イケメンオジイついに交際したことを忘れる

彩根梨愛

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そんなこんな初っ端から躓いたような気がするデートだっだが、始まってみるとあっという間に時間が過ぎていく。
映画を見て、大きいバーガーで有名な某キングなお店でお昼をして、腹ごなしに練習用シューズを見たあと、自転車に2人乗りして海を目指した。
もちろん体格差があるので俺が漕いでいる。
ミヤは最初申し訳なさそうにしていて自分が漕ぐと言って聞かず、そこまで言うならと最初に試してみたがフラフラと危なっかしいので後ろに控えてもらった。
それでもなお引け目を感じていそうな様子に仕方なく荷物を持っておくように頼むと大事に胸元に抱えながら俺の腹に抱きついてきた。
かわいい。
今まで2ケツをしても抱きつかれたことなどなかったのでどぎまぎしながら漕いでいたのも数分のことで、話が弾み出すとその緊張も気にならなくなった。


「それにしてもパティ5枚は流石の重量でしたね……夕飯の時間になってもお腹減りそうにありません」

「ふっ…ミヤ最後死にそうな顔してた」

「あれを平然と食べきってる先輩やばいですよ」

「もう1つくらいいけそう」

「嘘でしょ?!先輩の分に合わせて僕のも3分の1くらい食べてくれたのに、まだもう1つ食べる余力残してたんですか!?」

「俺食べるの好きなんだよね」


沢山食べて沢山寝るを幼稚園の頃から実行し続けたせいか、俺は人よりよく食べるらしい。
とはいえ凡人に毛が生えた程度ではあるが。
ミヤは少食だから俺が大食いに見えるんだと思う。
なお、本人に少食だと言ったらこのバーガーは某有名チェーンの大きいバーガーの2.5倍あるんですからね!と怒られた。
普通某有名チェーンバーガーを食べれるなら少食じゃなく、男子高校生なら標準的だと言われたが、俺からすればビックがビックじゃないだけだと思っている。
それにしても、小さい身体であんなに大きなバーガーを両手で掴んで、お行儀よくほっぺたに詰めているのを見ると微笑ましい気持ちで眺めてしまった。
癖になりそうだ。


「もはや食べるの好きとかそういうレベルでは無い気がします……大食いファイターとか目指せそうですよ」

「それは無い。大食いファイターってあれを10個とか食べたりするんだ。もう人間としての格が違う……」

「10個!?」


背中から聞こえてくる大声に思わず笑いながらトレーニングとしては最高な鬼の傾斜をひたすら自転車で漕いでいると潮風の香りがして声を上げる。


「ミヤ!海もうすぐだ」


夕日がかかり始めている空が海面に反射して水平線を美しく魅せる。
波が揺れる度に屈折した光が瞬くのを見るとその美しさから少し足が止まった。


「ほんとですね!」


立ち上がったのか後頭部にミヤの胸元だろう感触が触れる。
緩やかな坂道は漕がなくとも俺たちを目的地に運んでくれて、潮風を切りながらその光景を目に焼き付けた。


「蒼先輩、ありがとうございました」

「いえいえ、仔猫乗せて自転車漕いだくらいで息を乱す男じゃない」

「さすがです蒼先……って、仔猫?!仔猫!?まさか僕の事じゃないですよね!?」

「あちーね。ちょっと足浸かろうよ」

「聞いてますか!?」

「聞いてる聞いてる。ミヤが子猫くらい可愛いって話」

「そんな話してませんが?」


本人がどう思っていようとミヤは軽いし、小さいし、子猫みたいに可愛い。
そんな話だったと思う。
生ぬるいと表現しようか、冷たいと表現しようか、微妙な温度の海水にサンダルを脱いで足を浸す。
優しい波が何度も俺の足を行ったり来たりして、その少し足を引っ張られるような独特な感触を楽しみながら1歩踏み出すと、砂を踏みしめる感触が心地よく脱いだサンダルを手に水辺を歩き出した。

「ミヤも」

そう言って手を引くとミヤは慌てて靴と靴下を脱ぐと海水に足を踏み入れた。


「冷たい」


ミヤはそう言って笑うと少し俯いてから、俺の隣を歩いた。
夕日の加減か少し沈んだように見えた表情も普通で、空いた左手でミヤの右手首を掴むと、掌で繋ぎ直す。


「…………」


何も言わないミヤに少しは自分に慣れてくれたのかもと嬉しくなっていると横から聞こえてくる『手振ってる。こどもみたい』と笑うミヤの声。
感情が全て態度に出てしまうのが少々恥ずかしくも、言葉にし難いこそばゆさに頬を緩めた。


「俺たちまだ子どもだよ」


胸を張って言った言葉にミヤはその眠そうな目を見開いてから吹き出した。


「子どもですか」

「高校生なんて子どもだろ」


その眼差しに宿る感情はなんと表現したら良いのか。
繊細な感情なんてよく分からないし、典型的な喜怒哀楽だけで生きてきたような自分は浮かべない表情だった。
それ以外はせいぜい、『寂しい』『ムカつく!』『興味ない』それくらいしか感情を表現するレパートリーがない子どもな自分では、ミヤのその顔に浮かぶそれは未知のものに思えた。
思ったことがすぐ顔に出てしまう自分の知らない感情を纏うその瞳に、吸い込まれるように視線が外せなくなる。
なのにこの身体に湧き上がる衝動はミヤの違う場所を意識している。
けれどその衝動を実行する権利は今の俺には無いことを知っていて、無意識に言葉が零れた。


「ミヤ……俺、ミヤに言わなきゃいけないことがある」

「え…?」

「………………ミヤを怒らせるかもしれない」


その言葉にミヤは表情を強ばらせ、薄く口角を上げると繋いでいた手から力を抜いた。
それを引き止めるべく俺は先程より力を込めてその掌を握るがミヤの反応は無い。
もしかしたらミヤは気がついているのかもしれない。
俺の馬鹿でどうしようもないところに。


「僕も、お話したいことがあります」

「…………ミヤも?」


その顔は憐れみを含んでいるようにも呆れているようにも見える。
何とかミヤの気を惹きたいけれど、今から自分が言うことは気持ちを離すことはありこそすれ、気を惹くことなどできるはずもない。
言わないという卑怯な選択肢が頭をよぎるが、これ以上黙っていたくなかった。


「俺……あの時の…告白、告白じゃなかった」

「…………」

「ごめん俺、バカで察しも悪いから」

「アイスだと思ってたんでしょ」

「え?」

「知ってますよ。先輩が僕のことそういう意味で好きだったわけじゃないことくらい」


自嘲気味に笑うその姿に別れを予感して必死に頭を回すが、ポンコツな頭ではミヤを引き止められるだけの何かを差し出すことは難しくて、言葉が詰まる。
そして何より






 


「アイス美味いって5歳児みたいな事ばっか考えてたのバレてたの!?」
「気づかなかったふりして嘘ついて最低でしょ、僕」

「「え?」」



思いっきり言葉が被ってしまってミヤの言葉が全く聞こえなかった。


「なんて?」
「なんですか?」

「あ、え……」


もしかしなくてもまたミヤの大切な言葉を聴き逃したのかもしれない。
ミヤの『なんですか?』が怖い。
お前人の告白アイス食ってて聞いてなかったなんて許すわけねぇだろと思っていそうな気がする。
告白の最中にアイスうまい、としか考えていない男なんて百年の恋も冷めてしまう。


「だ……だって、アイス美味しかったから……」

「一体何の話ですか!?」

「ごめん……俺があいす……」

「もうアイスはいいですから、そんなに食べたいなら後で買いに行きましょう」

「うん!」


何やら俺がアイスアイス言い過ぎて、アイスを食べたいと勘違いされたらしい。
でも食いたい。
それにしても告白を『アイスうまい』で台無しにした男にこんなに優しくしてくれるなんて、ミヤはやっぱり良い奴だ。
繋いでいた手をブンブンと振って微笑むとミヤは困惑の表情を浮かべた後、静かに海面を見つめた。


「ふ……ふふふ…」

「……!どうした?」


突然声を上げて笑うミヤに驚いてかがみ込む。先程までの困惑は消えて楽しげな表情を浮かべているミヤは可愛くてそわそわした。


「全く……蒼先輩はやっぱり蒼先輩ですね」

「……それはそうだと思う…」

「シリアスなシーンだったんですよ、今」

「はっ……!?ごめん…みやのはなし、あんまちゃんときいてなくて…………」


ほんといつもすみません。
告白の時もさっきの何かミヤが言っていた言葉も。
俺は聴き逃してばかりだ。


「もっかい言って?」

「…………僕、先輩が勘違いしてるの気がついてたのに言わなかったんです」

「勘違い?」


俺が勘違いしているのは俺のせいなのだからそれを正さなかったところでミヤに罪は無いと思う。
何故なら俺がポンコツなだけなので。
だいたい、人の勘違いを正さないといけないのなら、俺の友達なんかは極悪人になってしまう。
あいつらは日常的に俺が話を聞いてないのをネタにして、俺をからかっておもちゃにするから。


「一昨日、先輩達から僕たちが付き合ってるって話、聞きましたよね」

「うん」


あの時の衝撃と言ったら無かったし、俺のデリカシーゼロの質問は本当に忘れて欲しい。


「それ、ドッキリだったんです」

「なんだって!?」


ドッキリ?
ドッキリって何が……。


「僕たち付き合ってなんてなかったんですよ」

「……!?」

「あれは先輩がミヤ先輩なら1週間前から付き合ってたじゃんって言えば、付き合ってるって思い込むぞって言って僕に相手役を……」

「お……おれたち付き合ってないの……?」

「……………………先輩?」


あまりの衝撃に呆然とミヤの手を繋いでいた手を離してその肩を掴む。
それをミヤは伏せ目がちに俯いて、小さく頷くと、俺の手を引き離そうとするように手を重ねてきた。


「…………じゃあ…俺がどれだけアイスうますぎてちゃんと聞いてなくてごめんって謝っても別れなきゃだめってこと……?あ、でもそもそも付き合ってない…」

「……ふっ……ちょっと、色々聞きたいことあるのに、笑かすのやめてください……」

「笑かしてない」


人の真面目な話をネタみたいに言うのはやめて欲しい。
俺は真面目に別れたくない話をしているのだ。


「ミヤ、俺、別れたくない。あの時は告白にちゃんと返事しなくてごめん。
でも俺、気がついたんだ。ミヤと数日一緒にいて、自分の気持ちに。
誰といてもこんなに楽しくて、嬉しいことなんてなくて、ミヤの前でだけこんなにソワソワして、可愛いなって思う。
だから俺はこれからもミヤと一緒に居たいよ」

「………………本当に?」

「本当。俺、あんま言葉は上手くないけど、伝わらないならミヤに届くように何度でも言うよ。俺はミヤが好きだ」


その言葉と共に溢れた気持ちは、身体を無意識に動かしていて、俺の胸の中にはミヤの小さな身体が収まっていた。
まだ成長途中で頼りないその身体を強く抱き締めて愛を乞う。
そんな方法しか俺には分からなかった。


「……僕も、ミヤ先輩が好きです。ずっと……」


その小さな声に目を見開いて驚きが来たあと少し遅れて喜びが込み上げてきた。


「ミヤ……!」

「蒼先輩、これだけ、謝らせてください。嘘ついてごめんなさい」

「そんなのどうだっていい!!だってそのおかげで今があるんだから。それに、嘘じゃない。ミヤは俺に『好きだ』って言って、俺も『好きだ』って答えた。だからミヤは嘘をついてない。俺が全部ポンコツだったからだ!」

「……あは…蒼先輩は、やっぱり蒼先輩だなぁ……」


俺の胸に甘えるように額をすり付けたミヤを力一杯抱きしめて俺は今までの人生にないくらい自然に満面の笑を零した。


「あいつら驚かせてやろうぜ」

「なんて?」

「お前ら俺たちが付き合ってること知らねぇの?てめぇらのおかげだよ。この借りはきっちり返してやんよって言いに行くんだよ」  

「ふ……あはは!そんな宣戦布告みたいな言い方ありますか?」


軽やかなミヤの笑い声に惹かれてその瞳を見つめると顔上げたミヤの笑みが静かに消える。
そしてその時確かに、数秒時が止まった。
目を閉じたミヤが俺の首に腕を回して引き寄せるとその唇が淡く触れ合う。


「…………アイス、買いに行きましょうか」

「………………………………あ、アイスとかどうでもいい」


ミヤの楽しげな高笑いを聴きながら俺はミヤの肩に顔を埋めたのだった。










感想 1

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みんなの感想(1件)

あんみつ
2025.07.18 あんみつ

めっちゃ好みです!更新楽しみにしてます♡

2025.07.19 彩根梨愛

ありがとうございます!本編は一旦終了としましたが、もしその後が出ましたら見てやってください。

解除

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