推しがシンデレラの王子様になっていた件。

ねーさん

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「エラはどこだ?カミーユ」
 エラの父アルベルトは屋敷に戻るなり、迎えに出たカミーユに鋭い声で問う。
「旦那様お帰りなさいませ」
 カミーユは慌てた様子も見せず、アルベルトに向かって優雅に礼をした。
「私は、エラはどこだと聞いているのだ」
 苛立った口調でアルベルトは言う。
 顔を上げたカミーユは頬に手を当てて首を捻った。
「それが…エラはとある男爵家の息子と恋仲になり、どうしてもその男と一緒になりたいと、その男の家に押し掛けてしまったのです」
「ほう。家令からの手紙には君が故意にエラに怪我をさせたと書かれていたが?」
 アルベルトが目を眇めると、カミーユは驚いたように目を見開く。
「まあ。お手紙にも書いた通り、あれは事故ですわ。私が手紙を開けようとした時、エラも近くにいたので、手が滑った拍子にペーパーナイフがエラの頬に当たってしまったのです。故意に怪我をさせただなんて、ありえませんわ。…それでも年頃の娘の顔に傷をつけてしまい…旦那様には咎められても仕方ありませんわね」
「……」
 大袈裟に悲し気な表情になるカミーユに、アルベルトは内心呆れていたのだが、そこは顔には出さない。
 アルベルトは家の中へ向けて歩き出し、カミーユはアルベルトの後へと続いた。
「君からの手紙には『家令は大袈裟に書いただけ。帰国は不要』と書かれていたが、エラが男爵家の男の所へ押し掛けた、などとは一言も書かれていなかった。エラは怪我をした日にこの家を出て行っているのに、だ」
「…すぐに戻って来ると思っていたのです。まさか男爵家の養子風情の元平民の男が公爵家の令嬢を受け入れるだなんて大それた真似をする訳がないと」
 カミーユは胸に置いた手をギュッと握る。
「それで?君は家を出たエラをそのまま放っておいたのか?」
「まさか!もちろん連れ戻そうとしました。しかしエラは…どのような伝手があったのか、相手の男と共に王家の別荘へと行ってしまい、連絡すらできなかったのです」
 カミーユは悔しそうに俯いた。
 階段を昇りながらアルベルトは眉を上げる。
「王家の?それではエラはリオン殿下と面識ができたのか?」
「…そうでしょうね」
 更に悔しそうにカミーユは言うと、唇を噛んだ。
「リオン殿下の妃選定の舞踏会は来月の末だったな?」
「ええ。私が娘たちの付き添いをいたしますわ」
「いや。それには及ばない。私が連れて行こう」
 アルベルトが顎に手を当てて言う。
「え!?」
 カミーユは勢い良く顔を上げた。
「エラとリオン殿下が知り合いとなれば、公爵家当主である私が付き添わなければ失礼に当たるだろう」
「それは……」
 視線をウロウロと彷徨わせるカミーユ。
「…でも、我が家にはマーゴットとカトリーヌもいますわ。旦那様お一人では……」
「マーゴットもカトリーヌも母親がいなければ舞踏会へ参加できないほど子供ではないだろう?王子との縁があるかどうかはわからないが、舞踏会には他の貴族令息も参加する。今後の縁談を考えれば当主の私と共に顔を売っておいた方が良い」
「……」
 斜め後ろを歩くカミーユが俯いて強く唇を噛み締めているのにアルベルトは気付く。
「しかし、エラがいなくてはマーゴットとカトリーヌだけが舞踏会へ参加するのは難しいな」
「え?」
「マーゴットとカトリーヌの二人だけを連れてリオン殿下や国王陛下、王妃殿下にご挨拶できないだろう?お三方共、私にはもう一人娘がいるのを存じておられる」
「…リオン殿下はエラが男爵家の息子と恋仲なのをご存知ですわ」
 苦々しい表情でカミーユが言うのをアルベルトは視線の端で捉えた。
 やはりニーナ嬢の言う通り、カミーユはどうしても付き添いとして舞踏会へ出たかったようだな。
 そしてカミーユは私が見ていない時にはこんな表情をするのか。
 良き妻、良き母としての顔しか見せなかったカミーユの裏面と、エラたちが言うカミーユの姿が少しづつ一致して来るようにアルベルトは感じていた。
 執務室の前で立ち止まると、アルベルトはカミーユの方へ振り向いた。
「だからと言って、招待を受けた以上、婚約を交わしているでもない相手のために欠席するような不義理な真似はできない。私の立場もあるし、舞踏会へは娘三人共出席か、三人共欠席か、どちらかだ」



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