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もうすぐ議会の承認が降りるから、オードリーの家に書簡を送って…そういえばルーカスは「公表は教会の許可が降りてから」と言っていたが、別に教会の許可など待たなくても婚約発表しても良いんじゃないか?
「ユリウス殿下?」
声を掛けられてユリウスはハッと顔を上げる。
「お食事が進んでおられませんけど、考え事ですか?」
オードリーが心配そうにユリウスを見ていた。
「ああ。婚約発表の事を考えていた」
学園の食堂の一角に中二階になったフロアがあり、高位貴族の子息息女が婚約者などと食事をしたり、生徒会長役員が昼休憩を利用した会議をしたりする際に使用される。
秋期になってから、ユリウスとオードリーは一般生徒から目の届きにくいその席で一緒に昼食を摂っているのだ。
「婚約発表?」
「議会の承認がもうすぐ降りるからな」
「もうですか?まだ一か月も経っていませんけど」
オードリーが驚いた様子で言う。
通常、王太子の婚約決定を議会が承認するまでにはもっと期間が掛かるからだ。
「普通に決めるのとは少し違うからなぁ」
「それもそうですね」
「オードリーは教会の許可が降りてから発表の方が良いか?俺は議会の承認とオードリーの父上の了承があれば発表しても良いんじゃないかと思うんだが…」
「私はどちらでも」
「そうか」
ユリウスは階下に視線をやる。
生徒たちが食事をしている席はあまり見えないが、食堂の入口と、その近辺あたりの席は見える。遠いので個人の特定はしづらいが。
その時入口から入って来たのは三人の女生徒で、真ん中の一人の背が高いのがわかる。
ロッテだ。
ユリウスが入口の方を見ているので、オードリーもそちらへ視線を移す。
「あ、ロッテさん。と言う事は両隣はマリアさんとフェリさんね」
三人が中二階からは見えない位置へと移動していくと、ユリウスは目の前の昼食が乗ったトレイを見た。
あの三人を早く王太子妃候補から外してやりたい。
学園ではこうしてオードリーと昼食を摂っているから、俺がオードリーと婚約するつもりなのは知れ渡っている。だからあの三人が俺以外の男と親しくしていたとしても「婚約者候補なのに」と咎める者はいないだろう。だがあの三人の相手は学園生ではないしな。
フェリシティはアール・エイマーズと、マリアはルーカスと。そしてロッテはグリフと…
じっとトレイを見つめるユリウスを、オードリーもじっと見ている。
視線を感じてユリウスがオードリーを見ると、オードリーはニコリと笑った。
-----
ユリウスの執務室で書類を仕分けていたルーカスの元に王妃からの呼び出しが来た。
「ユーリ、最近おかしいと思わない?」
王妃の部屋へ入ったルーカスに、挨拶する間も与えず王妃は言う。
「おかしい…とは?」
ルーカスは王妃の座るソファからよく見える位置に立つと、とぼけた様子で言った。
「どこがと言えば良いのかわからないのだけれど何かが…ああ、そうね、笑顔が違うわ」
ソファにもたれて顎に手を添えて考えていたが、ポンッと手を叩くとそう言う。
「笑顔ですか?」
「そうよ。何だか感情が籠っていないと言うか」
食事やお茶の時しか、しかも学園から戻った週末にしか会わない息子の異変に気付くのか。さすが母親だな。
「…あのね、ルーカス、陛下がスアレスを国境の視察に連れて行くと仰るの」
「スアレス殿下を?」
国王陛下は年に一度、この国の国境に視察に行かれる。約一か月王都を離れるこの視察に、ユリウス殿下を伴った事はない筈だ。それなのに、何故スアレス殿下を?
「今年は南の国境に行かれるんでしたね」
南の国境…ロックハート辺境伯領はグリフの実家だ。そういえばグリフが近衛隊と共に視察に同行する事になっていたな。
「そう。スアレスはいつか国政を担うユーリを助けて軍を統べる立場になるから国境を見せておきたいって仰るんだけど」
「…それは誤解を招きそうですね」
貴族の私兵や騎士、警察組織や軍の組織に複数の騎士団があり、各辺境伯も各々の騎士団を持つが、それら全ては近衛騎士団の管轄下であり、近衛騎士団の上に立つのが国王だ。
王弟が元帥などになり、実務的に近衛を取りまとめる事はよくある話だが「軍を統べる」のは、あくまでも国王なのだ。
「そうなの。スアレスも陛下もそんな事は考えてもいないけれど、第二王子派もいるし…何よりユーリが、陛下が自分の後継にスアレスを、と考えておられるって誤解しないかしら?」
「……」
王妃殿下が仰られる通り陛下にはそんなつもりはないだろうし、スアレス殿下にもその気はないだろう。
ただ、勢力は弱いとは言え、側妃の実家をはじめとした「第二王子派」と呼ばれる貴族はいるんだ。陛下のお言葉を盾にし、スアレス殿下を擁立すべく動くかも知れない。
いや、それよりも。
ユリウス殿下は陛下の意思を誤解をされるような方ではないが、ますます孤立感を強められてしまうかも知れないな。
もうすぐ議会の承認が降りるから、オードリーの家に書簡を送って…そういえばルーカスは「公表は教会の許可が降りてから」と言っていたが、別に教会の許可など待たなくても婚約発表しても良いんじゃないか?
「ユリウス殿下?」
声を掛けられてユリウスはハッと顔を上げる。
「お食事が進んでおられませんけど、考え事ですか?」
オードリーが心配そうにユリウスを見ていた。
「ああ。婚約発表の事を考えていた」
学園の食堂の一角に中二階になったフロアがあり、高位貴族の子息息女が婚約者などと食事をしたり、生徒会長役員が昼休憩を利用した会議をしたりする際に使用される。
秋期になってから、ユリウスとオードリーは一般生徒から目の届きにくいその席で一緒に昼食を摂っているのだ。
「婚約発表?」
「議会の承認がもうすぐ降りるからな」
「もうですか?まだ一か月も経っていませんけど」
オードリーが驚いた様子で言う。
通常、王太子の婚約決定を議会が承認するまでにはもっと期間が掛かるからだ。
「普通に決めるのとは少し違うからなぁ」
「それもそうですね」
「オードリーは教会の許可が降りてから発表の方が良いか?俺は議会の承認とオードリーの父上の了承があれば発表しても良いんじゃないかと思うんだが…」
「私はどちらでも」
「そうか」
ユリウスは階下に視線をやる。
生徒たちが食事をしている席はあまり見えないが、食堂の入口と、その近辺あたりの席は見える。遠いので個人の特定はしづらいが。
その時入口から入って来たのは三人の女生徒で、真ん中の一人の背が高いのがわかる。
ロッテだ。
ユリウスが入口の方を見ているので、オードリーもそちらへ視線を移す。
「あ、ロッテさん。と言う事は両隣はマリアさんとフェリさんね」
三人が中二階からは見えない位置へと移動していくと、ユリウスは目の前の昼食が乗ったトレイを見た。
あの三人を早く王太子妃候補から外してやりたい。
学園ではこうしてオードリーと昼食を摂っているから、俺がオードリーと婚約するつもりなのは知れ渡っている。だからあの三人が俺以外の男と親しくしていたとしても「婚約者候補なのに」と咎める者はいないだろう。だがあの三人の相手は学園生ではないしな。
フェリシティはアール・エイマーズと、マリアはルーカスと。そしてロッテはグリフと…
じっとトレイを見つめるユリウスを、オードリーもじっと見ている。
視線を感じてユリウスがオードリーを見ると、オードリーはニコリと笑った。
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ユリウスの執務室で書類を仕分けていたルーカスの元に王妃からの呼び出しが来た。
「ユーリ、最近おかしいと思わない?」
王妃の部屋へ入ったルーカスに、挨拶する間も与えず王妃は言う。
「おかしい…とは?」
ルーカスは王妃の座るソファからよく見える位置に立つと、とぼけた様子で言った。
「どこがと言えば良いのかわからないのだけれど何かが…ああ、そうね、笑顔が違うわ」
ソファにもたれて顎に手を添えて考えていたが、ポンッと手を叩くとそう言う。
「笑顔ですか?」
「そうよ。何だか感情が籠っていないと言うか」
食事やお茶の時しか、しかも学園から戻った週末にしか会わない息子の異変に気付くのか。さすが母親だな。
「…あのね、ルーカス、陛下がスアレスを国境の視察に連れて行くと仰るの」
「スアレス殿下を?」
国王陛下は年に一度、この国の国境に視察に行かれる。約一か月王都を離れるこの視察に、ユリウス殿下を伴った事はない筈だ。それなのに、何故スアレス殿下を?
「今年は南の国境に行かれるんでしたね」
南の国境…ロックハート辺境伯領はグリフの実家だ。そういえばグリフが近衛隊と共に視察に同行する事になっていたな。
「そう。スアレスはいつか国政を担うユーリを助けて軍を統べる立場になるから国境を見せておきたいって仰るんだけど」
「…それは誤解を招きそうですね」
貴族の私兵や騎士、警察組織や軍の組織に複数の騎士団があり、各辺境伯も各々の騎士団を持つが、それら全ては近衛騎士団の管轄下であり、近衛騎士団の上に立つのが国王だ。
王弟が元帥などになり、実務的に近衛を取りまとめる事はよくある話だが「軍を統べる」のは、あくまでも国王なのだ。
「そうなの。スアレスも陛下もそんな事は考えてもいないけれど、第二王子派もいるし…何よりユーリが、陛下が自分の後継にスアレスを、と考えておられるって誤解しないかしら?」
「……」
王妃殿下が仰られる通り陛下にはそんなつもりはないだろうし、スアレス殿下にもその気はないだろう。
ただ、勢力は弱いとは言え、側妃の実家をはじめとした「第二王子派」と呼ばれる貴族はいるんだ。陛下のお言葉を盾にし、スアレス殿下を擁立すべく動くかも知れない。
いや、それよりも。
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