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「恋愛と情?」
グラフトン家の廊下を歩きながらヒューイが言う。
「ああ。リンジーは、いつかお前が本当の恋人と出会った時、自分と結婚してしまっている事を後悔されたくないらしい」
ヒューイと並んで歩くケントが頷きながらそう言った。
「本当の恋人ねぇ」
「それにリンジーは、自分には異性から好かれるような価値はないと思っている」
「は?」
ヒューイは思わず立ち止まる。
「地味で気の強い自分など、幼なじみの刷り込みなしで好きになる人などいない、と言っていた」
ケントも立ち止まると、ヒューイの方へ振り向いて言った。
「気の強い処がリンのかわいい処だろ」
「俺もそう思うが、それを俺が言っても響かない」
歩き出したヒューイがケントに並ぶと、ケントも足を踏み出し、二人は並んで歩く。
「悔しいが、俺では駄目だ。やはりヒューイでないとリンジーの心には届かない」
「ケント」
玄関ホールを出ると、王家の馬車が待っていた。
「俺は、リンジーの相手はヒューイしかあり得ないと思っている。もちろん俺以外ならば、だが」
馬車の手前でケントが言うと、ヒューイは頷く。
「ああ」
「だからヒューイは必死でリンジーを口説けよ。婚約解消してリンジーが他の男と結ばれるなど許さないからな」
ケントはそう言って馬車へ乗り込んだ。
-----
「やっとお一人になられましたね。リンジー様」
窓枠に座って、侍女はにっこりと微笑む。
「貴女…」
リンジーはソファから立ち上がると、扉の方をチラッと見た。
「逃げる算段ですか?それとも外にいる護衛を呼びますか?大丈夫ですよ。もうすぐヒューイ様が戻られますし、私がリンジー様に何かできる訳ないじゃないですか」
トンッと窓枠から降りると、リンジーの方へゆっくりと歩いて来る。
「できる訳ないって、紅茶に薬物を仕込んだのは貴女よね?」
リンジーが一歩下がると、侍女は勢いよく床を蹴ってリンジーとの間を詰めた。
そしてそのままリンジーの後ろに回り込むと、首に腕を巻き付けた。
「!」
早い!
そのまま腕に力を入れてリンジーの首を圧迫する。
「くっ…」
リンジーは首を絞める侍女の腕を掴むが、力が強くびくともしなかった。
「そうです。あの紅茶はヒューイ様に私の存在を忘れさせないための策です。飲むのはどちらでも…両方でも良かったんです。ヒューイ様に、私がリンジー様を害する気になれば、それができると知って欲しかった」
「ぐ…」
グイグイと力を入れる侍女。
助けを呼ばなきゃ…でも息が苦しくて声が出ない。
「それでもその後、ヒューイ様がリンジー様から片時も離れなかったのには参りました。私を探しておられたので、一見私の事を考えているようでいて、その実リンジー様で頭がいっぱいでしたから」
「ヒュー…」
ヒューイ。助けて。
「ヒューイ様をお呼びですか?そう言えばなかなか戻られませんね。ケント殿下と話し込んでおられるのかも」
苦しい。
ヒューイ。
ヒューイ。助けて。
「そろそろ戻られないと、リンジー様死んでしまうんじゃないかしら?」
死ぬ…?
嫌だ。
怖い。
ヒューイ…傍にいて。
「リン」
部屋の扉が開いて、ヒューイが入って来る。
「!!」
侍女に後ろから腕で首を絞められているリンジーを見て、ヒューイは目を見開いた。
「リン!」
駆け寄って、侍女の腕を掴み、リンジーから剥がすように引くと、腕を締め上げた。
「痛っ!」
首を締めていた腕が外れて、リンジーは床へと倒れ込む。
「ヒューイ様!」
開いた扉から護衛の騎士が入って来て、侍女を取り押さえた。
ケホケホを咳き込むリンジーを跪いたヒューイが抱き起こし、背中を摩る。
「リン、大丈夫か!?」
「…ヒューイ」
ヒューイ。
ヒューイだ。
リンジーはヒューイにぎゅっと抱きついた。
「リン?」
抱きついて来たリンジーに少し戸惑いながらもヒューイもリンジーを抱きしめて、背中を撫でるように摩る。
「あーあ、リンジー様を殺してヒューイ様の『忘れられない女』になる予定だったのに、間に合っちゃいましたか」
膝をつき、腕を捻り上げられ、背中を騎士に押さえられ、苦痛に顔を歪めながらも口角を上げて言う侍女。
「お前は…一体何を企んでいるんだ」
リンジーを抱きしめたまま、ヒューイは侍女を睨み付けた。
「簡単ですよ。私はヒューイ様に愛されたかった。ヒューイ様が結婚されてもずっとお側にいたかっただけ。身体を繋げはいつか心も繋がると思っていましたが、一向に繋がらない。『初めての女』になるだけでは足りなかった。だから、せめて、ヒューイ様がずっと大切に想っていらっしゃるリンジー様を殺せば、一生私の事を忘れられなくなるでしょう?」
唄うように笑いながら言う。
「嘘よ!」
ヒューイに抱きついたまま、リンジーが鋭く言った。
「恋愛と情?」
グラフトン家の廊下を歩きながらヒューイが言う。
「ああ。リンジーは、いつかお前が本当の恋人と出会った時、自分と結婚してしまっている事を後悔されたくないらしい」
ヒューイと並んで歩くケントが頷きながらそう言った。
「本当の恋人ねぇ」
「それにリンジーは、自分には異性から好かれるような価値はないと思っている」
「は?」
ヒューイは思わず立ち止まる。
「地味で気の強い自分など、幼なじみの刷り込みなしで好きになる人などいない、と言っていた」
ケントも立ち止まると、ヒューイの方へ振り向いて言った。
「気の強い処がリンのかわいい処だろ」
「俺もそう思うが、それを俺が言っても響かない」
歩き出したヒューイがケントに並ぶと、ケントも足を踏み出し、二人は並んで歩く。
「悔しいが、俺では駄目だ。やはりヒューイでないとリンジーの心には届かない」
「ケント」
玄関ホールを出ると、王家の馬車が待っていた。
「俺は、リンジーの相手はヒューイしかあり得ないと思っている。もちろん俺以外ならば、だが」
馬車の手前でケントが言うと、ヒューイは頷く。
「ああ」
「だからヒューイは必死でリンジーを口説けよ。婚約解消してリンジーが他の男と結ばれるなど許さないからな」
ケントはそう言って馬車へ乗り込んだ。
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「やっとお一人になられましたね。リンジー様」
窓枠に座って、侍女はにっこりと微笑む。
「貴女…」
リンジーはソファから立ち上がると、扉の方をチラッと見た。
「逃げる算段ですか?それとも外にいる護衛を呼びますか?大丈夫ですよ。もうすぐヒューイ様が戻られますし、私がリンジー様に何かできる訳ないじゃないですか」
トンッと窓枠から降りると、リンジーの方へゆっくりと歩いて来る。
「できる訳ないって、紅茶に薬物を仕込んだのは貴女よね?」
リンジーが一歩下がると、侍女は勢いよく床を蹴ってリンジーとの間を詰めた。
そしてそのままリンジーの後ろに回り込むと、首に腕を巻き付けた。
「!」
早い!
そのまま腕に力を入れてリンジーの首を圧迫する。
「くっ…」
リンジーは首を絞める侍女の腕を掴むが、力が強くびくともしなかった。
「そうです。あの紅茶はヒューイ様に私の存在を忘れさせないための策です。飲むのはどちらでも…両方でも良かったんです。ヒューイ様に、私がリンジー様を害する気になれば、それができると知って欲しかった」
「ぐ…」
グイグイと力を入れる侍女。
助けを呼ばなきゃ…でも息が苦しくて声が出ない。
「それでもその後、ヒューイ様がリンジー様から片時も離れなかったのには参りました。私を探しておられたので、一見私の事を考えているようでいて、その実リンジー様で頭がいっぱいでしたから」
「ヒュー…」
ヒューイ。助けて。
「ヒューイ様をお呼びですか?そう言えばなかなか戻られませんね。ケント殿下と話し込んでおられるのかも」
苦しい。
ヒューイ。
ヒューイ。助けて。
「そろそろ戻られないと、リンジー様死んでしまうんじゃないかしら?」
死ぬ…?
嫌だ。
怖い。
ヒューイ…傍にいて。
「リン」
部屋の扉が開いて、ヒューイが入って来る。
「!!」
侍女に後ろから腕で首を絞められているリンジーを見て、ヒューイは目を見開いた。
「リン!」
駆け寄って、侍女の腕を掴み、リンジーから剥がすように引くと、腕を締め上げた。
「痛っ!」
首を締めていた腕が外れて、リンジーは床へと倒れ込む。
「ヒューイ様!」
開いた扉から護衛の騎士が入って来て、侍女を取り押さえた。
ケホケホを咳き込むリンジーを跪いたヒューイが抱き起こし、背中を摩る。
「リン、大丈夫か!?」
「…ヒューイ」
ヒューイ。
ヒューイだ。
リンジーはヒューイにぎゅっと抱きついた。
「リン?」
抱きついて来たリンジーに少し戸惑いながらもヒューイもリンジーを抱きしめて、背中を撫でるように摩る。
「あーあ、リンジー様を殺してヒューイ様の『忘れられない女』になる予定だったのに、間に合っちゃいましたか」
膝をつき、腕を捻り上げられ、背中を騎士に押さえられ、苦痛に顔を歪めながらも口角を上げて言う侍女。
「お前は…一体何を企んでいるんだ」
リンジーを抱きしめたまま、ヒューイは侍女を睨み付けた。
「簡単ですよ。私はヒューイ様に愛されたかった。ヒューイ様が結婚されてもずっとお側にいたかっただけ。身体を繋げはいつか心も繋がると思っていましたが、一向に繋がらない。『初めての女』になるだけでは足りなかった。だから、せめて、ヒューイ様がずっと大切に想っていらっしゃるリンジー様を殺せば、一生私の事を忘れられなくなるでしょう?」
唄うように笑いながら言う。
「嘘よ!」
ヒューイに抱きついたまま、リンジーが鋭く言った。
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