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21エミリア、生徒会長と同席する
しおりを挟む列の真ん中辺りから進み出て来たその子は、真っすぐ姿勢を正して私の返事を待っている。
「あなた、バスルームの場所は分かるの?」
「さっき新入生用の玄関ホール近くにあったのを確認済みであります!」
「そ、そう。ではお願いしようかしら。他にトイレに行きたい人は彼に・・」
「ロスラミンです。ルーカス・ロスラミン」
そのルーカス少年は私の瞳を真っすぐに見つめながら自分の名前を告げた。思わず私は手にした名簿を落としそうになる。その名を聞くだけでまだこんなにも動揺する自分が情けなかったが、すぐ気を取り直して大きな声で言った。
「ではトイレに行きたい人はミスタ・ロスラミンに付いて行って下さい。他の人はここを動かないで。ミス・コークス、見張りをお願いするわ。私は蝶々組を連れ戻してくるから」
「はい、ミス・ゴールドスタイン。私にお任せください!」
ミス・コークスは嬉々として私の頼みを聞いた。「あなた達、絶対ここから動くんじゃありませんわよ! 1歩でも動いてみなさい、私が後悔させてやるわ!」
人選を誤ったかしら、と思いつつも蝶を追いかけて廊下の遥か彼方まで散ってしまった生徒を連れ戻しに私は走った。
慌ただしい一日が終わり私は少し遅めの夕食を、人が少なくなった食堂で一人取っていた。今日の新入生の中にいたルーカスは、確かロスラミン副団長のご子息ではなかったかしら。引率でいっぱいいっぱいだった私は彼の事をすっかり忘れてた。
「一緒にいいかな?」
そう言いながら私の前の席に食事のトレーを置いたのは生徒会長のアレクサンドル・モーガン。
グレー味が強い銀髪を後ろで束ね、瞳もブルーグレー、すっきりとした切れ長の目。人目を惹く容姿の当校きってのイケメンだ。秀才らしいメガネ姿も板についており、運動神経も良く文武両道、おまけに侯爵家の長男でもあり、みなに優しく‥。挙げて行けばキリがない程、モテる要素満載の男だ。
「‥ええ、どうぞ」
本当は一人でさっさと夕食を済ませて、部屋に帰り休みたかった。でも今日の引率の報告をここでしてしまうのも悪くないと私は考えた。
「今日は一人で新入生の引率を任せてしまってすまなかったね。大変だっただろう?」
「まるで台風の様でしたわ」
「ははは、僕も君と同じ8年の時にやった事があるけど、正にそんな感じだね。まぁ僕の時の引率は二人だったけど」
「特に大きなトラブルはありませんでした。では私はこれで・・」
立ち上がりかけた私にモーガンはあからさまに残念そうな表情を浮かべて言った。
「もう行くの? 食後にお茶をしない?」
「今日は疲れたので部屋に戻ります」
今度こそ席を立とうとした時、縦ロールの髪を振り乱しながらミス・コークスが一直線にモーガンに向かってやって来た。
「こんばんは、ミス・ゴールドスタイン、ミスタ・モーガン。私、部屋割りの事で生徒会長様にお話がありますの」
新入生という事はミス・コークスは8歳だ。見た目も確かにそれくらいの子供に見える。だが口調は大人びていて、ふと自分の同じ年頃の事が思い浮かんだ。私もきっとこんな風にませた子供だったのね。
「ええっと、君は新入生かな?」
「私はイライザ・コークス。コークス伯爵家の次女ですわ。私、ミス・ゴールドスタインと同じ部屋にして欲しいのです」
えっ、私と同じ部屋? 私は今3人部屋でルームメイトは3年生のアマンダと9年生のベティが決まっている。これは去年から引き続いていて今年は2年目になる。
「ミス・コークスはミス・ゴールドスタインと知り合いなのかな?」
「今日、知り合いましたわ!」
「そう‥なんだね。だけど部屋割りは先生方が決められるんだ、僕にはどうにも出来ない」
ミス・コークスの茶色の丸い目が更に丸く見開かれる。
「まあ‥知りませんでした。分かりましたわ! 先生方にお願いしてみます。それではっ!」
「あっ、でも今日はもう先生方も休まれているだろうから明日にした方がいいと思うよ」
モーガンに引き留められて、はっとしたコークス嬢はがっくりと肩を落としながら食堂を出て行った。
「なかなか‥活発な令嬢に好かれたみたいだね」
半ば同情するような視線を私に向けてモーガンは笑った。
困ったことになったわ。私はお母様に言われるがままにこのアカデミーに入学しただけだ。友達が欲しいと思った事はないし、特別に学びたい事があったわけでもない。だから誰も私には構わないで欲しいのに。
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