眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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王国民感謝祭

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陽気に奏でられる音楽に華やかな服で踊り盛り上げるパレード。
大行列になって一目でも見ようと観光客が多く押し寄せていた。
それを怪我人が出ないように騎士達が誘導したり不審人物がいないか見渡したりしていた。

いつもは殺風景な店の看板もいろんな光でキラキラと輝いている。
王都全体がお祭り騒ぎだった。

俺とルカとリカルドはパレードを見ようと思ったが人の壁が分厚くてこれじゃあ無理だと早々に諦めて遠目から見ていた。
何度か一緒に王国民感謝祭を満喫していたが今日はちょっといつもと違った。
ジッとある場所を見つめる俺にルカは俺の肩を突っついていた。

「そんなに気になるなら行けばいいのに」

「…る、ルカ…でも、まだ仕事中だし」

俺はパレードより、奥で指示をしているトーマに釘付けだった。
いつも格好いいけど仕事してるトーマはもっと格好いいな。
でも感謝祭が終わったらって約束だから我慢しなきゃ…

早く終わらないかなと時計ばかりチラチラと見てしまう。
今は三人で過ごしているんだから気持ちを切り替えないと…
俺はルカとリカルドの背中を押した。

「あっちに出店があるみたいだから行こ!」

「アルト」

「…ん?何?ルカ」

「この後恋人と予定があるんでしょ?僕達の事はいいから美味しいご飯作って帰りを待ってなよ」

「もうすぐパレード終わるし、騎士団長すぐに帰ると思うぞ」

ルカとリカルドに微笑まれて俺も苦笑いした。
今度お詫びとして二人のためにパンを作ろう、約束をして俺は二人と別れてパレードで湧いている人達の間を通り抜けた。

そうだ、まずは食材買わないと…レシピはこの日のために勉強して美味しいって言ってもらえるように頑張った料理を振る舞うつもりだけどトーマ好みの味付けだったらいいなと思いながら買い物を終えて寄宿舎に向けて歩き出した。






「ただいま」

「お、おかえり!トーマ」

緊張しすぎて声が裏返ってしまい恥ずかしくて口元を押さえる。
トーマの部屋でソファーに座るのはなんか落ち着かないから床に座って待っていたらドアが開く音とトーマの声が聞こえた。
疲れた様子のトーマは首元を緩めてリビングに入ってきた。

そして俺の顔を見て固かった表情を和らげてテーブルの上を見て目を丸くさせた。
ちょっと張り切りすぎてしまったなと苦笑いする。

立ち上がり、トーマスに近付き上着を受け取りシワにならないようクローゼットに入れる。
なんか新婚みたいでドキドキするなぁ。

「凄いな、これ全部アルトが?」

「う、うん…食べ切れなかったら明日でもいいから無理しないでね」

テーブルいっぱいに並んだ料理の数々、お肉野菜揚げ物などなど軽く5人前はありそうな量で二人で食べるには多すぎるだろう。
実はこれでもかなり減らした方なんだ、これの倍近く作ってしまい流石にやり過ぎたと思い他の騎士の人達にもお裾分けをした。
それでも多いとなると、俺は自分が思っているよりかなり浮かれていたみたいだ。

一年の終わり、初の恋人との聖夜…

トーマも俺と同じ気持ちだったら嬉しいな。
頭を撫でられてほんのりと頬を赤く染めた。

「ありがとうアルト、ちょうど腹が減っていたんだ…一緒に食べよう」

「うん!」

トーマと並んでソファーに座る。
トーマはお肉をフォークで刺して俺の口元に運ぶ。
少し照れながら食べる、いつもより美味しく感じるのはトーマに食べさせてもらったおかげだろう。
俺もお返しにお肉をトーマに食べさせて目が合い微笑み合う。
バカップルと言われても構わない、今が幸せなら俺はそれでいい。

楽しく食事を終わらせて俺は食器を片していて、トーマは窓を見つめていた。
まだ聖夜は始まったばかりだ……そう、恋人達の時間はこの後だ。

「トーマ」

「どうした?やっぱり手伝おうか?」

「い、いいよ!トーマは座っててよ!」

トーマがソファーから立ち上がろうとするから止めた。
違う、そうじゃない…俺は…今日…今日こそ…自分から…

恋人になってから一緒のベッドで寝る事はあってもそういう行為はしなかった。
トーマの仕事が忙しそうだし、疲れているだろうと思ってなかなか一歩が踏み出せなかった。
でも今日は聖夜だし、初めては流されてしてしまったから俺から…誘わないと…

食器を片し終わるのとトーマがソファーから立ち上がるのが同じタイミングでちょっと驚いた。

「と、トーマ!」

「風呂入って寝るか」

「…えっ!?もう?」

部屋の壁に掛けてある時計を見たら寝ても早くはない時間だけど寝てしまったら俺の計画が台無しになってしまう。
俺は慌ててトーマのところに駆け寄る。
いきなりしようなんて言ったらいくら恋人でもドン引きしてしまうかもしれない。

俺は声がつっかえるほど緊張しながらも声を振り絞り出した。
「一緒にお風呂に入ろう!」それが俺の限界だった。
まさか俺がこんな事を言うと思わなかったのかトーマは驚いていたが優しげな顔で頷いてくれた。
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