元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?

ねーさん

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「アルヴェル殿下の婚儀に?」
 マジョリカはベッドに腰掛けて読んでいた本を閉じると、夫婦の寝室にやって来たアシュトンを見上げる。
 今日、アシュトンはカラムに呼び出されて王宮へ行っていた。先程帰宅し、湯浴みをしたばかりらしく、髪がまだ濡れていた。
「ああ。王太子殿下と王太子妃殿下が招待されてるんだ。それで、殿下が、私たちにも同行しないかと言ってくださった」
「私たちがですか?」
 布で髪を拭きながらマジョリカの隣へ座る。
「ああ。マジョリカがこちらに来て半年になるし、里帰りを兼ねて」
「里帰り…」
「十日間滞在する予定だから、マジョリカの家族や友人にも会えるだろう?私もマジョリカの両親にご挨拶したいしな」
 互いに王子から勧められた婚姻で、国を隔てていたため、アシュトンとマジョリカの両親とは手紙の遣り取りはしたが実際会った事はなかったのだ。
「アルヴェル殿下の婚儀は一か月後ですよね。里帰りするので会いたいと手紙を書いても良いですか?」
 マジョリカが嬉しそうに言う。
 アシュトンは「もちろん」と頷いた。

「お父様とお母様、クラリッサとロレッタにも会いたいわ。あと学園のお友達と」
 指を折り、楽しそうなマジョリカをアシュトンは微笑ましく見ている。
「シルベストお兄様は………無理よね…」
 ふと表情を曇らせるマジョリカ。
 アシュトンの眉がピクリと動いた。
「シルベストお兄様?」
「あ、私の従兄弟で、アルヴェル殿下の側近なんです」
 マジョリカは少し俯いて言う。
 なるほど。「シルベストお兄様」がマジョリカが慕っていたという従兄弟なのか。
 ………会いたいのか。
「マジョリカ、カラム殿下が私たちを同道するのは、私たちの結婚を推してくださったアルヴェル殿下や、そのシルベストという従兄弟や関係者たちに私たち夫婦が良好な関係だと見せる意味もあるんだ。従兄弟がアルヴェル殿下の側近ならば結婚披露パーティーなどで顔を合わせる機会もあるだろう。会いたいからと個人的に連絡を取るべきじゃない」
 思いがけず低い声が出て、マジョリカがアシュトンを見ながら目を瞬かせていた。
「はい。あの…閣下」
「何だ?」
 アシュトンは眉間の皺を深くする。
「私が会いたいのはシルベストお兄様の奥様なんですけど、やっぱり個人的に連絡しない方がいいでしょうか?」
 真剣な表情のマジョリカ。
「……は?」
 思わず声が出て、口を開けたままマジョリカを見つめる。
「シルベストお兄様は私がセシリア様…あ、セシリア様はシルベストお兄様の奥様です。お兄様は私がセシリア様と直に連絡を取るのを許していないので、セシリア様に会おうと思えばどうしてもシルベストお兄様を通さないと…なんです。だからお兄様の許可が出ないと会うのも無理なんですけど」
「…どうして、そのお兄様の奥様に会いたいんだ?その奥様は……」
 マジョリカが嫌がらせをしたという令嬢なんだろう?
 アシュトンがそう言いたいのを察したマジョリカは、胸の前で手を組んだ。
「セシリア様は…閣下との結婚の話を聞いて、泣いてくださったんです。それから『私はマジョリカ様を国外にやらなきゃいけないほど厭うてはいません』ってアルヴェル殿下に執り成そうとしてくださって」
「……」
 柔らかな表情で語るマジョリカを、アシュトンは黙って見ている。
「結局、アルヴェル殿下が『罰のつもりで国外へやる訳ではなく、たまたま縁付いたのが隣国だっただけだ』って言われて、セシリア様も納得されたんですけど……閣下だったら自分を階段から落としたり、馬車の事故に遭わせたりする人のために泣けますか?」
「……いや」
 大きな怪我や命に関わる規模ではなかったとして、私は泣けるか?
 アシュトンは口元に手を当てて俯いた。
 …私は、例えが無惨に殺されたと聞かされたとしても、泣けないだろう。
「ですよね?私だったら無理です。でもセシリア様は泣くんです。だから、私、隣国でも何とか元気にやっていますって報告したくて。………閣下?」
 俯いて口元に手を当てたアシュトンの顔色が悪い事にマジョリカは気付く。
「どうしました?閣下、大丈夫ですか?」
「!」
 マジョリカがアシュトンの肩に触れようと手を伸ばす───と、アシュトンは身を捩ってその手を避けた。

「…大丈夫だ」
 青い顔をして、目を閉じるアシュトン。
 マジョリカは伸ばした手を軽く握ると、胸の前に戻し、反対の手を重ねる。
「……」
「マジョリカ」
 目を開けてマジョリカの方に視線を向けると、マジョリカの青い瞳がユラユラと揺れた。
 ハッとして俯くと、マジョリカはアシュトンの視線から顔を隠すようにして立ち上がる。
「…ごめんなさい。今日は一人で寝ますね」
 マジョリカはそう言って、夫婦の寝室を出て行った。



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