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生まれ変わって会いに行きたい

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「来世でまた会おう」
もはや息をするのも辛いだろうに私の手をきゅっと握って息を引き取った彼を愛していました。

そして生まれ変わった今、彼の隣には別の女性がいます。

私はエリカ・トワーナ、伯爵家であるトワーナ家の長女です。
えぇ、お気づきの通り前世持ちです。

このシャガーリカル王国では、稀に前世の記憶を持ったまま生まれてくる人がいます。
もちろん前世はこの国の人ではなかったり、この世界のものでは無い記憶を持っている人もいました。

ところが、どうやら私はほんの百年ほど前に亡くなった聖女エリカの生まれ変わりらしいです。

聖女エリカの伝説は今でも絵本などでたくさんの人々に知られています...ちょっと恥ずかしいですね。

そんな中でも一番有名なシーンは、王子が私に来世で会おうと言うセリフで、だいたいどの絵本でもラストは二人は来世で巡り会えるでしょうと締めくくられています。

けれど実際今、彼の横にいるのは私ではないのです。

それなら会わないほうが彼のため、そう思って生きてきました。



彼は今、第一王子のハンス・シャガーリカルとして生まれ変わっています。
彼には前世の記憶があるらしいのですが、私が名乗り出ないので同じ時代に生まれ変わっていることを知らないのでしょう。
数回パーティーで遠くから見かけたことがあるのですが実際に話したことはありません。

彼と話したら私は冷静ではいられない、それがわかっているので直接挨拶する機会から逃れてきました。

そんな私もとうとう運がつき、どう足掻いても逃れられないパーティーが近づいてきました。

彼が今回エスコートするのは男爵家の養子となったアカリ・サヤーシャという少女です。

彼女はなぜか厄災をピタリと言い当てたり、ニホンという国からこの王国に生まれ変わった人の研究を翻訳したりしています。
彼女には先見の才と学問の才があると専らの評判ですら。

そんな彼女の周りにはいつもたくさんの男性がいます。

伯爵家の長男や、騎士団長の息子、隣国の第三王子なども彼女の虜です。
それをよく思わない淑女のみなさんも多いのですが本人たちは気にしていません。

そんな彼女ですが、どうやら聖女エリカの前世の記憶を持っているそうです。

一人の記憶が二人に引き継がれることはありえないのに。

私が勘違いしてるのか、彼女が嘘をついているのかはわかりません。
けれど、彼の隣に今いるのは彼女です。

彼が幸せなら私は身を引く覚悟でいました。

そしてとうとう彼に挨拶するときが来てしまいました。

声が震えてしまわないか、礼儀作法は完璧か、そして彼に気づいてもらえるか、頭の中はぐるぐると緊張していましたが表情には出さずに挨拶をしました。




彼は私に気づいた様子はありませんでした。
隣のアカリ様を意識していて、私のことなど眼中にないようです。

するとアカリ様がこちらを見て目を見開いていました。

「聖女エリカの.....!」

その時の表情は忘れられません。
そして彼女は悲鳴を挙げると言いました。

「彼女は将来この王国を転覆させるわ...!
 衛兵を呼んで今すぐ殺して...!!」

パーティー会場はザワザワとし誰も彼もが私から離れていきました。

彼は彼女の言葉を真に受けたのか、衛兵を呼びつけました。

あぁ....今世も彼と結ばれなかった....

しかし、衛兵が取り押さえたのはエリカではなくアカリ様でした。

「なによ....私に触らないで....!!ヒロインの座は返さないわよ!今更出てこないで!」

彼女は衛兵に取り押さえられながらも髪を振り乱して私を睨みつけてきました。

そんな中、彼が会場に向けて言いました。
「皆のもの!アカリこそが国家転覆を目論んでいた。国家予算を使い込み、聖女エリカの前世を持っていると嘯いた、よって修道院におくる!」

後に聞いた話だと彼女は周りの子息たちをだましあともう少しで国が傾くほど貢がせていたらしいのです。

わたしはそっとこの場から離れようとしました。

しかし、彼は私の手を取って
「わたしは聖女エリカの真の生まれ変わりである彼女と婚約する!」

そういうと私を抱きしめ、
「もう、私のそばから離れさせたりしない...
待たせて済まなかった...!!」

彼は愛するものを見る眼差しで私を見つめ、前世と変わらない笑顔でそう言いました。

「気づいていたのね.....!」
わたしは涙を浮かべながら彼に抱きつきました。
彼は私を強く抱きしめて言いました。
「もう離れたりなんかしない..!」
 

それからというもの、王国は栄えて二人が国を収めた時代は愛の時代と呼ばれるようになり、彼はのちに愛の王と呼ばれたという。

二人は前世の分を補うように片時も離れずに最後まで一緒に過ごしたという。


「来世も一緒だからね?」
「もちろんよ、愛するあなた」

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