【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299

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6 秘密の約束


 荒ぶる心に任せた勢いで、柚佳の口唇を食む。顔を少し右に傾けて、より密着するように。

 身体の奥底に、くすぶった熱のようなものがある。頭の隅にちらつく後ろめたさが、そこに油を注いでいる。仄暗いそれに突き動かされて、自分を制御する事ができない。

 閉じていた瞼を薄く開いて窺う。ぎゅっと目を瞑った様子の彼女は……体を強張らせたように微動だにせず、頑なに口を結んだままだ。唇を離して乞う。


「……柚佳、口を開けて」

「嫌」


 目元を赤くした表情で、上目遣いに拒まれたので……背筋がゾクゾクする。

「もしかして。煽ってるの?」

 意地悪したくなって聞いたら、目を見開いた必死の様相で弁明してくる。

「ちがっ……! 確かに、教えてとは言ったけど。まだ慣れてないのに、そんな……大人なやつは、早いと思うの!」

 慌てた様子の柚佳が可愛くて、小さく笑う。

「慣れたらいいんだ? そして……慣れる予定なんだ」

 落ち着き払った顔をして言い及ぶ。微笑み掛ける。

「っ……海里……。今に見てなさいよ」

 恨みの籠もった目で睨まれた。

 少し前まで彼女の気持ちが解らなくて、知らない人のように見え焦っていたけど。柚佳は、やっぱり柚佳だ。オレの大事な幼馴染で、誰よりも可愛い。

 ……傍にいられるんだったら、何だってする。篤と柚佳が付き合うようになったら、きっともう「キスの練習相手」という関係も……彼女には必要ない。その為に、わざわざ『あと九日』だと……オレに教えたのだろう。

 「篤との仲を応援する」……。この関係は、そんな綺麗なもんじゃない。ただオレが……柚佳を繋ぎ止めておきたいだけの、不毛な関係。目が覚めたら、それまで見ていた夢を忘れてしまうみたいに。彼女もオレの元から去ってしまう。

 ――嫌だと……叫んでいる自分が、この身の内に存在する。

 残りの九日で彼女の気持ちを変えたいと、意識の深くで閃く思考を捉まえた。
 続け様に「篤をイチコロにするキス」の練習という建前で「柚佳をイチコロにするキス」を、秘密裏に探るという……下衆な計略に思い至る。


 眉根を寄せて沈黙しているオレを、心配そうに見上げてくる。囁きが聞こえる。

「海里?」

 薄目で見る。柚佳がいけないのだ。

 こんなに頭を悩ませなきゃならないのも。篤に後ろめたく思うのも。自分が……とんでもない心の汚れた奴だと気付いてしまったのも。全部全部、柚佳が可愛いのがいけない。篤と両想いの癖に、オレとキスをする……何を考えているのか分からない柚佳が悪いのだ。


 彼女の両手を、自分の両手で握る。指先は細く甲は滑らかだった。少なからず緊張する。思えば、手を繋ぐのも。これが初めてかもしれない。

「覚悟を決めたよ」

「覚悟?」

 伝えると、きょとんとした顔をされた。そんな柚佳に笑う。

「もちろんオレたちのこの関係は、篤やクラスの奴らに秘密なんだろ? バレた時に、きっと……お前は振られるからな。オレも絶対、篤に殴られるだろうな。……まぁ、バレた時は。一緒に地獄に堕ちてやるよ」

 ああ、ダメだな。柚佳と篤が付き合い出して独りになっても、彼女を忘れられる気がしない。苦笑する。

 目の前の柚佳は僅かに息を止めたような呼吸をした後、眉尻を下げて微笑んだ。

「うん。ありがとう海里」
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