僕の職業は王妃です!

かるぼん

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本章~恋に落ちるまで~

行ってらっしゃいのキス

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朝食の準備ができたと、侍女からの呼び出しがあり、僕らは食堂へとやってきた。

席に座り、朝食を目の当たりにすると、僕の腹が素直な反応を示した。
結構大きな音を出してしまった。
恥ずかしくなって、僕はうつむいた。
隣で陛下がくすり、と笑う。
「昨晩の夕食をあまり食べられていなかったようだからね。
お腹すいたろう。
ゆっくりお食べ。」
優しげな声。
ちらりと、横目で密かに陛下を見遣ると、穏やかな笑みを僕に向けていた。

ドキンッ

「?」
なんか今、胸の辺りが変な感じに…。
気のせい?


結果、あまりの空腹からか、朝食はしっかりと食べきることができた。

「君は部屋に戻って自由にしていると良い。」
朝食を終え、食堂から出た僕に陛下が言った。
「え、陛下は?」
「私はこれから政務があるから。」
そうか。
国王だもんな。そりゃお仕事あるか。
「そうですか、頑張ってくださいね。」
そう言って、僕は自室へ向かおうと踵を返した。
そこを、陛下が僕の腕を掴んで引き留めた。
「へいか?」
じっ、と見つめられる。
な、なんだろう。
「言ってらっしゃいのキスは?」

………………。
へっ!?

「なっ、ななな、何をっ!?」
「いやいや、そんな耳まで赤くしなくても。
可愛いなぁ、ルーノ。
でも、君も『仕事』しないとね?」
あ、そうだった。
僕の仕事は、この人の『妻』。
妻らしいことをして、資金を送ってもらわねばならない。
それが、今、僕にできる唯一のこと。

よしっ。

「行ってらっしゃい、リューベルト様。」

ちゅっ。

僕は背伸びをして、陛下の頬へキスをした。
(ふふふ、それならいっそ、陛下を翻弄してやるぜ!!
素直に口になんてしてやんなーい。
はははははは、どーだ、陛下。
今朝、ずっと僕のこと笑ってたやつの仕返しだー!)
よし、このまま僕は去るぞ。
「それでは失礼しますわ!」
そう言って今度こそ駆け足で自室へと向かった。

その時の陛下の顔を、僕はちゃんと見ていなかった。
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