陽キャ転生〜N oと言える日本人なので魔王討伐はいたしません〜

彩根梨愛

文字の大きさ
90 / 107
三章 二人だけの世界

88





「話を戻しましょうか」


シュオウはそう言って未だ座っていないスズを除いたメンバーに座るよう促すと、ランツィが一人掛けのソファに座り、必然的に四人掛けのソファには残った二人が座ることになる。
ノヴァーリスがシュオウの正面、スイレンが陽貴の正面に座り目が合うと微笑みかけてきた。
いつ見ても慈愛を絵に描いたような微笑みだ。
純白の揺らぎの中に僅かにまじる影楼。


「ハルキを連れ戻しに来たんですよね」

「ぼく達だけで魔王の討伐は難しいのはわかりきっているよね。まず、勇者にしか倒せないらしいし」

「私達も共に戦います……魔王の討伐には勇者様の力が必要なのです。
どうか共に来て頂けませんか」


スイレンはそう言って深く頭を下げ、スズとランツィはただ真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
唯一ノヴァーリスだけが何も言わずに黙り込んでいる。
謝罪に来た手前言葉にしずらいのだろう。
正直シュオウと二人の生活は心地いいし手離したくない気持ちはある。
けれどここで放置して何かあれば責められるのは自分達で、この生活は続けられない可能性もある。
それに陽貴は過去の記憶を思い出して気になっていた。
自分は何故あれだけ懺悔し後悔していたのか。
自分のせいで誰かが傷ついているのなら今の自分が知らないからと放置する気にはなれなかった。
全てを知らなければそんなことは思わなかったのに、時折思い出せと言うように蘇る記憶はそれを許さない。


「シュオウは俺にここにいて欲しいのは分かってる」

「……ハルキ」

「でも放置できる問題でもないと俺は思っているから……一緒に来てくれないかな」


無意識にシュオウの手に自分の手を添えてそう懇願するとその口元が僅かにくいしめられた。


「もしこの国に何か起これば俺達はどうなる?
人は責任転嫁する生き物だ。
力あるものに救いを求めて、それに応えなければ非情だ、心がないと罵倒する。
そういう生き物なんだ。
だから……俺達に行かないという選択肢はない」

「……不愉快な話です」

「ごめん。嫌な言い方だったかもしれない。でも俺はシュオウが居れば何処でも幸せだと思ってる。例えそれが戦場でも、死地だったとしても。
だから選びたいんだ。シュオウと共になんの陰りもなくいられる道を」


真剣な陽貴の言葉が胸に響いたのだろうかシュオウは無言で見つめ返して、頷く。


「ならば」


意を決したように紡がれた言葉は力強い視線とともに陽貴を貫く。
この自分だけを見つめる紅の瞳が好きだ。
その飄々と見える眼が激情を帯びたり、悲哀を滲ませたり、どんな表情見ても愛しいといつも思う。


「貴方を殺す権利を僕にください」

「……ふっ」

「…な……いま、なんて……?」


怖気付いている様子のスズの小さな声が陽貴にも聞こえたが、彼にはシュオウの願いが分からなかったらしい。
こんなにも『もう二度と死にそうな姿を見たくない』と言っているのに。
その思考の結果が、『他人には殺させないから死ぬのなら自分が手に掛けた時でしょう?』となる所が怖可愛いと陽貴は思うのだが。


「もう二度と他の人間に殺されないでください。それが条件です」

「……ああ、俺が死ぬ時はシュオウの腕の中だよ」


そう言って真っ直ぐ微笑み返すと呆れたような声で予想外の主から声が零れていた。


「何この主従、重……」


いつも陽貴には苛立っているか不快感を滲ませたような声音が多いランツィがそれだけ言うと見ていられないとでも言いたげにテーブルに肘を着いてそっぽを向いている。


「これも愛の形でしょうか……すこし私的には恐ろしいですが」


恐ろしいと言われてもこれが陽貴達なのでそれは諦めて欲しい。
魔王討伐という名の示談に行くための約束なのだから仕方がないと思う。


「ふっ……こんなにも可愛いシュオウの魅力が分からないなんて可哀想だな」

「……は?今哀れまれた?なんでオレが憐れまれてんの?」


理解不能の言うように目を見開いて誰にとも言わず言葉を漏らすランツィにスイレンは宥めるように苦笑いを浮かべる。


「ランツィ様がというより私たちが、かもしれませんが」

「……この勇者、性格変わってない?なんか別人みたいなんだけど…気の所為?」


そのランツィの言葉に今まで黙り込んでいたノヴァーリスが口を開いた。


「気の所為では無いでしょう。以前のハルキはこんなにも人間味はなかったように思います」

「それ褒めてんの?」

「……どうでしょうか。私は以前のハルキは神の使いに相応しい公平さと達観した人格を持った人だと思っていましたが……」


正直シュオウの件だけじゃなくとも、人間の汚いところも知ったような発言をする陽貴はとてもじゃないが以前のノヴァーリスが知っている彼ではなかった。
昔の彼は『力あるものが助けてくれなければ不満に思って当然だ』と言っていた。
それをノヴァーリスは弱者に寄り添う姿勢だと思っていた。
けれど薄々気がついていたのだ。
陽貴の言葉には何処か他人事で感情が乗っていないことに。
それが彼を神聖に見せていた理由だろう。
けれと関わらず再会してからの陽貴はとても感情的だ。
感情は穢れでもあると教会では習う。
感情があるから物を盗み、人を傷つけ、悪事を生む。
けれどそれを受け入れ、制御することで人間は一人前になると学ぶ。
陽貴もその穢れの代償とも言わんばかりにシュオウを慮れるほどの感情に対する機敏さ。
ノヴァーリスが離れていた間に彼らに何があって、陽貴にどんな心境の変化があったのか疑問に思っても彼が知ることは無い。
感想 0

あなたにおすすめの小説

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

魔王様の執着から逃れたいっ!

クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」 魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね 俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい 魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。 他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。 あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。 ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな? はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。 魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。 次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?  それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか? 三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。 誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ 『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ 第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️ 第二章 自由を求めてお世話になりますっ 第三章 魔王様に見つかりますっ 第四章 ハッピーエンドを目指しますっ 週一更新! 日曜日に更新しますっ!

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

【完結】みにくい勇者の子

バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……?     光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。  攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。