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第一章 夜明けに向かう物語
第二話
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「おいおい、テンドウに子どもができたって本当かよ?!」
「隠し子か?」
「いつの間に女作ってたんだよお前~! そういう話は早く教えてくれよ?!」
現在、アズマの家には、彼の傭兵仲間たちが押しかけ、騒然としている。
あれから、アズマは預かった子どもと共に帰宅していた。
教会でのことを思えば、子どもが目を覚ませば大騒ぎになるであろうことが想像できた。そうなれば落ち着かせるのも一苦労だろう。面倒になる前に子どもの薄汚れた服を洗濯しておくかと、服を脱がせた──ついでに、子どもが男児であることも確認し、少々驚いた──が、代わりに着せるものが何も無いことに気づいた。そのため、アズマは装備品を仕立てている知り合いに連絡を飛ばしたのだが……
結果が、これだ。
「俺はテイラーに連絡をしたはずだが……どうして余分なのがこうも押しかけてきやがった……?」
肺の空気が全て吐き出されたのではないかと思われるような大きなため息と共に、アズマは右手で頭を抑える。そのため息もガヤの中では掻き消されていき、当の傭兵たちには聞こえていない。
「突然なんの前触れも無しに、『子ども用の服をいくつか仕立ててほしい』なんて魔鳩が飛ばされて来たんですもの。アズマさんに子どもが居たかしら?と、わたしもうびっくりしちゃって!ご近所さんに話を聞いてみたらみんな知らないと言うし、着いていく~なんて言うものだから、着いてきてもらったのよ~」
状況を作り出した張本人である仕立て屋テイラーは、頬に右手を当てながら呑気に話している。そして頭を抑えているアズマをよそに、「採寸してくるわね」とニコニコと嬉しそうに微笑みながら、子どもが眠っている寝室へと向かっていった。
「で、テンドウさんよォ、いつの間に子どもなんて作ったんだ?」
「だ~~か~~らァ!! 俺の子じゃねェんだって!!」
「……おい、アズマ、勝手に子どもを連れ込んだんならそりゃ誘拐だぜ……?」
「誘拐してきたわけでもねェよ!!!!」
圧倒的にツッコミが足りない。これでは埒が明かないと、アズマは好き勝手盛り上がっている仲間たちに事情を話そうと口を開いた。
「説明するには事情がややこしいんだけどよ……」
祭司に呼ばれたこと、教会で拾われた子どもが藤嬰出身らしいこと、その子どもを預かる羽目になったこと……それらを話せば、彼らは疑問そうな表情を浮かべながらも、興味津々といった様子で話を聞いていた。
「へぇー、藤嬰ってテンドウの出身地だったっけか?同郷ってワケか」
「そういうこった。とは言っても、言葉も通じねェガキなんだよ。教会で会ったときにゃ俺の姿を見た途端ギャン泣きで騒がれたしよォ……」
教会でのことを思い出しながら、この先が思いやられると言わんばかりに肩を落として、アズマは苦い面持ちで天を仰ぐ。傭兵仲間は構わず「お前の面が怖ェんじゃねェ?」など追い打ちをかけ、アズマは頭をがくん、と戻して恨めしそうな視線を仲間に向けた。
「うるせェよ。ともかく、お前らみたいなのがこうも居られちゃアイツが起きてきたときにとんだ大騒ぎだ、分かったんならとっとと帰ってくれ」
疲れと不満の入り交じったようなため息を吐きながら、アズマはしっしと追い払うように手のひらを振る。そうしているうちにテイラーがひょこひょこと戻ってきた。
「アズマさん~、お子さんの採寸終わったわよ~」
「お子さんじゃねェ」
食い気味で否定するアズマに、テイラーはニコニコと微笑んでいる。
「ぐっすり眠っていたわ。ひとまず今日は仮で持ってきたお洋服を着せておいたけれど、もう何着か必要でしょう?サイズの合う服が店にいくつかありそうだから、また明日にでも持ってくるわね」
「おー……助かる」
テイラーはどことなく楽しそうに話し、他の傭兵たちに「帰るわよ~」と呼びかけながら帰り支度を始めていた。傭兵たちはテイラーの声に応えて、一斉に身を起こす。
「じゃあ、また明日ね、アズマさん!」
「なんか手伝えることあれば言えよ~」
「親戚の子が使ってねぇオモチャがあれば持ってくるわ」
アズマの不安は透けて見えていたのだろう、彼らは口々に励ますような言葉を投げかけていた。
部屋を出るとき、テイラーはもう一度振り返ってニコッと笑顔を見せる。
アズマは「おう」と一つ頷いて、彼らが帰るのを見送る。彼らの姿が遠ざかっていったのを確認した後、再び部屋には静寂が戻ってきた。
「……………………ハァ~~~!! 疲れた……」
漸く落ち着きを取り戻し、アズマはゆったりと振り返った。
その瞬間、アズマの視線と少年の視線が交差する。いつの間に起きてきたのだろうか、教会から預かってきた子どもがそこに立っていた。
「ってうぉい?!! お前起きてたのかよ?! 静か過ぎてびっくりしただろうが?!」
アズマが大きな声を出したことに驚いたのか、少年は一度ビクッと肩を震わせ後退る。しかしそれ以上逃げる様子はなく、騒ぐことも無かった。教会に居た頃よりは落ち着いているようで、壁に手を付けながら、じっ、と、アズマを見つめている。警戒心はありながら、どことなくアズマに興味を示しているようにも感じられた。
アズマは少年の様子に気づき、その場でしゃがみ込んでから落ち着いた口調で話しかけた。
「あー……<おはよう>?」
部屋の中には未だ静寂が漂っており、アズマの声はよく響いた。少年はアズマの目を見つめ、何かを探っているかのように静かに耳を傾けている。
「<体調は? 元気か?>」
アズマの問いかけに、少年は首を傾げる。
「ンー……<腹、減ってるか?>」
アズマの声が穏やかに響く中、少年は今度は反対向きに首を傾げた。それからゆっくりと、その小さな口を開く。
「…………<世界樹>」
「ハ……?」
少年の返答は短い藤嬰の単語だった。しかし、問いかけに対する返答としては聞くことはないであろうものだ。
思いがけない返答にアズマが口をぽかんと開けば、少年はさらに口をぱくぱくとさせ、今度は先程よりも大きな声で、「<自由>!」と叫ぶ。
少年の口から発せられたその言葉が、部屋の中に静かに響く。
やはり明瞭な藤嬰語。それなのに、とてもじゃないが、会話にはならない。アズマの言っていることを理解はしていないようで、ただ知っている単語を発しているだけのようにも感じられた。
「…………。そういや名前聞いたときもこうだったな。全く話は通じてねェのに、発音なんかは達者だ」
「ウ~……」
言葉を理解できないからか、少年は段々と不安そうな表情に変わっていく。アズマは頭をぽりぽりと掻きながら、思考を巡らせるように押し黙った。
(……藤嬰語で話しかけりゃあ、聞き馴染みがあるからか多少は安心してるみてェだけど、コミュニケーションが取れなきゃ意味がねェ。コイツが覚えるべきは共通語だろ)
自身の考えを整理しながら、アズマは少年に対するアプローチ方法を模索する。
「しかし……あー……名前……呼び方は決めておいた方がいいか。ンー……」
アズマは考えこみながら、少年に適切な呼び方を考えていた。その中で、ふと思い出したようにアズマが顔を上げ、少年の方に視線をやった。
「……名前を聞いたとき、お前なんつったっけか。確か……<はじまり>」
「<はじまり>!」
自分が知る単語だからか、少年は表情をぱ、と明るくさせ、元気よく返事をした。
「そうだな。お前は……"ハジメ"だ」
「……?」
「お前の名前は、ハジメ、だ。ハジメ」
「は、じ、め」
「おお、ちゃんと復唱できてるな……」
アズマは少年の名前を繰り返し、彼が正しく復唱する様子を見て感心するように頷く。
「俺はテンドウ。テ・ン・ドー。お前はハジメ。ハ・ジ・メ」
「どー」
「よし。俺は?」
「?」
少年の表情は混乱しながらも、アズマの言葉に興味津々のようで、静かに耳を傾けていた。アズマは自分の名前を強調するようにもう一度伝える。
「テンドウ」
「てん、どー」
「そうだ。お前は?」
「……?」
「ハジメ」
「はじ、め」
アズマは自分を指しながら名乗り、そして少年を指してもう一度名前を呼ぶ。それを何度か繰り返しているうちに、アズマを指差せば「テンドウ」と、少年を指差せば「ハジメ」と口にするようになってきた。
少年──ハジメは、学習能力が高いのか、理解するのは非常に早いようだ。であるから尚のこと、言葉を何も知らずに居たことがあまりにも不自然だと、アズマは首を傾げていた。
「……やっぱり面倒事に巻き込まれてンなァ、お前……」
「……?」
アズマの言葉に、ハジメの表情には疑問が浮かんでいるようだった。彼はまだ言葉を理解していないようでありながらも、不安そうな視線をアズマに向けている。
そんな様子を苦笑いしながら眺め、それからアズマは立ち上がってハジメに近づいていく。彼の手は慎重に、ハジメの頭を撫でようとした。
しかしアズマの指がハジメの髪に触れるや否や、ハジメの表情が一変する。
「ぁ……う、」
「ン?」
「うぁあ゛あああああん!!!!!」
ハジメは目を見開き、口を大きく開けて泣き叫ぶような悲鳴を上げた。アズマは慌てて手を引いて少し離れ、困ったように眉を寄せた。
「落ち着け、落ち着けって。怖がらせるつもりはねェから」
できるだけ大きな声は出さず、あくまで穏やかに、アズマは少しでもハジメを安心させようと声をかける。しかし、その言葉はまだハジメには届いてはいないようだった。
泣き叫んでいるハジメの姿を見つめながら、アズマはひとまず少しの間静かに待つことにする。次にどうするべきかを考えながら、この先どうこの少年と付き合っていくのかを模索しようとするのだった。
「隠し子か?」
「いつの間に女作ってたんだよお前~! そういう話は早く教えてくれよ?!」
現在、アズマの家には、彼の傭兵仲間たちが押しかけ、騒然としている。
あれから、アズマは預かった子どもと共に帰宅していた。
教会でのことを思えば、子どもが目を覚ませば大騒ぎになるであろうことが想像できた。そうなれば落ち着かせるのも一苦労だろう。面倒になる前に子どもの薄汚れた服を洗濯しておくかと、服を脱がせた──ついでに、子どもが男児であることも確認し、少々驚いた──が、代わりに着せるものが何も無いことに気づいた。そのため、アズマは装備品を仕立てている知り合いに連絡を飛ばしたのだが……
結果が、これだ。
「俺はテイラーに連絡をしたはずだが……どうして余分なのがこうも押しかけてきやがった……?」
肺の空気が全て吐き出されたのではないかと思われるような大きなため息と共に、アズマは右手で頭を抑える。そのため息もガヤの中では掻き消されていき、当の傭兵たちには聞こえていない。
「突然なんの前触れも無しに、『子ども用の服をいくつか仕立ててほしい』なんて魔鳩が飛ばされて来たんですもの。アズマさんに子どもが居たかしら?と、わたしもうびっくりしちゃって!ご近所さんに話を聞いてみたらみんな知らないと言うし、着いていく~なんて言うものだから、着いてきてもらったのよ~」
状況を作り出した張本人である仕立て屋テイラーは、頬に右手を当てながら呑気に話している。そして頭を抑えているアズマをよそに、「採寸してくるわね」とニコニコと嬉しそうに微笑みながら、子どもが眠っている寝室へと向かっていった。
「で、テンドウさんよォ、いつの間に子どもなんて作ったんだ?」
「だ~~か~~らァ!! 俺の子じゃねェんだって!!」
「……おい、アズマ、勝手に子どもを連れ込んだんならそりゃ誘拐だぜ……?」
「誘拐してきたわけでもねェよ!!!!」
圧倒的にツッコミが足りない。これでは埒が明かないと、アズマは好き勝手盛り上がっている仲間たちに事情を話そうと口を開いた。
「説明するには事情がややこしいんだけどよ……」
祭司に呼ばれたこと、教会で拾われた子どもが藤嬰出身らしいこと、その子どもを預かる羽目になったこと……それらを話せば、彼らは疑問そうな表情を浮かべながらも、興味津々といった様子で話を聞いていた。
「へぇー、藤嬰ってテンドウの出身地だったっけか?同郷ってワケか」
「そういうこった。とは言っても、言葉も通じねェガキなんだよ。教会で会ったときにゃ俺の姿を見た途端ギャン泣きで騒がれたしよォ……」
教会でのことを思い出しながら、この先が思いやられると言わんばかりに肩を落として、アズマは苦い面持ちで天を仰ぐ。傭兵仲間は構わず「お前の面が怖ェんじゃねェ?」など追い打ちをかけ、アズマは頭をがくん、と戻して恨めしそうな視線を仲間に向けた。
「うるせェよ。ともかく、お前らみたいなのがこうも居られちゃアイツが起きてきたときにとんだ大騒ぎだ、分かったんならとっとと帰ってくれ」
疲れと不満の入り交じったようなため息を吐きながら、アズマはしっしと追い払うように手のひらを振る。そうしているうちにテイラーがひょこひょこと戻ってきた。
「アズマさん~、お子さんの採寸終わったわよ~」
「お子さんじゃねェ」
食い気味で否定するアズマに、テイラーはニコニコと微笑んでいる。
「ぐっすり眠っていたわ。ひとまず今日は仮で持ってきたお洋服を着せておいたけれど、もう何着か必要でしょう?サイズの合う服が店にいくつかありそうだから、また明日にでも持ってくるわね」
「おー……助かる」
テイラーはどことなく楽しそうに話し、他の傭兵たちに「帰るわよ~」と呼びかけながら帰り支度を始めていた。傭兵たちはテイラーの声に応えて、一斉に身を起こす。
「じゃあ、また明日ね、アズマさん!」
「なんか手伝えることあれば言えよ~」
「親戚の子が使ってねぇオモチャがあれば持ってくるわ」
アズマの不安は透けて見えていたのだろう、彼らは口々に励ますような言葉を投げかけていた。
部屋を出るとき、テイラーはもう一度振り返ってニコッと笑顔を見せる。
アズマは「おう」と一つ頷いて、彼らが帰るのを見送る。彼らの姿が遠ざかっていったのを確認した後、再び部屋には静寂が戻ってきた。
「……………………ハァ~~~!! 疲れた……」
漸く落ち着きを取り戻し、アズマはゆったりと振り返った。
その瞬間、アズマの視線と少年の視線が交差する。いつの間に起きてきたのだろうか、教会から預かってきた子どもがそこに立っていた。
「ってうぉい?!! お前起きてたのかよ?! 静か過ぎてびっくりしただろうが?!」
アズマが大きな声を出したことに驚いたのか、少年は一度ビクッと肩を震わせ後退る。しかしそれ以上逃げる様子はなく、騒ぐことも無かった。教会に居た頃よりは落ち着いているようで、壁に手を付けながら、じっ、と、アズマを見つめている。警戒心はありながら、どことなくアズマに興味を示しているようにも感じられた。
アズマは少年の様子に気づき、その場でしゃがみ込んでから落ち着いた口調で話しかけた。
「あー……<おはよう>?」
部屋の中には未だ静寂が漂っており、アズマの声はよく響いた。少年はアズマの目を見つめ、何かを探っているかのように静かに耳を傾けている。
「<体調は? 元気か?>」
アズマの問いかけに、少年は首を傾げる。
「ンー……<腹、減ってるか?>」
アズマの声が穏やかに響く中、少年は今度は反対向きに首を傾げた。それからゆっくりと、その小さな口を開く。
「…………<世界樹>」
「ハ……?」
少年の返答は短い藤嬰の単語だった。しかし、問いかけに対する返答としては聞くことはないであろうものだ。
思いがけない返答にアズマが口をぽかんと開けば、少年はさらに口をぱくぱくとさせ、今度は先程よりも大きな声で、「<自由>!」と叫ぶ。
少年の口から発せられたその言葉が、部屋の中に静かに響く。
やはり明瞭な藤嬰語。それなのに、とてもじゃないが、会話にはならない。アズマの言っていることを理解はしていないようで、ただ知っている単語を発しているだけのようにも感じられた。
「…………。そういや名前聞いたときもこうだったな。全く話は通じてねェのに、発音なんかは達者だ」
「ウ~……」
言葉を理解できないからか、少年は段々と不安そうな表情に変わっていく。アズマは頭をぽりぽりと掻きながら、思考を巡らせるように押し黙った。
(……藤嬰語で話しかけりゃあ、聞き馴染みがあるからか多少は安心してるみてェだけど、コミュニケーションが取れなきゃ意味がねェ。コイツが覚えるべきは共通語だろ)
自身の考えを整理しながら、アズマは少年に対するアプローチ方法を模索する。
「しかし……あー……名前……呼び方は決めておいた方がいいか。ンー……」
アズマは考えこみながら、少年に適切な呼び方を考えていた。その中で、ふと思い出したようにアズマが顔を上げ、少年の方に視線をやった。
「……名前を聞いたとき、お前なんつったっけか。確か……<はじまり>」
「<はじまり>!」
自分が知る単語だからか、少年は表情をぱ、と明るくさせ、元気よく返事をした。
「そうだな。お前は……"ハジメ"だ」
「……?」
「お前の名前は、ハジメ、だ。ハジメ」
「は、じ、め」
「おお、ちゃんと復唱できてるな……」
アズマは少年の名前を繰り返し、彼が正しく復唱する様子を見て感心するように頷く。
「俺はテンドウ。テ・ン・ドー。お前はハジメ。ハ・ジ・メ」
「どー」
「よし。俺は?」
「?」
少年の表情は混乱しながらも、アズマの言葉に興味津々のようで、静かに耳を傾けていた。アズマは自分の名前を強調するようにもう一度伝える。
「テンドウ」
「てん、どー」
「そうだ。お前は?」
「……?」
「ハジメ」
「はじ、め」
アズマは自分を指しながら名乗り、そして少年を指してもう一度名前を呼ぶ。それを何度か繰り返しているうちに、アズマを指差せば「テンドウ」と、少年を指差せば「ハジメ」と口にするようになってきた。
少年──ハジメは、学習能力が高いのか、理解するのは非常に早いようだ。であるから尚のこと、言葉を何も知らずに居たことがあまりにも不自然だと、アズマは首を傾げていた。
「……やっぱり面倒事に巻き込まれてンなァ、お前……」
「……?」
アズマの言葉に、ハジメの表情には疑問が浮かんでいるようだった。彼はまだ言葉を理解していないようでありながらも、不安そうな視線をアズマに向けている。
そんな様子を苦笑いしながら眺め、それからアズマは立ち上がってハジメに近づいていく。彼の手は慎重に、ハジメの頭を撫でようとした。
しかしアズマの指がハジメの髪に触れるや否や、ハジメの表情が一変する。
「ぁ……う、」
「ン?」
「うぁあ゛あああああん!!!!!」
ハジメは目を見開き、口を大きく開けて泣き叫ぶような悲鳴を上げた。アズマは慌てて手を引いて少し離れ、困ったように眉を寄せた。
「落ち着け、落ち着けって。怖がらせるつもりはねェから」
できるだけ大きな声は出さず、あくまで穏やかに、アズマは少しでもハジメを安心させようと声をかける。しかし、その言葉はまだハジメには届いてはいないようだった。
泣き叫んでいるハジメの姿を見つめながら、アズマはひとまず少しの間静かに待つことにする。次にどうするべきかを考えながら、この先どうこの少年と付き合っていくのかを模索しようとするのだった。
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