幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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 …天使?
 父親の脚にしがみつき、こちらを覗き見る肩までの銀髪の子供。
 俺はザインと初めて会った時、その美しさにただただ見惚れていた。
 男の子?こんなに綺麗な男の子がいるんだ。

 俺がザインに見惚れている時、一緒にいたリンジーは俺の方を見て、それからザインを見て、目をパチパチとさせると自分の母の元へ走って行って「帰ろう」と言った。
 何となくリンジーの様子が違う事には気付いたが、その時の俺は如何にしてこの天使に話し掛けるかで頭が一杯でリンジーが帰ってしまった後にはすっかりリンジーの事は頭から消えていたんだ。

 次に会った時にはいつも通りのリンジーで、ザインともすぐに打ち解けて仲良くなっていた。

 ザインと会ってから、少しづつリンジーに対する気持ちが変わっていく。
「今日もザインの家に泊まりに行くの?」
 母に付いてグラフトン家に遊びに来ていた十歳のリンジーが少し不満気に言う。
「ああ」
「私も行きたい」
「駄目だよ。リンジーは女の子なんだから、男の子の家に泊まりに行くなんて」
 俺がそう言うと、リンジーは苦笑いしながら俯いた。
「…そうだね」

 淋しそうなリンジーに、ほんの少し胸が痛んだけれど、その時の俺はザインと俺の間にリンジーを入れるのが嫌だったんだ。

 そして、自分がザインに「恋」をしている事に気付く。

 悩んでいた俺に声を掛けて来たのは当時俺付きだった十八歳の侍女だ。
「ヒューイ様がザイン様に心惹かれるのは、ヒューイ様が女性を知らないからではないですか?」
「女性を知らない?」
「ええ。女性を知れば、ザイン様へのお気持ちがどういう物なのか、わかるかも知れませんよ?」
 貴族の嫡男として性教育は受けていて、行為の知識はあった。そしてもちろん興味もあった。
 しかし女性を知れば、と言えど、俺はまだ十一だ。いくら同年代の男子よりは身体が大きく大人びて見えようともそのような機会はなかなかないだろう。
「…私がお教えいたしましょうか?」
 かわいらしい顔に似合わぬ挑発的な瞳。
 本当に女性を知れば、ザインへの恋心が本物かどうかわかるのだろうか?
「ああ…頼む」
 俺はその侍女の挑発に乗った。

 女性を知る、と言われて最初に頭に浮かんだのはやはりリンジーだ。
 でもまだ十一歳のリンジーに劣情を覚える事はなかったし、むしろそういう対象として見るのは嫌だとすら思った。
 正直な処、ザインや歳上侍女に比べたら、地味なリンジーを敬遠する気持ちすらあったんだ。

 そして十二歳の誕生日を迎える頃には、俺は初めて知った「女性」にのめり込んでいた。
 とは言え、あくまでも興味と快楽の対象であって、その侍女を好きだった訳ではない。
 好きなのは相変わらずザインだった。

「リンジーは?」
 誕生パーティーの会場にリンジーが居ない事に気付いて、何気なくケントに聞くと
「ここまでは来たけど、体調を崩して帰ったそうだ」
 と答えた。
 ケントは俺より先にリンジーが居ない事に気付いて、俺より先にその理由を知っていたのか。
 …もしかして、今もケントはリンジーに好意を持っているのか?

 リンジーに、見舞いに行くと知らせを出した。
 リンジーは俺の方から会う機会を作るといつも嬉しそうだった。だからこの時も「諾」と返事が来ると思っていた。
 しかし返事は「否」だった。
 何か感染る病気なのか?それともいくら幼なじみでも、異性だと疎遠になる年代だからか?
 
 それから、リンジーの母、父や弟が共にグラフトン家を訪れる時にもリンジーが一緒に来る事はなくなった。
 ケントやザインとは以前のように親しくしているならともかく、二人とも俺に対するのと同じように距離を置いていたし、たまに会うリンジーは特に変わった様子もなく、その態度は正に極々普通の幼なじみのものだったから、俺はそれは年齢と性別での自然な変化だと思った。
 そして、根拠はないが、リンジーは幼い頃と同じように俺を好きなんだろうと思っていたんだ。

 あと数か月で学園へ入学、という頃、例の侍女が段々と愛の言葉を言わせようとしたり、束縛のような事をしてくるようになっていたので、俺はよくザインの家へと逃げていた。
 そんな時、ザインの方から告白をされた。
「あの…ヒューイ…俺…俺ね、ヒューイの事が好きなんだ…」
 頬を染めて、でも苦しそうに言うザインは物凄く綺麗でたまらなくかわいかった。
 思いがけない告白への驚きと、ザインに見惚れて、俺が黙っていると、ザインは目に涙を浮かべて言った。
「…幼なじみとか、友達じゃない、恋愛感情でヒューイが好きだ。気持ち悪いだろう?ごめん…」

 すごく嬉しい気持ちと、ザインを愛しく思う気持ち。そして公爵家の嫡男として後継ぎをもうける義務。
 色々な事が頭を巡った。



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