9 / 37
【夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで・上】
9 表と裏
しおりを挟む休日中は色々あって、忘れていたけど……。
休み明けの放課後。タイチ君と、るりちゃんに声を掛けられる。再び三人で下校するシチュエーションに陥る。休みの前の日に、タイチ君にされた事を思い出して……変に意識してしまう。
校門を過ぎた辺りで。前を歩いていたるりちゃんが、更に前を行くタイチ君に近付いて行く。
るりちゃんは。見ているだけで幸せな気持ちになりそうな程に、整った容姿の持ち主だと思う。
「えへへ」
無邪気に笑っている声も可愛い。
しかし。ボーッと眺めていた私の眼前で展開される光景に、少なくない不快感が湧く。
有ろう事か彼女は……タイチ君の腕にしがみ付いた。
「ちょ……っ! くっつくな!」
タイチ君は嫌そうな物言いをしている。「本当に嫌なら、振り解ける筈だ」と、考えてしまうのは。きっと…………私の心が未熟だからだよね……?
楽しげに笑うるりちゃんと、焦っている様子のタイチ君。二人がベタベタしている今の方が……前の人生でされた仕打ちよりも、遥かにマシな気がする。
隠されていないから。
奥歯を強く噛み締める。純愛を信じていた自分を、密かに笑う。哀れだなぁ。
「私、結構……タイチ君の事、好きかもっ!」
るりちゃんの発言に、ハッとして顔を上げる。
「えっ」
タイチ君も驚いたようで、るりちゃんの方へ顔を向けている。
直後。るりちゃんが小声で、タイチ君に内緒話をし始めた。
ああ。間に入る余地が見当たらない。完全に二人の世界が成立していて、私のここでの立場は恐らく……彼らの恋を引き立てる添え物なのかも。
フフッ。
知らず知らずの内に笑みが零れる。少し晴れ晴れした気持ちになって歩む。二人を追い越して、先へ進む。
同じ土俵にも立てなかった前時間軸の私よりも、進歩したんじゃない?
ここからだよ。私、頑張るから。振り向かせるから。
「ねぇ、玻璃ちゃんっ!」
るりちゃんに呼ばれ、振り向く。
「タイチ君って、格好いいよねぇ?」
聞かれたので答える。
「うん。とても格好いいと思う」
微笑んだままに言えた。
「とても素敵で、優しくて、可愛くて、ちょっと……おっちょこちょいで。私には計り知れない、つらい過去を抱えていて。それなのに、私とも向き合ってくれて」
胸に溜まっていた想いを、初めて外へ出せた。
二人へ……特にるりちゃんへ、眼差しを据える。
「だから、タイチ君がつらい時に傍にいて支えてくれた人に凄く……感謝しているの。私には勇気がなくて、何もできなかった。手を伸ばす事もできなかった……から。今度こそ変わりたい。胸を張って、好きって言えるように。るりちゃんみたいに可愛くて、優しくて、明るくて、性格もいい素敵な女性になって……ハーレムの一員としての役割を、しっかりと担えるようになりたい」
言えた……!
決意を直接、伝える事ができた。一息ついて、ドキドキと鳴る胸を押さえる。
るりちゃんは、僅かに口を開いて私を見ている。彼女が動く。タイチ君へと、耳打ちしている声が聞こえる。
「何この子。ツッコミたいところは色々あるけど。ちょーいい子じゃん」
るりちゃんの表情が、ニマニマと崩れる。彼女はこっちを見つつ、横にいるタイチ君を肘でつついている。
更に聞こえる。
「何か狙いがあって好きなフリしてるのかと思ったけど、タイチ君にベタ惚れじゃん?」
「えっ? 狙い……?」
るりちゃんの話が鋭くて、思わず反応してしまった。
気まずい感覚が、少なからずある。
「ごめんごめん。玻璃ちゃんが純粋に、タイチ君を好きなのは十分に分かったよ。二人……末永くお幸せにねっ!」
るりちゃんが走り出す。遠くから、こちらへ……大きく手を振ってくれた。私も手を振り返す。スキップしながら先に帰る彼女を、呆然としたまま見送る。
タイチ君と二人になった。帰途につく。
細い坂道を上っている途中で話し掛けられた。
「なぁ。本当に、ほかに何も狙いないの?」
後ろめたい気がして、すぐに答えられなかった。立ち止まる。タイチ君が確認してくる。
「あるんだな?」
「……」
「言って」
「……言いたくない」
「何で?」
言葉に詰まって俯く。
「……やっぱり。オレに好意があるって言うのも、その狙いの為?」
「そうだよ」
言い切る。
大丈夫。考えていた深くを、最後まで明かすつもりはないから。
タイチ君は一瞬、怯んだように顔を強張らせた。「やっぱり、そうだよな」と、笑っている彼に告げる。
「私は……自分の欲望を叶える為に動いている。タイチ君の事なんて、一ミリも考えていない」
返された眼差しに、責められている心地がする。私も視線を逸らさず返す。
先に、相手が折れてくれた。タイチ君は瞳を伏せ、溜め息をついた後で……渋々した感じの滲む声音を出す。
「玻璃の叶えたい事って何? オレにできる事があれば、協力するよ」
かつて夫だった人が、優しい。込み上げるものがある。目頭が熱くなる。恐る恐る口にした。
「分不相応だって分かってる。でも」
まっすぐに見据える。
「タイチ君との、赤ちゃんが欲しい。今の私じゃまだ全然、あなた好みの女性になれていないから……到底、無理なのは分かってる。るりちゃんや、ほかの子たちを見習って……私の事も好きになってもらえるように励むから……これから……その……誘惑してもいいかな?」
0
あなたにおすすめの小説
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる