62 / 84
61
しおりを挟む
61
グラフトン公爵家のヒューイの部屋のソファで向かい合っているのは、リンジーとケントだ。
部屋には二人きりで、部屋の主であるヒューイも、ケントの侍従も、グラフトン家の侍女や従僕も居ない。
「ヒューイの居ないヒューイの部屋で、リンジーと対面している…何だかおかしな状況だな」
紅茶を飲みながらケントが苦笑いで言う。
「そうよね」
リンジーも紅茶を飲みながら笑う。
リンジーとケントがヒューイの部屋に二人でいる今の状況は、ケントが「リンジーと二人だけで話したい」と言い出した事で生まれた。
一番手っ取り早いのは、リンジーが王宮に行く事だが、それはヒューイが
「いくら俺が行き帰りは付いて行くとは言っても、ケントの部屋でリンとケントを二人きりにするのは嫌だ」
と言って拒んだ。
学園で第二王子と公爵令息の婚約者が二人きりになるのは、無理ではないが、第三者に知られた時には醜聞になってしまう。
リンジーの家にケントが行く、というのも幼なじみとは言え外聞が悪く、結局はケントが訪れても、リンジーが訪れても不自然でないグラフトン公爵邸で、と言う事になったのだ。
それにしても、ケントとは相変わらず一緒に昼食を摂ったりしてるのに、その時には話せない事って…?
まあ、昼食時はユーニスも居るし、たまにはヒューイやザインも居る事もあるし…二人きりではないんだけど。
だから二人きりじゃないと話せないって、ケントが私の事、すっ、好きって事と関係あるのかしら?
と言うか、その事以外に思い付かないんだけど…
紅茶を飲みながらケントをチラッと見ると、ケントはニコッと微笑んだ。
「ヒューイはどこで待ってるんだろうな?」
「え?リビングかな?」
「いや、俺はこの部屋を出てすぐの廊下に居ると思うぞ」
ケントはクスクスと笑いながら言う。
「えー…」
もしそうなら、ケントと私を信用していないって事じゃないの?
「初めてグラフトン家に来た時から、ヒューイは俺にリンジーを取られるんじゃないかと警戒しているからな」
「え?」
取られる?ケントに私を?
…そう言えばケントの事「数少ない俺より条件の良い相手」って言ってたわね。
「今日、どうしてもリンジーと話したかったのは、まあ…要するにヒューイが警戒しているような話しなんだが」
それはつまり…
「リンジー」
ケントは姿勢を正してリンジーを見た。
「はい」
リンジーも姿勢を正してケントに向き合う。
「俺は学園を卒業したら臣籍降下し、王位継承権も返上する。そして王宮を出て一貴族になる」
「…え?」
「リンジーがヒューイとの婚約解消のために出した条件には遠いが」
「あの条件は…」
何もかもを捨てる覚悟。
あの条件にはもうとっくに効力がなくなってるわ。今は婚約を継続するか解消するかの選択肢は私の手の中だもの。
「ああ。あの条件はもう無効だ。だからこそ、リンジーに俺を選んで欲しいんだ」
「…ケント」
ケントは真摯な視線をリンジーに向ける。
「リンジーが好きだ。俺と結婚して欲しい」
「……」
ケントは本気なんだわ。
本当に私の事を結婚したい位に好きだと思ってくれてる。
どうしよう。私…私は…
目を泳がせるリンジーを見て、ケントはフッと微笑んだ。
「返事は来年の卒業パーティーまで待とうか?」
リンジーを揶揄うように笑う。
「ケント…」
「ああ。そんな泣きそうな顔をしないでくれ」
苦笑いを浮かべるケント。
私、すごく情けない顔をしてるわ。きっと、今。
「わかっているんだ。本当は」
苦笑いのままでケントはふうっと息を吐いた。
「リンジーは、例えヒューイとの婚約を解消しても、俺の事は選ばない」
「……」
「そうだろう?」
…だって、ケントはヒューイの「兄弟」だもの。私がヒューイの気持ちを信じ切れなくて婚約を解消したとしても、ケントと結婚するなんて…できない。
「……ん」
コクンと頷くリンジーの目から涙が一粒落ちた。
「泣かないで。リンジー」
「……」
首を横に振る。
「リンジーはヒューイを好きだからな。ずっと。子供の頃から」
違う。でも違わない。
「わからないの…」
俯いて呟くリンジー。涙が次々と頬を伝った。
「ヒューイを好きかどうかが?」
リンジーはまた首を横に振る。
「ただの刷り込みと、どう違うの…?」
「リンジーがヒューイを好きな気持ちが、刷り込みだと?」
コクンと頷く。
「それにヒューイが私を好きって言うのも。ケントだって…」
「俺?俺がリンジーを好きなのも?」
「違うの?違うとしたら、どう違うの?」
リンジーは顔を上げてケントを見た。
ケントは優しく微笑む。
「刷り込みだとすると、何が問題だ?」
「え…?」
「俺たち三人の気持ちが『ただの刷り込み』だとして、リンジーにとっては何が問題なんだ?」
グラフトン公爵家のヒューイの部屋のソファで向かい合っているのは、リンジーとケントだ。
部屋には二人きりで、部屋の主であるヒューイも、ケントの侍従も、グラフトン家の侍女や従僕も居ない。
「ヒューイの居ないヒューイの部屋で、リンジーと対面している…何だかおかしな状況だな」
紅茶を飲みながらケントが苦笑いで言う。
「そうよね」
リンジーも紅茶を飲みながら笑う。
リンジーとケントがヒューイの部屋に二人でいる今の状況は、ケントが「リンジーと二人だけで話したい」と言い出した事で生まれた。
一番手っ取り早いのは、リンジーが王宮に行く事だが、それはヒューイが
「いくら俺が行き帰りは付いて行くとは言っても、ケントの部屋でリンとケントを二人きりにするのは嫌だ」
と言って拒んだ。
学園で第二王子と公爵令息の婚約者が二人きりになるのは、無理ではないが、第三者に知られた時には醜聞になってしまう。
リンジーの家にケントが行く、というのも幼なじみとは言え外聞が悪く、結局はケントが訪れても、リンジーが訪れても不自然でないグラフトン公爵邸で、と言う事になったのだ。
それにしても、ケントとは相変わらず一緒に昼食を摂ったりしてるのに、その時には話せない事って…?
まあ、昼食時はユーニスも居るし、たまにはヒューイやザインも居る事もあるし…二人きりではないんだけど。
だから二人きりじゃないと話せないって、ケントが私の事、すっ、好きって事と関係あるのかしら?
と言うか、その事以外に思い付かないんだけど…
紅茶を飲みながらケントをチラッと見ると、ケントはニコッと微笑んだ。
「ヒューイはどこで待ってるんだろうな?」
「え?リビングかな?」
「いや、俺はこの部屋を出てすぐの廊下に居ると思うぞ」
ケントはクスクスと笑いながら言う。
「えー…」
もしそうなら、ケントと私を信用していないって事じゃないの?
「初めてグラフトン家に来た時から、ヒューイは俺にリンジーを取られるんじゃないかと警戒しているからな」
「え?」
取られる?ケントに私を?
…そう言えばケントの事「数少ない俺より条件の良い相手」って言ってたわね。
「今日、どうしてもリンジーと話したかったのは、まあ…要するにヒューイが警戒しているような話しなんだが」
それはつまり…
「リンジー」
ケントは姿勢を正してリンジーを見た。
「はい」
リンジーも姿勢を正してケントに向き合う。
「俺は学園を卒業したら臣籍降下し、王位継承権も返上する。そして王宮を出て一貴族になる」
「…え?」
「リンジーがヒューイとの婚約解消のために出した条件には遠いが」
「あの条件は…」
何もかもを捨てる覚悟。
あの条件にはもうとっくに効力がなくなってるわ。今は婚約を継続するか解消するかの選択肢は私の手の中だもの。
「ああ。あの条件はもう無効だ。だからこそ、リンジーに俺を選んで欲しいんだ」
「…ケント」
ケントは真摯な視線をリンジーに向ける。
「リンジーが好きだ。俺と結婚して欲しい」
「……」
ケントは本気なんだわ。
本当に私の事を結婚したい位に好きだと思ってくれてる。
どうしよう。私…私は…
目を泳がせるリンジーを見て、ケントはフッと微笑んだ。
「返事は来年の卒業パーティーまで待とうか?」
リンジーを揶揄うように笑う。
「ケント…」
「ああ。そんな泣きそうな顔をしないでくれ」
苦笑いを浮かべるケント。
私、すごく情けない顔をしてるわ。きっと、今。
「わかっているんだ。本当は」
苦笑いのままでケントはふうっと息を吐いた。
「リンジーは、例えヒューイとの婚約を解消しても、俺の事は選ばない」
「……」
「そうだろう?」
…だって、ケントはヒューイの「兄弟」だもの。私がヒューイの気持ちを信じ切れなくて婚約を解消したとしても、ケントと結婚するなんて…できない。
「……ん」
コクンと頷くリンジーの目から涙が一粒落ちた。
「泣かないで。リンジー」
「……」
首を横に振る。
「リンジーはヒューイを好きだからな。ずっと。子供の頃から」
違う。でも違わない。
「わからないの…」
俯いて呟くリンジー。涙が次々と頬を伝った。
「ヒューイを好きかどうかが?」
リンジーはまた首を横に振る。
「ただの刷り込みと、どう違うの…?」
「リンジーがヒューイを好きな気持ちが、刷り込みだと?」
コクンと頷く。
「それにヒューイが私を好きって言うのも。ケントだって…」
「俺?俺がリンジーを好きなのも?」
「違うの?違うとしたら、どう違うの?」
リンジーは顔を上げてケントを見た。
ケントは優しく微笑む。
「刷り込みだとすると、何が問題だ?」
「え…?」
「俺たち三人の気持ちが『ただの刷り込み』だとして、リンジーにとっては何が問題なんだ?」
1
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる