10 / 10
第10話:新しい夜明け
しおりを挟む
学園の卒業式。かつて「地味な特待生」として廊下の隅を歩いていた私は、今、卒業生代表として壇上に立っていた。
会場を埋め尽くす生徒たちの視線は、もはや蔑みでも嘲笑でもない。それは、圧倒的な実力と家柄、そして誰もが認めざるを得ない美しさを備えた「女王」への、純粋な敬意と畏怖だった。
「……私たちは、目に見えるものだけで世界を判断しがちです。けれど、真実というものは、常に光の当たらない場所にこそ隠されているものです」
淡々と答辞を述べる私の視線の先に、かつての「残骸」たちがよぎる。
ハルトの家は完全に倒産し、彼は今、遠く離れた地で借金の返済に追われながら、日雇いの労働に明け暮れていると聞いた。エマは更生施設の中で、自分が奪ってきた他人の人生の重さに、毎日怯えながら過ごしているという。
彼らがいなくなっても、学園の時計は止まらない。
けれど、この学園の空気は確実に変わった。
「誰かを踏み台にして輝く」という愚かなゲームの終焉。それを、私はこの一年で身をもって証明したのだ。
式が終わり、拍手の中で壇上を降りる。
校門を出ると、そこには黒塗りの高級車と、その傍らで退屈そうにスマホを眺めるレンの姿があった。
「遅かったな。答辞、少し長すぎたんじゃないか?」
「これでも削った方よ。……レン、あなたこそ。大学も決まっているのに、まだ私のプロデューサー気取り?」
レンはふっと口角を上げ、車のドアを開けた。
「気取りじゃない。……君の人生の『特等席』に座り続けるには、それなりの努力が必要だと言ったはずだ」
私は彼の手を借りて、車に乗り込む。
かつてハルトに握られた時の不快感は微塵もない。彼の掌は、確かな信頼と、隠しきれない熱を帯びていた。
「これからどうする? 佐藤グループの次期代表として、さっそく帝王学の続きか?」
「まさか。まずは……そうね。眼鏡なしで見る、この世界の景色を楽しもうかしら」
私は窓の外を眺める。
流れていく学園の校舎。あそこで私は、地獄を見た。けれど同時に、自分の足で立ち、敵を討ち、本当の味方を見つける強さを手に入れた。
「……ねえ、レン」
「なんだ?」
「復讐って、終わってみると意外と静かなものね。もっと、世界がひっくり返るような音がすると思ってた」
「それは君が、復讐そのものよりも『その先の自分』を大切にしていたからだ。……合格だよ、澪」
レンの手が、そっと私の髪に触れる。
私はその温もりに身を委ね、琥珀色の瞳を閉じた。
かつての「地味ブス」は、もうどこにもいない。
ここにいるのは、自分の意志で運命を選び取った、一人の強い女性だ。
車は、春の陽光が降り注ぐ並木道を、真っ直ぐに突き進んでいく。
その先に待っているのは、誰にも邪魔されない、私だけの輝かしい未来。
「さあ、行きましょう。……最高の復讐の仕上げは、私が誰よりも幸せになることなんだから」
私は目を開け、力強く前を見据えた。
新しい夜明けは、もう始まっている。
(完)
会場を埋め尽くす生徒たちの視線は、もはや蔑みでも嘲笑でもない。それは、圧倒的な実力と家柄、そして誰もが認めざるを得ない美しさを備えた「女王」への、純粋な敬意と畏怖だった。
「……私たちは、目に見えるものだけで世界を判断しがちです。けれど、真実というものは、常に光の当たらない場所にこそ隠されているものです」
淡々と答辞を述べる私の視線の先に、かつての「残骸」たちがよぎる。
ハルトの家は完全に倒産し、彼は今、遠く離れた地で借金の返済に追われながら、日雇いの労働に明け暮れていると聞いた。エマは更生施設の中で、自分が奪ってきた他人の人生の重さに、毎日怯えながら過ごしているという。
彼らがいなくなっても、学園の時計は止まらない。
けれど、この学園の空気は確実に変わった。
「誰かを踏み台にして輝く」という愚かなゲームの終焉。それを、私はこの一年で身をもって証明したのだ。
式が終わり、拍手の中で壇上を降りる。
校門を出ると、そこには黒塗りの高級車と、その傍らで退屈そうにスマホを眺めるレンの姿があった。
「遅かったな。答辞、少し長すぎたんじゃないか?」
「これでも削った方よ。……レン、あなたこそ。大学も決まっているのに、まだ私のプロデューサー気取り?」
レンはふっと口角を上げ、車のドアを開けた。
「気取りじゃない。……君の人生の『特等席』に座り続けるには、それなりの努力が必要だと言ったはずだ」
私は彼の手を借りて、車に乗り込む。
かつてハルトに握られた時の不快感は微塵もない。彼の掌は、確かな信頼と、隠しきれない熱を帯びていた。
「これからどうする? 佐藤グループの次期代表として、さっそく帝王学の続きか?」
「まさか。まずは……そうね。眼鏡なしで見る、この世界の景色を楽しもうかしら」
私は窓の外を眺める。
流れていく学園の校舎。あそこで私は、地獄を見た。けれど同時に、自分の足で立ち、敵を討ち、本当の味方を見つける強さを手に入れた。
「……ねえ、レン」
「なんだ?」
「復讐って、終わってみると意外と静かなものね。もっと、世界がひっくり返るような音がすると思ってた」
「それは君が、復讐そのものよりも『その先の自分』を大切にしていたからだ。……合格だよ、澪」
レンの手が、そっと私の髪に触れる。
私はその温もりに身を委ね、琥珀色の瞳を閉じた。
かつての「地味ブス」は、もうどこにもいない。
ここにいるのは、自分の意志で運命を選び取った、一人の強い女性だ。
車は、春の陽光が降り注ぐ並木道を、真っ直ぐに突き進んでいく。
その先に待っているのは、誰にも邪魔されない、私だけの輝かしい未来。
「さあ、行きましょう。……最高の復讐の仕上げは、私が誰よりも幸せになることなんだから」
私は目を開け、力強く前を見据えた。
新しい夜明けは、もう始まっている。
(完)
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
「毒が効かない体になるまで毒を盛られた令嬢は、復讐なんて望まない——ただ、助けもしないだけ」
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢エレーナは、義母と義妹に3年間毒を盛られ続けた。「病弱な姉」として
社交界から消し、財産と婚約者を奪う計画——しかしエレーナには、前世の記憶から
来る毒物の知識があった。毒の種類を特定し、密かに解毒しながら「弱った姉」を
演じ続け、証拠が積み上がるのを待つ。卒業の夜会で義妹が勝ち誇るその場で、
エレーナは3年分の診断書を差し出す。「復讐? いいえ。ただ、もう助けないだけ」
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる