ヴァンパイアキング、コンビニでバイトする

山口三

文字の大きさ
36 / 59

36・作戦

しおりを挟む
 ちゃんと告白できないままでるり子さんを失うかもしれない。また‥姉さんの時の様に。

 そんな不安が胸を渦巻いて気持ち悪くなり、俺は吐いてしまいそうだった。そんな俺を見てディアンが俺の足に頭を擦り付けてきた。

「とりあえずディアンちゃんが公園に様子を見に行ってくるにゃ。だから直巳は一旦座ってニュースをチェックしておくにゃ」
「‥分かった。頼むよディアンちゃん」

 俺が玄関のドアを開けるとディアンは勢いよく飛び出して行った。

 テレビを付けるとニュースは駅前公園で起きた事件で持ち切りだった。中継映像では池の周囲に黄色いテープが張り巡らされ、警官が警備している。自衛隊も出動していて池に出現した黒い穴を調査しているようだった。

 しばらくするとディアンが帰って来た。まだ猫の姿のままでベランダに現れたディアンを俺はすぐ中へ招じ入れた。

「どうだった?」
「先にご飯にして欲しいにゃ。走ったから喉も乾いたし」

 ディアンには猫缶とミルクをあげた。猫缶は嫌だと言われるかと思ったがあっという間に平らげて、食後の毛づくろいをしながらディアンは話し出した。

「まず、池の中に出来た黒い穴はそのままにゃ。グルグルと渦巻いていて危険な匂いがプンプンしたにゃ。で、その中を調査する機械が運び込まれている所だったのにょ。連れ去られた人は・・誰も戻ってきてないみたいにゃ」

 これは大体TVで報道されていた事と同じで残念ながら新しい情報は得られなかった。

「そっか。ありがとね、ディアンちゃん」

 俺は自分の部屋へ行って大きめのバックパックを引っ張り出した。その中に懐中電灯やら丈夫なロープやら思いつくものを片っ端から突っ込んでいった。

 それを担いで玄関から出ようとした所へ宏樹が帰って来た。

「ただいま。なんだお前のその恰好は」
「駅前公園に行くんだ」
「キャンプでもするのか?」

 そこへディアンが宏樹を出迎えに出てきた。「あっ、直巳。一人で行く気だったにゃ」

「ああ、一人でも行くさ」
「公園は警備網が張られていて入れないと思うのにゃ。一人では無理にゃ!」
「話が見えん。中で説明しろ」

 仕方なくリビングに戻ってから俺は宏樹に公園での出来事を話した。

「リヴァイアサンか。70階のボスだな」
「ああ。さらわれた人達を救い出して、俺たちでリヴァイアサンを倒さないと。帰って来てすぐで悪いが行くぞ、宏樹」

 俺はソファから立ち上がったが宏樹が俺の腕を掴んだ。

「待て。何も状況が分からない中で今すぐ動くのは危険だ」
「状況ははっきりしてるんだよ! 公園の池にリヴァイアサンが現れてるり子さんがさらわれた。一刻を争うんだ!」俺はイライラしながら叫ぶように言った。

「直巳、今からだと夜明けまで5~6時間しかない。ケルベロスは運よく退けたが今度時間切れで俺が人間に戻ってしまったらアウトだぞ。それに考えてみろ、クジラゾンビの習性を」


 クジラゾンビ。ゲームの中で奴はリヴァイアサンのHPが半分になると召喚されるクリーチャーだ。

 クジラゾンビはこちらのパーティーから一人をランダムに選んで自分の体内に取り込み、3ターンの間その取り込んだキャラクターからHPを吸い上げる。

 吸い上げられたHPはリヴァイアサンに吸収され、HPが1/3以下になるか3ターンが終わると取り込まれたキャラクターは排出され戦闘に戻る。その後2ターン間をあけた後また別のキャラクターが取り込まれてしまう。これはリヴァイアサンが倒されるまで続くのだ。

 PTは一人少ない状態で戦わねばならず、それがヒーラーだったりするともう目も当てられない。リヴァイアサンの吐く火炎でHPをジワジワと削られながらヒーラーが戻ってくるまでの3ターンをひたすら耐えるしかない。ただ、クジラゾンビがこちらを攻撃してくることは無いのがせめてもの救いだった。


「思い出したか? ゲーム内での3ターンが現実時間でどれくらいに相当するかは分からないが、まだ時間はあるという事だ」

 宏樹の言っている事は間違っていない。クジラゾンビが取り込んだ人達を排出するまでしばらく時間があるだろう。ゲームじゃない世界で取り込まれた人達がどうなるのかは分からないが、すぐ死んでしまう事はないはずだ。焦って救出に向かってまた時間切れになってしまったら、救出どころかこちらまで危険になるだろう。

「分かったよ。今夜はじっくり作戦を練ろう」

 俺はソファに座り直した。





 翌日、俺は学校だったが宏樹は休みだった。だが俺は大学を休む事にした。行ったってどうせ講義なんか集中出来ないに決まってる。

 そして昨夜俺たちが決めた黒い穴の中に入る作戦はこうだ。

 まず日没に近づいたら俺と宏樹は駅前公園に向かい、出来るだけ池に近い場所で待機する。

 日が沈んだらディアンが公園の人気のない場所で大きな木を何本か切り倒して轟音を立て注意を引き付ける。音がしたと同時に宏樹は黒い穴の上空まで飛んで、空から垂直に穴の中へ俺を連れて入って行く。

 ディアンはすぐ黒猫に戻って公園を離れ、自宅で待機する。

 とても作戦と呼べるものではないが俺たちに実行出来そうなのはこれくらいだった。本当はディアンにも穴の中に来て欲しかったが、警備の注意を引く役が必要だったし、黒猫の状態では池を泳いで俺たちの後を追う事が出来ない。猫は水が苦手だからな‥。

 そして何より問題なのは黒い穴の中がどうなっているか何も分からない事だ。報道では穴の中がどうなっているか何も発表されていない。



「すぐリヴァイアサンの居る場所に辿り着けず時間切れを起こしそうなら一旦引き下がるぞ」

 宏樹はそう俺に釘を刺した。俺もそれを了承し、昨日準備したバックパックを抱えて宏樹と共に駅前公園に向かった。

 日没間近ではあるがまだまだ外は明るい。報道陣だらけの駅前公園を通り抜けしていく人はいるが親子連れやカップルが行楽に来ている姿は皆無だった。

 俺と宏樹も通り抜けを装ってブラブラ歩いて池の近くまで行ったが、やはり池の周囲には立ち入り禁止のテープが張り巡らされ沢山の警官が厳重に警備していた。

 面白半分に池に近づいていく高校生の3人組が居たが、警官に「この池は今立ち入り禁止になっています、危険ですから退去してください」と追い出されていた。

 自衛隊かどうか分からないが防護服を着用した物々しい雰囲気の団体がいる。池には大きなゴムボートが待機していて、どうやら黒い穴の中に入る準備をしているようだった。

 あれと一緒になるのはまずい。急がなければ。

 ディアンが物音を立てる場所はもう決めてある。大きな灌木が生い茂る場所が池から30mくらい先にある。そこに今日の日没に合わせてアラームをセットした目覚まし時計を置いておいた。アラームが鳴ればディアンが木を切り倒す手筈だ。

 もうすぐ日没だ。宏樹の顔を見ると目の色がうっすらと変化し始めていた。

「そろそろだな」
「ああ。ディアンちゃん、頑張ってくれ!」

 その期待に応える様に、バキバキバキ、ズサ――ッ、メキメキメキと周囲に轟音が響き渡り、地面に振動が伝わって来た。
 
 池に居た人たちは騒然となった。警察官、自衛隊員、何かしらの作業員。その中で場を指揮していたお偉いさんが何人かの警官を偵察に送り、作業は一旦中止になった。

 俺と宏樹は轟音と共に空中に飛び立ち、薄暗くなってきた上空からこの様子を眺めていた。皆、音の方向に気を取られている。

 今だ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...