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「ホリー!いらっしゃい!」
アリシアは別荘に到着したホリーに駆け寄り、抱き着く。
「アリシア、熱烈歓迎ね」
「すごくすごく楽しみにしてたんだもの」
「私も」
ふふふ、と二人で笑い合う。
「ホリーよく来てくれたね」
グレッグが言うと、ホリーは軽く頭を下げる。
「グレッグ様、お世話になります」
「…俺も楽しみにしていた」
「え?」
グレッグが小さく呟くと、よく聞こえなかったらしいホリーが首を傾げる。「いや…」と言葉を濁すグレッグは隣にいたジーンに「ヘタレ」と肘でつつかれている。
ホリーはジーンに声を掛ける。
「ジーン様、アリシアとの婚約おめでとうございます。私にもアリシアやグレッグ様のように気さくに接してくださいね!」
「ありがとう。ホリー…様?さん?が良いかな。難しいねこういうの」
ジーンが頭を掻く。
別荘に入って行くグレッグの背中に、ホリーは誰にも聞こえないよう呟いた。
「…私もです」
-----
ある日はホリーやグレッグ、ジーンとピクニックに行き、またある日は馬で遠乗りに、また違う日にはホリーと街へショッピングに行き、天気の悪い日は別荘の近くにある小さな街の小さな劇場へ行ったり、別荘で侍女やメイドとお菓子を作ったりした。
夜にはジーンと過ごしたり、ホリーと夜通し話したり、アリシアは初めてのバカンスをとても楽しく過ごし、瞬く間に時間は過ぎた。
「明日にはもう王都に戻るのかぁ~」
湖の端にかかる石橋の上で、馬に跨ったまま湖を眺めてアリシアは呟く。ここは湖が一望できてとても景色の良く、別荘から少しの距離で来やすいため、馬たちの運動と散歩を兼ねてよく訪れた場所だ。
「そうだな。楽しい時間はすぐ経つな」
一緒に来たジーンがアリシアの側に馬を止める。
ホリーはグレッグと別荘でケーキを焼いている。別荘での最後の晩餐でのデザートだ。
「…ねえ、ジーンは…」
アリシアが言い掛けた時、橋の向こうから一台の馬車がやって来た。
馬車が通り過ぎる時、何かが飛んで来て、アリシアの乗ったうまの額に当たった。
「きゃあ!」
「アリシア!」
馬が嘶き、前足を上げる。アリシアの身体が投げ出され、欄干を超えた。
身長の五倍はある高さの橋から湖に投げ出されたアリシア。
ジーンはすぐ馬を降り、欄干へ飛び乗ると、湖へ飛び込んだ。
ジーンはこの、婚約者の役が終わったら…どうするの?
キラキラ光る水面を見上げながらアリシアは先程ジーンに聞こうとした言葉を頭に浮かべた。
水面に上がらなきゃ…ああでも手が上手く動かせない。
私…このまま死んじゃうの?
嫌だな。ジーンにまだ好きって伝えてないのに…。
アリシアは水の中でもがいてみる。
右腕が動かない。
そのままアリシアは意識を失った。
-----
湖に飛び込んだジーンは、意識を失ったアリシアの腕を掴む。
アリシアを抱え、草地に上がったジーンは
「アリシア」
名を呼びながらアリシアの頬を叩く。息はしているが、右の二の腕から出血している。落ちた時に岩にでも打ちつけたのだろう。
とにかく、早く温めないと。
ジーンは冷えたアリシアの身体を抱きしめる。橋を見上げると、アリシアを落とした馬はおらず、ジーンの乗っていた馬がその場でウロウロとしていた。
このまま医者へ駆け込むのと、別荘へ戻るの、どちらが早いかを素早く考え、別荘に戻る決断をすると、ジーンはアリシアを抱き上げると馬に向かって走り出した。
「ジーン!」
アリシアを抱いたまま、馬に乗り別荘へ向かって駆けていたジーンを、別荘の方向から馬で駆けてきたグレッグが呼ぶ。
「空の馬が戻って来たから何かあったかと…」
アリシアを落とした馬は別荘へと戻っていたらしい。
「アリシアが橋の上から湖に落ちた」
「…先に戻って医者を呼んでおく!」
グレッグは上着を脱ぎ、ジーンに渡すと馬を方向転換させ、全速力で駆けて行った。
ジーンはグレッグの上着でアリシアを包むと、また馬を駆けさせる。
「ん…」
アリシアが身じろぎをした。
「気がついたか?アリシア」
馬の足を緩め、ジーンがアリシアの顔を覗き込む。アリシアは薄っすら目を開けるとジーンの首に左手を回す。右手は上がらないようで、ジーンの胸に手の平を置いた。
「…アリシア?」
急にアリシアに抱きつかれたジーンは困惑しながらも、アリシアの身体を支えていた右手に力を込めた。
…誰かと間違えているのか?
ジーンはアリシアを抱き締めながら考えた。
アリシアは想い人と思って自分に抱き着いているのか?そう思いつつもジーンはアリシアの背中を撫でた。
「…好き」
うわごとの様に小さくアリシアが呟く。
「アリシア?」
アリシアの手から力が抜ける。ジーンがアリシアの顔を覗き込むと、顔が赤く、呼吸が早い。熱が出てきた様だ。
ジーンはアリシアをしっかりと抱き締めると馬を駆けさせた。
「ホリー!いらっしゃい!」
アリシアは別荘に到着したホリーに駆け寄り、抱き着く。
「アリシア、熱烈歓迎ね」
「すごくすごく楽しみにしてたんだもの」
「私も」
ふふふ、と二人で笑い合う。
「ホリーよく来てくれたね」
グレッグが言うと、ホリーは軽く頭を下げる。
「グレッグ様、お世話になります」
「…俺も楽しみにしていた」
「え?」
グレッグが小さく呟くと、よく聞こえなかったらしいホリーが首を傾げる。「いや…」と言葉を濁すグレッグは隣にいたジーンに「ヘタレ」と肘でつつかれている。
ホリーはジーンに声を掛ける。
「ジーン様、アリシアとの婚約おめでとうございます。私にもアリシアやグレッグ様のように気さくに接してくださいね!」
「ありがとう。ホリー…様?さん?が良いかな。難しいねこういうの」
ジーンが頭を掻く。
別荘に入って行くグレッグの背中に、ホリーは誰にも聞こえないよう呟いた。
「…私もです」
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ある日はホリーやグレッグ、ジーンとピクニックに行き、またある日は馬で遠乗りに、また違う日にはホリーと街へショッピングに行き、天気の悪い日は別荘の近くにある小さな街の小さな劇場へ行ったり、別荘で侍女やメイドとお菓子を作ったりした。
夜にはジーンと過ごしたり、ホリーと夜通し話したり、アリシアは初めてのバカンスをとても楽しく過ごし、瞬く間に時間は過ぎた。
「明日にはもう王都に戻るのかぁ~」
湖の端にかかる石橋の上で、馬に跨ったまま湖を眺めてアリシアは呟く。ここは湖が一望できてとても景色の良く、別荘から少しの距離で来やすいため、馬たちの運動と散歩を兼ねてよく訪れた場所だ。
「そうだな。楽しい時間はすぐ経つな」
一緒に来たジーンがアリシアの側に馬を止める。
ホリーはグレッグと別荘でケーキを焼いている。別荘での最後の晩餐でのデザートだ。
「…ねえ、ジーンは…」
アリシアが言い掛けた時、橋の向こうから一台の馬車がやって来た。
馬車が通り過ぎる時、何かが飛んで来て、アリシアの乗ったうまの額に当たった。
「きゃあ!」
「アリシア!」
馬が嘶き、前足を上げる。アリシアの身体が投げ出され、欄干を超えた。
身長の五倍はある高さの橋から湖に投げ出されたアリシア。
ジーンはすぐ馬を降り、欄干へ飛び乗ると、湖へ飛び込んだ。
ジーンはこの、婚約者の役が終わったら…どうするの?
キラキラ光る水面を見上げながらアリシアは先程ジーンに聞こうとした言葉を頭に浮かべた。
水面に上がらなきゃ…ああでも手が上手く動かせない。
私…このまま死んじゃうの?
嫌だな。ジーンにまだ好きって伝えてないのに…。
アリシアは水の中でもがいてみる。
右腕が動かない。
そのままアリシアは意識を失った。
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湖に飛び込んだジーンは、意識を失ったアリシアの腕を掴む。
アリシアを抱え、草地に上がったジーンは
「アリシア」
名を呼びながらアリシアの頬を叩く。息はしているが、右の二の腕から出血している。落ちた時に岩にでも打ちつけたのだろう。
とにかく、早く温めないと。
ジーンは冷えたアリシアの身体を抱きしめる。橋を見上げると、アリシアを落とした馬はおらず、ジーンの乗っていた馬がその場でウロウロとしていた。
このまま医者へ駆け込むのと、別荘へ戻るの、どちらが早いかを素早く考え、別荘に戻る決断をすると、ジーンはアリシアを抱き上げると馬に向かって走り出した。
「ジーン!」
アリシアを抱いたまま、馬に乗り別荘へ向かって駆けていたジーンを、別荘の方向から馬で駆けてきたグレッグが呼ぶ。
「空の馬が戻って来たから何かあったかと…」
アリシアを落とした馬は別荘へと戻っていたらしい。
「アリシアが橋の上から湖に落ちた」
「…先に戻って医者を呼んでおく!」
グレッグは上着を脱ぎ、ジーンに渡すと馬を方向転換させ、全速力で駆けて行った。
ジーンはグレッグの上着でアリシアを包むと、また馬を駆けさせる。
「ん…」
アリシアが身じろぎをした。
「気がついたか?アリシア」
馬の足を緩め、ジーンがアリシアの顔を覗き込む。アリシアは薄っすら目を開けるとジーンの首に左手を回す。右手は上がらないようで、ジーンの胸に手の平を置いた。
「…アリシア?」
急にアリシアに抱きつかれたジーンは困惑しながらも、アリシアの身体を支えていた右手に力を込めた。
…誰かと間違えているのか?
ジーンはアリシアを抱き締めながら考えた。
アリシアは想い人と思って自分に抱き着いているのか?そう思いつつもジーンはアリシアの背中を撫でた。
「…好き」
うわごとの様に小さくアリシアが呟く。
「アリシア?」
アリシアの手から力が抜ける。ジーンがアリシアの顔を覗き込むと、顔が赤く、呼吸が早い。熱が出てきた様だ。
ジーンはアリシアをしっかりと抱き締めると馬を駆けさせた。
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