推しがシンデレラの王子様になっていた件。

ねーさん

文字の大きさ
47 / 102

46

しおりを挟む
46

 ギブソン家の応接室で、アルベルトがレジスに向かって頭を下げた。
「本当に済まなかった。レジス君」
「レジスさんごめんなさい」
 アルベルトの隣に座っていたエラも立ち上がると頭を下げる。
「いえ。父親ならば当然の反応ですから。私としては眼鏡さえ弁償していただければそれで」
 アルベルトとエラの向かい側のソファの真ん中に座っていたレジスは頬を冷やす濡らした布を手で押さえていて、もう片方の手を顔の前で振った。
「レジス、素直に殴られたけど、覚悟してたの?」
 レジスの隣からニーナが言うと、レジスは「まあな」と頷く。
「閣下にとって、事情を知る前の俺は『身分も弁えず愛娘を誑かした男』だから、当然だろう」
 少し目を眇めて話しているのは、眼鏡を掛けていなくて良く見えないせいだ。
 レンズの割れた眼鏡は応接テーブルの上のレジスの前に置いてある。
 ニーナと反対側のレジスの隣に座っているニーナとレジスの義父アドルフがニコニコと笑いながら言った。
「まあ、私としては公爵閣下のお嬢様への愛情を知れた気がして安堵しましたよ」

-----

 エラとアルベルト、ニーナとレジスとアドルフ、そしてマノンの六人での話し合いが終わり、応接室にエラとアルベルトが残ると、エラは身を竦めてアルベルトに頭を下げた。
「お父様…ごめんなさい…」
「エラが謝る理由は何もないだろう?」
 アルベルトは眉を下げ、しかし口角を上げてエラの肩に手を置く。
 お父様のこの表情…困った時によくされる表情だわ。
「私の方こそエラに謝らなければ。エラが何も言わないのを良い事に、放っておいてすまなかった。娘が苦しんでいるのも知らずに…レジス君が言ったように私はもっと家を省みなくてはならなかったんだな…」
「…私が、敢えて言わなかったし、マノンや使用人たちにも口止めしていたのです。だからお父様は悪くありません。私の事で煩わせてしまって…お仕事も中断させてしまいました」
「仕事など、かわいい娘と比べられる物ではないよ」
 シュンとして俯くエラの肩をポンポンと叩いた。

 アルベルトはソファから立ち上がると応接室の窓の方へ歩いて行き、窓から見える庭へと視線をやる。
「しかし…カミーユは何故……」
 小声で呟く。
 アルベルトはカミーユの良き妻、良き母の面しか見た事がない。
 自分の妻が継子を使用人扱いし、理不尽に虐げていた。まして自らペーパーナイフで切り付けたなど、俄かに信じられないのだ。
 もちろんエラやギブソン家の者の言い分が嘘だと思っている訳ではない。特にギブソン男爵は旅行会社の経営者でもあり、外交官である自分に不利益な嘘を告げる理があるとは思えない。
 アルベルトはただ自分の知る妻の姿と、エラたちの語る妻の姿との乖離に戸惑っていた。

「とりあえずは『押し掛け婚』が方便で安心したよ」
 振り向いたアルベルトは笑顔で言う。
「いくら学園では生徒に階級はなく等しく扱われるとはいえ…」
 いくら何でも男爵家では。
 濁した後に続く言葉がエラには聞こえた気がした。
「……」
 代々外交官を勤めるゴールドバーグ公爵家にとって、本来娘の嫁ぎ先など選り取り見取り選び放題なのだ。
 国内外問わず有力な公爵家や侯爵家、家格の高い伯爵家、望むのなら王族でさえも。
 だからこそアルベルトは娘たちの婚約を後回しにして来た。いつでもそれなりの家と縁を結ぶ事が可能だからだ。
「お父様」
 エラは俯いて腿の上の手をきゅっと握る。
「何だい?」
「私に、使用人として扱われた期間のお給金をください」
「給金を?」
 顔を上げたエラは真っ直ぐにアルベルトを見た。
「はい。私、レジスさんの眼鏡を弁償したいのです」
 アルベルトは困惑して首を傾げる。
「エラが心配しなくとも、弁償ならば私がするが?」
「いいえ。そうしたいのです。そして、それは私が自らの労働で得た対価からでなければ意味がないと思うのです」
 リリアナが…エラの母親が生きていた頃にはエラが私にこんなに強い意志を示した事はなかった。
 …ああ、私は、エラの窮地に気付かなかっただけではなく、愛娘の成長をも見逃して来たんだな。
 アルベルトは目を閉じると「わかった」と頷いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 前世持ちのファビアは、ちょっと変わった子爵令嬢に育っていた。その彼女の望みは、一生ケーキを食べて暮らす事! その為に彼女は魔法学園に通う事にした。  継母の策略を蹴散らし、非常識な義妹に振り回されつつも、ケーキの為に頑張ります!

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】公爵令嬢は勇者への恩返しを試みる〜サブヒロインとして頑張ります〜

マロン株式
恋愛
 公爵令嬢ユウフェには、ひとつだけ秘密がある。  ――この世界が“小説の中”だと知っていること。  ユウフェはただの“サブヒロイン”で、物語の結末では魔王のもとへ嫁ぐ運命にある……はずだった。 けれどーー  勇者の仲間、聖女、そして魔王が現れ、〝物語どおり〟には進まない恋の三角関係(いや、四角関係?)が動き出す。  サブヒロインの恩返しから始まる、ほのぼの甘くて、少し切ない恋愛ファンタジー。 ◇◇◇ ※注意事項※ ・序盤ほのぼのめ ・勇者 ✖ サブヒロイン ✖ 魔王 ✖ 巫女(?)の恋愛模様 ・基本はザマァなし ・過去作のため、気になる部分あればすみません ・他サイトと並行改稿中のため、内容に差異が出る可能性があります ・設定ゆるめ ・恋愛 × ファンタジー

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

処理中です...