ヴァンパイアキング、コンビニでバイトする

山口三

文字の大きさ
38 / 59

38・vsリヴァイアサン

しおりを挟む
 思いっきり息を吸い込んだ。横隔膜を押し広げ、肺が破裂しそうな程に。

 湖の水は思ったほど冷たくなかった。だがずっと息を止めていられたのは1分程だろうか? もっと長く頑張れただろうか。少しずつ息を吐きだしながら更に耐えたが限界が来た。

 酸素を求めて体が無意識に呼吸した。だが肺に流れ込んできたのは水。息が出来ない。苦しい、苦しい、苦しい。父さん、母さん‥姉さん。助けて、苦しい。

 水中でもがく俺の体を宏樹が抱え込んだ感触と共に俺の意識は遠のいて行った…………。



 く、苦しい……。

「げほっ、げほっ。ごほっ!」
「良く戻ったな」

 激しく咳き込みながら薄目を開けると宏樹の微笑む顔があった。

「ごほっ、はぁはぁ‥俺、生き返ったんだな?」
「ああ」宏樹は真顔に戻って言った。

「だが危なかったぞ。湖にクリーチャーはいないと言っていたが、大型のピラニアみたいな魚が襲って来た。そのせいで思ったより時間がかかってしまった」

 よく見ると宏樹の衣服が所々破けている。

「えっ、そうなのか? 俺‥大丈夫かな」
「頭痛などは無いか?」

「・・ああ、取りあえずないな」
「氷漬けにしておいたし、大丈夫だろう。それより早く服を着ろ、ボス部屋に入るぞ」

 あっ、そうだった。着替えなんて持ってきてなかったから、バックパックに適当に突っ込んだ物の中にあったレジャーシートに服をくるんでしまって置いたんだった。

 幸い、大きめのタオルは持ってきていたからそれで体を拭いて服を着た俺は宏樹に向かって言った。

「よし、準備は出来た。行こう」


 湖の中の二つの扉を抜けるとその先はすぐ階段になっている。20段ほど登ると開けた場所に出て、向かい側の壁にボス部屋の扉があった。

 宏樹と俺が扉に近づくと、それはゆっくりと内側に開いた。中はひんやりとした空気が流れ、ピチャン、ピチャンと水が滴る音が聞こえてくる。

 薄暗さに目が慣れてくると部屋の左右にクジラゾンビのシルエットが見えてきた。すこし先に進むと青白いクラゲが発光しながらふわふわと漂っているのが目に入った。そのクラゲのお陰で中がもっとはっきり見えてきた。

 クジラゾンビの膨らんだ胴体部分が透けて人が入っているのが見える! 俺は思わずクジラゾンビに向かって駆け出して行った。

「待て、直巳!」宏樹は俺を止めようとしたが、俺が駆け出すのが早かった。

 数歩駆け出すと大きな水音がして奥の床から突然リヴァイアサンが現れた。奴は俺に向かって炎のブレスを吐きかけた。

「屈め!」

 宏樹の声と同時に体が動いた。熱風が頭上をかすめて行く。屈んた体勢のままそっと顔を上げると、リヴァイアサンはくねくねとその巨体をくねらせながらこちらを睨みつけている。

「おい、無謀な真似はよせ」宏樹は立ち上がり、入口付近まで俺を一旦下がらせた。

 落ち着け。そうだ、俺が突進して行ったって何も出来やしないんだ‥。

「すまん、取り乱した。気を付けるよ」俺が謝ると宏樹は頷いた。
「それで、ゲームの中ではどうやってリヴァイアサンを攻略してたんだ?」

「リヴァイアサン自体はさっきのブレスが強いだけで攻撃力は大したことない。ただあのクジラゾンビがHPを回復するから長期戦になる。こっちはブレスを防ぐシールドを切らさないようにして粘り強くリヴァイアサンのHPを削っていくしかない。しかもHPが高いんだ、こいつ‥」

「俺たちにはシールドを張る魔法使いやヒーラーがいないな」
「しかも俺は戦力外」

「お前、弓はひけるか?」
「弓ぃ? 持ったこともないよ」

「そのカバンの中にグローブはあるか?」
「うん、滑り止めのついたやつがある」
「それを付けろ。弓を出すから、お前はブレス圏外から奴に弓を放て」

 このリヴァイアサンの部屋は歩ける床が2本しかない。中央に幅4mほどの床が真っすぐリヴァイアサンの場所まで伸びていて、それにクロスして同じく幅4mほどの床が横に伸びている。それ以外は水辺になっている。

 言い方を変えると水の上に十字の床が浮いていて、そこから攻撃する部屋なのだ。

 ゲーム内だとアタッカーが中央の床でタンクと共にリヴァイアサンに攻撃をしかけ、横に伸びる床からは魔法や遠距離系の攻撃を仕掛ける。ヒーラーは最後方から援護という戦法だ。

 俺は言われた通り後方から弓を放った。だがいかんせん、弓を持つことすら初めての初心者だ。初めはリヴァイアサンの元まで矢が届きすらしなかった。

 宏樹は羽を出して器用に火炎ブレスを避けながら、縦横無尽にリヴァイアサンに攻撃を仕掛けている。ゲームみたいにリヴァイアサンのHPゲージがないからどこまでリヴァイアサンの体力が削れているかが分からないのが辛いところだ。なんせやつはこのゲーム内屈指の体力の持ち主だからな‥。

 俺の放つ矢はだんだんリヴァイアサンに届くようになって来た。たが止まっている的に矢を放っている訳じゃない。くねくねと動く奴に命中させるのはかなり難しかった。

 しかも宏樹が作り出す矢は氷製だ。普通の氷とは違って鋼鉄の様に硬いが冷たい。グローブを履いていても指先がかじかんで来た。

「おい、ぜんぜん当たってないぞ!」
「だから、弓なんて初めてなんだって! それに奴が動いてるから当てにくいんだよ!」

 宏樹は一旦俺の所まで戻って来た。そして水の上に手をかざすと見る間に水は凍り出した。リヴァイアサンの足元の水まで全て凍ったが、さすがにリヴァイアサンまでを凍らせることは出来なかった。だが奴の動きが鈍った。寒さのせいなのか、足元が凍り付いたせいなのかは分からない。でもこれでさっきよりはずっと当てやすくなった!

「これならいけるだろう?」
「ああ! やってやる!」

 俺の矢はガンガン当たるようになった。そうなるとますますリヴァイアサンの動きが鈍る。宏樹の攻撃も効いて来たようだ。

 俺の矢が当たっている隙に、宏樹はクジラゾンビに取り掛かった。ゲームの中ではクジラゾンビを倒すことは出来ないのだが、見ていると宏樹のソードがクジラの大きな口を胴体にかけて切り裂くと、中から取り込まれた人が凍った水の上にドサッと落ちてきた。

 宏樹は気を失っているその人を抱えて入口まで運んできた。

 俺はその間もずっと矢を打ち続ける。リヴァイアサンのブレスの回数が増えてきた。HPがわずかになった証拠だ! 奴の最後のあがきだ!

 宏樹はもう5人の人を助け出した。俺はだんだん気がかりになってきた。るり子さんはまだなのか?! 

「るり子さんだ」

 7人目がるり子さんだった。俺は思わず入口の方を振り返ったがその途端バランスを崩した。疲労もあったのかもしれない。氷の上に勢いよく片足を突っ込むと氷が割れて俺は水の中に落ちた。

 宏樹がすぐ助け出してくれたが俺はずぶ濡れになった。寒い‥ガタガタと震えて弓を持つどころではなくなってしまった。

「仕方ない、助けた人たちを介抱していろ」

 そう言うと宏樹はリヴァイアサンに止めを刺しに行った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...