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そしてゲームは始まる・リンディ視点
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王都に着いて私の目に写ったのは大勢の野次馬と私が今日から泊まる筈だった真っ赤な炎に包まれた下宿先の宿屋だった。
このままでは姫修行が出来ない、野宿も知識がない私がやって上手くいくかなんて分からない。
初日でついてないとため息を吐き、消えていく炎を眺めた。
「原因は不明」「今日が聖騎士団長様就任パレードだというのに…」という声がちらほらと聞こえた。
幸い宿屋の店主や客などは少し煙を吸っただけで軽症だと聞き安堵する。
数人の白い清掃を着た人達が原因を探るために焦げて黒くなった宿屋の中に入っていく。
騎士団だという声がする、あれが騎士団…小さい頃に王都に遊びに来た事はあったが騎士団は初めてだった。
この場は専門家に任せようと野次馬が散っていく、もうすぐ騎士団長のパレードが開始されるからだろう。
私もお祭りが好きだから見てみたいが宿がない今、呑気にしていられないだろう。
今夜泊まる新しい下宿先を早く探さなくてはならない。
ここは王都だ、他の国より人口が多く旅人もよく立ち寄る…宿屋が一つなわけがない。
そう思うと希望が見えてきて足が軽くなり他の宿屋を探すために歩き出した。
「あー、ごめんね…今満室なんだ」
「うちは下宿なんてやってないよ、一泊のみのお客様しか無理だよ」
「女の子が一人で泊まるなんて危ないよ、家出なんてやめて早くお家に帰りなさい」
そして最後であろう宿屋の店主にドアを閉められた。
家出じゃないのに、と目元が熱くなり泣きたくなった。
あんなにいっぱいあった宿屋が全て全滅で早々に希望が消えた。
あの店主が言っていた通り家に帰った方が良いのかもしれないと宿屋から離れて広場の方に向かった。
王都中の人がかき集められたように広場に人だかりが出来ていた。
これが聖騎士団長就任のパレード、王都を背負う騎士団長だからか凄い大規模だ。
家に帰る前に思い出でも作ろうかと思い、パレードを見ようと背を伸ばすが全然見えない。
明るい音楽しか聞こえず騎士団長どころか一緒にパレードに参加している騎士団の人すら見えない。
本当に今日はついてない、やっぱり手から小さな噴水を出すぐらいのZランク魔法使いがお姫様なんて無理だったのかもしれない。
「お嬢さん、そんなに落ち込んだ顔をしてどうしたの?」
パレードも諦めて入り口に向かおうと歩き出したら後ろから声が聞こえた。
自分に声を掛けたのか分からず後ろを見ると、そこには金髪に右目眼帯の青年がいた。
青年はずっと私を見ており、私は周りに人がいないか見渡す。
パレードを見てる人以外この場には私と青年しかいない。
首を傾げて自分を指差すしてみると青年はニコリと笑った。
そんなに落ち込んだような顔をしていただろうか、自分ではあまり顔に出していないつもりだった。
「もしかしてパレードが見れなくて悲しんでいたの?」
「……えっと」
「ならいいところがあるよ」
そう言い青年は私に近付き、突然腰に手を回しあっという間にお姫様抱っこをされた。
驚き青年にしがみついたら青年の足元から風が吹き青年と私を乗せて上空に飛んだ。
風の魔法なのだろう、しかも人を浮かすほどの力だったら上ランクの魔法使いしかいない。
怖くてギュッと青年に抱き付くと青年はただ笑っていた。
やがてふわふわした感覚はなくなり、私をゆっくり下ろした。
「危ないからあまり動かないでね」
「こっ、ここ…屋根!?」
青年と私が立っているのは何処かの店の屋根だった。
落ちそうで身動きが取れず固まると青年が私の横に座った。
このまま立っていたら下の景色を見そうだから私も座る。
するとさっきまで見えなかったパレードがはっきりと見えたのか。
音楽に合わせてくるくる踊る踊り子、その真ん中を騎士団の人がいる。
その中で人一倍目立つオーラを放つ人物が歩いていた。
赤いマントがよく似合う赤黒い髪のとても美しい青年。
昔のような幼い顔立ちの面影は皆無だったがあれはきっと…
「トーマ?」
「おや?新騎士団長様を知ってるの?」
「は、はい…幼馴染みなんです」
青年は「ふーん」とあまり興味がない返事をしていた。
あんなに父親と同じ職は嫌だと言っていたのに、時が立つと人は変わっちゃうんだねとちょっと知らないトーマになったようで寂しさを感じる。
でもかっこよくなったトーマを見れて良かった、これで安心して村に帰れる。
青年はパレードには目もくれず私の顔をジッと見ていた。
また変な顔をしてしまっただろうかと恥ずかしくて頬に触れる。
もうトーマ達は歩いていってしまいいなくなっていた。
「また悲しい顔、君をそんな顔にさせるのは騎士団長様?」
「えっ!?ち、違います!トーマは関係なくて…」
「良かったら話してくれない?」
話すまで屋根から下ろしてあげないと言われてるような目をされ、あまり人に話す内容ではないが独り言なら…と口を開いた、勿論姫修行の事は教えていない。
王都に勉強しに来て、でも下宿先が火事で住めなくなり…他の宿屋にも断られてこのまま帰る事を話した。
結構目立った火事だったから青年も知ってるのか納得していた。
帰るなら今馬車を手配しないと帰りが遅くなりそうだから屋根から下ろしてほしいとお願いする。
青年は少し考えて頷いていた。
もうパレードの見物客はいなくなっていた。
「僕達の屋敷に来ればいい、空き部屋なら沢山あるから」
それは思ってもみない嬉しい言葉だった。
しかし見ず知らずの他人に迷惑を掛けるわけにはいかないと断った。
ちゃんとはっきりと断った筈だったがリンディの荷物を奪われ風で飛ばされた。
屋根の上だから追いかけるわけにもいかず、目が点になった。
青年は「女の子は素直に甘えるもんだよ」とウインクした。
ちょっとキザっぽい青年だが、荷物を返してもらわないと財布もあの中だから家に帰れず仕方なく青年が言う屋敷に向かう事にした。
その少し後、騎士団長がいないとパレード中に大騒ぎになっていた事は二人は知らない。
このままでは姫修行が出来ない、野宿も知識がない私がやって上手くいくかなんて分からない。
初日でついてないとため息を吐き、消えていく炎を眺めた。
「原因は不明」「今日が聖騎士団長様就任パレードだというのに…」という声がちらほらと聞こえた。
幸い宿屋の店主や客などは少し煙を吸っただけで軽症だと聞き安堵する。
数人の白い清掃を着た人達が原因を探るために焦げて黒くなった宿屋の中に入っていく。
騎士団だという声がする、あれが騎士団…小さい頃に王都に遊びに来た事はあったが騎士団は初めてだった。
この場は専門家に任せようと野次馬が散っていく、もうすぐ騎士団長のパレードが開始されるからだろう。
私もお祭りが好きだから見てみたいが宿がない今、呑気にしていられないだろう。
今夜泊まる新しい下宿先を早く探さなくてはならない。
ここは王都だ、他の国より人口が多く旅人もよく立ち寄る…宿屋が一つなわけがない。
そう思うと希望が見えてきて足が軽くなり他の宿屋を探すために歩き出した。
「あー、ごめんね…今満室なんだ」
「うちは下宿なんてやってないよ、一泊のみのお客様しか無理だよ」
「女の子が一人で泊まるなんて危ないよ、家出なんてやめて早くお家に帰りなさい」
そして最後であろう宿屋の店主にドアを閉められた。
家出じゃないのに、と目元が熱くなり泣きたくなった。
あんなにいっぱいあった宿屋が全て全滅で早々に希望が消えた。
あの店主が言っていた通り家に帰った方が良いのかもしれないと宿屋から離れて広場の方に向かった。
王都中の人がかき集められたように広場に人だかりが出来ていた。
これが聖騎士団長就任のパレード、王都を背負う騎士団長だからか凄い大規模だ。
家に帰る前に思い出でも作ろうかと思い、パレードを見ようと背を伸ばすが全然見えない。
明るい音楽しか聞こえず騎士団長どころか一緒にパレードに参加している騎士団の人すら見えない。
本当に今日はついてない、やっぱり手から小さな噴水を出すぐらいのZランク魔法使いがお姫様なんて無理だったのかもしれない。
「お嬢さん、そんなに落ち込んだ顔をしてどうしたの?」
パレードも諦めて入り口に向かおうと歩き出したら後ろから声が聞こえた。
自分に声を掛けたのか分からず後ろを見ると、そこには金髪に右目眼帯の青年がいた。
青年はずっと私を見ており、私は周りに人がいないか見渡す。
パレードを見てる人以外この場には私と青年しかいない。
首を傾げて自分を指差すしてみると青年はニコリと笑った。
そんなに落ち込んだような顔をしていただろうか、自分ではあまり顔に出していないつもりだった。
「もしかしてパレードが見れなくて悲しんでいたの?」
「……えっと」
「ならいいところがあるよ」
そう言い青年は私に近付き、突然腰に手を回しあっという間にお姫様抱っこをされた。
驚き青年にしがみついたら青年の足元から風が吹き青年と私を乗せて上空に飛んだ。
風の魔法なのだろう、しかも人を浮かすほどの力だったら上ランクの魔法使いしかいない。
怖くてギュッと青年に抱き付くと青年はただ笑っていた。
やがてふわふわした感覚はなくなり、私をゆっくり下ろした。
「危ないからあまり動かないでね」
「こっ、ここ…屋根!?」
青年と私が立っているのは何処かの店の屋根だった。
落ちそうで身動きが取れず固まると青年が私の横に座った。
このまま立っていたら下の景色を見そうだから私も座る。
するとさっきまで見えなかったパレードがはっきりと見えたのか。
音楽に合わせてくるくる踊る踊り子、その真ん中を騎士団の人がいる。
その中で人一倍目立つオーラを放つ人物が歩いていた。
赤いマントがよく似合う赤黒い髪のとても美しい青年。
昔のような幼い顔立ちの面影は皆無だったがあれはきっと…
「トーマ?」
「おや?新騎士団長様を知ってるの?」
「は、はい…幼馴染みなんです」
青年は「ふーん」とあまり興味がない返事をしていた。
あんなに父親と同じ職は嫌だと言っていたのに、時が立つと人は変わっちゃうんだねとちょっと知らないトーマになったようで寂しさを感じる。
でもかっこよくなったトーマを見れて良かった、これで安心して村に帰れる。
青年はパレードには目もくれず私の顔をジッと見ていた。
また変な顔をしてしまっただろうかと恥ずかしくて頬に触れる。
もうトーマ達は歩いていってしまいいなくなっていた。
「また悲しい顔、君をそんな顔にさせるのは騎士団長様?」
「えっ!?ち、違います!トーマは関係なくて…」
「良かったら話してくれない?」
話すまで屋根から下ろしてあげないと言われてるような目をされ、あまり人に話す内容ではないが独り言なら…と口を開いた、勿論姫修行の事は教えていない。
王都に勉強しに来て、でも下宿先が火事で住めなくなり…他の宿屋にも断られてこのまま帰る事を話した。
結構目立った火事だったから青年も知ってるのか納得していた。
帰るなら今馬車を手配しないと帰りが遅くなりそうだから屋根から下ろしてほしいとお願いする。
青年は少し考えて頷いていた。
もうパレードの見物客はいなくなっていた。
「僕達の屋敷に来ればいい、空き部屋なら沢山あるから」
それは思ってもみない嬉しい言葉だった。
しかし見ず知らずの他人に迷惑を掛けるわけにはいかないと断った。
ちゃんとはっきりと断った筈だったがリンディの荷物を奪われ風で飛ばされた。
屋根の上だから追いかけるわけにもいかず、目が点になった。
青年は「女の子は素直に甘えるもんだよ」とウインクした。
ちょっとキザっぽい青年だが、荷物を返してもらわないと財布もあの中だから家に帰れず仕方なく青年が言う屋敷に向かう事にした。
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