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ザインはポケットから赤い薬包を取り出すと、それを開いた。
薬包にはほんの僅かな、耳かきで掬うより更に少ない量の粉薬が入っている。
「これで『量に気をつけろ』と言われるという事は、やはり効き目が強いと言う事か…」
小さく呟くと、粉薬が少し宙に舞った。
ああ、いけない。貴重な薬が。
ザインは息を殺すと、ワゴンの上に置いてある紅茶のポットに粉薬を入れた。
ごめんね。ヒューイ。
ザインはワゴンを押して自分の部屋に入る。
いつかと同じようにヒューイはソファに座って俯いていた。
「ヒューイ、決めた?」
紅茶をカップに注ぎ、ヒューイの前に置く。
「…いや」
もう一つのカップにも紅茶を注ぎ、そのカップを持ったままヒューイの隣に座った。
「もうリンジーの誕生日当日だよ?カードを送るかどうかで、いくら何でも悩みすぎじゃない?」
少し呆れたように言うザイン。
「しかし…俺からのカードなど嬉しくないだろう?」
「じゃあ送らない?」
「毎年送っているものを急に送らないのも…」
ザインは小さくため息を吐く。
「婚約破棄する相手にカード送るのもおかしな話だよ?」
「…そうだな」
俯くヒューイ。
リンジーの誕生日にカードを送るかどうかで悩んで昨日俺の所に来たヒューイは、今日になってもまだ悩んでいる。
ヒューイらしくない優柔不断ぶりも、ザインにはわかるだけに少し苛立つ気持ちが湧いて来るのだ。
ヒューイがリンジーとの婚約を破棄せずにいるのは、本当は婚約破棄などしたくないからだ。
でも、大丈夫。ヒューイ、俺が引導を渡してあげるよ。
「まあ、とりあえずお茶飲みなよ。ミントティ好きだろ?」
「ああ」
カップに口をつけるヒューイをジッと見つめる。
こくんと喉仏が上下に動くのを確認し、ザインは立ち上がった。
「ザイン?」
ヒューイが自分の前に立ったザインを見上げる。
「…ヒューイ」
ザインは前屈みになり、ヒューイの肩に手を置くと、ゆっくりと顔を近付けて、キスをした。
何度も唇を合わせる。短く、長く、軽く、深く。
「ヒューイ…好きだよ…リンジーじゃなく俺を見てよ…」
切なげに眉を寄せるザイン。
「ザイン…」
ヒューイはザインの頬に両手を当てると、貪るように唇を合わせ、舌を吸う。
「ザイン…好きだ」
「はぁ…好き…ヒューイ…もっと言って…」
吐息混じりに言うザイン。
「好きだ。ザイン…好きだ…」
もっと。
もっと言って。
その言葉が、深く刻まれるように。
「好き…ザイン…好きだ…」
ソファに仰向けに倒れてうわ言のように言うヒューイに、ザインは覆いかぶさってキスを続ける。
「俺も好きだよヒューイ」
ザインが少し顔を離してヒューイを見ると、虚な瞳でヒューイはゆっくりと瞬きをした。
蕩けた…と言うよりは、朦朧としている感じか。
今までこんな風になった事はないのに、効き目すごいな。
後はこのまましばらく眠れば、完了、か。
「ごめんね。ヒューイ…」
ザインはヒューイの前髪を掻き上げると、額にキスをする。
「…ザイン」
虚な瞳にザインが映る。
「好きだよ。ヒューイ」
本当だよ。
ヒューイが好きだ。初めて会った時から、ずっとずっと。
「眠って」
そっと瞼に触れる。
その緑の瞳に映すのは、俺だけ。
今までも。これからも。
瞼の上に置いた手を外すと、ヒューイは目を閉じていた。
眠った?かな?
このまま夕方まで眠らせておけば…
ザインは、目を閉じているヒューイの頬を撫でると、顔を近付けてまたキスをした。
と、その時。
バタンッ!
と音を立ててザインの部屋の扉が開いて
「ヒューイ様!!」
と、叫びながらユーニスが飛び込んで来た。
ザインがヒューイに覆いかぶさってキスをしている。
「え…!?」
ユーニスが言葉を失っていると、ザインは慌てて起き上がった。
「ど、どうしたの?ユーニス」
銀の髪を掻き上げながら扉の前に立つユーニスに近付くザイン。
「…今」
「とりあえず、出て」
今ヒューイを起こす訳にはいかないし、まだ眠りが浅いだろうヒューイの耳に余計な言葉は入れたくない。
ザインはユーニスの肩を押し、部屋の外へ出そうとする。
「あ、そうか」
肩を押されながらユーニスは気付く。
ヒューイ様とザイン様は…ああ、だから契約結婚で、だからお見合いなんだわ。
ああ、でも今はそれどころじゃなくて!!
「ヒューイ様!!」
ザインに背中を押されて廊下に出掛かったユーニスは、振り向きながらソファに横たわるヒューイに向かって大声を出す。
「ちょっ!ユーニス」
慌ててますますユーニスの背中を押すザイン。
ソファのヒューイは身動きもしないが、ユーニスは叫んだ。
「ヒューイ様!リンジーが攫われたんです!!」
ザインはポケットから赤い薬包を取り出すと、それを開いた。
薬包にはほんの僅かな、耳かきで掬うより更に少ない量の粉薬が入っている。
「これで『量に気をつけろ』と言われるという事は、やはり効き目が強いと言う事か…」
小さく呟くと、粉薬が少し宙に舞った。
ああ、いけない。貴重な薬が。
ザインは息を殺すと、ワゴンの上に置いてある紅茶のポットに粉薬を入れた。
ごめんね。ヒューイ。
ザインはワゴンを押して自分の部屋に入る。
いつかと同じようにヒューイはソファに座って俯いていた。
「ヒューイ、決めた?」
紅茶をカップに注ぎ、ヒューイの前に置く。
「…いや」
もう一つのカップにも紅茶を注ぎ、そのカップを持ったままヒューイの隣に座った。
「もうリンジーの誕生日当日だよ?カードを送るかどうかで、いくら何でも悩みすぎじゃない?」
少し呆れたように言うザイン。
「しかし…俺からのカードなど嬉しくないだろう?」
「じゃあ送らない?」
「毎年送っているものを急に送らないのも…」
ザインは小さくため息を吐く。
「婚約破棄する相手にカード送るのもおかしな話だよ?」
「…そうだな」
俯くヒューイ。
リンジーの誕生日にカードを送るかどうかで悩んで昨日俺の所に来たヒューイは、今日になってもまだ悩んでいる。
ヒューイらしくない優柔不断ぶりも、ザインにはわかるだけに少し苛立つ気持ちが湧いて来るのだ。
ヒューイがリンジーとの婚約を破棄せずにいるのは、本当は婚約破棄などしたくないからだ。
でも、大丈夫。ヒューイ、俺が引導を渡してあげるよ。
「まあ、とりあえずお茶飲みなよ。ミントティ好きだろ?」
「ああ」
カップに口をつけるヒューイをジッと見つめる。
こくんと喉仏が上下に動くのを確認し、ザインは立ち上がった。
「ザイン?」
ヒューイが自分の前に立ったザインを見上げる。
「…ヒューイ」
ザインは前屈みになり、ヒューイの肩に手を置くと、ゆっくりと顔を近付けて、キスをした。
何度も唇を合わせる。短く、長く、軽く、深く。
「ヒューイ…好きだよ…リンジーじゃなく俺を見てよ…」
切なげに眉を寄せるザイン。
「ザイン…」
ヒューイはザインの頬に両手を当てると、貪るように唇を合わせ、舌を吸う。
「ザイン…好きだ」
「はぁ…好き…ヒューイ…もっと言って…」
吐息混じりに言うザイン。
「好きだ。ザイン…好きだ…」
もっと。
もっと言って。
その言葉が、深く刻まれるように。
「好き…ザイン…好きだ…」
ソファに仰向けに倒れてうわ言のように言うヒューイに、ザインは覆いかぶさってキスを続ける。
「俺も好きだよヒューイ」
ザインが少し顔を離してヒューイを見ると、虚な瞳でヒューイはゆっくりと瞬きをした。
蕩けた…と言うよりは、朦朧としている感じか。
今までこんな風になった事はないのに、効き目すごいな。
後はこのまましばらく眠れば、完了、か。
「ごめんね。ヒューイ…」
ザインはヒューイの前髪を掻き上げると、額にキスをする。
「…ザイン」
虚な瞳にザインが映る。
「好きだよ。ヒューイ」
本当だよ。
ヒューイが好きだ。初めて会った時から、ずっとずっと。
「眠って」
そっと瞼に触れる。
その緑の瞳に映すのは、俺だけ。
今までも。これからも。
瞼の上に置いた手を外すと、ヒューイは目を閉じていた。
眠った?かな?
このまま夕方まで眠らせておけば…
ザインは、目を閉じているヒューイの頬を撫でると、顔を近付けてまたキスをした。
と、その時。
バタンッ!
と音を立ててザインの部屋の扉が開いて
「ヒューイ様!!」
と、叫びながらユーニスが飛び込んで来た。
ザインがヒューイに覆いかぶさってキスをしている。
「え…!?」
ユーニスが言葉を失っていると、ザインは慌てて起き上がった。
「ど、どうしたの?ユーニス」
銀の髪を掻き上げながら扉の前に立つユーニスに近付くザイン。
「…今」
「とりあえず、出て」
今ヒューイを起こす訳にはいかないし、まだ眠りが浅いだろうヒューイの耳に余計な言葉は入れたくない。
ザインはユーニスの肩を押し、部屋の外へ出そうとする。
「あ、そうか」
肩を押されながらユーニスは気付く。
ヒューイ様とザイン様は…ああ、だから契約結婚で、だからお見合いなんだわ。
ああ、でも今はそれどころじゃなくて!!
「ヒューイ様!!」
ザインに背中を押されて廊下に出掛かったユーニスは、振り向きながらソファに横たわるヒューイに向かって大声を出す。
「ちょっ!ユーニス」
慌ててますますユーニスの背中を押すザイン。
ソファのヒューイは身動きもしないが、ユーニスは叫んだ。
「ヒューイ様!リンジーが攫われたんです!!」
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