5 / 28
第5話
しおりを挟む
調査2日目、ハヤセモータース城杜工場
事故機の分解調査が行われている工場は、運用テストが行われている臨海地区の工事現場とは逆に城杜市山側の丘陵地帯にある。
丹下の運転する車の助手席、章生の視線の先に建つ巨大な工場は周りの田園風景になじむことのない異様な輝きを放っていた。
「ハヤセモータース品質管理部の山際です。工場内の案内をさせていただきます」
出迎えた社員はそう名乗ると、二人を連れて検査棟に向かった。
その経路にある展示コーナーを通る章生と丹下。通路の両側にはハヤセモータース歴代の名車や、PDの初期モデルからPD-105に至るまでの実物大模型などが展示されていた。
「これは懐かしい。初代セレカですよ、私が乗っていた車です」
丹下が展示車のクーペを指して言った。
「へえ、速そうな車ですね。」
章生が相槌を打つ。
「まあ、私も若い頃は‥」
と自慢げに言いかけてから気恥ずかしそうに言葉をにごした丹下は、PD-101の模型に近づいて言った。
「ほう、これが初代PDですか‥こうして並べてみると段々と人に似てきているようですな」
「段々人に似てきている‥か」
並べられたPDシリーズを目で追う章生。その中で深い赤色に塗装されたPDに目を止めた。
「これはかっこいいですね、開発中の機種ですか?」
「いえ、これは開発初期に作られたデザインコンセプトモデル、ラムダの模型です」
ハヤセの社員が答える。
「ラムダと言ったら、PD-105のOSと同じ名前ですね」
「はい、ラムダOSは、このラムダにちなんで名づけられたそうです」
PD-105が置かれた検査棟の倉庫では、一足先に到着していた科学捜査研究所の樺島智治が待っていた。
「これは分解測定したセンサー出力表です。それからこれはシステムログとエラーログ。これがPD側、こっちはサーバ側のです」
樺島が書類の束を章生に差し出す。
「仕事が速いですね、ありがたいです。それで、何か異常な数値は?」
「詳細な解析はこれからですが、一見したところでは異常な数値は見当たりませんでした」
「だから言ったろう!システムに問題なんかあるわけがないんだ」
それまで忙しそうに動き回っていた黒崎が強引に会話に割って入った。
「あなたは?」
「設計開発チーム主任の黒崎迅だ」
「紹介が遅れました、国土交通省事故調査室の村主章生です。それで、システムに問題があるわけがないとはどういう事ですか?」
「前日も当日もPD-105の動作チェックは完璧にやって異常はなかった。原因はドライバーの操作ミス‥それしか考えられないって事さ」
黒崎のこの言葉に、章生は強い違和感を覚えた。
「システムに問題があるとは一言も言っていませんが‥それとも何かそう思わせる要因でも?」
「そ、それならいいんだ‥」
それまで自信に満ちていた黒崎の表情が一転、そわそわと落ち着かない様子になった。
章生が畳み掛ける、
「事故の日、ドライバーに小久保|直哉なおやさんを指名したのはあなただそうですね、なぜですか?」
「PDが画期的だと言われるのはなぜだと思う?それは高度なAI支援システムによってドライバーの操縦負荷を最小限にしているからだ。
ファーストドライバーの甲斐冬馬は操縦がうまいかもしれないが、肝心の支援システムがオフになるマニュアルモードばかり使っている変人なのさ。だから一般的なデモンストレーションには使えないと判断した、それに問題があるのかな?」
「しかし、事故の原因が操縦ミスだというなら、その選択は間違っていたということになりますね」
図星を指された黒崎は激昂した。
「君は僕を怒らせたいのか!」
「いえ、あなたは小久保さんを信頼してたのでしょう?それなのに操作ミスだと安直に決め付けてしまうのはどうしてだろうと思ったもので‥」
「人間はミスをする、機械はミスをしない、常識だろう?」
「機械を造るのも人間なのですが‥とにかく、頂いたデータを子細に検討させていただきますので‥」
事故機の分解調査が行われている工場は、運用テストが行われている臨海地区の工事現場とは逆に城杜市山側の丘陵地帯にある。
丹下の運転する車の助手席、章生の視線の先に建つ巨大な工場は周りの田園風景になじむことのない異様な輝きを放っていた。
「ハヤセモータース品質管理部の山際です。工場内の案内をさせていただきます」
出迎えた社員はそう名乗ると、二人を連れて検査棟に向かった。
その経路にある展示コーナーを通る章生と丹下。通路の両側にはハヤセモータース歴代の名車や、PDの初期モデルからPD-105に至るまでの実物大模型などが展示されていた。
「これは懐かしい。初代セレカですよ、私が乗っていた車です」
丹下が展示車のクーペを指して言った。
「へえ、速そうな車ですね。」
章生が相槌を打つ。
「まあ、私も若い頃は‥」
と自慢げに言いかけてから気恥ずかしそうに言葉をにごした丹下は、PD-101の模型に近づいて言った。
「ほう、これが初代PDですか‥こうして並べてみると段々と人に似てきているようですな」
「段々人に似てきている‥か」
並べられたPDシリーズを目で追う章生。その中で深い赤色に塗装されたPDに目を止めた。
「これはかっこいいですね、開発中の機種ですか?」
「いえ、これは開発初期に作られたデザインコンセプトモデル、ラムダの模型です」
ハヤセの社員が答える。
「ラムダと言ったら、PD-105のOSと同じ名前ですね」
「はい、ラムダOSは、このラムダにちなんで名づけられたそうです」
PD-105が置かれた検査棟の倉庫では、一足先に到着していた科学捜査研究所の樺島智治が待っていた。
「これは分解測定したセンサー出力表です。それからこれはシステムログとエラーログ。これがPD側、こっちはサーバ側のです」
樺島が書類の束を章生に差し出す。
「仕事が速いですね、ありがたいです。それで、何か異常な数値は?」
「詳細な解析はこれからですが、一見したところでは異常な数値は見当たりませんでした」
「だから言ったろう!システムに問題なんかあるわけがないんだ」
それまで忙しそうに動き回っていた黒崎が強引に会話に割って入った。
「あなたは?」
「設計開発チーム主任の黒崎迅だ」
「紹介が遅れました、国土交通省事故調査室の村主章生です。それで、システムに問題があるわけがないとはどういう事ですか?」
「前日も当日もPD-105の動作チェックは完璧にやって異常はなかった。原因はドライバーの操作ミス‥それしか考えられないって事さ」
黒崎のこの言葉に、章生は強い違和感を覚えた。
「システムに問題があるとは一言も言っていませんが‥それとも何かそう思わせる要因でも?」
「そ、それならいいんだ‥」
それまで自信に満ちていた黒崎の表情が一転、そわそわと落ち着かない様子になった。
章生が畳み掛ける、
「事故の日、ドライバーに小久保|直哉なおやさんを指名したのはあなただそうですね、なぜですか?」
「PDが画期的だと言われるのはなぜだと思う?それは高度なAI支援システムによってドライバーの操縦負荷を最小限にしているからだ。
ファーストドライバーの甲斐冬馬は操縦がうまいかもしれないが、肝心の支援システムがオフになるマニュアルモードばかり使っている変人なのさ。だから一般的なデモンストレーションには使えないと判断した、それに問題があるのかな?」
「しかし、事故の原因が操縦ミスだというなら、その選択は間違っていたということになりますね」
図星を指された黒崎は激昂した。
「君は僕を怒らせたいのか!」
「いえ、あなたは小久保さんを信頼してたのでしょう?それなのに操作ミスだと安直に決め付けてしまうのはどうしてだろうと思ったもので‥」
「人間はミスをする、機械はミスをしない、常識だろう?」
「機械を造るのも人間なのですが‥とにかく、頂いたデータを子細に検討させていただきますので‥」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる