時は我の出番だな」とブツブツ言っている。
「あああああ、なんて事だ」
大学へ行く準備をしていた俺はキングの声を聞きつけキッチンを覗き込んだ。
「今度はどうしたんだ?」
「術が使えん!」
「キングの術って・・」
「基本、我は氷結属性だ。氷で涼を呼ぼうと考えたのに術が使えなくなってしまった」
キングはがっくりとテーブルに両手をついてうなだれた。
「さっきも言ったけど夜には目の色も元に戻ってたぜ。術も夜になったら使える様になるんじゃないか?」
「最強のヴァンパイではなく、昼間はただの人間という事なのか? 仕方ない夜まで待つか・・」
_______
大学から帰ってくると家のどこにもキングはいなかった。
あいつ日光が平気だからって出歩いてるんだな・・。『The Prisoner』をプレイしたやつに遭遇したらどうするんだ。
しかしその考えを俺はすぐ改めた。昼間はどこから見てもキングは普通の人間だ。ゲームのヴァンパイアキングが奴だと気づく者はいないだろう。
「ただいまぁ」覇気のない声が玄関から聞こえてきた。
「キング、外出してたのか」
「そうじゃない。おかえりなさい、だ」
「あ、ああ。おかえり」
やっぱり変なとこに細かい奴だな。
「外は暑すぎる。昼間は普通の人間のはずなのにまだ我は氷結属性なのか」
「いやみんな暑いのは同じだよ」
キングはリビングのソファに座ってエアコンを作動させた。
「ああ~生き返るぞ」涼しい風に髪をなびかせ気持ちよさそうに目をつぶった。
ヴァンパイアって不死身じゃぁ・・。
「ところでどこへ行ってたんだ」俺は声に出してはそう言った。
「スーパーの周辺をウロウロしてただけだ。金が無くて何も買えなかった」
「あーそっか。んじゃ金置いとく。俺もあんまり手持ちがないから2000円だけだけど」
「お前はバイトか?」
「うん、今日はバイト。行く前に少し何か食ってから行くけど」
「では我が新しく会得したピザパンなるものを作ってやろう」
なんだかんだ言っても食事は作ってくれるんだな。変な事に細かいし、食う物にもこだわりがありそうだ。
その代わりと、俺は冷蔵庫からコーラを取り出し氷を入れてテーブルに置いた。
キングの作ったピザパンは食パンの上にピザの様なトッピングをして焼いた物だったが4枚切りの厚手のパンとサンドイッチ用の薄いパンの2種類で作ってあった。具沢山で食感の変化もありとても美味かった。
「これは・・この黒い液体はもしやコーラか?」グラスに注がれたコーラをまじまじと見ているキングが聞いて来た。
「そうだけど。これピザに合うぞ」
キングはピザを食べてからコーラをゴクゴクと飲みだした。一口でグラスのコーラは飲み干された。
「ぷはぁ~っ」
「な? 合うだろ」
「これが・・夢にまで見たコーラか」
「いつの夢にコーラが出てきたんだよ?!」そう言いながらも俺は冷蔵庫からお代わりのコーラをキングのグラスに注いだ。
「まだ地下のダンジョンにいる頃だ。喉が渇いて、頭に浮かんできたのがコーラだった」
「それは・・」
それはおかしな話じゃないか? ゲームの中に居る時点でこの世界のアイテムの記憶があったって事になるよな・・。
突然考え込みながら黙々とピザパンを食べる俺を気にもかけず、キングは3杯目のコーラを美味しそうに飲み干していた。
すぐ俺の手を振りほどき、窓から引っ込めた手をもう片方の手で覆いながらキングは床を転げ回った。
「ゆ、指だけと言ったではないか! この悪魔め!」キングは恨みがましい目で俺を睨み付けた。
だが俺は平然としてキングの手を指さしながら返した。「でもさ、手を見てみろよ」
手は日光に焼かれ灰色の煙を上げながらプスプスと火ぶくれを起こしている・・はずだった。
「な・・なんともない」床に尻餅をついたままキングは唖然として自分の手を眺めていた。
俺は手を貸してキングを立たせた。そして洗面所へ行き鏡にキングを映して見せた。
「ほら、昼間は目の色も黒くて普通の人間と変わりないんだよ」
鏡に映ったキングの瞳は黒く、顔色も健康そうな肌色だ。
「そんでもってお前って鏡にも映るんだよな。映画とかじゃヴァンパイアって鏡に映らないじゃん」
「ううむ。鏡に映る、日光は平気、血もいらない・・我は・・最強じゃないか?!」
「えっ、それって最強なの?」
俺の疑問は無視してキングは意を決したように玄関に向かった。
「よし、我は最強のヴァンパイアだ。外に出るぞ」
スニーカーを履いて立ち上がったキングはそのまま玄関の扉に手を掛けると思いきや、傘立てに突っ込んである中から黒い大きめの傘を取り出した。
俺もキングに続く。そぅ~っと玄関の扉を開けたキングは傘をさして日光がギラギラと照りつける庭へ足を踏み出した。
傘の下から人差し指をちょこんと突き出したキングは、指が無事なのを確認すると傘を地面に投げ出した。「なんともないぞ!」
「いつぶりの太陽だ?」キングは両手を高く掲げながら空を仰いだ。
「でも夜は目も元に戻ってるから気を付けろよ」キングの後ろで俺は笑顔で釘を刺した。
「分かった。しかし暑いな。もう中に戻るぞ」
キングはそのままキッチンへ向かった。ニヤニヤしながら「暑い時は我の出番だな」とブツブツ言っている。
「あああああ、なんて事だ」
大学へ行く準備をしていた俺はキングの声を聞きつけキッチンを覗き込んだ。
「今度はどうしたんだ?」
「術が使えん!」
「キングの術って・・」
「基本、我は氷結属性だ。氷で涼を呼ぼうと考えたのに術が使えなくなってしまった」
キングはがっくりとテーブルに両手をついてうなだれた。
「さっきも言ったけど夜には目の色も元に戻ってたぜ。術も夜になったら使える様になるんじゃないか?」
「最強のヴァンパイではなく、昼間はただの人間という事なのか? 仕方ない夜まで待つか・・」
_______
大学から帰ってくると家のどこにもキングはいなかった。
あいつ日光が平気だからって出歩いてるんだな・・。『The Prisoner』をプレイしたやつに遭遇したらどうするんだ。
しかしその考えを俺はすぐ改めた。昼間はどこから見てもキングは普通の人間だ。ゲームのヴァンパイアキングが奴だと気づく者はいないだろう。
「ただいまぁ」覇気のない声が玄関から聞こえてきた。
「キング、外出してたのか」
「そうじゃない。おかえりなさい、だ」
「あ、ああ。おかえり」
やっぱり変なとこに細かい奴だな。
「外は暑すぎる。昼間は普通の人間のはずなのにまだ我は氷結属性なのか」
「いやみんな暑いのは同じだよ」
キングはリビングのソファに座ってエアコンを作動させた。
「ああ~生き返るぞ」涼しい風に髪をなびかせ気持ちよさそうに目をつぶった。
ヴァンパイアって不死身じゃぁ・・。
「ところでどこへ行ってたんだ」俺は声に出してはそう言った。
「スーパーの周辺をウロウロしてただけだ。金が無くて何も買えなかった」
「あーそっか。んじゃ金置いとく。俺もあんまり手持ちがないから2000円だけだけど」
「お前はバイトか?」
「うん、今日はバイト。行く前に少し何か食ってから行くけど」
「では我が新しく会得したピザパンなるものを作ってやろう」
なんだかんだ言っても食事は作ってくれるんだな。変な事に細かいし、食う物にもこだわりがありそうだ。
その代わりと、俺は冷蔵庫からコーラを取り出し氷を入れてテーブルに置いた。
キングの作ったピザパンは食パンの上にピザの様なトッピングをして焼いた物だったが4枚切りの厚手のパンとサンドイッチ用の薄いパンの2種類で作ってあった。具沢山で食感の変化もありとても美味かった。
「これは・・この黒い液体はもしやコーラか?」グラスに注がれたコーラをまじまじと見ているキングが聞いて来た。
「そうだけど。これピザに合うぞ」
キングはピザを食べてからコーラをゴクゴクと飲みだした。一口でグラスのコーラは飲み干された。
「ぷはぁ~っ」
「な? 合うだろ」
「これが・・夢にまで見たコーラか」
「いつの夢にコーラが出てきたんだよ?!」そう言いながらも俺は冷蔵庫からお代わりのコーラをキングのグラスに注いだ。
「まだ地下のダンジョンにいる頃だ。喉が渇いて、頭に浮かんできたのがコーラだった」
「それは・・」
それはおかしな話じゃないか? ゲームの中に居る時点でこの世界のアイテムの記憶があったって事になるよな・・。
突然考え込みながら黙々とピザパンを食べる俺を気にもかけず、キングは3杯目のコーラを美味しそうに飲み干していた。
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