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①
しおりを挟むちゅんちゅんと鳴く愛らしい小鳥の声に起こされることも無く、可愛げのない爆音車のマフラー音で叩き起される朝に長い前髪を掻きあげて身体を起こした。
今日も今日とて朝は眠い。
とはいえ人間しなければならないことはどう足掻いてもしなければならないので、まだ二度寝したいと訴える頭を叩き起しながら洗面所に向かった。
鏡を見ると代わり映えしない自分の顔。
陸部にもかかわらず珍しいくらいに真っ黒な髪は前髪少し長めで、そろそろ散髪の必要がありそうだ。
顔は特に印象深い顔では無いが近くでよく見るとイケメンという喜んでいいのか分からない評価を貰うことが多い。
それは所謂“雰囲気イケメン”なるものでは無いかと思うが、それは違うらしく雰囲気がイケメンじゃないイケメンらしい。
まぁ恐らく褒め言葉なので有難く受け取っておく。
冷水で顔を洗い、それでもなお眠たげなしつこい顔を眺めながら歯を磨き、制服を着る。
ひと仕事終えたらスマホを確認して数件メッセージを返すと時間を見て家を出た。
夏休みに入り心機一転、ということも無く夏期講習と部活をするべく俺は校門をくぐった。
「おはよう蒼くんよく眠れた?」
「うん。おはよう」
「綾野先輩おはようございます!今日の無造作ヘア似合ってますねっ!」
「ありがとう。おはようございます」
みんな朝から元気にキャーキャーとはしゃぎながら女の子が挨拶をしてくるが目覚めが悪いという概念は無いのだろうか。
毎日毎日ご苦労さまである。
ちなみに蒼くんも、綾野先輩も眠いぞ。
あと普段となにかが違うとしたら無造作ヘアではなくて寝癖である。
とはおくびにも出さずただ微笑むのみ。
喋るのも面倒なのである。
でも挨拶だけは返さないと何を言われるかわかったものでは無いので毎日見知らぬ子に当たり障りなく挨拶だけは返すことにしている。
正直に言うと俺はかなり人を覚えるのが苦手だ。なので挨拶をしてくれたり、すこし話しかけられた程度では全く覚えられない。
毎日話しかけてくるくらいでないとこのポンコツ頭脳では名前も呼べないので二人称を多用しがちだ。
「蒼先輩!」
「……ああ…。おはよう。今日も元気だな」
「おはようございます!あの、今日の部活なんですけど地区大会予選の為の選考ありますね」
「そうだな………ミヤはコンディションに左右されるからな…整えてきたか?」
4ヶ月毎日話しかけてくる後輩ですら朝一番のポンコツ頭では名前が出てくるのに時間がかかった。
けれど1年生の名前なんてミヤ以外覚えていないので覚えているだけ凄いと自分でも思う。
とてもじゃないが自慢できない。
ミヤを覚えた時は自分が把握している限りは、1週間毎日トレーニングについて真剣な質問をしてきて、頑張り屋なので名前を聞こうと毎度思って聞いたのだ。
昨日の子と今日の子が同じだということを知らずに。1週間も。
ここまで行くと病気の域であるが、親に連れられいやいや行った病院の先生いわく、あなたの場合は覚える気がないだけですよと諭された。
まぁ怖い先輩なんかは一発で覚えるのでそんな気はしていた。
聞いている時も最後の方はなんかこれ聞いたことある気がする名前だなと思っていた。
ちなみに友人からはミヤは一月話しかけに行っていたと聞いて我ながらゾッとしたものだ。
いくら部員数が多く、教えている後輩が多いとしても、一月練習のアドバイスをしていて気が付かないことなど普通はないだろう。
ミヤもそれだけたっていて今更1週間も名前を聞かれ続けるとは思わなかったはずだ。
にもかかわらずミヤは毎日名前を聞く度に嬉しそうに答えてくれたのだからできた後輩である。
ジジイ先輩と悪態をつかないなんて天使か何かなのかもしれない。
ちなみに友人からのあだ名はイケメン(笑)オジイである。
「はい。勿論!蒼先輩に教えてもらったプロテインも毎日飲んでます」
「ん。じゃあお手並み拝見かな。ミヤは小柄だから不利なのに頑張るよなえらいぞ。成果も出てきてるし1年の枠は取れると思う」
俺の言葉にミヤは嬉しそうに頬を緩めて浮き足立った様子だ。
柔らかいくせっ毛と日に焼けて明るくなった髪に、たれ目がさらに垂れて愛嬌のある顔立ちに磨きがかかる。
身長も160程しかなさそうなので俺と話すにはかなり首を急角度で見上げなければならないがその動作すらもかわいい。
うちはそこそこの強豪校だから枠を取れるのは凄いことで、浮き足立つのも仕方ない。
「慢心は良くないから気は引きしめて挑むんだぞミヤ」
「はい!」
そんな話をしているとキリよく下駄箱につきその場でミヤとは離れた。
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