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「あら、田舎の匂いがするわ。何故かしら」
赤い髪を結い上げ、顔の下半分を扇で隠し、黒のドレスを纏う女性は、キツそうな吊り目をあからさまに逸らしながら言った。
…うーん、この女性、旦那様の亡くなったお兄様の奥様…よね?
三十代半ばくらい?
美人だけど、キツそうな感じ。
って私も他人の事は言えないけど。
それにしても、旦那様にお会いするより先に義理の姉に会っちゃうかー
「お姉さん、誰?」
黒いドレスの女性の後ろにいた女の子が言う。
こちらも赤い髪に吊り目、黒いドレスの女性は瞳の色が緑だが、この女の子の瞳は茶色と違いはあるが、二人の顔立ちはよく似ていた。
十歳くらいかな?
生意気っぽいのがかわいい。
だけどね、こっちも初対面で負ける訳にはいかないのよ。
「あら、こちらの国では挨拶もなしに『誰?』と聞くのが礼儀なのかしら?」
居丈高に見えるよう、敢えて顎を上げて腰に手を当てた。
黒のドレスの女性が「くっ」と悔しそうに唸る。
それから何かを思いついたように口角を上げた。
「あらあら、この家の主がお出迎えもしない方は、お客様でもないでしょうし、挨拶する義理もありませんわね」
ホホホと高笑いする女性に、今度はこっちがグッと詰まってしまう。
今日、私が到着するのがするのはわかってたはずなのに、出迎えてくれたのは執事一人。
「主は急に王城から呼び出しがあり、そちらに出向かれています」
と、執事から説明は受けたけど、その執事も玄関ホールでこの黒のドレスの女性と出くわしたら「荷物を降ろします」とか何とか言っていなくなっちゃったし…
これってやっぱり私、歓迎されてないって事…だよね?
…仕方ない。仕方ない。
言い訳しない。
人のせいにしない。
心の中で何度も言っていると、玄関の大きな扉が開く。
荷物を降ろしに行った執事が戻って来たのかと思って振り向くが、そこに立っていたのは背の高い、ガッシリとした体躯の男性だった。
──もしかして、この男性が…?
全体的に短い暗めの赤い髪。前髪が少し額へと下りている。キリッとした眉、通った鼻筋、引き結んだ唇。
一重の切長の目、虹彩はルビーのように赤い。瞳孔は黒だろうか、濃い赤だろうか。
上着越しにも筋肉が付いているのがわかるわ。
でも、「元騎士」「大隊長」で想像してたみたいな筋肉の塊!って感じでもないわね。
歳は三十二歳だったかしら?でもそれより若く見える…けど年相応の落ち着きも感じるわ。顔も結構整ってるし、スタイルもいいし、モテそう。
「玄関ホールで何をしているんだ」
訝しげに眉を寄せる男性。
あら、声もいいわ。
「田舎の匂いが漂ってきたから、匂いの元を確認しに来たのよ」
黒いドレスの女性がツンとして言う。
「義姉上!」
男性が嗜めると、黒いドレスの女性はわざとらしく扇で顔を隠した。
「田舎の匂いが服に移ってはいけないわ。行くわよポーラ」
黒いドレスの女性が娘と思われる女の子に声を掛けて踵を返すと、女の子は男性の方へペコリと頭を下げて母親と思われる女性へ付いて行く。
「ここも隣国も王都の規模は同じくらいなのに、あの方はそんな事もご存知ないのかしら?」
わざとらしく大きくため息を吐いた。
男性がこちらを向いて、眉を顰める。
…やっぱり歓迎されてないのね。
睨むような視線に気持ちが沈んでいくのを感じた。
押し付けられた縁談だもの、歓迎されるはずないってわかってたじゃない。
仕方ない。仕方ない。よね。
言い訳しない。人のせいにしない。ね。
自分に言い聞かせてから、目の前で眉根を寄せている男性を見て、スカートを摘むと淑女の礼を取る。
「アシュトン・エインズワース公爵閣下、お初にお目に掛かります。私は」
「挨拶は結構です」
低い声。
「……」
挨拶すら遮られたわ。
「王族からの結婚の打診を断れなかったのは私も貴女も一緒でしょう。ほとぼりが冷めれば離縁する事を前提に、エインズワース公爵家では貴女を客人として扱います」
離縁。
そう。旦那様は最初からそういうつもりなのね。
「……」
客人、ね。
訝しげな表情の男性を見上げた。
「出迎えもせず、家人に田舎者扱いをさせ、部屋や応接室にも案内せず玄関ホールに立たせて、挨拶すらしないのがエインズワース公爵家の『客人』への対応なのですね?」
「!」
男性は一瞬驚いた表情を見せた後、唇を引き結び、片手を自分の胸に当てる。
「…失礼しました。私は貴女の『夫』となるアシュトン・エインズワースです」
もう一度スカートを摘んで礼を取り、ニコリと笑った。
「マジョリカ・ファイネンと申します。今日からお世話になります」
「あら、田舎の匂いがするわ。何故かしら」
赤い髪を結い上げ、顔の下半分を扇で隠し、黒のドレスを纏う女性は、キツそうな吊り目をあからさまに逸らしながら言った。
…うーん、この女性、旦那様の亡くなったお兄様の奥様…よね?
三十代半ばくらい?
美人だけど、キツそうな感じ。
って私も他人の事は言えないけど。
それにしても、旦那様にお会いするより先に義理の姉に会っちゃうかー
「お姉さん、誰?」
黒いドレスの女性の後ろにいた女の子が言う。
こちらも赤い髪に吊り目、黒いドレスの女性は瞳の色が緑だが、この女の子の瞳は茶色と違いはあるが、二人の顔立ちはよく似ていた。
十歳くらいかな?
生意気っぽいのがかわいい。
だけどね、こっちも初対面で負ける訳にはいかないのよ。
「あら、こちらの国では挨拶もなしに『誰?』と聞くのが礼儀なのかしら?」
居丈高に見えるよう、敢えて顎を上げて腰に手を当てた。
黒のドレスの女性が「くっ」と悔しそうに唸る。
それから何かを思いついたように口角を上げた。
「あらあら、この家の主がお出迎えもしない方は、お客様でもないでしょうし、挨拶する義理もありませんわね」
ホホホと高笑いする女性に、今度はこっちがグッと詰まってしまう。
今日、私が到着するのがするのはわかってたはずなのに、出迎えてくれたのは執事一人。
「主は急に王城から呼び出しがあり、そちらに出向かれています」
と、執事から説明は受けたけど、その執事も玄関ホールでこの黒のドレスの女性と出くわしたら「荷物を降ろします」とか何とか言っていなくなっちゃったし…
これってやっぱり私、歓迎されてないって事…だよね?
…仕方ない。仕方ない。
言い訳しない。
人のせいにしない。
心の中で何度も言っていると、玄関の大きな扉が開く。
荷物を降ろしに行った執事が戻って来たのかと思って振り向くが、そこに立っていたのは背の高い、ガッシリとした体躯の男性だった。
──もしかして、この男性が…?
全体的に短い暗めの赤い髪。前髪が少し額へと下りている。キリッとした眉、通った鼻筋、引き結んだ唇。
一重の切長の目、虹彩はルビーのように赤い。瞳孔は黒だろうか、濃い赤だろうか。
上着越しにも筋肉が付いているのがわかるわ。
でも、「元騎士」「大隊長」で想像してたみたいな筋肉の塊!って感じでもないわね。
歳は三十二歳だったかしら?でもそれより若く見える…けど年相応の落ち着きも感じるわ。顔も結構整ってるし、スタイルもいいし、モテそう。
「玄関ホールで何をしているんだ」
訝しげに眉を寄せる男性。
あら、声もいいわ。
「田舎の匂いが漂ってきたから、匂いの元を確認しに来たのよ」
黒いドレスの女性がツンとして言う。
「義姉上!」
男性が嗜めると、黒いドレスの女性はわざとらしく扇で顔を隠した。
「田舎の匂いが服に移ってはいけないわ。行くわよポーラ」
黒いドレスの女性が娘と思われる女の子に声を掛けて踵を返すと、女の子は男性の方へペコリと頭を下げて母親と思われる女性へ付いて行く。
「ここも隣国も王都の規模は同じくらいなのに、あの方はそんな事もご存知ないのかしら?」
わざとらしく大きくため息を吐いた。
男性がこちらを向いて、眉を顰める。
…やっぱり歓迎されてないのね。
睨むような視線に気持ちが沈んでいくのを感じた。
押し付けられた縁談だもの、歓迎されるはずないってわかってたじゃない。
仕方ない。仕方ない。よね。
言い訳しない。人のせいにしない。ね。
自分に言い聞かせてから、目の前で眉根を寄せている男性を見て、スカートを摘むと淑女の礼を取る。
「アシュトン・エインズワース公爵閣下、お初にお目に掛かります。私は」
「挨拶は結構です」
低い声。
「……」
挨拶すら遮られたわ。
「王族からの結婚の打診を断れなかったのは私も貴女も一緒でしょう。ほとぼりが冷めれば離縁する事を前提に、エインズワース公爵家では貴女を客人として扱います」
離縁。
そう。旦那様は最初からそういうつもりなのね。
「……」
客人、ね。
訝しげな表情の男性を見上げた。
「出迎えもせず、家人に田舎者扱いをさせ、部屋や応接室にも案内せず玄関ホールに立たせて、挨拶すらしないのがエインズワース公爵家の『客人』への対応なのですね?」
「!」
男性は一瞬驚いた表情を見せた後、唇を引き結び、片手を自分の胸に当てる。
「…失礼しました。私は貴女の『夫』となるアシュトン・エインズワースです」
もう一度スカートを摘んで礼を取り、ニコリと笑った。
「マジョリカ・ファイネンと申します。今日からお世話になります」
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