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序章 動く人形
第三話 母に似た人形
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「瑠璃、もう日が沈む。早く出てきなさい」
振り返ると、蔵の入り口に祖父が立っていた。確かに、もう蔵に入ってくる光は弱く、足元も見えづらくなっていた。
だが、瑠璃はすぐに出ようとせず、木箱の蓋をガタガタいわせて開けようとした。
「何をしているんだ!」
祖父がギッ、ギッと足音を立てながらずんずん近づいてきて、瑠璃の肩をつかんだと同時に、重い蓋が開いた。
瑠璃は目をこらして、おそるおそる箱の中を見た。
「この人形……」
瑠璃は、か細い声でつぶやいた。
祖父もその箱をのぞき込むと、あぁこれか……と声を漏らした。
その木箱の中には、下地が紅く、鮮やかな模様の着物をまとった、一体の女人形が鎮座していた。瑠璃はそっと手を伸ばし、人形の脇を持ち上げて箱から取り出した。
黒髪のおかっぱに縁どられた、こぶしほどの小さい顔。立派な帯には、広げても手のひらサイズしかなさそうな扇子まで差してあった。
人形は眼を閉じているが、その顔立ちは凛としていて、その雰囲気からはどこか気品を感じさせた。
「お母さんに似てる」
そういって祖父の顔を見ると、彼はどこか恥ずかしげに後ろ頭をかいた。
「まだ、お前の母さんが若かった頃にな……哲也に作ってもらったんだ」
それを聞いて、瑠璃は思わず声を上げた。
「この人形、鳴瀬さんが作ったの!?」
「あぁそうだ。鳴瀬の家は、先祖代々の人形師だからな」
瑠璃は、こんなに綺麗な人形を見たのは初めてだわ……と心の中で感嘆した。
「この人形、家の中に持って入ってもいい?」
それを大事そうに両手で抱える瑠璃を見て、重人はため息をついた。
「あぁ……気に入ったなら、その人形はお前にやるよ」
すると瑠璃は、ぱぁっと顔を輝かせて、自ら蔵を出たのだった。
瑠璃は母にそっくりな人形を、自分の部屋に持って行った。
そしてずっと籠りきりになるはいつものことだが、今日は一人で何かを喋っているような声が、廊下に漏れていた。
(あの人形を、母代わりにでもするのだろうか……それで寂しさが埋まるならいいが)
夕飯の支度ができて、重人は部屋に呼びに行った。
すると彼女は、机にソーイングセットや布の切れ端を並べて、せっせと縫物をしていた。
「何をやっとるんだ?」
「この子の着物、洗ってあげたいから……新しい服を作ってあげようと思って」
答えながらも手を止めない瑠璃に、重人はほんの少し見とれていた。
その姿はまるで、生前の小町を見ているようだった。手つきは不器用ではあるが、何かに熱中すると周りが見えなくなるところは、母子そっくりだ。
「ひと段落したら来い。飯はできてるからな」
はい、と瑠璃が生返事をしたのを聞いて、重人は部屋を出た。
その時、重人ははっとした。
(しかし、あの歳で人形ごっこをするのはどうなんだ。ますます引きこもって、マズいのではないか?
蔵では、人形をやると言ってしまったが……やはり、とりあげた方がいいだろうか)
重人はますます気が沈むのを感じながら、ため息をついた。
すると、居間に向かう途中で、廊下と外の庭を隔てるガラス戸が開いているのに気がついた。
はて、こんなところを開けた覚えはないが。いつから閉め忘れていたのか。
首をひねりながらガラス戸を閉め、居間に入っていくと、そこには見知らぬ人影が佇んでいた。
重人はそこにいたものに、息をつまらせた。
振り返ると、蔵の入り口に祖父が立っていた。確かに、もう蔵に入ってくる光は弱く、足元も見えづらくなっていた。
だが、瑠璃はすぐに出ようとせず、木箱の蓋をガタガタいわせて開けようとした。
「何をしているんだ!」
祖父がギッ、ギッと足音を立てながらずんずん近づいてきて、瑠璃の肩をつかんだと同時に、重い蓋が開いた。
瑠璃は目をこらして、おそるおそる箱の中を見た。
「この人形……」
瑠璃は、か細い声でつぶやいた。
祖父もその箱をのぞき込むと、あぁこれか……と声を漏らした。
その木箱の中には、下地が紅く、鮮やかな模様の着物をまとった、一体の女人形が鎮座していた。瑠璃はそっと手を伸ばし、人形の脇を持ち上げて箱から取り出した。
黒髪のおかっぱに縁どられた、こぶしほどの小さい顔。立派な帯には、広げても手のひらサイズしかなさそうな扇子まで差してあった。
人形は眼を閉じているが、その顔立ちは凛としていて、その雰囲気からはどこか気品を感じさせた。
「お母さんに似てる」
そういって祖父の顔を見ると、彼はどこか恥ずかしげに後ろ頭をかいた。
「まだ、お前の母さんが若かった頃にな……哲也に作ってもらったんだ」
それを聞いて、瑠璃は思わず声を上げた。
「この人形、鳴瀬さんが作ったの!?」
「あぁそうだ。鳴瀬の家は、先祖代々の人形師だからな」
瑠璃は、こんなに綺麗な人形を見たのは初めてだわ……と心の中で感嘆した。
「この人形、家の中に持って入ってもいい?」
それを大事そうに両手で抱える瑠璃を見て、重人はため息をついた。
「あぁ……気に入ったなら、その人形はお前にやるよ」
すると瑠璃は、ぱぁっと顔を輝かせて、自ら蔵を出たのだった。
瑠璃は母にそっくりな人形を、自分の部屋に持って行った。
そしてずっと籠りきりになるはいつものことだが、今日は一人で何かを喋っているような声が、廊下に漏れていた。
(あの人形を、母代わりにでもするのだろうか……それで寂しさが埋まるならいいが)
夕飯の支度ができて、重人は部屋に呼びに行った。
すると彼女は、机にソーイングセットや布の切れ端を並べて、せっせと縫物をしていた。
「何をやっとるんだ?」
「この子の着物、洗ってあげたいから……新しい服を作ってあげようと思って」
答えながらも手を止めない瑠璃に、重人はほんの少し見とれていた。
その姿はまるで、生前の小町を見ているようだった。手つきは不器用ではあるが、何かに熱中すると周りが見えなくなるところは、母子そっくりだ。
「ひと段落したら来い。飯はできてるからな」
はい、と瑠璃が生返事をしたのを聞いて、重人は部屋を出た。
その時、重人ははっとした。
(しかし、あの歳で人形ごっこをするのはどうなんだ。ますます引きこもって、マズいのではないか?
蔵では、人形をやると言ってしまったが……やはり、とりあげた方がいいだろうか)
重人はますます気が沈むのを感じながら、ため息をついた。
すると、居間に向かう途中で、廊下と外の庭を隔てるガラス戸が開いているのに気がついた。
はて、こんなところを開けた覚えはないが。いつから閉め忘れていたのか。
首をひねりながらガラス戸を閉め、居間に入っていくと、そこには見知らぬ人影が佇んでいた。
重人はそこにいたものに、息をつまらせた。
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