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第1章
第20話
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ジルの用意した紅茶と洋菓子がテーブルに並ぶ。相変わらずジルからは睨まれたままだが、紅茶はちゃんと淹れてくれるようだ。準備が終わるとジルはエレナの後ろに控える。ここまでの一連の動きは先ほどの奇行が嘘のようにスマートだった。
「この紅茶、私のおすすめなの。どうぞお飲みになって」
「はぁ。じゃ、頂いて」
促され紅茶を飲めば、口の中にフルーティな風味が広がった。高級な茶葉なのだろう、まず飲んだことのないほどお上品な味に辟易する。隣の蓮華は遠慮もなく紅茶も菓子も飲み食いしていたが、不思議と行儀の悪さは感じさせずしっかり様になっていた。さながら優雅にティーを楽しむ王子のようだ。
「ところで貴方たち、同時に編入してきたようだけれど、どういった関係なのかしら」
「むぐっ…」
突然痛いところをついた質問に、口にしていたクッキーが詰まりそうになる。確かにこんな時期に、しかも2人同時に編入してきたとなれば偶然では済まされないだろう。陸翔は束の間思考し、次には顔に笑顔を貼り付けた。
「実はこう見えて俺たち、兄弟なんだ」
「!」
「まぁそうなの?全然似てないわね」
「あはは、よく言われる」
打ち合わせなしの作り話に、蓮華が心底不服そうな視線を向けてくるが無視する。実際偽の個人情報でも2人は親族ということになっている。丁度歳も離れているし、これが一番手っ取り早いのだ。
「ずっと一緒に行動しているそうね。随分仲のいい兄弟だこと」
「いやー、弟が寂しがりやなもんだから離れたがらな…アダッ!」
冗談交じりに話していれば足に鈍い痛みが走った。テーブルの下、陸翔の脛を容赦なく蹴った蓮華は仏頂面でマフィンを頬張っている。
「どうかしまして?」
「い、いや何も…」
「そう?何はともあれ、まだ編入してきたばかりで分からないことも多いでしょうし、聞きたいことがあれば何でも言って下さいまし」
そう言ってエレナは可憐に微笑んで見せた。
彼女の厚意に甘えるなら学園の失踪事件について尋ねてみたいところだが、いきなり切り出すのはあまりにも不謹慎だろう。変に怪しまれでもしたら困る。
であれば、どう持ち掛けるべきか……
「失踪事件について聞きたい」
「……」
さらりと言ってのけた蓮華に、陸翔はもう怒鳴る気力も湧かなかった。
あぁそうでした。こいつはそういうやつでしたね…。
エレナはその大きな目を見開いたが、次には手元の紅茶に視線を落とす。そして痛みを堪えるようにキュッと眉間に皺を寄せた。
「知っていたのね…。まぁ学園内でも騒がれていることですし、当然かしら」
訝しむことなく案外あっさりと納得してくれたエレナに安堵する。こんな強引な方法は本意ではなかったが、もう後に引くこともできず陸翔も口を開いた。
「不躾なことを聞いてすまない。でもこの学園に来た以上、不用心ではいたくないからな」
「えぇそうね、いい心がけだと思うわ。もう何人もこの学園から姿を消してしまっているもの」
「その中に、知り合いはいたのか?」
「えぇもちろん。彼らも招待したものだわ、……このお茶会に」
その時、突然蓮華が力なくテーブルに突っ伏した。
弾かれたように顔を向けた陸翔だったが、次には蓮華同様、ぐらりと体が傾く。
意識を失い倒れ伏す2人を見下ろし、エレナはその形のいい唇を吊り上げた。背後のジルが差し出した手を取り、椅子から立ち上がる。
「連れて行きなさい」
「この紅茶、私のおすすめなの。どうぞお飲みになって」
「はぁ。じゃ、頂いて」
促され紅茶を飲めば、口の中にフルーティな風味が広がった。高級な茶葉なのだろう、まず飲んだことのないほどお上品な味に辟易する。隣の蓮華は遠慮もなく紅茶も菓子も飲み食いしていたが、不思議と行儀の悪さは感じさせずしっかり様になっていた。さながら優雅にティーを楽しむ王子のようだ。
「ところで貴方たち、同時に編入してきたようだけれど、どういった関係なのかしら」
「むぐっ…」
突然痛いところをついた質問に、口にしていたクッキーが詰まりそうになる。確かにこんな時期に、しかも2人同時に編入してきたとなれば偶然では済まされないだろう。陸翔は束の間思考し、次には顔に笑顔を貼り付けた。
「実はこう見えて俺たち、兄弟なんだ」
「!」
「まぁそうなの?全然似てないわね」
「あはは、よく言われる」
打ち合わせなしの作り話に、蓮華が心底不服そうな視線を向けてくるが無視する。実際偽の個人情報でも2人は親族ということになっている。丁度歳も離れているし、これが一番手っ取り早いのだ。
「ずっと一緒に行動しているそうね。随分仲のいい兄弟だこと」
「いやー、弟が寂しがりやなもんだから離れたがらな…アダッ!」
冗談交じりに話していれば足に鈍い痛みが走った。テーブルの下、陸翔の脛を容赦なく蹴った蓮華は仏頂面でマフィンを頬張っている。
「どうかしまして?」
「い、いや何も…」
「そう?何はともあれ、まだ編入してきたばかりで分からないことも多いでしょうし、聞きたいことがあれば何でも言って下さいまし」
そう言ってエレナは可憐に微笑んで見せた。
彼女の厚意に甘えるなら学園の失踪事件について尋ねてみたいところだが、いきなり切り出すのはあまりにも不謹慎だろう。変に怪しまれでもしたら困る。
であれば、どう持ち掛けるべきか……
「失踪事件について聞きたい」
「……」
さらりと言ってのけた蓮華に、陸翔はもう怒鳴る気力も湧かなかった。
あぁそうでした。こいつはそういうやつでしたね…。
エレナはその大きな目を見開いたが、次には手元の紅茶に視線を落とす。そして痛みを堪えるようにキュッと眉間に皺を寄せた。
「知っていたのね…。まぁ学園内でも騒がれていることですし、当然かしら」
訝しむことなく案外あっさりと納得してくれたエレナに安堵する。こんな強引な方法は本意ではなかったが、もう後に引くこともできず陸翔も口を開いた。
「不躾なことを聞いてすまない。でもこの学園に来た以上、不用心ではいたくないからな」
「えぇそうね、いい心がけだと思うわ。もう何人もこの学園から姿を消してしまっているもの」
「その中に、知り合いはいたのか?」
「えぇもちろん。彼らも招待したものだわ、……このお茶会に」
その時、突然蓮華が力なくテーブルに突っ伏した。
弾かれたように顔を向けた陸翔だったが、次には蓮華同様、ぐらりと体が傾く。
意識を失い倒れ伏す2人を見下ろし、エレナはその形のいい唇を吊り上げた。背後のジルが差し出した手を取り、椅子から立ち上がる。
「連れて行きなさい」
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