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インディアン・ポーカーとクッキーの行方
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僕はトランプを手に取り、みんなの顔を見回した。
「次は3回戦。チップ代わりにクッキーを使うよ。」
そう言いながら、机の上に並んだクッキーに目をやる。
「最初に5枚ずつ配る。毎ラウンド、まず全員が1枚賭ける。」
トランプを軽くシャッフルしながら、クッキーをそれぞれに配った。
「勝負する人は追加で1枚出す。降りるのは自由。最後に勝った人が場のクッキーを総取り!」
「全部総取り!?それ、幸せすぎます!」
レナが満面の笑みで身を乗り出す。その勢いに、僕は少しだけ微笑んだ。
「で、3回戦終わった時点で、一番クッキーが多い人が勝ちね。」
「そんだけか?」
カトリーヌがニヤリと笑って言う。
「じゃあ負けたやつは罰ゲームってのはどうだ?」
「嫌です。」
カレンの冷静な声が場を一気に引き締めた。
短い一言に、僕もカトリーヌも口を閉じる。
「じゃあ……負けた人は玄関の掃除をするっていうのは?」
レナが手を挙げて提案する。
「それ、今日のあなたの仕事ですよね。」
「そうですか……。」
レナが肩を落とし、しょんぼりする。
カトリーヌが手を叩いた。
「じゃあ、最後に勝ったやつの言うことを、負けたやつが1回だけ聞くってのはどうだ?」
その言葉に、僕は少し考え込む。
(勝てば魔法の練習サボれるし、お願いにも使える……どうする?)
一瞬迷ったけど、肩の力を抜いた。
まあ、ゲームなんだし、楽しめばいいか。
「そうだね、最後に一番クッキーが少ない人が負けって感じにしようか。それじゃ、これで決まりだね。」
僕が言うと、レナが勢いよく手を挙げた。
「私もいいです!クッキーが増えるかもしれないし、仕事も楽になるかも!」
その単純すぎる理由に、僕は笑いをこらえた。
「カレンはどうする?」
カトリーヌがニヤリとしながら問いかける。
「二人はいいみたいだけど、負けるのが怖いのか?」
その一言に、カレンの眉がピクリと動いた。冷静な声で答える。
「負けるわけがありません。やりましょう。」
僕は内心で苦笑しながらも、次の言葉を出す。
「じゃあ、始めようか。」
僕はカードを配り終えると、全員がテーブルの真ん中にクッキーを1枚ずつ置いた。
「よし、それじゃあ1ラウンド目スタートしよっか。」
掛け声とともに、全員がカードをおでこの前に掲げた。
自分のカードは見えない。でも、相手のカードは全て見える。
そして――部屋には笑い声が響き渡ることになる。
「ぶはっ!なんだよそれ!」
カトリーヌが机を叩きながら大笑いする。
僕も腹を抱えながら、笑いすぎて涙が出てきた。
「ふざけんなよ!何やってんだよ、レナ!」
思わず口から悪態が漏れるほどだ。
カレンは必死に笑いを堪えようと手で口元を押さえてるけど、肩が小刻みに揺れている。
みんながこんなに笑っている理由はただ一つ――レナの変顔だ。
レナの顔はひょっとこそのものだった。
頬を突き出し、鼻の穴を全開にし、真剣な目だけが妙に浮いている。
その時、レナがきょとんと首をかしげる。
「なんですか?」
普通すぎるその一言に、笑いはさらに加速する。
「おい、レナ!」カトリーヌが涙を拭きながら、息も絶え絶えに声を上げた。
「その顔、マジでやべえって!どう見ても水面から顔を出した瞬間の魚だろ!」
レナはぷいっと顔を背けた。
「そんなの知りません!」
真顔でそんなことを言い切る彼女に、僕は笑いながらも困惑するしかなかった。
レナ、ほんとに自分の顔がどうなってるか、全然気づいてないんだろうな…
「なんて顔してるんですか。」
カレンが辛うじて真面目な声を出して注意する。
それでも、口元は笑いを完全には抑えきれていなかった。
「これが――私の戦略なんです!!」
レナが胸を張って、力強く宣言した。
「わかったから、そろそろ勝負するかどうか決めてよ。」
僕が促すと、レナは力強く頷いた。
「当然、します!」
「えっ、本当に!?」
驚きすぎて思わず声を上げてしまった僕に、カトリーヌも目を丸くする。
「おいおい、マジでやるのかよ?」
カレンも静かに問いかけた。
「本気ですか?」
「え、え、え?えっ、ちょ、ちょっと待ってください!」
レナは周囲を見渡しながら、段々と自信を失くしていく様子だった。
だが、目の前のクッキーに視線を落とすと、再び表情がキリッと変わる。
「勝負……します!」
その言葉に、一瞬の間が空いた。カレンがカードを静かにテーブルに置く。
「私は降ります。」
カトリーヌも肩をすくめながらカードを下ろした。
「アタシもだ。」
レナが寂しそうに俯いたのを見て、僕は思わず手元のクッキーを1枚テーブルに置いた。
「ふぅ…仕方ないなあ。ほら、いくよ。せーの。」
「13です!!私、最強ですよねぇーー!!」
レナは目をキラキラさせながら、カードを掲げ、周りをぐるりと見回す
「ほら、どうですか!私が一番です!みんな、これ見てください!完璧なカード!これで私は完全無敵ですよ!アーサー様に勝ったんですよ、分かりますかーー!?!!」
レナが満面の笑みで叫んだ。
ここまで言われると腹が立ってきたな……
「もう、そんなこと言わなくても分かってるよ!」
僕のカードは7だった。やっぱり、という気持ちが胸をよぎる。
そして次の瞬間――レナはテーブルに突っ伏し、大粒の涙を流し始めた。
「みんなひどいです!」
(いやいや、何がひどいの?君、勝ったじゃん……。)
心の中でツッコミを入れる僕をよそに、カトリーヌが豪快に笑った。
「おいおい、そんな泣き顔してたらクッキーも逃げるぞ!」
カレンは苦笑いしながら静かに指摘する。
「レナ、勝負のときも、終わった後ももう少し落ち着きましょう。」
すると、レナは涙を拭きながら顔を上げ、目の前のクッキーをじっと見つめた。
そして――。
「みんな、あんなこと言って騙そうとするんですからぁ!!!」
ぷりぷりと頬を膨らませ、両手を腰に当てて、ふんっと鼻を鳴らしながら怒る。
僕は焦った顔をして、思わず言葉を詰まらせる。
「えっ、ええ、次は怒るの!?だって、そういう遊びだし!」
その勢いに全員が吹き出し、部屋は再び笑い声で満たされた。
レナは、急に手元のクッキーを見つめた。
その瞳が突然きらきらと輝き出す。
「でも、次も勝ちますよ!クッキーは絶対に誰にも渡しませんからぁ!!」
その勢いに、僕は思わず笑ってしまう。
「その意気だ!」
カトリーヌが大笑いしながら肩を叩く。
「次もアタシは手加減しないぜ!」
レナは真剣な表情を作って、カトリーヌを睨むように見上げた。
「望むところです!」
隣でカレンが静かに微笑んで、小さく頷いた。
「その調子です。ただ、感情を抑えて戦略を練らないと、次も勝てませんよ。」
「はいっ!次も顔に出しません!」
レナの元気いっぱいの返事に、僕たちは全員つられて笑顔になる。
「よし、もっと面白くしよう!」
僕がそう言うと、カトリーヌが拳を突き上げた。
「いいな、その調子!じゃあ、行くぜ!」
そうして、僕たちはゲームを再開する準備を始めた。
みんなの笑顔と元気な声が、部屋中に広がっていく。
僕の目の前に置かれたクッキーは、たったの3枚。
隣を見ると、カレンが4枚、カトリーヌも同じく4枚。
そして、レナだけが大量の9枚を抱えていた。
(やばいな……この差、かなりキツイかも。)
そして、僕は次のラウンドの準備に取り掛かる。
「配るよ。」
トランプを切りながら、全員を見渡した。
先ほどまでの笑い声は影を潜め、テーブルの上に静かな緊張感が漂っている。
カードを配り終えた僕が、「じゃあ」と声をかけると、全員がそれぞれカードをおでこの前に掲げた。
場にクッキーを1枚ずつ賭けると、小さな皿の上でそれが重なる音が響く。
レナは目を輝かせ、手をぎゅっと握りしめて気合十分だ。
それを見て、カレンとカトリーヌがちらりと目配せを交わす。
その仕草が気になるも、深く考えずに僕は言った。
「じゃあ、やろっか。」
その声とともに2試合目が始まった。
どうやって巻き返すかな……。
僕は周囲の様子を伺う。
自分のカードが何か全く分からないまま、じっとテーブルを見つめた。
けれど、手がかりを探すには周囲を観察するしかない。カレンに視線を移す。
カレンは観察眼が鋭い……
けど、読みが外れることもある。
そこをどうつくかだな…
カトリーヌが口元に笑みを浮かべ、挑発的に言ってきた。
「おいおい、まだ始まったばっかりだぞ?すでにヤバい顔してんじゃねえか?」
ここは一旦無視するか。
視線をレナに向けると、彼女は真剣?な顔をしている。
だけど、その目が微妙に泳いでいる気がした。
いや、レナのことだ。これがブラフかどうかも分からないな……。
次にカトリーヌを見る。彼女はカードを掲げ、にやりと笑っている。
けど、その笑みがいつもの余裕ある感じとは少し違って見えた。
楽しんでるようで、実は少し焦ってるのか?
僕は一瞬、心の中で迷いがよぎる。
どっちもまだ確信できないけど、なんか隠してる気がする。
僕は彼女たちの様子から微かなヒントを拾おうと、観察を続けた。
ここはまだ序盤だし、リスクは避けておいた方がいいよな……
「様子を見ようかな。」
僕はわざと気の抜けた声で言いながら、椅子にぐったりと寄りかかった。
けど、目は相手の反応を逃さないように、鋭く動いていた。
カレンがすぐに反応する。
「なるほど、慎重ですね。」
「ビビってんのか?」
カトリーヌが挑発する。
僕は表情を崩さず、口元に微笑みを浮かべた。
その意味は誰にもわからない。
視線だけは冷静に、テーブルの上と相手の動きを交互に捉えていた。
(ビビってるわけじゃない、ここは確実に進むべきタイミングだ。)
心の中でそう自分を奮い立たせながら、次の展開を見守る。
カレンが微かに笑う。
「……アーサー様、それ、低いですよ。」
その瞬間、カトリーヌが口元を隠して「ぷっ」と小さく吹き出す。
「は?」
カトリーヌがニヤリと笑う。
「あー、そうかそうか。なるほどな。」
「ん?何が?」
「アタシは"ブラフ"はよく使うけど、"本当にヤバい時"は何も言わねえんだよなぁ。」
カレンの表情がピクリと動く。
……二人共、"罠"か???
「アーサー様、私のカード……低いですか?」
カレンが、わざと不安げな声で話しかけてきた。
(え……これなんだ?)
僕は心の中で警戒しつつ、カレンの表情を探った。
相変わらず何の感情も読み取れない。
「おいおい、アーサーよりカレンのほうが高けえぞ!」
カトリーヌが茶化すように笑いながら、手を軽くテーブルに叩きつける。
(……なんか違和感があるぞ。)
僕は二人の様子を観察する。
ちらりと目配せを交わすカレンとカトリーヌ。
(待てよ……何か仕掛けてきてるのか?それともただの挑発?)
カレンが視線を逸らした。
「アタシなら降りるけどなぁ。ま、負けたくなけりゃの話だ。」
カトリーヌがカードを軽くトントンと叩きながら挑発してくる。
アーサーは軽く肩をすくめ、わざとらしく首を傾げてから口を開いた。
「その程度の挑発?」
一呼吸置いて、視線をカトリーヌに固定する。
微笑みを浮かべたまま、言葉を続ける。
「本当に弱いカードなら、もっと喋ることがあるはずだよね?」
僕はカトリーヌをじっと見つめていた。
挑発に対する反応を待つ静寂の中――
その一瞬、一瞬がまるで数秒にも感じるほど、空気が重く沈んだ。
――静寂が続く。
誰もが口を閉じ、息を潜めて、次の展開を待っている。
そんな時――
隣から、突然「ポリポリ」という音が響いた。
「え?」
その音に振り向くと、レナが真顔でクッキーをかじっていた。
「なにしてんの?」
思わず声を出すと、レナはハッとして目を見開いた。
口の中のクッキーを必死で飲み込む。
「はっ!?すみません。真剣すぎて、つい食べちゃいました。」
場の緊張が一気に崩れ、僕は呆然としながら彼女を見つめた。
「……食べた分、1枚減ったからね。」
僕が指摘すると、レナは「あ……わかりました……。」と力なく答えた。
レナが食べたクッキーの分を減らしたところで、場の空気が少し戻ってきた。
だが、その次の一言で、僕の心は揺さぶられる。
「アーサー様、それ、弱いですよ。」
レナが真剣な顔で言い放つと、カレンとカトリーヌが小さく頷いた。
(あのレナが……。え、これ本当に弱いのか?)
心の中で焦りが走る。
まさかレナがこんなことを言ってくるとは思わなかった。
いや、でも冷静に考えろ。
これが本当に弱いなら、こんなに自信を持って言う理由がない。
「ねえ、レナ、さっきはクッキーに夢中だったのに、急にどうしたの?」
僕は表面上冷静を装いながらも、内心では動揺していた。
「アーサー様は弱いんです!信じてくださいよ!!」
「ふーん、じゃあ、強いってわけだ。」
「そんな訳ありません!!」
レナは顔を真っ赤にして否定する。
「ねえ、僕を攻めすぎるとバレちゃうよ?」
「レナのほうが強いですからね。自信があるのでしょう。」
カレンが冷静に言った。
「さっきレナのカード強いって言ったもんなぁ?」
カトリーヌが煽るように言う。
「そうです!!」レナは声を高くして答える。
(ん?)
僕はその瞬間、何か引っかかるものを感じた。
深呼吸をして、冷静を取り戻す。
それでも、どうしてもこれが本当かどうか、確信が持てない。
でも、ここで降りても同じ。
次の試合で絶対に勝たなきゃいけない――そんなことを考え、下を見た。
目の前には、わずか2枚のクッキーが残っている。
……どうせ、次でも負けられないならここは降りるべきじゃない。
僕は意を決し、口を開いた。
「カレン、カトリーヌ。僕を降ろしたいんだよね?」
その言葉に、二人の顔が一瞬でこわばった。
カレンは目を逸らし、カトリーヌは「ちっ」と舌打ちをする。
「でもさ、二人とも。僕が強いって見えてるなら、ここで降りないと負けちゃうよね?僕は勝負するつもりだから。」
あえてゆっくりとした口調で言った。
「それに、どちらか片方が勝負した場合。負けたら差がついちゃうけどいいの?勝負して負けて困るのは二人だよ。」
そう言いながら、視線をレナに向ける。
「レナ、クッキーが減ってもいいの?」
レナは即座に「嫌です!」と大きな声で言い放つ。
僕が内心で「よし」と思ったその瞬間、レナが口を開いた。
「降りましょう!」
だが、次の瞬間には「あ、でもどうしよう……。」と困った顔をしながら呟く。
(なんだよ、どっちなんだよ!)
僕は心の中で突っ込みながら、表情には出さないようにする。
レナはしばらく自分のクッキーと僕の顔を交互に見比べていたが、やがて大きく息を吸い込むと、慌てた様子でカードを下ろした。
「やっぱり降ります!」
「おい、レナ!」
カトリーヌが抗議の声を上げるが、レナはぷいっと顔を背けた。
カレンは一瞬だけ表情を崩した。「……そうなりますよね。」
その声には、微かな呆れが混じっているのを僕は聞き逃さなかった。
僕はニヤッと笑い、カードを指で軽く叩きながら言った。
「じゃあ、勝負しよっか。」
カレンとカトリーヌは一瞬だけ目を見合わせた。
その瞬間、カレンの唇がわずかに震え、カトリーヌは眉間に小さなシワを寄せた。
「……私も降ります。」
カレンが静かにカードを置く。
「アタシもだ。」
カトリーヌも肩をすくめながら続ける。
(よし、完全に読んだ。)
目の前には6枚のクッキー。少しは巻き返せた。
カトリーヌがカードを片付けながら、舌打ち混じりに言った。
「ったく、運がいいんだか悪いんだか……。」
その言葉に、カレンも小さく微笑む。
「そうですね。アーサー様、油断すると次で逆転されますよ。」
彼女たちの悔しそうな顔を横目に見ながら、僕はクッキーを手に取り、心の中で一つ頷いた。
「さあ、次の勝負はもっと本気でいくよ。」
僕はそう言って、軽くカードを指で弾いた。
みんなが思わずこちらを見る。
「今のうちに、遊びのつもりでいるのはやめたほうがいいかもね。」
冗談めかして言ったつもりだった。
その言葉が、本物の勝負の幕開けになるとは――まだ知らなかった。
「次は3回戦。チップ代わりにクッキーを使うよ。」
そう言いながら、机の上に並んだクッキーに目をやる。
「最初に5枚ずつ配る。毎ラウンド、まず全員が1枚賭ける。」
トランプを軽くシャッフルしながら、クッキーをそれぞれに配った。
「勝負する人は追加で1枚出す。降りるのは自由。最後に勝った人が場のクッキーを総取り!」
「全部総取り!?それ、幸せすぎます!」
レナが満面の笑みで身を乗り出す。その勢いに、僕は少しだけ微笑んだ。
「で、3回戦終わった時点で、一番クッキーが多い人が勝ちね。」
「そんだけか?」
カトリーヌがニヤリと笑って言う。
「じゃあ負けたやつは罰ゲームってのはどうだ?」
「嫌です。」
カレンの冷静な声が場を一気に引き締めた。
短い一言に、僕もカトリーヌも口を閉じる。
「じゃあ……負けた人は玄関の掃除をするっていうのは?」
レナが手を挙げて提案する。
「それ、今日のあなたの仕事ですよね。」
「そうですか……。」
レナが肩を落とし、しょんぼりする。
カトリーヌが手を叩いた。
「じゃあ、最後に勝ったやつの言うことを、負けたやつが1回だけ聞くってのはどうだ?」
その言葉に、僕は少し考え込む。
(勝てば魔法の練習サボれるし、お願いにも使える……どうする?)
一瞬迷ったけど、肩の力を抜いた。
まあ、ゲームなんだし、楽しめばいいか。
「そうだね、最後に一番クッキーが少ない人が負けって感じにしようか。それじゃ、これで決まりだね。」
僕が言うと、レナが勢いよく手を挙げた。
「私もいいです!クッキーが増えるかもしれないし、仕事も楽になるかも!」
その単純すぎる理由に、僕は笑いをこらえた。
「カレンはどうする?」
カトリーヌがニヤリとしながら問いかける。
「二人はいいみたいだけど、負けるのが怖いのか?」
その一言に、カレンの眉がピクリと動いた。冷静な声で答える。
「負けるわけがありません。やりましょう。」
僕は内心で苦笑しながらも、次の言葉を出す。
「じゃあ、始めようか。」
僕はカードを配り終えると、全員がテーブルの真ん中にクッキーを1枚ずつ置いた。
「よし、それじゃあ1ラウンド目スタートしよっか。」
掛け声とともに、全員がカードをおでこの前に掲げた。
自分のカードは見えない。でも、相手のカードは全て見える。
そして――部屋には笑い声が響き渡ることになる。
「ぶはっ!なんだよそれ!」
カトリーヌが机を叩きながら大笑いする。
僕も腹を抱えながら、笑いすぎて涙が出てきた。
「ふざけんなよ!何やってんだよ、レナ!」
思わず口から悪態が漏れるほどだ。
カレンは必死に笑いを堪えようと手で口元を押さえてるけど、肩が小刻みに揺れている。
みんながこんなに笑っている理由はただ一つ――レナの変顔だ。
レナの顔はひょっとこそのものだった。
頬を突き出し、鼻の穴を全開にし、真剣な目だけが妙に浮いている。
その時、レナがきょとんと首をかしげる。
「なんですか?」
普通すぎるその一言に、笑いはさらに加速する。
「おい、レナ!」カトリーヌが涙を拭きながら、息も絶え絶えに声を上げた。
「その顔、マジでやべえって!どう見ても水面から顔を出した瞬間の魚だろ!」
レナはぷいっと顔を背けた。
「そんなの知りません!」
真顔でそんなことを言い切る彼女に、僕は笑いながらも困惑するしかなかった。
レナ、ほんとに自分の顔がどうなってるか、全然気づいてないんだろうな…
「なんて顔してるんですか。」
カレンが辛うじて真面目な声を出して注意する。
それでも、口元は笑いを完全には抑えきれていなかった。
「これが――私の戦略なんです!!」
レナが胸を張って、力強く宣言した。
「わかったから、そろそろ勝負するかどうか決めてよ。」
僕が促すと、レナは力強く頷いた。
「当然、します!」
「えっ、本当に!?」
驚きすぎて思わず声を上げてしまった僕に、カトリーヌも目を丸くする。
「おいおい、マジでやるのかよ?」
カレンも静かに問いかけた。
「本気ですか?」
「え、え、え?えっ、ちょ、ちょっと待ってください!」
レナは周囲を見渡しながら、段々と自信を失くしていく様子だった。
だが、目の前のクッキーに視線を落とすと、再び表情がキリッと変わる。
「勝負……します!」
その言葉に、一瞬の間が空いた。カレンがカードを静かにテーブルに置く。
「私は降ります。」
カトリーヌも肩をすくめながらカードを下ろした。
「アタシもだ。」
レナが寂しそうに俯いたのを見て、僕は思わず手元のクッキーを1枚テーブルに置いた。
「ふぅ…仕方ないなあ。ほら、いくよ。せーの。」
「13です!!私、最強ですよねぇーー!!」
レナは目をキラキラさせながら、カードを掲げ、周りをぐるりと見回す
「ほら、どうですか!私が一番です!みんな、これ見てください!完璧なカード!これで私は完全無敵ですよ!アーサー様に勝ったんですよ、分かりますかーー!?!!」
レナが満面の笑みで叫んだ。
ここまで言われると腹が立ってきたな……
「もう、そんなこと言わなくても分かってるよ!」
僕のカードは7だった。やっぱり、という気持ちが胸をよぎる。
そして次の瞬間――レナはテーブルに突っ伏し、大粒の涙を流し始めた。
「みんなひどいです!」
(いやいや、何がひどいの?君、勝ったじゃん……。)
心の中でツッコミを入れる僕をよそに、カトリーヌが豪快に笑った。
「おいおい、そんな泣き顔してたらクッキーも逃げるぞ!」
カレンは苦笑いしながら静かに指摘する。
「レナ、勝負のときも、終わった後ももう少し落ち着きましょう。」
すると、レナは涙を拭きながら顔を上げ、目の前のクッキーをじっと見つめた。
そして――。
「みんな、あんなこと言って騙そうとするんですからぁ!!!」
ぷりぷりと頬を膨らませ、両手を腰に当てて、ふんっと鼻を鳴らしながら怒る。
僕は焦った顔をして、思わず言葉を詰まらせる。
「えっ、ええ、次は怒るの!?だって、そういう遊びだし!」
その勢いに全員が吹き出し、部屋は再び笑い声で満たされた。
レナは、急に手元のクッキーを見つめた。
その瞳が突然きらきらと輝き出す。
「でも、次も勝ちますよ!クッキーは絶対に誰にも渡しませんからぁ!!」
その勢いに、僕は思わず笑ってしまう。
「その意気だ!」
カトリーヌが大笑いしながら肩を叩く。
「次もアタシは手加減しないぜ!」
レナは真剣な表情を作って、カトリーヌを睨むように見上げた。
「望むところです!」
隣でカレンが静かに微笑んで、小さく頷いた。
「その調子です。ただ、感情を抑えて戦略を練らないと、次も勝てませんよ。」
「はいっ!次も顔に出しません!」
レナの元気いっぱいの返事に、僕たちは全員つられて笑顔になる。
「よし、もっと面白くしよう!」
僕がそう言うと、カトリーヌが拳を突き上げた。
「いいな、その調子!じゃあ、行くぜ!」
そうして、僕たちはゲームを再開する準備を始めた。
みんなの笑顔と元気な声が、部屋中に広がっていく。
僕の目の前に置かれたクッキーは、たったの3枚。
隣を見ると、カレンが4枚、カトリーヌも同じく4枚。
そして、レナだけが大量の9枚を抱えていた。
(やばいな……この差、かなりキツイかも。)
そして、僕は次のラウンドの準備に取り掛かる。
「配るよ。」
トランプを切りながら、全員を見渡した。
先ほどまでの笑い声は影を潜め、テーブルの上に静かな緊張感が漂っている。
カードを配り終えた僕が、「じゃあ」と声をかけると、全員がそれぞれカードをおでこの前に掲げた。
場にクッキーを1枚ずつ賭けると、小さな皿の上でそれが重なる音が響く。
レナは目を輝かせ、手をぎゅっと握りしめて気合十分だ。
それを見て、カレンとカトリーヌがちらりと目配せを交わす。
その仕草が気になるも、深く考えずに僕は言った。
「じゃあ、やろっか。」
その声とともに2試合目が始まった。
どうやって巻き返すかな……。
僕は周囲の様子を伺う。
自分のカードが何か全く分からないまま、じっとテーブルを見つめた。
けれど、手がかりを探すには周囲を観察するしかない。カレンに視線を移す。
カレンは観察眼が鋭い……
けど、読みが外れることもある。
そこをどうつくかだな…
カトリーヌが口元に笑みを浮かべ、挑発的に言ってきた。
「おいおい、まだ始まったばっかりだぞ?すでにヤバい顔してんじゃねえか?」
ここは一旦無視するか。
視線をレナに向けると、彼女は真剣?な顔をしている。
だけど、その目が微妙に泳いでいる気がした。
いや、レナのことだ。これがブラフかどうかも分からないな……。
次にカトリーヌを見る。彼女はカードを掲げ、にやりと笑っている。
けど、その笑みがいつもの余裕ある感じとは少し違って見えた。
楽しんでるようで、実は少し焦ってるのか?
僕は一瞬、心の中で迷いがよぎる。
どっちもまだ確信できないけど、なんか隠してる気がする。
僕は彼女たちの様子から微かなヒントを拾おうと、観察を続けた。
ここはまだ序盤だし、リスクは避けておいた方がいいよな……
「様子を見ようかな。」
僕はわざと気の抜けた声で言いながら、椅子にぐったりと寄りかかった。
けど、目は相手の反応を逃さないように、鋭く動いていた。
カレンがすぐに反応する。
「なるほど、慎重ですね。」
「ビビってんのか?」
カトリーヌが挑発する。
僕は表情を崩さず、口元に微笑みを浮かべた。
その意味は誰にもわからない。
視線だけは冷静に、テーブルの上と相手の動きを交互に捉えていた。
(ビビってるわけじゃない、ここは確実に進むべきタイミングだ。)
心の中でそう自分を奮い立たせながら、次の展開を見守る。
カレンが微かに笑う。
「……アーサー様、それ、低いですよ。」
その瞬間、カトリーヌが口元を隠して「ぷっ」と小さく吹き出す。
「は?」
カトリーヌがニヤリと笑う。
「あー、そうかそうか。なるほどな。」
「ん?何が?」
「アタシは"ブラフ"はよく使うけど、"本当にヤバい時"は何も言わねえんだよなぁ。」
カレンの表情がピクリと動く。
……二人共、"罠"か???
「アーサー様、私のカード……低いですか?」
カレンが、わざと不安げな声で話しかけてきた。
(え……これなんだ?)
僕は心の中で警戒しつつ、カレンの表情を探った。
相変わらず何の感情も読み取れない。
「おいおい、アーサーよりカレンのほうが高けえぞ!」
カトリーヌが茶化すように笑いながら、手を軽くテーブルに叩きつける。
(……なんか違和感があるぞ。)
僕は二人の様子を観察する。
ちらりと目配せを交わすカレンとカトリーヌ。
(待てよ……何か仕掛けてきてるのか?それともただの挑発?)
カレンが視線を逸らした。
「アタシなら降りるけどなぁ。ま、負けたくなけりゃの話だ。」
カトリーヌがカードを軽くトントンと叩きながら挑発してくる。
アーサーは軽く肩をすくめ、わざとらしく首を傾げてから口を開いた。
「その程度の挑発?」
一呼吸置いて、視線をカトリーヌに固定する。
微笑みを浮かべたまま、言葉を続ける。
「本当に弱いカードなら、もっと喋ることがあるはずだよね?」
僕はカトリーヌをじっと見つめていた。
挑発に対する反応を待つ静寂の中――
その一瞬、一瞬がまるで数秒にも感じるほど、空気が重く沈んだ。
――静寂が続く。
誰もが口を閉じ、息を潜めて、次の展開を待っている。
そんな時――
隣から、突然「ポリポリ」という音が響いた。
「え?」
その音に振り向くと、レナが真顔でクッキーをかじっていた。
「なにしてんの?」
思わず声を出すと、レナはハッとして目を見開いた。
口の中のクッキーを必死で飲み込む。
「はっ!?すみません。真剣すぎて、つい食べちゃいました。」
場の緊張が一気に崩れ、僕は呆然としながら彼女を見つめた。
「……食べた分、1枚減ったからね。」
僕が指摘すると、レナは「あ……わかりました……。」と力なく答えた。
レナが食べたクッキーの分を減らしたところで、場の空気が少し戻ってきた。
だが、その次の一言で、僕の心は揺さぶられる。
「アーサー様、それ、弱いですよ。」
レナが真剣な顔で言い放つと、カレンとカトリーヌが小さく頷いた。
(あのレナが……。え、これ本当に弱いのか?)
心の中で焦りが走る。
まさかレナがこんなことを言ってくるとは思わなかった。
いや、でも冷静に考えろ。
これが本当に弱いなら、こんなに自信を持って言う理由がない。
「ねえ、レナ、さっきはクッキーに夢中だったのに、急にどうしたの?」
僕は表面上冷静を装いながらも、内心では動揺していた。
「アーサー様は弱いんです!信じてくださいよ!!」
「ふーん、じゃあ、強いってわけだ。」
「そんな訳ありません!!」
レナは顔を真っ赤にして否定する。
「ねえ、僕を攻めすぎるとバレちゃうよ?」
「レナのほうが強いですからね。自信があるのでしょう。」
カレンが冷静に言った。
「さっきレナのカード強いって言ったもんなぁ?」
カトリーヌが煽るように言う。
「そうです!!」レナは声を高くして答える。
(ん?)
僕はその瞬間、何か引っかかるものを感じた。
深呼吸をして、冷静を取り戻す。
それでも、どうしてもこれが本当かどうか、確信が持てない。
でも、ここで降りても同じ。
次の試合で絶対に勝たなきゃいけない――そんなことを考え、下を見た。
目の前には、わずか2枚のクッキーが残っている。
……どうせ、次でも負けられないならここは降りるべきじゃない。
僕は意を決し、口を開いた。
「カレン、カトリーヌ。僕を降ろしたいんだよね?」
その言葉に、二人の顔が一瞬でこわばった。
カレンは目を逸らし、カトリーヌは「ちっ」と舌打ちをする。
「でもさ、二人とも。僕が強いって見えてるなら、ここで降りないと負けちゃうよね?僕は勝負するつもりだから。」
あえてゆっくりとした口調で言った。
「それに、どちらか片方が勝負した場合。負けたら差がついちゃうけどいいの?勝負して負けて困るのは二人だよ。」
そう言いながら、視線をレナに向ける。
「レナ、クッキーが減ってもいいの?」
レナは即座に「嫌です!」と大きな声で言い放つ。
僕が内心で「よし」と思ったその瞬間、レナが口を開いた。
「降りましょう!」
だが、次の瞬間には「あ、でもどうしよう……。」と困った顔をしながら呟く。
(なんだよ、どっちなんだよ!)
僕は心の中で突っ込みながら、表情には出さないようにする。
レナはしばらく自分のクッキーと僕の顔を交互に見比べていたが、やがて大きく息を吸い込むと、慌てた様子でカードを下ろした。
「やっぱり降ります!」
「おい、レナ!」
カトリーヌが抗議の声を上げるが、レナはぷいっと顔を背けた。
カレンは一瞬だけ表情を崩した。「……そうなりますよね。」
その声には、微かな呆れが混じっているのを僕は聞き逃さなかった。
僕はニヤッと笑い、カードを指で軽く叩きながら言った。
「じゃあ、勝負しよっか。」
カレンとカトリーヌは一瞬だけ目を見合わせた。
その瞬間、カレンの唇がわずかに震え、カトリーヌは眉間に小さなシワを寄せた。
「……私も降ります。」
カレンが静かにカードを置く。
「アタシもだ。」
カトリーヌも肩をすくめながら続ける。
(よし、完全に読んだ。)
目の前には6枚のクッキー。少しは巻き返せた。
カトリーヌがカードを片付けながら、舌打ち混じりに言った。
「ったく、運がいいんだか悪いんだか……。」
その言葉に、カレンも小さく微笑む。
「そうですね。アーサー様、油断すると次で逆転されますよ。」
彼女たちの悔しそうな顔を横目に見ながら、僕はクッキーを手に取り、心の中で一つ頷いた。
「さあ、次の勝負はもっと本気でいくよ。」
僕はそう言って、軽くカードを指で弾いた。
みんなが思わずこちらを見る。
「今のうちに、遊びのつもりでいるのはやめたほうがいいかもね。」
冗談めかして言ったつもりだった。
その言葉が、本物の勝負の幕開けになるとは――まだ知らなかった。
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