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正直すぎる貴族の息子
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父に呼ばれて広場の片隅へ向かうと、そこには大勢の人が集まっていた。
家族にメイドのレナ、カレン、カトリーヌまでいる。
でもそれだけじゃない。初めて見る令嬢や貴族たちが並んでいる。
その中でも一際目を引いたのは、黒髪に紅の瞳を持つ男性。
かなり高位の貴族っぽい。隣には黒髪の少女が立っている、どうやら娘らしい。
あれ、さっき手を振ったら睨まれた子だ…。
視線が合った瞬間、少女はぷいっとそっぽを向いた。
父さんに促され、その場へ足を進める。
「すごかったぞ、アーサー! お前にあんな才能があったなんて!」
父さんが満面の笑みで迎えて、ちらっとクリスを見てニヤリ。
「クリス、お前、知ってたんだろ?」
兄さんは困ったように目を伏せる。
「その…アーサーが知られたくなさそうだったから…」
母さんが興味津々で聞いてくる。
「それより、どうしてあんな演奏ができたの?」
(まずい…母さん、探るの上手すぎる!)
僕は焦りながら、笑顔で話題を変えた。
「えっと、父さん、貴族の人たちと話してなくていいの? ほら、あの偉そうな人。」
黒髪の貴族を指さすと、父さんは驚いて目を瞬き、すぐに顔をほころばせた。
「おっと、そうだ! 実はお前を紹介してほしいって言われてな。挨拶するからついてきてくれ。」
「えっ、挨拶!? なんで僕が?」
思わず声を上げると、母さんが笑って言った。
「ほら、早く行きなさい。他の貴族もいるんだから恥ずかしい真似はしないで。」
(絶対面倒なやつだよな…)
「はいはい…。」僕は気の抜けた返事をして歩き出す。
横を見ると、姉さんたちが談笑中。
カトリーヌが熱弁をふるい、レナが控えめに笑っている。
カレンは後ろで落ち着かない様子。僕は小声で聞いた。
「カレン、どうしたの?」
カレンは肩を震わせ、頬を赤らめて答える。
「アーサー様の演奏に感激して…興奮が収まらなくて…。」
「あ、そう…よかったね。」
後ずさりしながら返すと、カレンはさらに興奮して胸に手を置いて目を閉じた。
(感動してくれるのは嬉しいけど…圧がすごいな。)
貴族たちのところに着くと、父さんが僕の肩をポンと叩いて言った。
「では、みなさんに息子を紹介しましょう――」
その瞬間、黒髪の男性が声を上げた。
「君! なんて素晴らしい演奏だ!」
彼は僕の前に飛び出し、情熱的に目を見開いて僕を見つめてきた。
「本当に見事だった! こんな演奏を聴けるなんて感激だ!」
その熱量に押されて、僕は思わず後ずさり。
「えっと……喜んでいただけたなら、嬉しいです…。」
貴族ってこんなに感情むき出し?違うよな、絶対。
男性は返答を待たずに続ける。
「宮廷楽士にならないか? 君には本物の才能がある!」
周りの貴族たちも一斉に口を揃えた。
「確かに本物だ!」
「若いのに、こんな演奏ができるなんて…!」
「信じられない! こんな才能が村から!」
「いやっ、あのっ、そのっ…」
そんな僕に、父さんが割って入った。
「伯爵、その話は後でゆっくり…まずはきちんと挨拶を。」
「ああ、そうだったね!」
男性がポンと手を叩いて笑い、僕に目を戻した。
「すまない、つい興奮してしまった。」
(いや、興奮しすぎだろ……)
父さんが改めて言った。
「アーサー、自己紹介を。」
「次男のアーサー・クリーヴランド、7歳です。若輩者ですが、よろしくお願いします。」
定型文を無難に終えると、内心でホッと一息。
(よし、こんなもんで大丈夫だよな?)
黒髪の男性が一歩前に出て、堂々と名乗った。
「ダリウス・ナイトフィールド、伯爵をしている。君の父とは昔からの知人だ。」
その視線が隣の少女へと向けられる。
少女は顔を少し横に向けたまま、冷たく口を開いた。
「わたくしはミア・ナイトフィールド、11歳ですわ。」
それだけ言うと、すぐに視線をそらした。
まるでこれ以上話す気はない、そう言わんばかりに。
黒髪のロングヘア。紅い瞳が一瞬、僕を射抜いたような気がした。
……なに怒ってるんだろう。
僕、何かしたっけ?いや、そもそも今日初対面だよな?
ダリウスさんが苦笑しながら言った。
「すまない。娘は少し気難しくてね。ただ、君が作ったトランプが本当に気に入っていて、この収穫祭にどうしても来たいと言ったんだ。」
父さんが静かに続けた。
「明日は食堂でトランプ大会がある。アーサー、案内してやってくれ。」
その瞬間、僕の口が反射的に動いた。
「えっ、いやだよ。」
空気が一瞬で凍りついた。
(あ、やばい……今のはまずかったかも。)
僕は肩をすぼめて、気まずそうに言った。
「その…知らない人といるの、ちょっと疲れるし…。」
ダリウスさんが目を見開いて驚くが、次の瞬間大笑いした。
「ははは! ラルフから聞いていたが、本当に正直でいいね、君は!」
「ありがとうございます……?」
僕は謎の感謝を返し、父さんは苦笑しながら言った。
「…褒められてはいないな。」
慌てて頭を下げる。
「すみません! 失礼なことを言いました!」
ダリウスさんは笑いながら手を振った。
「いや、気にしなくていい。正直な子供は大好きだよ。」
少しホッとしながらも、僕は自分の軽率さを反省。
(……悪いこと言っちゃったかな。でも、しょうがないよね。)
父さんが続ける。
「まあ、これで話が通ったならいいか。アーサー、案内の件は…」
ダリウスさんが手を挙げて遮った。
「大丈夫だよ。うちにはメイドがいるから、娘には彼女たちを付き添わせる。」
「……別に、誰が案内しても構いませんわ。」
ミアはそっぽを向き、拗ねたように呟いた。
「えっ、じゃあ、僕じゃなくてもいいってこと?」
思わず反応してしまう。
「あなたに案内されるくらいなら、メイドのほうがマシですわ。」
ミアは冷たく僕を見て言った。
「わかるよ!僕も僕に案内されるのはちょっとイヤだもん。」
「うるさいですわね。黙りなさい。」
「ミア、そんな言い方をするものじゃない。」
ダリウスさんが少し困った顔で注意する。
「困ってるのは私も同じですわ。無駄な時間を過ごしたくありませんの。」
ミアはムッとした顔で答えた。
無駄な時間って…!僕、むしろ何も悪くないよな?
いや、嫌そうにしてたのが悪いか?でも、この子面倒そうだし…
「はあ、わかったアーサー。」
父さんが苦笑しながら肩を叩き、伯爵に軽く頭を下げる。
「伯爵、失礼しました。息子が少々無作法で。」
父さんが場を締めると、僕もそれにならい軽く頭を下げた。
「それじゃ、失礼します。」
その時、ミアの紅い瞳がじっと僕を捉えた。
一瞬、何か言いたげな表情をしたが――僕はあえて目をそらし、その場を立ち去る。
(……貴族って、本当に疲れる。)
広場の出口に向かって足を速めると、楽しげな笑い声や踊りの準備音が耳に入る。
姉さんやカトリーヌが楽しそうに談笑しているのを横目に見ながら、何事もなくここを抜け出そうと思った
その時――
「おい!どこ行くんだ、アーサー!」
背後からカトリーヌの大声が響く。
「うわっ!」
思わずビクッと肩を震わせて振り返ると、腕を組んだカトリーヌが鋭い目で睨んでいた。
「あ、間違えちゃった…。」
へらへらと笑いながら、手を挙げてカトリーヌの方へ急いで引き返す。
「何をどう間違えんのよ!」
姉さんが呆れた顔で腕を組み、僕を見下ろして言った。
「せっかくあんたの演奏聞いて、ちょっと見直してたのに。」
「やめてよ姉さん…胃が痛くなる…。」
母さんがため息をつきながら言った。
「それで、挨拶はどうだったの?」
「まあ、できたでしょ…変な子がいたけど。」
その一言で、レナが口元を押さえながら笑いそうになる。
「アーサー様より変な子なんて、いませんよ。」
「ねえ、レナ、それどういう意味なの!」
「でもアーサーの場合、才能はすごい…。」
「やればできるんだよね。」
兄さんがちょっと照れくさそうに言う。
「やらないから問題なのよね。」
「クリスはしっかり自分のやるべきことをやっているんだから、すごいわよ。」
母さんがすかさずフォロー。
「うん、ありがとう。」
兄さんが照れ笑いを浮かべてうなずく。
僕も便乗して大きくうなずく。
「そうだよ、兄さんのこと本当に尊敬してるから。」
兄さんが笑い出す。
「アーサーが言うと嘘くさいんだよね。」
「なんでだよ!」
僕が突っ込むと、姉さんがニヤリと笑って言う。
「日頃の行いよ。」
さらにカトリーヌが呆れ顔で言う。
「真面目に訓練受けてくれりゃあ、言うことないんだがな。」
「そうかなぁ……僕なりには真面目に受けてるつもりだけど?」
僕が首をかしげると、姉さんが即答。
「それが問題なのよ!」
(やばい、僕に集中しちゃう!)
僕が手を叩いて話題を変える。
「それで、母さん。この後どうするの?」
母さんが少し考えてから微笑んだ。
「夜は踊りもあるけど、私たちは屋敷に戻るわ。子どもたちは自由にしてていいわよ。」
姉さんが軽く頷きながら言う。
「そうね。帰って剣の訓練したいし、そろそろ屋敷に戻ろうかな。」
僕はその言葉にピンときて、すぐに口を開いた。
「姉さん、それ悪くないね。僕も体を動かしたくなったよ。」
姉さんが目を細めて睨み、じりっと一歩近づく。
「嘘吐きなさい。あんたがそんなわけないでしょ。何企んでるのよ?」
(うわ、バレた。さすが姉さん、鋭すぎる……!)
その時だった――。
後頭部にガシッと手が乗る感触がした。
「うわっ! ちょっと、なに!? 痛いって!」
振り向くと、カトリーヌが険しい表情で僕を見下ろしていた。
「なぁ、アーサー? わかってるよな?」
「えっ、なにが?」
(やばい!これ絶対逃げられないやつだ…)
とっさに僕は言った。
「今日のカトリーヌって、いつもと違ってすごい美人だよね! こんな人が師匠なんて僕、幸せだなぁ!」
カトリーヌの目がますます細まり、しばらくの沈黙の後、声を上げた。
「言うのが遅えだろ! 朝言えよ! いつも美人だろうが!」
そのまま、僕をぐいっと引き寄せて、肩をバシッと叩く。
「さぁ、そろそろおとなしく来い!」
僕は必死に言った。
「誘拐だよ、これは! 助けてよ、兄さん!」
兄さんは僕を見て、ちょっと困った顔で眉を寄せた。
「えっ、僕? まあ……また何かやったんでしょ、仕方ないよ…。」
「してないってば! ねっ、姉さん?」
僕は焦りながら、姉さんを見た。
「バレバレなのよ。しっかり怒られなさい!」
姉さんは腕を組んで僕を見下ろし、冷たく言った。
(なんでだよ! なんでこんなことに!?)
母さんがため息をつきながら、冷静に言った。
「はあ、また何かしたのね。いいわ、カトリーヌ、連れていきなさい。」
「母さん! 今日は若く見えてすごいよ! 大事な息子が連れていかれちゃってるよ?」
母さんはそのまま無言で目を閉じ、次の瞬間。
「早く連れていきなさい。」
(……え?怒ってんの? なにがいけなかったんだよ…)
「なんでだよ! ねえ、レナ…?」
僕は最後の希望をレナに求めて振り返るが、レナは目を輝かせて、満面の笑み。
「なんでですか! 私にも助けを求めてくださいよ!」
「もうだめだ、これ…」
カトリーヌがにやりと笑いながら僕を引き寄せ、完全に勝ち誇った顔で言った。
「誰も助けてくれねえみたいだな。」
引きずられながら、僕は肩を落としてぼやく。
これから何されるんだろう……
絶対、楽しいことにならない気がする。
家族にメイドのレナ、カレン、カトリーヌまでいる。
でもそれだけじゃない。初めて見る令嬢や貴族たちが並んでいる。
その中でも一際目を引いたのは、黒髪に紅の瞳を持つ男性。
かなり高位の貴族っぽい。隣には黒髪の少女が立っている、どうやら娘らしい。
あれ、さっき手を振ったら睨まれた子だ…。
視線が合った瞬間、少女はぷいっとそっぽを向いた。
父さんに促され、その場へ足を進める。
「すごかったぞ、アーサー! お前にあんな才能があったなんて!」
父さんが満面の笑みで迎えて、ちらっとクリスを見てニヤリ。
「クリス、お前、知ってたんだろ?」
兄さんは困ったように目を伏せる。
「その…アーサーが知られたくなさそうだったから…」
母さんが興味津々で聞いてくる。
「それより、どうしてあんな演奏ができたの?」
(まずい…母さん、探るの上手すぎる!)
僕は焦りながら、笑顔で話題を変えた。
「えっと、父さん、貴族の人たちと話してなくていいの? ほら、あの偉そうな人。」
黒髪の貴族を指さすと、父さんは驚いて目を瞬き、すぐに顔をほころばせた。
「おっと、そうだ! 実はお前を紹介してほしいって言われてな。挨拶するからついてきてくれ。」
「えっ、挨拶!? なんで僕が?」
思わず声を上げると、母さんが笑って言った。
「ほら、早く行きなさい。他の貴族もいるんだから恥ずかしい真似はしないで。」
(絶対面倒なやつだよな…)
「はいはい…。」僕は気の抜けた返事をして歩き出す。
横を見ると、姉さんたちが談笑中。
カトリーヌが熱弁をふるい、レナが控えめに笑っている。
カレンは後ろで落ち着かない様子。僕は小声で聞いた。
「カレン、どうしたの?」
カレンは肩を震わせ、頬を赤らめて答える。
「アーサー様の演奏に感激して…興奮が収まらなくて…。」
「あ、そう…よかったね。」
後ずさりしながら返すと、カレンはさらに興奮して胸に手を置いて目を閉じた。
(感動してくれるのは嬉しいけど…圧がすごいな。)
貴族たちのところに着くと、父さんが僕の肩をポンと叩いて言った。
「では、みなさんに息子を紹介しましょう――」
その瞬間、黒髪の男性が声を上げた。
「君! なんて素晴らしい演奏だ!」
彼は僕の前に飛び出し、情熱的に目を見開いて僕を見つめてきた。
「本当に見事だった! こんな演奏を聴けるなんて感激だ!」
その熱量に押されて、僕は思わず後ずさり。
「えっと……喜んでいただけたなら、嬉しいです…。」
貴族ってこんなに感情むき出し?違うよな、絶対。
男性は返答を待たずに続ける。
「宮廷楽士にならないか? 君には本物の才能がある!」
周りの貴族たちも一斉に口を揃えた。
「確かに本物だ!」
「若いのに、こんな演奏ができるなんて…!」
「信じられない! こんな才能が村から!」
「いやっ、あのっ、そのっ…」
そんな僕に、父さんが割って入った。
「伯爵、その話は後でゆっくり…まずはきちんと挨拶を。」
「ああ、そうだったね!」
男性がポンと手を叩いて笑い、僕に目を戻した。
「すまない、つい興奮してしまった。」
(いや、興奮しすぎだろ……)
父さんが改めて言った。
「アーサー、自己紹介を。」
「次男のアーサー・クリーヴランド、7歳です。若輩者ですが、よろしくお願いします。」
定型文を無難に終えると、内心でホッと一息。
(よし、こんなもんで大丈夫だよな?)
黒髪の男性が一歩前に出て、堂々と名乗った。
「ダリウス・ナイトフィールド、伯爵をしている。君の父とは昔からの知人だ。」
その視線が隣の少女へと向けられる。
少女は顔を少し横に向けたまま、冷たく口を開いた。
「わたくしはミア・ナイトフィールド、11歳ですわ。」
それだけ言うと、すぐに視線をそらした。
まるでこれ以上話す気はない、そう言わんばかりに。
黒髪のロングヘア。紅い瞳が一瞬、僕を射抜いたような気がした。
……なに怒ってるんだろう。
僕、何かしたっけ?いや、そもそも今日初対面だよな?
ダリウスさんが苦笑しながら言った。
「すまない。娘は少し気難しくてね。ただ、君が作ったトランプが本当に気に入っていて、この収穫祭にどうしても来たいと言ったんだ。」
父さんが静かに続けた。
「明日は食堂でトランプ大会がある。アーサー、案内してやってくれ。」
その瞬間、僕の口が反射的に動いた。
「えっ、いやだよ。」
空気が一瞬で凍りついた。
(あ、やばい……今のはまずかったかも。)
僕は肩をすぼめて、気まずそうに言った。
「その…知らない人といるの、ちょっと疲れるし…。」
ダリウスさんが目を見開いて驚くが、次の瞬間大笑いした。
「ははは! ラルフから聞いていたが、本当に正直でいいね、君は!」
「ありがとうございます……?」
僕は謎の感謝を返し、父さんは苦笑しながら言った。
「…褒められてはいないな。」
慌てて頭を下げる。
「すみません! 失礼なことを言いました!」
ダリウスさんは笑いながら手を振った。
「いや、気にしなくていい。正直な子供は大好きだよ。」
少しホッとしながらも、僕は自分の軽率さを反省。
(……悪いこと言っちゃったかな。でも、しょうがないよね。)
父さんが続ける。
「まあ、これで話が通ったならいいか。アーサー、案内の件は…」
ダリウスさんが手を挙げて遮った。
「大丈夫だよ。うちにはメイドがいるから、娘には彼女たちを付き添わせる。」
「……別に、誰が案内しても構いませんわ。」
ミアはそっぽを向き、拗ねたように呟いた。
「えっ、じゃあ、僕じゃなくてもいいってこと?」
思わず反応してしまう。
「あなたに案内されるくらいなら、メイドのほうがマシですわ。」
ミアは冷たく僕を見て言った。
「わかるよ!僕も僕に案内されるのはちょっとイヤだもん。」
「うるさいですわね。黙りなさい。」
「ミア、そんな言い方をするものじゃない。」
ダリウスさんが少し困った顔で注意する。
「困ってるのは私も同じですわ。無駄な時間を過ごしたくありませんの。」
ミアはムッとした顔で答えた。
無駄な時間って…!僕、むしろ何も悪くないよな?
いや、嫌そうにしてたのが悪いか?でも、この子面倒そうだし…
「はあ、わかったアーサー。」
父さんが苦笑しながら肩を叩き、伯爵に軽く頭を下げる。
「伯爵、失礼しました。息子が少々無作法で。」
父さんが場を締めると、僕もそれにならい軽く頭を下げた。
「それじゃ、失礼します。」
その時、ミアの紅い瞳がじっと僕を捉えた。
一瞬、何か言いたげな表情をしたが――僕はあえて目をそらし、その場を立ち去る。
(……貴族って、本当に疲れる。)
広場の出口に向かって足を速めると、楽しげな笑い声や踊りの準備音が耳に入る。
姉さんやカトリーヌが楽しそうに談笑しているのを横目に見ながら、何事もなくここを抜け出そうと思った
その時――
「おい!どこ行くんだ、アーサー!」
背後からカトリーヌの大声が響く。
「うわっ!」
思わずビクッと肩を震わせて振り返ると、腕を組んだカトリーヌが鋭い目で睨んでいた。
「あ、間違えちゃった…。」
へらへらと笑いながら、手を挙げてカトリーヌの方へ急いで引き返す。
「何をどう間違えんのよ!」
姉さんが呆れた顔で腕を組み、僕を見下ろして言った。
「せっかくあんたの演奏聞いて、ちょっと見直してたのに。」
「やめてよ姉さん…胃が痛くなる…。」
母さんがため息をつきながら言った。
「それで、挨拶はどうだったの?」
「まあ、できたでしょ…変な子がいたけど。」
その一言で、レナが口元を押さえながら笑いそうになる。
「アーサー様より変な子なんて、いませんよ。」
「ねえ、レナ、それどういう意味なの!」
「でもアーサーの場合、才能はすごい…。」
「やればできるんだよね。」
兄さんがちょっと照れくさそうに言う。
「やらないから問題なのよね。」
「クリスはしっかり自分のやるべきことをやっているんだから、すごいわよ。」
母さんがすかさずフォロー。
「うん、ありがとう。」
兄さんが照れ笑いを浮かべてうなずく。
僕も便乗して大きくうなずく。
「そうだよ、兄さんのこと本当に尊敬してるから。」
兄さんが笑い出す。
「アーサーが言うと嘘くさいんだよね。」
「なんでだよ!」
僕が突っ込むと、姉さんがニヤリと笑って言う。
「日頃の行いよ。」
さらにカトリーヌが呆れ顔で言う。
「真面目に訓練受けてくれりゃあ、言うことないんだがな。」
「そうかなぁ……僕なりには真面目に受けてるつもりだけど?」
僕が首をかしげると、姉さんが即答。
「それが問題なのよ!」
(やばい、僕に集中しちゃう!)
僕が手を叩いて話題を変える。
「それで、母さん。この後どうするの?」
母さんが少し考えてから微笑んだ。
「夜は踊りもあるけど、私たちは屋敷に戻るわ。子どもたちは自由にしてていいわよ。」
姉さんが軽く頷きながら言う。
「そうね。帰って剣の訓練したいし、そろそろ屋敷に戻ろうかな。」
僕はその言葉にピンときて、すぐに口を開いた。
「姉さん、それ悪くないね。僕も体を動かしたくなったよ。」
姉さんが目を細めて睨み、じりっと一歩近づく。
「嘘吐きなさい。あんたがそんなわけないでしょ。何企んでるのよ?」
(うわ、バレた。さすが姉さん、鋭すぎる……!)
その時だった――。
後頭部にガシッと手が乗る感触がした。
「うわっ! ちょっと、なに!? 痛いって!」
振り向くと、カトリーヌが険しい表情で僕を見下ろしていた。
「なぁ、アーサー? わかってるよな?」
「えっ、なにが?」
(やばい!これ絶対逃げられないやつだ…)
とっさに僕は言った。
「今日のカトリーヌって、いつもと違ってすごい美人だよね! こんな人が師匠なんて僕、幸せだなぁ!」
カトリーヌの目がますます細まり、しばらくの沈黙の後、声を上げた。
「言うのが遅えだろ! 朝言えよ! いつも美人だろうが!」
そのまま、僕をぐいっと引き寄せて、肩をバシッと叩く。
「さぁ、そろそろおとなしく来い!」
僕は必死に言った。
「誘拐だよ、これは! 助けてよ、兄さん!」
兄さんは僕を見て、ちょっと困った顔で眉を寄せた。
「えっ、僕? まあ……また何かやったんでしょ、仕方ないよ…。」
「してないってば! ねっ、姉さん?」
僕は焦りながら、姉さんを見た。
「バレバレなのよ。しっかり怒られなさい!」
姉さんは腕を組んで僕を見下ろし、冷たく言った。
(なんでだよ! なんでこんなことに!?)
母さんがため息をつきながら、冷静に言った。
「はあ、また何かしたのね。いいわ、カトリーヌ、連れていきなさい。」
「母さん! 今日は若く見えてすごいよ! 大事な息子が連れていかれちゃってるよ?」
母さんはそのまま無言で目を閉じ、次の瞬間。
「早く連れていきなさい。」
(……え?怒ってんの? なにがいけなかったんだよ…)
「なんでだよ! ねえ、レナ…?」
僕は最後の希望をレナに求めて振り返るが、レナは目を輝かせて、満面の笑み。
「なんでですか! 私にも助けを求めてくださいよ!」
「もうだめだ、これ…」
カトリーヌがにやりと笑いながら僕を引き寄せ、完全に勝ち誇った顔で言った。
「誰も助けてくれねえみたいだな。」
引きずられながら、僕は肩を落としてぼやく。
これから何されるんだろう……
絶対、楽しいことにならない気がする。
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