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第27話
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「PD-105の動作を制御している量子コンピュータを黒崎迅さんはアルファユニットに載せ換えました。
ユニットの記憶装置の、隠し領域にはアルファのプログラム、システム領域には桐生博士が作ったラムダOSと黒崎さんが作ったラムダOS改が格納されています。
105はハヤセのPD管理サーバーに接続され、最新ドライバソフトのダウンロードや学習データのアップロードを行っています。
その他、動作モニター用のPCが複数台接続出来て、設計者権限があるPCであればシステム領域の書き換えも可能です。
通常使用ではマニュアルモードかノーマルモードを選択できて、マニュアルモードはラムダOS、ノーマルモードはラムダOS改で動いています。
そして通常外使用の隠しモードがあり、これが事故を引き起こした、アルファの無意識クラスを使った自立行動モードです。
隠しモードを使う時は通信ソフトを毎回ロードさせて、接続先を管理サーバーから黒崎さんのPCに切り替え、PCをブリッジにしてもう一つアルファユニットに接続します。
この通信ソフトはダミーデータで管理サーバーに通信ログを残し、105をシャットダウンすると消滅してしまいます。
事故を起こした105にアルファ使用の痕跡が残っていなかったのはこの為です。
もしもモーターショーの105が通常使用されていたら、ロンリの中のアルファの心が反応する事は無かったでしょう。コピーのアルファユニットは心の入れ物にはなれないので。
しかし、あの時、コピーのアルファユニットはオリジナルのアルファユニットと繋がっていた‥
アルファの心はオリジナルのアルファユニットに戻ろうとしますが、コピーのアルファユニットは拒絶反応を示しロンリを排除しようとしました。
これが暴走事故の真相です。
ご存知の通り105は甲斐冬馬さんの操縦する303によって止められ、その結果、アルファの心はロンリの中と、オリジナルのアルファユニットの二つに分離された状態になってしまいました。
この状態が長く続くと心は存在を保てなくなる、時間は限られていました。
勿論この時はその事を知る筈もなく、それを知ったのは博士と再会した後ですが。
そこに舞い込んだのがモーターショー再開のニュースでした。これは分離したアルファの心を一つに戻す最後のチャンスです。
ところが、ロンリから現実のモーターショーと同時にディープスペースで事故の再現シミュレーションを行うという情報が入りました。
ディープスペースの105がオリジナルのアルファユニットに接続していたら、現実の105は接続出来ません、アルファの心は一つに戻る事が出来ない。
そこで博士は、この状況を逆に利用する作戦を考えました」
「逆に利用する?」
章生と律華は同時に呟いた。
「わたしがディープスペースにダイブして再現シミュレーション内のPCの通信ソフトを無効化し、更にそれを開発環境に使って拒絶反応を中和するプログラムを作成し、現実世界の105にリモートインストールするという作戦です。アルファユニットのコピーが拒絶反応さえ起こさなければ、分離したアルファの心は無事一つに戻る事が出来ますから」
ここまで一気に話して綾可は大きく息を吐いた。
「その作戦は上手く行ったんですか?」
この章生の質問に答えたのは論里だった、
「当り前でしょ!アヤカは天才ハッカーなのよ」
「その呼び方は誤解を招くのでやめてと言っているでしょう‥
でも誤算もありました、オリジナルとの接続が切れたアルファユニットのコピーが本当に暴走する事までは予想できなかった」
「そうすると、アルファの心はハヤセの倉庫に保管されている105に?」
「今回の事故で保管されている105に調査が及ぶ事を恐れた黒崎さんは、隠匿する為、一時的に一般の倉庫に移送させました。しかし、セキュリティの厳重さはハヤセの倉庫とは比ぶべくもない。
博士はアルファの新しい躯体を用意してハヤセ関係者になりすますと、倉庫の機体から新しい躯体にアルファユニットを載せ替えて持ち去る事に成功しました」
「では105は制御コンピュータが無い状態に?」
「いえ、105には博士が用意したシグマOSがインストールされた制御コンピュータが載せられました」
「シグマOS?」
聞き覚えの無い名前に章生は当惑した。
「博士が開発したラムダOSに変わる新たなPDOSです。
この105が一度でも起動されればシグマOSが管理サーバーにアップロードされ、そこから他の105にダウンロードされます。やがて全ての105がシグマOSで動くようになるという計画です」
「どんなOSなんですか?」
「人間の能力を信じるOS‥
コンピュータ制御に頼るのではなく、ドライバーに技術の向上を求める‥そんな普通のOSです」
「人間の能力を信じる‥」
言葉を復唱した律華の頬を訳もなく涙が伝った。
「もう一つ、アルファの新しい躯体とは何ですか?」
章生の質問に再び論里が答えた、
「だから、新しい生命体としての体よ。当然でしょアルファはもうロボットと生物の境界線を超えちゃってるんだから‥」―
―「こんな荒唐無稽な話、誰も信じないだろうな‥」
章生は大きく欠伸をすると、作成中の報告書から最後の項目を削除した。
(黒崎迅はPDの兵器転用についてこんな事を言っていた『自立行動できるロボットが人間に代わって戦争をすれば人間の犠牲者を出さないで済む、それは平和に貢献する技術なのだ』と‥でも、もしもロボットが人間と同じ心を持ってしまったとしたら、戦争に巻き込まれたそのロボットが犠牲者でないと誰が言い切れるのだろうか‥)
(第一部 完)
ユニットの記憶装置の、隠し領域にはアルファのプログラム、システム領域には桐生博士が作ったラムダOSと黒崎さんが作ったラムダOS改が格納されています。
105はハヤセのPD管理サーバーに接続され、最新ドライバソフトのダウンロードや学習データのアップロードを行っています。
その他、動作モニター用のPCが複数台接続出来て、設計者権限があるPCであればシステム領域の書き換えも可能です。
通常使用ではマニュアルモードかノーマルモードを選択できて、マニュアルモードはラムダOS、ノーマルモードはラムダOS改で動いています。
そして通常外使用の隠しモードがあり、これが事故を引き起こした、アルファの無意識クラスを使った自立行動モードです。
隠しモードを使う時は通信ソフトを毎回ロードさせて、接続先を管理サーバーから黒崎さんのPCに切り替え、PCをブリッジにしてもう一つアルファユニットに接続します。
この通信ソフトはダミーデータで管理サーバーに通信ログを残し、105をシャットダウンすると消滅してしまいます。
事故を起こした105にアルファ使用の痕跡が残っていなかったのはこの為です。
もしもモーターショーの105が通常使用されていたら、ロンリの中のアルファの心が反応する事は無かったでしょう。コピーのアルファユニットは心の入れ物にはなれないので。
しかし、あの時、コピーのアルファユニットはオリジナルのアルファユニットと繋がっていた‥
アルファの心はオリジナルのアルファユニットに戻ろうとしますが、コピーのアルファユニットは拒絶反応を示しロンリを排除しようとしました。
これが暴走事故の真相です。
ご存知の通り105は甲斐冬馬さんの操縦する303によって止められ、その結果、アルファの心はロンリの中と、オリジナルのアルファユニットの二つに分離された状態になってしまいました。
この状態が長く続くと心は存在を保てなくなる、時間は限られていました。
勿論この時はその事を知る筈もなく、それを知ったのは博士と再会した後ですが。
そこに舞い込んだのがモーターショー再開のニュースでした。これは分離したアルファの心を一つに戻す最後のチャンスです。
ところが、ロンリから現実のモーターショーと同時にディープスペースで事故の再現シミュレーションを行うという情報が入りました。
ディープスペースの105がオリジナルのアルファユニットに接続していたら、現実の105は接続出来ません、アルファの心は一つに戻る事が出来ない。
そこで博士は、この状況を逆に利用する作戦を考えました」
「逆に利用する?」
章生と律華は同時に呟いた。
「わたしがディープスペースにダイブして再現シミュレーション内のPCの通信ソフトを無効化し、更にそれを開発環境に使って拒絶反応を中和するプログラムを作成し、現実世界の105にリモートインストールするという作戦です。アルファユニットのコピーが拒絶反応さえ起こさなければ、分離したアルファの心は無事一つに戻る事が出来ますから」
ここまで一気に話して綾可は大きく息を吐いた。
「その作戦は上手く行ったんですか?」
この章生の質問に答えたのは論里だった、
「当り前でしょ!アヤカは天才ハッカーなのよ」
「その呼び方は誤解を招くのでやめてと言っているでしょう‥
でも誤算もありました、オリジナルとの接続が切れたアルファユニットのコピーが本当に暴走する事までは予想できなかった」
「そうすると、アルファの心はハヤセの倉庫に保管されている105に?」
「今回の事故で保管されている105に調査が及ぶ事を恐れた黒崎さんは、隠匿する為、一時的に一般の倉庫に移送させました。しかし、セキュリティの厳重さはハヤセの倉庫とは比ぶべくもない。
博士はアルファの新しい躯体を用意してハヤセ関係者になりすますと、倉庫の機体から新しい躯体にアルファユニットを載せ替えて持ち去る事に成功しました」
「では105は制御コンピュータが無い状態に?」
「いえ、105には博士が用意したシグマOSがインストールされた制御コンピュータが載せられました」
「シグマOS?」
聞き覚えの無い名前に章生は当惑した。
「博士が開発したラムダOSに変わる新たなPDOSです。
この105が一度でも起動されればシグマOSが管理サーバーにアップロードされ、そこから他の105にダウンロードされます。やがて全ての105がシグマOSで動くようになるという計画です」
「どんなOSなんですか?」
「人間の能力を信じるOS‥
コンピュータ制御に頼るのではなく、ドライバーに技術の向上を求める‥そんな普通のOSです」
「人間の能力を信じる‥」
言葉を復唱した律華の頬を訳もなく涙が伝った。
「もう一つ、アルファの新しい躯体とは何ですか?」
章生の質問に再び論里が答えた、
「だから、新しい生命体としての体よ。当然でしょアルファはもうロボットと生物の境界線を超えちゃってるんだから‥」―
―「こんな荒唐無稽な話、誰も信じないだろうな‥」
章生は大きく欠伸をすると、作成中の報告書から最後の項目を削除した。
(黒崎迅はPDの兵器転用についてこんな事を言っていた『自立行動できるロボットが人間に代わって戦争をすれば人間の犠牲者を出さないで済む、それは平和に貢献する技術なのだ』と‥でも、もしもロボットが人間と同じ心を持ってしまったとしたら、戦争に巻き込まれたそのロボットが犠牲者でないと誰が言い切れるのだろうか‥)
(第一部 完)
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