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56・Uターン
しおりを挟むだがディアンちゃんは2分もしないでまた戻って来た。
「やあ、びっくりしたよ。なんかマズイ事でもあった?」
「ごめんごめん。早野さんがあたしを戻したんだ。ちょっと時間くっちゃった」
「いや、2、3分だぞ」
「えっ、向こうでは15分くらいは経ってたよ」
へぇ~こっちと向こうじゃ時間の流れが違うのか! でも10分程度じゃ喜んでもいられないな。
「それで早野さんはなんで高田君を戻したんだ?」
高田君? 宏樹がディアンの事をそんな風に呼ぶのは初めて聞いたな・・。
「そうそう、隠しボスの事について!」
早野さんの情報によると隠しボスは100階のボス・ヴァンパイアキングを倒した後で一度もリログせずに30階のボス部屋に戻った時にだけ、ランダムに隠しボスの部屋の鍵が落ちるそうなんだ。
もちろん、かなりの低確率なのは言うまでもない。しかもその鍵をどこで使うかについては何もヒントがない。あの、100回以上キングを倒さないとだめ、とかいうのはデマらしい。運が良ければ初めての100階攻略でも条件を満たして30階に戻れば隠しボスに会えるということだ。
考えてみれば早野さんはゲームの開発会社の社員だ。そういうことを知っていてもおかしくはない。最初から早野さんに聞いてみれば良かったんじゃ・・。
時間も限られてるし、ディアンちゃんとはここでお別れ。俺と宏樹はまた自転車に乗って30階に向かった。途中コンビニに寄りたかったが、隠しボス発現の条件に外れるとまずい。なので真っすぐ向かう事にした。なんだか希望が湧いて来た気がする! 自転車をこぐ俺の足も心なしか軽い。
60階を通った時、自分のボス部屋に戻って来ていたケルベロスが俺たちを見て驚たが「30階に行くんだ、またなー!」と挨拶だけしておいた。
30階の出口に着いた。俺達が出た時と同じように扉は開いたままだった。
「うぅ緊張する。鍵が落ちてなかったらどうしよう・・」
「心配してもはじまらないさ。行くぞ」
部屋の中はまた郊外の路地の風景に戻っていた。十字路にパパ・レグパはいなかったが、そこに鍵束が落ちていた。
「あったあった! 宏樹、やったぞ~!」
鍵束を拾い上げ高らかに掲げる。ガチャガチャと音を立てたそれは、古ぼけて少しさび付いた丸い鋼の輪に鍵が10個以上ぶら下がっていた。
入口へ向かうと、扉は閉まっていたが、開けた先はやはりミラールームだった。粉々になった鏡の破片をジャリジャリと踏みしめながらまた入口へ向かう。全て入って来た時の逆行をしていく。
次の扉を開けるとまたドアだらけの空間が待っていた。問題はここからだ。早野さんに言われた通り閉まっているドアを片っ端から開けていき、鍵がかかっているドアを探すんだ。
「うわぁ、このフロアのドアは全部開けたな。次のフロアに戻るか・・戻るドアってどれだっけ?」
こうも沢山ドアがあると、どれがこのフロアに入って来たドアかなんて覚えていられない。
次のフロアもその次も鍵がかかっているドアを見つけられなかった。
「もう~このゲームこんなんばっかだよな。面倒くさいの疲れるよお」
「開発者に文句を言え」
「・・お前じゃんかよ~」
「ははははは」 宏樹は悪びれもせず快活に笑う。
ははは、じゃないよ全く。とうとう最初のドアに戻って来ちゃったじゃんか。ドアを開けるとすぐまたドア・・のはずが右の壁に、来た時は無かったドアが出現していた。
鍵束からドアに合う鍵を見つけて差し込むと、ドアが内側に開いた・・。
「あれ、さっきの郊外の部屋じゃ」
一瞬そう思ったが、はるか先まで伸びる十字路の他は全く様相が違っていた。
薄暗い夕方なのは同じでも十字路の周囲は外国の墓地らしく、大小さまざまな墓石が立ち並び、その上には火が灯されたロウソクが乗っていた。枯れた花輪で飾り付けられた墓石もある。
街路樹には小さな提灯のような灯とブゥードゥー人形が吊るされ、その下にはラム酒の瓶、カゴいっぱいに盛られた焼き魚、真っ赤なトウガラシが山積みになっている。
あらゆる所にロウソクが灯され、その近くには無造作に頭蓋骨が転がっていた。人間の物や種類のはっきりしない動物の頭蓋骨も沢山ある。
独特の雰囲気に圧倒されていると葉巻の煙をモクモクと吹き出しながら背の高い男が近付いて来た。
「よう~~~こそ、フェッテ・ゲデへ。今日はお祭り、しかも土曜日だ。是非とも楽しんで行ってくれたまえ」
男の身長はゆうに2m以上あった。それに加えて山高帽を被り、白っぽい粉にまみれた燕尾服を着ている。片手は葉巻をつまみ、もう片手には酒瓶をぶら下げていた。
目の前まで来ると奴の顔がはっきり見えた。白や毒々しい赤いペンキで乱暴に塗りたくられた肌。目は真っ黒に縁どられている。
「あんたが大迫伸二だな」
俺はプカプカと葉巻をくゆらす不気味な男に話しかけた。
男はチッと舌を鳴らした。「君は無粋だねえ。私はバロンサムディだよ。ここまで来られたんだから分かると思うんだがなぁ」
奴は俺を思いっきり愚弄した。そして吐き出した葉巻の煙で輪を描き、それに指を突っ込みながら腰を振ってまた笑った。
「童貞君には難しかったかなぁ」
くっそ、こいつ! 俺が気にしてる事を!! 奴に飛びかかりそうになる俺を宏樹が制した。
「落ち着け、奴の挑発に乗るな」
「けっけっけっ、さすが年の功だ。じゃあ君からかかっておいで」
宏樹は俺に横目で合図する。俺と宏樹は同時にバロンサムディに攻撃を開始した。
宏樹はコウモリの羽をバサッと広げ上空からアイスバレットを放ち、急降下しながら斬撃をお見舞いした。俺もまずは氷結魔法を放ったが、奴の周りに魔法防御のシールドが張られ、魔法は無効になってしまった。
宏樹もそれを見て斬撃1本に切り替えた。俺も物理攻撃属性のエアカッターに変更、休む間もなくエアカッターを放つ。が、奴の動きが速すぎて当たらない。エアカッターは周囲の墓石を破壊しただけに終わった。
まるで瞬間移動してるようにしか見えない速さだ。これまで戦って来たどのクリーチャーより速い。いつの間にか後ろに現れて、手にした酒瓶で思いっきり殴られる。
あれはただの酒瓶じゃない、ダイヤモンドみたいに硬いんだ! 殴ってはケラケラ笑いながら消え、現れては殴って消える。くっそう・・あんな酒瓶攻撃でも大幅にHPが削られて行く。俺は完全に奴に翻弄されていた。
宏樹は地面を凍らせて奴の動きを鈍らせようとしたが、奴の足にはいつの間にかスケート靴が履かれ、スイ~~っと優雅に滑ってトリプルアクセルを決めやがった。
「拍手は? 観客ならちゃんと拍手をしたまえよ~」
今目の前でスケートをしていたかと思うと、バロンサムディは手品の様に燕尾服の裾から巨大な蛇を取り出して宏樹に投げつけていた。
鞭にからめ取られるごとく蛇に巻き取られた宏樹は地面に叩きつけられた。
「落合君は蛇が大好きなんだってねえ」
奴の口角が耳の方までニュ~っと上がった。なんと不気味な笑みなんだろう。
だが宏樹が太い蛇の胴体を鷲づかみにすると蛇はみるみる凍り付いていき、蛇のとぐろから抜け出た宏樹の手によって蛇は粉々に砕かれた。
「ほ~う、やるねぇ。でもいつまで続くかなあ」
バロンサムディは神出鬼没に現れて俺を殴っては消え、宏樹の方に現れたと思ったら両手を蛇に変えて宏樹の首を絞めにかかった。しかしそんな物は氷のソードですっぱりと切り落とされた。
「ぎゃああああああ、俺の腕がああああ~~~・・・・なあんてね」
腕を落とされた奴は苦悶の表情で地面を転げ回っていたと思うとスッと立ち上がり、切られた袖の下から新しい腕を出現させて舌を出しながら手を振った。
バロンサムディは不死身なのか?! それにしても俺たちを嘲笑するあの態度! なんてムカつく野郎なんだ。
奴の魔法防御シールドは一向に消える気配がない。エアカッターを闇雲に放つと、ほんの少しだけ燕尾服を切り割いた。
「うーん、うざいね君」
黒く縁どられた目をギロっとこちらに向けて奴がそう言った。すると墓石の下からスケルトンが湧いて来た。ボコボコと土が割れゾンビ映画みたいに中からにょきっと手を伸ばし、地面に這い出てくる。
わらわらと湧いて出たスケルトンは俺に向かって飛びかかって来た。俺はファイアートルネードを放ちスケルトンを焼いていく。良かった、こいつらには魔法が効く。
だが安心したのもつかの間、今度は上空から無数のコウモリが真っ黒な帯の様になって襲って来た。宏樹も加勢に来たが、スケルトンとコウモリを相手してる合間にもバロンサムディの攻撃は止まない。
やっとコウモリの数が減ったかと思うと、足元から大型のドブネズミが噛みついて来た。宏樹のブリザードでコウモリを撃退し、エアブラストでネズミを吹き飛ばす。
だが突然、宏樹のブリザードが止んだ。「どうし・・」背中合わせになって攻撃していた宏樹を振り返った俺は、危うくケラウノスを落としそうになった。
背筋にサァーっと冷たいものが走る。
ダンジョンに入ってから宏樹はずっとヴァンパイア状態だった。リアル世界の時間の流れに関係なく、人間に戻る事はなかった。なのに今、宏樹の目は黒に戻ってしまっている。
宏樹の表情にも焦燥の様な、恐怖の様なものが現れていた。それを見た途端、ディアンちゃんの言っていた事を俺は思い出した。
『記憶が蘇ってから変身出来なくなった』
「・・100階で戦ったヴァンパイアキングは宏樹の魂だったんだな?」
「ハハ、そうらしいね」
宏樹はただの人間になってしまい、その上丸腰だ。こんな事ならせめて何か武器をひとつ残しておくんだった。
「だから、言っただろっ」
バロンサムディはまた突然、宏樹の目の前に現れ酒瓶で思いっきり宏樹の腹を殴ってふっ飛ばした。
「ホームラーン!」
大きな墓石に体を打ち付けて倒れた宏樹の前に、奴が立ちはだかる。酒瓶を放り投げると、手には大きな死神の鎌が出現した。奴は鎌を振り上げニタァっと笑った。
「チェックメイト」
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