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「私は不正を行ってなどいませんが、事の真偽はこの場合関係ありません」
ルーカスはじっと金髪の令嬢を見つめながら真剣な表情で言う。
「どういう事よ!?ご自身の不正を隠すためでなくて、何故私が帰されなくてはならないの?」
興奮気味に言う令嬢に、ルーカスは穏やかな口調で返す。
「王太子妃、延いては王妃となられるお方が、確証もなく臣下への疑惑を口になされば…どのような事態となるか、ご想像いただけますか?」
-----
メレディス様ずっと黙って歩かれてる…って事は、候補者と話してはいけない決まりなのかな?
そう思っていたシャーロットの前を歩くメレディスがぼそりと話し出した。
「これはあくまでも独り言なんだが、恐らく先程の令嬢の事が気になっているだろうから」
シャーロットはメレディスから見えないのを承知で頷く。
「あの令嬢はこのまま不合格者として家に帰される」
「……」
やっぱり。
「理由はわかるだろ?もちろん、あの令嬢がルーカス殿の不正を疑ったから、などではない」
「はい」
小さな声で返事をする。
つまり、不正を疑ったからと言って、自分の心の中に留めておくならともかく、口に出してしまったらアウトだという事ね。
確たる証拠や根拠もなしに、他者への疑いを口にする人は王太子妃や王妃には相応しくないと。
メレディスが一人の騎士が立つ一際大きく豪華な扉の前で立ち止まった。
ノックをして扉を開くと、シャーロットの方へ振り向く。
「どうぞ。お入りください」
恭しく促すメレディス。
「はい」
シャーロットが中へ入ると、ユリウスがソファに俯いて座っているのが目に入った。
中にいたもう一人の侍従が礼をして部屋を出て行くと、ユリウスがパッと顔を上げる。
「ロッテ」
笑顔でシャーロットを見た。
ドキンと心臓が鳴る。
麗しの王子様に微笑み掛けられるなんて、しっ…心臓に悪い。
「シャーロット・ウェインです」
スカートを摘んで礼をする。
「ああ。座るといい。ルーカスがロッテを迎えに行くと言っていたが、 連れて来たのはメレディスだったな。ルーカスと何か話したのか?」
ロッテはユリウスの向かいのソファに腰掛けた。
「兄とは会いましたけど、話しはしていません」
「そうか」
俺がロッテを合格させると言ったから、ロッテに「不合格になる様振る舞え」と忠告しに行ったのかと思ったが…
いや、ルーカスはそんな姑息な事をする男ではないな。
「図書室で見た本は役立ったのか?」
ユリウスがそう言うと、少し緊張した面持ちだったシャーロットの顔がパッと明るくなった。
「はい。あの本を参考に星形の編み図を描こうと思っています」
「そうか。どんな物ができるのか、楽しみだな」
「はい」
シャーロットは紅茶のカップを持ちながら、図書室でユリウスに言い掛けた事を思い出す。
「あの、あの時殿下が仰られていた濃茶の髪の令嬢の事なんですけど…」
「心当たりがあるのか!?」
シャーロットの言葉に重ねる様にユリウスが言う。
ユリウス殿下、食い気味に言われるくらいその令嬢に会いたいの?もしかして、その令嬢の事をずっと想っていらして…?
だとしたら…言わない方が良いのかも。でももう言い掛けちゃったからここから誤魔化すのも難しいな…
「あの…ですね…心当たりと言いますか、これは私の想像と言いますか」
「うん?」
あ、すごい期待の眼差し。
紫の瞳に私が写ってる。
ええい!私にも確証がある訳じゃないし、あくまで想像だもの。もう思い切って言おう!
「その令嬢は、女装した兄なのではないかと思うんです」
「…は?」
あ、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情ってこういうのを言うのかな?呆気に取られたと言うか。
「…兄?」
「はい」
「つまり、ルーカス?」
「はい」
「……」
ぽかんと口を開けたままシャーロットを見つめるユリウス。
「あの…」
やっぱり不味かった?
ユリウスが俯いて、自身の膝の上で手を組んだ。
「…何故ロッテは彼女がルーカスだと思った?」
「む、昔、兄から、親に連れられて陛下の誕生パーティーに出た事があって、その時庭でユリウス殿下とお会いしたと聞いた事があって…」
「……」
俯いたままのユリウス。
黙っておられるけど、続きを話しても良いのよね?
「そこで殿下とお話しした事により、兄は殿下の侍従になる事に決めたのだと、私に話してくれたんです」
「……」
膝の上で組んだ手にギュッと力が入るのがシャーロットから見て取れた。
「ロッテ」
俯いたまま少し低い声でユリウスがシャーロットを呼ぶ。
「はい」
「部屋から出てくれ」
「!」
ユリウスの声音には何の感情も含まれていない様に聞こえる。平坦な声。
それがシャーロットにはユリウスからの拒絶に感じられた。
怒ってる?それとも悲しまれている?
「…はい」
シャーロットがソファから立ち上がると、部屋にノックの音が響いた。
「私は不正を行ってなどいませんが、事の真偽はこの場合関係ありません」
ルーカスはじっと金髪の令嬢を見つめながら真剣な表情で言う。
「どういう事よ!?ご自身の不正を隠すためでなくて、何故私が帰されなくてはならないの?」
興奮気味に言う令嬢に、ルーカスは穏やかな口調で返す。
「王太子妃、延いては王妃となられるお方が、確証もなく臣下への疑惑を口になされば…どのような事態となるか、ご想像いただけますか?」
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メレディス様ずっと黙って歩かれてる…って事は、候補者と話してはいけない決まりなのかな?
そう思っていたシャーロットの前を歩くメレディスがぼそりと話し出した。
「これはあくまでも独り言なんだが、恐らく先程の令嬢の事が気になっているだろうから」
シャーロットはメレディスから見えないのを承知で頷く。
「あの令嬢はこのまま不合格者として家に帰される」
「……」
やっぱり。
「理由はわかるだろ?もちろん、あの令嬢がルーカス殿の不正を疑ったから、などではない」
「はい」
小さな声で返事をする。
つまり、不正を疑ったからと言って、自分の心の中に留めておくならともかく、口に出してしまったらアウトだという事ね。
確たる証拠や根拠もなしに、他者への疑いを口にする人は王太子妃や王妃には相応しくないと。
メレディスが一人の騎士が立つ一際大きく豪華な扉の前で立ち止まった。
ノックをして扉を開くと、シャーロットの方へ振り向く。
「どうぞ。お入りください」
恭しく促すメレディス。
「はい」
シャーロットが中へ入ると、ユリウスがソファに俯いて座っているのが目に入った。
中にいたもう一人の侍従が礼をして部屋を出て行くと、ユリウスがパッと顔を上げる。
「ロッテ」
笑顔でシャーロットを見た。
ドキンと心臓が鳴る。
麗しの王子様に微笑み掛けられるなんて、しっ…心臓に悪い。
「シャーロット・ウェインです」
スカートを摘んで礼をする。
「ああ。座るといい。ルーカスがロッテを迎えに行くと言っていたが、 連れて来たのはメレディスだったな。ルーカスと何か話したのか?」
ロッテはユリウスの向かいのソファに腰掛けた。
「兄とは会いましたけど、話しはしていません」
「そうか」
俺がロッテを合格させると言ったから、ロッテに「不合格になる様振る舞え」と忠告しに行ったのかと思ったが…
いや、ルーカスはそんな姑息な事をする男ではないな。
「図書室で見た本は役立ったのか?」
ユリウスがそう言うと、少し緊張した面持ちだったシャーロットの顔がパッと明るくなった。
「はい。あの本を参考に星形の編み図を描こうと思っています」
「そうか。どんな物ができるのか、楽しみだな」
「はい」
シャーロットは紅茶のカップを持ちながら、図書室でユリウスに言い掛けた事を思い出す。
「あの、あの時殿下が仰られていた濃茶の髪の令嬢の事なんですけど…」
「心当たりがあるのか!?」
シャーロットの言葉に重ねる様にユリウスが言う。
ユリウス殿下、食い気味に言われるくらいその令嬢に会いたいの?もしかして、その令嬢の事をずっと想っていらして…?
だとしたら…言わない方が良いのかも。でももう言い掛けちゃったからここから誤魔化すのも難しいな…
「あの…ですね…心当たりと言いますか、これは私の想像と言いますか」
「うん?」
あ、すごい期待の眼差し。
紫の瞳に私が写ってる。
ええい!私にも確証がある訳じゃないし、あくまで想像だもの。もう思い切って言おう!
「その令嬢は、女装した兄なのではないかと思うんです」
「…は?」
あ、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情ってこういうのを言うのかな?呆気に取られたと言うか。
「…兄?」
「はい」
「つまり、ルーカス?」
「はい」
「……」
ぽかんと口を開けたままシャーロットを見つめるユリウス。
「あの…」
やっぱり不味かった?
ユリウスが俯いて、自身の膝の上で手を組んだ。
「…何故ロッテは彼女がルーカスだと思った?」
「む、昔、兄から、親に連れられて陛下の誕生パーティーに出た事があって、その時庭でユリウス殿下とお会いしたと聞いた事があって…」
「……」
俯いたままのユリウス。
黙っておられるけど、続きを話しても良いのよね?
「そこで殿下とお話しした事により、兄は殿下の侍従になる事に決めたのだと、私に話してくれたんです」
「……」
膝の上で組んだ手にギュッと力が入るのがシャーロットから見て取れた。
「ロッテ」
俯いたまま少し低い声でユリウスがシャーロットを呼ぶ。
「はい」
「部屋から出てくれ」
「!」
ユリウスの声音には何の感情も含まれていない様に聞こえる。平坦な声。
それがシャーロットにはユリウスからの拒絶に感じられた。
怒ってる?それとも悲しまれている?
「…はい」
シャーロットがソファから立ち上がると、部屋にノックの音が響いた。
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