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三章 二人だけの世界
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「話を戻しましょうか」
シュオウはそう言って未だ座っていないスズを除いたメンバーに座るよう促すと、ランツィが一人掛けのソファに座り、必然的に四人掛けのソファには残った二人が座ることになる。
ノヴァーリスがシュオウの正面、スイレンが陽貴の正面に座り目が合うと微笑みかけてきた。
いつ見ても慈愛を絵に描いたような微笑みだ。
純白の揺らぎの中に僅かにまじる影楼。
「ハルキを連れ戻しに来たんですよね」
「ぼく達だけで魔王の討伐は難しいのはわかりきっているよね。まず、勇者にしか倒せないらしいし」
「私達も共に戦います……魔王の討伐には勇者様の力が必要なのです。
どうか共に来て頂けませんか」
スイレンはそう言って深く頭を下げ、スズとランツィはただ真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
唯一ノヴァーリスだけが何も言わずに黙り込んでいる。
謝罪に来た手前言葉にしずらいのだろう。
正直シュオウと二人の生活は心地いいし手離したくない気持ちはある。
けれどここで放置して何かあれば責められるのは自分達で、この生活は続けられない可能性もある。
それに陽貴は過去の記憶を思い出して気になっていた。
自分は何故あれだけ懺悔し後悔していたのか。
自分のせいで誰かが傷ついているのなら今の自分が知らないからと放置する気にはなれなかった。
全てを知らなければそんなことは思わなかったのに、時折思い出せと言うように蘇る記憶はそれを許さない。
「シュオウは俺にここにいて欲しいのは分かってる」
「……ハルキ」
「でも放置できる問題でもないと俺は思っているから……一緒に来てくれないかな」
無意識にシュオウの手に自分の手を添えてそう懇願するとその口元が僅かにくいしめられた。
「もしこの国に何か起これば俺達はどうなる?
人は責任転嫁する生き物だ。
力あるものに救いを求めて、それに応えなければ非情だ、心がないと罵倒する。
そういう生き物なんだ。
だから……俺達に行かないという選択肢はない」
「……不愉快な話です」
「ごめん。嫌な言い方だったかもしれない。でも俺はシュオウが居れば何処でも幸せだと思ってる。例えそれが戦場でも、死地だったとしても。
だから選びたいんだ。シュオウと共になんの陰りもなくいられる道を」
真剣な陽貴の言葉が胸に響いたのだろうかシュオウは無言で見つめ返して、頷く。
「ならば」
意を決したように紡がれた言葉は力強い視線とともに陽貴を貫く。
この自分だけを見つめる紅の瞳が好きだ。
その飄々と見える眼が激情を帯びたり、悲哀を滲ませたり、どんな表情見ても愛しいといつも思う。
「貴方を殺す権利を僕にください」
「……ふっ」
「…な……いま、なんて……?」
怖気付いている様子のスズの小さな声が陽貴にも聞こえたが、彼にはシュオウの願いが分からなかったらしい。
こんなにも『もう二度と死にそうな姿を見たくない』と言っているのに。
その思考の結果が、『他人には殺させないから死ぬのなら自分が手に掛けた時でしょう?』となる所が怖可愛いと陽貴は思うのだが。
「もう二度と他の人間に殺されないでください。それが条件です」
「……ああ、俺が死ぬ時はシュオウの腕の中だよ」
そう言って真っ直ぐ微笑み返すと呆れたような声で予想外の主から声が零れていた。
「何この主従、重……」
いつも陽貴には苛立っているか不快感を滲ませたような声音が多いランツィがそれだけ言うと見ていられないとでも言いたげにテーブルに肘を着いてそっぽを向いている。
「これも愛の形でしょうか……すこし私的には恐ろしいですが」
恐ろしいと言われてもこれが陽貴達なのでそれは諦めて欲しい。
魔王討伐という名の示談に行くための約束なのだから仕方がないと思う。
「ふっ……こんなにも可愛いシュオウの魅力が分からないなんて可哀想だな」
「……は?今哀れまれた?なんでオレが憐れまれてんの?」
理解不能の言うように目を見開いて誰にとも言わず言葉を漏らすランツィにスイレンは宥めるように苦笑いを浮かべる。
「ランツィ様がというより私たちが、かもしれませんが」
「……この勇者、性格変わってない?なんか別人みたいなんだけど…気の所為?」
そのランツィの言葉に今まで黙り込んでいたノヴァーリスが口を開いた。
「気の所為では無いでしょう。以前のハルキはこんなにも人間味はなかったように思います」
「それ褒めてんの?」
「……どうでしょうか。私は以前のハルキは神の使いに相応しい公平さと達観した人格を持った人だと思っていましたが……」
正直シュオウの件だけじゃなくとも、人間の汚いところも知ったような発言をする陽貴はとてもじゃないが以前のノヴァーリスが知っている彼ではなかった。
昔の彼は『力あるものが助けてくれなければ不満に思って当然だ』と言っていた。
それをノヴァーリスは弱者に寄り添う姿勢だと思っていた。
けれど薄々気がついていたのだ。
陽貴の言葉には何処か他人事で感情が乗っていないことに。
それが彼を神聖に見せていた理由だろう。
けれと関わらず再会してからの陽貴はとても感情的だ。
感情は穢れでもあると教会では習う。
感情があるから物を盗み、人を傷つけ、悪事を生む。
けれどそれを受け入れ、制御することで人間は一人前になると学ぶ。
陽貴もその穢れの代償とも言わんばかりにシュオウを慮れるほどの感情に対する機敏さ。
ノヴァーリスが離れていた間に彼らに何があって、陽貴にどんな心境の変化があったのか疑問に思っても彼が知ることは無い。
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