初恋~ちびっこ公爵令嬢エミリアの場合

山口三

文字の大きさ
14 / 45

14エミリア、決意する

しおりを挟む

「あたし決めたわ。ルーカスと結婚する!」

 ブフッとお茶を吹き出し咳き込んだルーカスは、向かい側の席から正に信じられないと言った表情であたしを見た。

「ゴホッゴホッ・・お嬢様、それはまた新しいジョークでしょうか」
「どうして? この間も言ったじゃない。それにあたしはお母様の様な結婚はしないわ。好きな人とするの」

「お嬢様のお気持ちは嬉しく思います。私を好きだと思って下さるのは本当に嬉しく思いますが、それは好意を勘違いしていらっしゃるのです。結婚は恋愛感情から好きだと思える人となさって下さい」

「好意を勘違いするほど子供じゃないわ。あたし、ルーカスを見ると胸がドキドキして苦しくなるの。初めは病気だと思ったけど、お医者様はそうじゃないってはっきりおっしゃったわ。いつもルーカスの事を考えちゃうし、ルーカスに触れられると心臓がバクバクして顔が真っ赤になるのよ」

「そ、それでも・・私は年寄りです。お嬢様には全く相応しくありません」
「ルーカスがおじいちゃんって事くらい分かってるわ! でも好きになったんだから仕方ないでしょ!」

「お、おじい・・公爵様もお父様も反対されます。不可能です」
「それも分かってるわ。だからあたし、18になったら家を出るの。お小遣いも貯めておくつもりよ。仕事が見つかるまではそれで生活するの。大丈夫! ちゃんと考えてあるんだから」

「お嬢様がいくら私の事を好きでも、公爵家を捨ててまで一緒になるような価値は私にはありません」

 普段は温厚な笑みを絶やさないルーカスの眉間に皺が寄った。 

「何言ってるのよ、ルーカスはソードマスターでしょ? 戦争の英雄でしょ? 十分価値があるじゃない!」

「どうしてそれを・・」
「好きな人の事を知ってるのは当然なの。はいこれ、名前を書いておいてね」

 あたしがルーカスに渡したのは婚約証書。数年前に導入されたシステムで結婚詐欺を防止するための物だ。ちゃんと相手と結婚する意志があるという事を文書化したものだ。当事者同士が色々と話し合って、細かい取り決めを記入する欄がある。

 通常は国の登記所に提出して結婚する時に結婚証書と取り換える。この場合、双方合意の元なら途中で婚約破棄をする事も可能。
 
 でも国教会に提出すれば、今あたしが子供でもルーカスは他の人と結婚出来ないし、あたしも他の人と婚約したり結婚したり出来ない。しかも婚約破棄も認められない。破棄した場合は教会に届け出た神聖な約束を違えたとして二人とも投獄されるのだ。

 じゃあ一旦結婚してからすぐ離婚すればいいと思うでしょうけど、そんな事をしようものなら恥知らずの家門として教会からは追放され、社交界でもやって行けなくなる。平民なら村八分、貴族なら貴族社会から完全に孤立するのだ。

 あたしはもちろん国教会に提出するつもり。あたしの気持ちは本気だとルーカスに知らせたかったのよ。



____________



「えっ、老執事がソードマスターだったんですか?」

 スーザンは驚いて、口元に運ぼうとしていたカップを持った手が宙で止まっている。
 
 それもそのはず。この世界でもソードマスターは100人ほどしかいない特別な剣士だ。想像を絶する厳しい訓練と生まれ持った才能が無いとソードマスターにはなれない。

 ソードマスターは火や水、風、雷といったエレメントを剣に纏わせ強力な攻撃を繰り出すことが出来る。
 この力が発現した人だけがソードマスターとして認められるのだ。

「チャリティイベントでコカトリスを倒したのは、間違いなく雷のエレメントの攻撃だったわ。だからあの時居合わせたロスラミン副団長から聞き出したの」

 この国にいるソードマスターは7人。雷のエレメントを操るマスターは2人。そのうちの1人はルーカス・ギリゴール。姓は違うけど、お父様と同じ部隊に居た事があると聞いていたから、あのルーカスで間違いないだろうとロスラミン副団長が断言した。

「ルーカスはこの国の英雄なの。だから平民だろうが老人だろうが、私と結婚する資格は十分にあるのよ」

「まあ爵位は国から叙爵してもらう事も出来るでしょうから・・それにしても急ではありませんか? まずはルーカスの気持ちを掴む事を目指してらしたんでしょう?」

「それについては少し恥ずかしいのだけれど・・・・」



__________



 あたしがルーカスに求婚する少し前。

 

 今日がルーカスの誕生日だと聞いていたあたしは朝一番にプレゼントを渡したの。

「お誕生日おめでとう! ルーカスこれプレゼントよ」

 プレゼントは長方形の箱が2つ。ルーカスはとても喜んでくれたけど「ふたつもですか?」とびっくりして聞いて来た。

「う~ん、正確には1つなんだけど‥開けてみて!」

 リボンをほどいて出て来たのは1足の革靴。もうひとつの箱には同じ靴の左足だけが入っていた。

「あの・・左側だけ減りが早いでしょ? だから左側だけもうひとつ注文したのよ」

 左足の事を言及されて、ルーカスが嫌な思いをしないかと心配しながら、あたしはボソボソと呟いた。

 一瞬驚いた顔をしたルーカスはすぐ満面の笑みであたしの頭を撫でた。

「お嬢様は優れた洞察力をお持ちですな。それにこんなに気を使ってプレゼントを選んで頂いて本当に嬉しいですぞ」

「喜んで貰えて良かった! あたし、ルーカスが大好きだからよ!」

 喜んで貰えてあたしも嬉しくなり、屈んであたしの頭を撫でているルーカスに抱き着いた。

「ハハハハ、私もお嬢様が大好きですよ」

「ほんと? じゃああたしが大人になったら結婚してくれる?」

「お嬢様が大人になっても気持ちが変わらなければ、そうしましょう」

 ルーカスは軽い冗談で言ったのだと思う。冗談じゃないにしても大人になる頃にはこんな約束など忘れてしまうだろうと思っていたのかもしれない。

 でもあたしは本気と受け止めた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

処理中です...