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34・クジラゾンビ
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「俺、この間大谷にも飯奢ってもらったんです。だから今日は俺が出します」
ここはちょっとお洒落なレストラン。決してファミレスなんぞではない。だがドレスコードがあるような高級店でもない。
ここで俺はるり子さんとランチを取った。緊張してほとんど味は分からなかったが、俺のくだらない話を聞いても笑ってくれる彼女は優しくて、そんなるり子さんと一緒に取るランチは最高だった。
で、会計の段になって俺が払うと言ったのだが‥。
「それじゃあこの間のお礼にならないわ。それに五十嵐君はまだ学生で私は立派な社会人ですからね」
そう言ってるり子さんは譲らず、結局俺はランチをご馳走になった。
「あの‥この後何か用事はありますか?」
「ううん、無いわよ」
「じゃあ駅前公園行きませんか? 今日はフリマのイベントがあるらしいんです」
「へえ~面白そうね。行ってみようか」
るり子さんとの食事を昼間にしたのにはちゃんと理由がある。夕飯にしちゃうと食べ終わったら「ご馳走様。はい、さようなら」だろ? でも昼間ならまだこんな時間だし、どこかへ行こうと誘えるじゃないか!
車で遠出する程の仲じゃないからドライブはやめておこう。狭い空間にるり子さんと二人っていうのも、俺の心臓が持たない。
映画にしようかと思ったけど生憎、良さそうなのがない。ショッピング‥曖昧過ぎる。ゲームセンター‥休日だから混んでるだろうし、騒がしい。カラオケ‥俺ひどい音痴。
悩んだよ、そしたら広報誌に駅前公園のイベントの記事が載ってたんだ。うん、気軽に参加出来るしこれがいいな。あそこの大きな池ではボートにも乗れるし‥。
駅前公園は相当な広さがあって、何とかドーム2個分はあるらしい。中央には大きな池もある。夏場は池でボートに乗れてカップルのデートスポットとしても需要がある。週末はイベントが開催される事も多くて、今日はフリマの日という訳だ。
「凄いね~色んな物を売ってるのね」
確かに色んな物が売っていた。骨董品かガラクタか分からない物、手作りのアクセサリー、要らなくなった子供服、盆栽やら鉢植えの植物を売ってる人など、もう様々だ。
るり子さんはやっぱ女性だなぁ、アクセサリーを売ってる店の前で長く足を止めていた。こういう時は「好きなのを選びなよ、俺が買ってやるからさ」なんて言ったらいいのか? いや、年下の俺がそんな生意気な事‥そんなの俺のキャラじゃないな。うん、ダメだ。言えない。
それにしても今日は暑い、まだゴールデンウィーク前なのに少し歩くと汗ばんでくるほどだ。
「今日は暑いわね」
やっぱり! 俺たちって気が合うぜ!
「あっ、あっちに飲み物売ってますね。今度こそ俺が買います!」
「五十嵐君って律儀ね。じゃあご馳走して貰おうかな」
「はい!」
近くのコーヒースタンドでるり子さんはアイスコーヒー、俺はオレンジジュースを買った。オレンジジュースが子供っぽいって? 仕方ないよ、俺苦いのがダメなんだから。家ではいつも牛乳と砂糖をもりもり入れるんだ。あれはもうコーヒーじゃなくて牛乳にコーヒーを垂らしたって感じだな。
「どこで飲もうか‥向こうのベンチに行く?」
「えーと‥ボ、ボートに乗りながら飲むっていうのはどうですか?」
「うん、いいわね。でも私ボート漕ぐの下手だよ?」るり子さんはイタズラっぽく笑って見せた。
ズキューン! そういうの反則でするり子さん‥。
風も穏やかでボートに乗っている人は思ったより多かった。大半は男女のカップルで、父親と子供、男同士という組み合わせもいる。まあ、他人の事はどうでもいい。
俺はボートを漕ぎながら目の前のるり子さんの、そよ風に揺れる髪や、水面から反射してくる光にまばゆく目を細める姿に釘付けなんだから。
ここの池は楕円に近い形状でその真ん中に噴水がある。噴水の周囲には近づけない様に囲いがしてあって、ボートを漕ぐ人たちは大抵噴水を回ってUターンして戻って行く。
俺も噴水を回ったが、どこからか木の葉が俺の髪に舞い落ちてきた。
「あ、葉っぱが‥」
るり子さんが俺の髪に付いた木の葉を取ろうと腰を浮かした時、ボートが左右に大きく揺れた。俺はバランスを崩した彼女を半分抱きかかえる形で支えてしまった。
「きゃっ、ごめんね五十嵐君」るり子さんはびっくりして慌てている。
心臓が‥心臓が爆発しそうな程激しく高鳴っている。るり子さんの髪からシャンプーのいい香りがして、小さな悲鳴と俺の名を呼ぶ声がすぐ耳元で聞こえた。
るり子さんが好きだという気持ちが込み上げてくる。ダメだ。もう自分の気持ちを黙っていられない。
「るり子さん! 俺、ずっと前からるり子さんの‥」
その時だった。
俺たちのボートの後ろで突然、噴水が勢いよく空中に吹き飛ばされた。噴水の装置が土台ごと吹き飛ばされたのだ。噴水があった場所には大きな黒い穴がぱっくりと口を開けている。そこから囲いを突き破りとんでもない奴が飛び出して来た。
海蛇の化け物みたいで、トビウオの様な翼がある。体は銀色の硬い鱗で覆われたリヴァイアサンだ!
一瞬の出来事だった。リヴァイアサンが水中から飛び出すと水面は大きく波打ち、水しぶきが雨の様に降りかかった。ボートはいとも簡単に転覆し、俺もるり子さんも池に投げ出された。
水面から顔を上げた時、傍にるり子さんの姿が無かった。俺は泳げる、でも彼女は?
「るり子さ―んっ!」
大声で名前を呼びながら周囲を見渡すと、リヴァイアサンの下から奴の眷属のクジラのお化けみたいなクリーチャーが次々と姿を現した。
クジラと言ってもサイズは小ぶり。だがクジラのゾンビみたいな見た目で気持ち悪い。しかもクジラゾンビはボートから落ちた人を次々と、その大きな口の中に取り込んでいる。一人一人取り込んでは出てきた黒い穴の中にまた消えて行った。
やばいぞ、あいつは‥。そう思った時、転覆したボートにすがり付いて水面に顔を出したるり子さんが見えた。
「るり子さん!」
俺はるり子さんの方へ急いで向かおうとした。
「五十嵐く‥」
るり子さんも俺の姿を認めて少しほっとしたような表情を見せた。だがるり子さんの背後の水中から巨大な口を開けてクジラゾンビが飛び出した‥。
ここはちょっとお洒落なレストラン。決してファミレスなんぞではない。だがドレスコードがあるような高級店でもない。
ここで俺はるり子さんとランチを取った。緊張してほとんど味は分からなかったが、俺のくだらない話を聞いても笑ってくれる彼女は優しくて、そんなるり子さんと一緒に取るランチは最高だった。
で、会計の段になって俺が払うと言ったのだが‥。
「それじゃあこの間のお礼にならないわ。それに五十嵐君はまだ学生で私は立派な社会人ですからね」
そう言ってるり子さんは譲らず、結局俺はランチをご馳走になった。
「あの‥この後何か用事はありますか?」
「ううん、無いわよ」
「じゃあ駅前公園行きませんか? 今日はフリマのイベントがあるらしいんです」
「へえ~面白そうね。行ってみようか」
るり子さんとの食事を昼間にしたのにはちゃんと理由がある。夕飯にしちゃうと食べ終わったら「ご馳走様。はい、さようなら」だろ? でも昼間ならまだこんな時間だし、どこかへ行こうと誘えるじゃないか!
車で遠出する程の仲じゃないからドライブはやめておこう。狭い空間にるり子さんと二人っていうのも、俺の心臓が持たない。
映画にしようかと思ったけど生憎、良さそうなのがない。ショッピング‥曖昧過ぎる。ゲームセンター‥休日だから混んでるだろうし、騒がしい。カラオケ‥俺ひどい音痴。
悩んだよ、そしたら広報誌に駅前公園のイベントの記事が載ってたんだ。うん、気軽に参加出来るしこれがいいな。あそこの大きな池ではボートにも乗れるし‥。
駅前公園は相当な広さがあって、何とかドーム2個分はあるらしい。中央には大きな池もある。夏場は池でボートに乗れてカップルのデートスポットとしても需要がある。週末はイベントが開催される事も多くて、今日はフリマの日という訳だ。
「凄いね~色んな物を売ってるのね」
確かに色んな物が売っていた。骨董品かガラクタか分からない物、手作りのアクセサリー、要らなくなった子供服、盆栽やら鉢植えの植物を売ってる人など、もう様々だ。
るり子さんはやっぱ女性だなぁ、アクセサリーを売ってる店の前で長く足を止めていた。こういう時は「好きなのを選びなよ、俺が買ってやるからさ」なんて言ったらいいのか? いや、年下の俺がそんな生意気な事‥そんなの俺のキャラじゃないな。うん、ダメだ。言えない。
それにしても今日は暑い、まだゴールデンウィーク前なのに少し歩くと汗ばんでくるほどだ。
「今日は暑いわね」
やっぱり! 俺たちって気が合うぜ!
「あっ、あっちに飲み物売ってますね。今度こそ俺が買います!」
「五十嵐君って律儀ね。じゃあご馳走して貰おうかな」
「はい!」
近くのコーヒースタンドでるり子さんはアイスコーヒー、俺はオレンジジュースを買った。オレンジジュースが子供っぽいって? 仕方ないよ、俺苦いのがダメなんだから。家ではいつも牛乳と砂糖をもりもり入れるんだ。あれはもうコーヒーじゃなくて牛乳にコーヒーを垂らしたって感じだな。
「どこで飲もうか‥向こうのベンチに行く?」
「えーと‥ボ、ボートに乗りながら飲むっていうのはどうですか?」
「うん、いいわね。でも私ボート漕ぐの下手だよ?」るり子さんはイタズラっぽく笑って見せた。
ズキューン! そういうの反則でするり子さん‥。
風も穏やかでボートに乗っている人は思ったより多かった。大半は男女のカップルで、父親と子供、男同士という組み合わせもいる。まあ、他人の事はどうでもいい。
俺はボートを漕ぎながら目の前のるり子さんの、そよ風に揺れる髪や、水面から反射してくる光にまばゆく目を細める姿に釘付けなんだから。
ここの池は楕円に近い形状でその真ん中に噴水がある。噴水の周囲には近づけない様に囲いがしてあって、ボートを漕ぐ人たちは大抵噴水を回ってUターンして戻って行く。
俺も噴水を回ったが、どこからか木の葉が俺の髪に舞い落ちてきた。
「あ、葉っぱが‥」
るり子さんが俺の髪に付いた木の葉を取ろうと腰を浮かした時、ボートが左右に大きく揺れた。俺はバランスを崩した彼女を半分抱きかかえる形で支えてしまった。
「きゃっ、ごめんね五十嵐君」るり子さんはびっくりして慌てている。
心臓が‥心臓が爆発しそうな程激しく高鳴っている。るり子さんの髪からシャンプーのいい香りがして、小さな悲鳴と俺の名を呼ぶ声がすぐ耳元で聞こえた。
るり子さんが好きだという気持ちが込み上げてくる。ダメだ。もう自分の気持ちを黙っていられない。
「るり子さん! 俺、ずっと前からるり子さんの‥」
その時だった。
俺たちのボートの後ろで突然、噴水が勢いよく空中に吹き飛ばされた。噴水の装置が土台ごと吹き飛ばされたのだ。噴水があった場所には大きな黒い穴がぱっくりと口を開けている。そこから囲いを突き破りとんでもない奴が飛び出して来た。
海蛇の化け物みたいで、トビウオの様な翼がある。体は銀色の硬い鱗で覆われたリヴァイアサンだ!
一瞬の出来事だった。リヴァイアサンが水中から飛び出すと水面は大きく波打ち、水しぶきが雨の様に降りかかった。ボートはいとも簡単に転覆し、俺もるり子さんも池に投げ出された。
水面から顔を上げた時、傍にるり子さんの姿が無かった。俺は泳げる、でも彼女は?
「るり子さ―んっ!」
大声で名前を呼びながら周囲を見渡すと、リヴァイアサンの下から奴の眷属のクジラのお化けみたいなクリーチャーが次々と姿を現した。
クジラと言ってもサイズは小ぶり。だがクジラのゾンビみたいな見た目で気持ち悪い。しかもクジラゾンビはボートから落ちた人を次々と、その大きな口の中に取り込んでいる。一人一人取り込んでは出てきた黒い穴の中にまた消えて行った。
やばいぞ、あいつは‥。そう思った時、転覆したボートにすがり付いて水面に顔を出したるり子さんが見えた。
「るり子さん!」
俺はるり子さんの方へ急いで向かおうとした。
「五十嵐く‥」
るり子さんも俺の姿を認めて少しほっとしたような表情を見せた。だがるり子さんの背後の水中から巨大な口を開けてクジラゾンビが飛び出した‥。
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