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わたくし花も恥じらう十七歳の公爵令嬢リーリア・サンディーアと申します。

あ、寡黙で何考えてるのか分からなくて大柄な男性で騎士団長でリゲル様がタイプです。リゲル様がタイプです。

そんな私が七歳のときに一目惚れしたのが騎士団長のリゲル様。

私は振り向いてもらえるように日々努力の真っ最中なのです!



リゲル様の瞳に映りたい。
リーリアの頭の中はそれでいっぱいなのであった。
学園で周りの同級生に心配されるほどリーリアはリゲルのことを思っていた。

「あの金髪の彼とかどう?イケメンじゃない?」
「たくさん愛の言葉をくれそうよ?」
友人たちは優男で交友関係も広いような男性ばかり勧めてくる。しかしリーリアは

「リゲル様以外ジャガイモにしか見えませんの」

周りの友人は止めるのを諦めた。

騎士団長リゲルといえば、泣く子をさらに泣かせ、鬼もひれ伏させる最凶の悪鬼として有名である。
夜な夜な敵国のスパイを痛めつけ、返り血を浴びて笑顔で剣を振り回すなんて噂もざらである。

しかしリーリアはそんなことを気にもせず、今日もアタックに励んでいるのであった。




「リゲル様!お昼ごはんをお持ちいたしました!」
「リ、リーリア、また来たのか....来てはいけないといっただろう....」

リーリアは侯爵令嬢としてはラフなワンピースで騎士舎を訪れた。いや、押しかけた。
周りの男どもはリゲルを羨ましげに見るもの、ハンカチを噛みしめるもの、リーリアをガン見するもの、悟るものと様々な反応をしている。
そう、騎士舎にリア充はごく僅かなのである!

「くそ....団長ばかり.....」
「おれもあんなかわいい子にご飯持ってきてもらいたい...!!」
「皆のもの、得を積むのです。そうすれば可愛い子を....神は.....私たちに....」
「「「それだ.....!!!」」」


そんな反応は露知らず、リーリアはリゲルにお弁当を差し出していた。

「食べてくださらないのですか...??」
「いや、いただくが。」
「はい!リゲル様に食べていただきたくて....」
リーリアがそう言うと、リゲルはほんの少し表情を和らげ、

「....ありがとう」

リーリアには刺激が強すぎた。
「ま、また来ますわー!」
リーリアはショートした。
そして韋駄天のごときスピードで馬車に乗り込んで帰っていった。



「団長ー、リーリア様と結婚するんですかー?」
「羨ましいっすー!」
「やはり徳を...」
「.....お前ら、素振り三百回追加するか?」
「「「いますぐ練習に戻ります!」」」
現金な騎士団員たちだ。

「しかし、俺みたいなむさ苦しい男が釣り合うとは....」
あの花のような令嬢には、自分のような男は似合わないだろう....。リゲルは眉をひそめていた。


 



そんなある日事件が起こった。
「リゲル様ー本日も参りましたの!」
笑顔でリーリアが駆け寄ってくる。
その後方に弓をつがえる黒い人影がちらりと見えた。
反射的にリゲルの体が動く。


「....あぶない!」
リゲルはリーリアを床に押し倒した。
その矢はリゲルの腕に突き刺さった。

「なんてこと....!!リゲル様!リゲル様!」
リゲルは薄れ行く視界の中、泣いているリーリアに向かって慰めようと手を伸ばした。
しかしその手は途中で落ちた。
「リゲル様....!!!」





目を覚ましたリゲルの目に包帯や注射器が入り、消毒液の匂いが鼻をかすめた。
「医務室...?そうか俺は...」

リゲルは腹に妙な違和感を覚えた。
「リ、リーリア⁉」
リーリアがお腹に倒れ掛かるようにして眠っていたのだ。

そんな時ドアが開いた。入ってきたのは長い付き合いになる治癒師だった。
「あら、起きたの?」
「...俺は?」
「3日間も毒矢で打たれ眠っていたのよ?その子に感謝しなさい。つきっきりで看病してくれたのだから。」

リーリアは疲れからかすこしやつれている。
「リーリア....」

「まだ安静にね~後はご勝手にー」
そういうと治癒師はさっさと出ていった。

「.....リーリア」
「.....ん....」
リーリアは少しずつ眠りから覚醒した。
窓の外では蕾を開かせ始めた花がそよそよと揺れている。
「.....りげるさま...??」
「そうだ」
「え、あ、いつ起きてらしたの⁉」
「いまさっき」
「体調は大丈夫ですの?あ、私ったら眠って....」
「大丈夫だ、気にすることはない」
そうリゲルが言うとリーリアは、肩をそっと下ろし、安心したように微笑んだ。
「よかった....」

「....すまない....心配をかけた」
「まぁ!そんなことございませんのよ!」
「なぜ君は俺なんかを....」
リゲルは心底不思議そうな顔で言った。
「私、ずっとリゲル様をお慕いしていますの....」
リーリアは目尻を赤くして言った。

「...!?」
リゲルの頬が赤く染まる。
いままで恐怖しか向けられたことの無いリゲルはあまりのことに黙りこんでしまった。
「私のことはお嫌いですか?」
「いや、好きだ」
リゲルは即答した。そしてそんな自分に驚いた。
「す、すき...!?私の事が⁉」
リーリアとリゲルは揃って顔を赤くした。
そんな二人を見守るように窓からは温かい光が差し込んでいた。





病室を騎士団員たちが覗き込む。
先程、治癒師に鼻で笑われたばかりだ。
「くそー、せっかく見舞いに来たのに病室は入れねー!」
「いつも団長ばかり....」
「てか、まだ両思いじゃなかったの?」
「ようやくくっついたか」
「悟ろう....」
二人以外には、両思いのことが知れ渡っていた。
知らぬは当人ばかりだったのだ。
「はー、帰るか。」
「病室前に見舞いだけおいてこう」
「「「そうだな...」」」
騎士団員たちはすごすご引き返した。


 
 

それから三年後、寡黙な騎士団長と、お転婆公爵令嬢は友人や騎士団員に見守られながら小さな教会で結婚式を上げた。

「団長でれでれじゃね...??」
「わ、笑ってる...!!!」
「「「団長が⁉」」」

「リーリア、うまくやりましたわね。」
「私達もリーリアの友人として二人を暖かく見守りましょう」
「リーリアを傷つけたらいくら団長でも....
「「「許しませんわ....‼」」」


当の本人たちは
「リゲル様、私が幸せにしますわね!」
「....それは普通、俺のセリフでは....」
「駄目ですの...??」
「.....俺が幸せにする」
二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。






実はリーリアの初恋は同じように命をリゲルに救ってもらったことから始まっていたり、リゲルが子煩悩に悩んだりするのだが、それはまた別のお話....
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