2 / 2
1章 小夜啼鳥
2
しおりを挟む
「WHOの健康の定義ってなんだっけ……」
「『健康とは、完全に、身体、精神、及び社会的によい状態であることを意味し、単に病気ではないとか、虚弱でないということではない』だよ」
「六花、よく覚えてるね……いや私も覚えなきゃなんだけど、覚えられる気がしないよ……」
「私は暗記が得意なだけだよ。幸子みたいに患者さんとのコミュニケーションが上手く取れる方がすごいよ」
「いやそもそも国家試験合格できないと看護師になれないし!六花、一緒に国試がんばろうね!」
「うん!」
他愛ない会話をしながら帰路に着く。
凍てつく風に震え、顔をマフラーに埋める。
私、辻村六花と木本幸子は看護学校三年生である。
幸子は同じ看護学校の寮生だ。
同じ爽風寮に住み、同室ではないが気が合い一緒に帰ることが多い。
そして今は1月。
2月にある看護国家試験に向け追い込みの時期であるはずだが幸子は今ひとつ危機感が足りない。
でも幸子の明るさを前にすると、なんとかなるかなと思えてしまうから不思議だ。
これも幸子の人徳故なんだろう。
私と幸子は対照的だ。
幸子はすぐ誰とでも打ち解けられるタイプで友人も多い。看護実習でもすぐ受け持ち患者さんを打ち解けることができ、実習終了による別れを惜しむ患者さんが多かったと聞いた。
だが、机上の勉強は不得意だった幸子に対し、私は勉強だけは得意だった。
暗記は得意だったし、習ったことはすぐ覚えることはできた。
ただ、実習の現場でいざ患者さんを目の前にすると何を話したらいいのかわからなくなってしまう。
勉強だけできても仕方がない。本当に看護師に向いているのは幸子のような人なんだろう。
昔から「六花は何を考えているのかわからない」「冷たそう」と言われることが多かった。
我ながら看護師に向いていないと思う。それでも看護師になろうと思ったのは、祖母がきっかけだった。
「六花ちゃん、ナイチンゲールのような人になってね」
それが祖母の口癖だった。
フローレンス・ナイチンゲール。
看護師の別称、白衣の天使の元になった人だ。
祖母は本当にナイチンゲールが好きだったようで、たびたび私に言い聞かせた。
そして私は将来看護師になるんだと自然に思うようになっていた。
感動的なエピソードではないが、私が看護師になろうと思ったきっかけは間違いなくこれである。
そんな祖母も最近入院してしまった。
私が面会に行くとやはり祖母はナイチンゲールの話をしてくれることがある。ただ、以前と内容が少し違うのだ。
「ナイチンゲールはね、六花ちゃんみたいに本当に頭が良くて、綺麗で優しかったのよ」
「ナイチンゲールは、私に優しく手を取ってくれたの」
まるで祖母はナイチンゲールと会ったことがあるように話す。
ナイチンゲールの没年は1910年。
それだけで考えても祖母が実際に会ったことがある可能性はない。
一緒に面会に来ていた母は入院で認知症になったのではないかと心配していたが、私はなぜかそうは思えなかった。
「『健康とは、完全に、身体、精神、及び社会的によい状態であることを意味し、単に病気ではないとか、虚弱でないということではない』だよ」
「六花、よく覚えてるね……いや私も覚えなきゃなんだけど、覚えられる気がしないよ……」
「私は暗記が得意なだけだよ。幸子みたいに患者さんとのコミュニケーションが上手く取れる方がすごいよ」
「いやそもそも国家試験合格できないと看護師になれないし!六花、一緒に国試がんばろうね!」
「うん!」
他愛ない会話をしながら帰路に着く。
凍てつく風に震え、顔をマフラーに埋める。
私、辻村六花と木本幸子は看護学校三年生である。
幸子は同じ看護学校の寮生だ。
同じ爽風寮に住み、同室ではないが気が合い一緒に帰ることが多い。
そして今は1月。
2月にある看護国家試験に向け追い込みの時期であるはずだが幸子は今ひとつ危機感が足りない。
でも幸子の明るさを前にすると、なんとかなるかなと思えてしまうから不思議だ。
これも幸子の人徳故なんだろう。
私と幸子は対照的だ。
幸子はすぐ誰とでも打ち解けられるタイプで友人も多い。看護実習でもすぐ受け持ち患者さんを打ち解けることができ、実習終了による別れを惜しむ患者さんが多かったと聞いた。
だが、机上の勉強は不得意だった幸子に対し、私は勉強だけは得意だった。
暗記は得意だったし、習ったことはすぐ覚えることはできた。
ただ、実習の現場でいざ患者さんを目の前にすると何を話したらいいのかわからなくなってしまう。
勉強だけできても仕方がない。本当に看護師に向いているのは幸子のような人なんだろう。
昔から「六花は何を考えているのかわからない」「冷たそう」と言われることが多かった。
我ながら看護師に向いていないと思う。それでも看護師になろうと思ったのは、祖母がきっかけだった。
「六花ちゃん、ナイチンゲールのような人になってね」
それが祖母の口癖だった。
フローレンス・ナイチンゲール。
看護師の別称、白衣の天使の元になった人だ。
祖母は本当にナイチンゲールが好きだったようで、たびたび私に言い聞かせた。
そして私は将来看護師になるんだと自然に思うようになっていた。
感動的なエピソードではないが、私が看護師になろうと思ったきっかけは間違いなくこれである。
そんな祖母も最近入院してしまった。
私が面会に行くとやはり祖母はナイチンゲールの話をしてくれることがある。ただ、以前と内容が少し違うのだ。
「ナイチンゲールはね、六花ちゃんみたいに本当に頭が良くて、綺麗で優しかったのよ」
「ナイチンゲールは、私に優しく手を取ってくれたの」
まるで祖母はナイチンゲールと会ったことがあるように話す。
ナイチンゲールの没年は1910年。
それだけで考えても祖母が実際に会ったことがある可能性はない。
一緒に面会に来ていた母は入院で認知症になったのではないかと心配していたが、私はなぜかそうは思えなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
聖女じゃない私たち
あんど もあ
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生二人。王太子によって、片方は「聖女」として王宮に迎えられ、片方は「ただの異世界人」と地方の男爵に押し付けられた。だが、その判断に納得する二人ではなく……。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる