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第五章 異世界出張、新能力習得への修行
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しおりを挟むマインアストル帝国・帝都、その商店街。この国が錬金術師の聖地と呼ばれるだけあって、人々が賑わうような商店街の風景は壮観だった。見上げても視界を囲むほどの商店の軒。中心に覗く青い空は遠い。丁寧に舗装された街路は、暖かみを与えてくれる二色のレンガでお洒落に敷き詰められている。
広大な商店街の中心にある穏やかな広場では、原理は分からないが二本の噴水の間で鉄球が静かに回り続けていたりする。ひとたびそこを出れば、また視界から空が消えてしまうことだろう。
商店街に賑わう人々の数は凄まじく、気を抜けば飲み込まれてしまいそうだ。
そんな商店街の真っ只中で。
「わはぁ……!」
まん丸の輝く瞳をせいいっぱいに広げて嶺二の手を引っ張るレキナ。もう片方の手で行く先を指さして叫ぶ。
「こっちこっち! 嶺二、はーやーくー!」
「だぁ! 分かったから引っ張んなって!」
引っ張られる嶺二は、つまずくようにしてレキナの隣に立った。レキナが見ているのはガラス張りのショールーム。何があるのかと嶺二が見てみれば、華美なドレスやアクセサリーなどが窺える。ガラスに張り付いたレキナは、それらを満面の笑みで観察している。
嶺二は顎に手を当てて、それを眺めながら唸って言う。
「うーん……こんな小さなカバンに何入れるってんだ? 使い勝手が悪そうだな」
「違うよ! あれはお財布!」
それを聞くと、嶺二も勢いよくガラスに張り付いた。
「なにィ!? アレ財布なのかよ!? ってことは……デケェェェ!」
興奮してガラスに張り付く二人の背中を見守っている男はアルカ。周囲からの視線を感じてわざとらしく咳払いをすると、二人の肩に手を置いて言う。
「お二方。観光をするのは良いが、羽目を外し過ぎぬように……」
言った傍から、嶺二とレキナは手を繋いだまま愉快そうにその場を去っていく。このような人混みの激しい場所では、慣れた者でもなかなか前に進めないと思える。しかし二人はそれをものともせず果敢に突き進んで行く。
アルカは二人の楽しげな声が遠のいていく様子に呆れるでも無く、真面目にその後を追い続けた。
これだけ人が多いと、一度はぐれたりでもしたら迷子は避けられないだろう。それはアルカのような大人であっても、この広大な商店街から仲間を探すことは難しいはず。それでも彼はゆっくりと歩んでいく。既に嶺二とレキナの姿は視界に無いが、大して問題ではないとアルカは悟っていた。
「――何じゃコリャァァァ!?」
これほど賑わっていても、その声は充分に聞こえてくるからだ。
アルカはその声を頼りに人混みを掻き分けて進むと、案の定そこに興奮した嶺二と……浮いているレキナがいた。
手品師による芸の見せ場となっている所で、アルカはついにため息をついた。
大きなとんがり帽子を被った手品師の両手の上で、透明な球に包まれて浮いているレキナ。それを見て手を叩きながら声を上げる嶺二。
「すげぇぞレキナ! お前も今日から魔法使いだぜ!」
「うぉぉう! わ、私浮いてるぅ!?」
周囲では子ども達が嬉しそうに飛び跳ねていた。
レキナが降ろされると、今度は嶺二が自分を指さして俺も俺もと手品師に頼んでいたが身長制限のためか断られたようで。それでも二人は楽しげにまたどこかへ行ってしまう。
元々はレキナが観光したいと言ったことで、アルカがこの商店街に二人を連れてきたのだが、まさかこれほどまでに楽しまれるとは思っていなかったのだろう。アルカは通りの中心に立つ時計台を眺めると、早足で二人の後を追った。
探すまでもなく、その声は聞こえた。
「ドスコォォイ!」
鈍重な音が周囲に響き渡る。そこにいた人々は驚愕の眼差しでそれを見張っていた。
「何事だ……!」
あまりに強烈な音であったため、何か問題でも起きたのではないかとアルカが慌てて人集りを突き進んだ。
しかしその慌て様も、人集りの中心に立つ男を見て晴れる。
最近この国で流行っているのが、店の自慢の商品をアピールするために客に実感してもらうという商法。嶺二が拳を突き出している先で粉々になっていた物は、絶対に壊れない素材というその店の看板商品らしい。
「よっしゃァァァ!」
「嶺二すごい!」
盛り上がる嶺二とレキナや周囲の客とは対照的に、店の者は蒼白とした顔で粉砕された商品を眺めていた。
注目を浴びていた嶺二に詰め寄る人たちは口々に嶺二を称賛する。
「すごいな君! なんて馬鹿力だ」
「バーサーカーでも壊せなかったものを簡単に!」
「君、種族は何なの? やっぱりドワーフとか?」
親指を自分に向けた嶺二に、アルカは慌てて接近した。
「俺は人――」
「そろそろ行くとしよう、嶺二殿」
「うおっ。何だよもうちょっと楽しませてくれよ」
アルカは嶺二の手を掴んで強引に引っ張る。大して抵抗もしない嶺二は、はぐれないように空いている手でレキナの手を握った。人集りを突き進むアルカの背中に嶺二が言う。
「なぁアルカのおっちゃん。用事が済んだらまたここに来ていいか?」
「それは嶺二殿のお好きなように。しかしこれからはこれからのことに集中して貰えると助かる」
精霊使いになること。今の嶺二はそれを目的としている。今から彼はアルカの知り合いである精霊使いに会い、その者と話をすることになっている。嶺二はマリアから二週間の猶予を与えられこの世界に来ているが、早く目的を達成するに越したことはない。嶺二のことに関して詳しくは知らないアルカだが、彼としては帝国錬金術師会副会長としての仕事があるはずだ。いつまでも嶺二たちの観光に付き合っては居られないだろう。
商店街を出ると途端に静かになる街並み。嶺二とレキナは同時に深呼吸した。
「空気が美味いぜ……」
「開放感っ……」
のほほーんと空を見上げる二人を見たアルカは先を示して進む。嶺二とレキナも彼についていく。しばらく歩いてやってきた所は、大きな気球を浮かせた乗り物が並ぶ場所。ここは国外への移動手段として使われる施設。アルカは嶺二たちを国外へ連れていくつもりのようだ。その場所に精霊使いがいるのだろう。
レキナはたった今空へ飛び立った気球を指さして言う。
「飛行船だ! こんな間近で見たの初めてだよ!」
「おお、でけぇフランスパンみたいな形してるな」
アルカは従業員と話していたが、二人の前にやってくると言いづらそうに口を開く。
「すまない、嶺二殿。どうやら人間とケミル族は……」
「分かってる。こっちはハナからこんなもん使う気は無ぇっての」
「と、いうと?」
嶺二はレキナを抱えて空を見上げると膝を曲げた。懐におさまったレキナは楽しそうに笑っている。そんな二人をアルカは不思議といった顔で見つめているが、すぐにその顔は驚愕のものへと変わる。視界が沈んだかと思えば、目の前にいた嶺二は空高く飛び上がっていた。彼はアルカを見下ろして叫ぶ。
「あんた魔族だから飛べるんだろ? 案内してくれ!」
人間がこれほどの跳躍力を持っているなんて信じられない、そんなことを思うアルカだが何よりも粉砕した施設の地面はどうしてくれるのかと。
「人間離れという言葉を使う時が来ようとは。全く、嶺二殿は一体何で出来ているのやら」
アルカは嶺二の前まであっという間に到達し、前方の空を指さした。
「向かう先はセビュマス王国。そこに精霊使いがいる。彼ならきっと、嶺二殿に精霊のことを詳しく教えてくれるはず」
「んじゃ、一気に飛ばしますか!」
嶺二が高度を落とすと、それはアルカの視界で点といえるほどに小さくなっていく。次に風を切るような音で、一瞬にして嶺二の顔がアルカの直近を通過して行った。
アルカは引き気味に嶺二の背中を見送るが、はっとして追い始める。
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