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あの日
サイモンの友人であるゴヴァンがサイモンとオリーの定例茶会へ学園の女生徒を連れて来た。
「サイモン、紹介するよ。生徒会の一年のサポートメンバーのローズ。エンジェル男爵家の令嬢だ」
「はじめまして!ローズ・エンジェルです!」
元気よくそう言ったローズは、オリーから見てもものすごくかわいかった。
「ああ」
いつも通りアルカイックスマイルを浮かべているサイモン。
オリーはそれでも違和感を覚えた。
…殿下?
「ニューマン先生、今日はどうしてローズさんをお連れに?」
オリーが聞くと
「ローズが俺が王太子殿下と友人なのが信じられないと言うもんだから。ローズがサイモンに会いたいと言うし」
「そうですか…」
ニューマン先生が女生徒の名前を呼び捨てに?
それに「サイモン殿下に会いたい」という人を、軽々しく殿下に会わせる人ではなかったのに…
だからこそ、サイモンとゴヴァンは長年の友人なのだ。
「ゴヴァンは今まで私に会いたいと言う者を誰でも連れて来るような真似はしなかった筈だが?」
サイモンもそうゴヴァンに向けて言う。
その間もサイモンはローズを見ていた。
表情は変わらない。いつもの感情の読めない笑顔だ。
いや、むしろオリーやゴヴァンの前でもこの表情でいるのは珍しいとオリーは思った。
「いや、俺だって誰でもは連れて来ないさ」
ゴヴァンは照れたように言う。
もしかして、ニューマン先生はローズさんを好きなの…?
まだ一年生で幼いと言っても良いくらいの子なのに?
サイモンはローズから視線を外すと、今度は決してローズを見ない。
さりげない様子なのでゴヴァンやローズは気付かないだろう。
ローズは上目遣いでサイモンに話し掛けていたが、サイモンがまったく話に乗らないので「おかしいな?」と小さく首を傾げていた。
暫く話した後、ゴヴァンがローズを伴って退出する。
扉が閉まる瞬間、サイモンがローズの後ろ姿に視線をむけた。
「…あ」
オリーは思わず声を漏らしてしまう。
微かに、ほんの少しだけ眉を寄せ、ローズの後ろ姿を見る、サイモンの瞳。
「オリー?」
扉が閉じて、視線を動かしオリーを見るサイモン。
…まさか。
でも、私を見る瞳と、ローズさんの後ろ姿を見る瞳が…明らかに違う。
「オリー?どうした?」
気が付くと、オリーの頬に大粒の涙が流れていた。
サイモン殿下が私を見る瞳には、熱がない。
オリーはその事実に打ちのめされたのだった。
-----
「…あれから、サイモン殿下はローズさんの事を『ローズ・エンジェル男爵令嬢』と呼んで、決して『ローズ』とも『ローズ嬢』とも呼ばなかったのよ。そうする事でご自分の中で線を引こうとされてたんだと思うの」
一通り話して、ハンカチを目に当て、鼻をすんすん言わせながらオリーが言う。
「そう言われたら、確かにそうだったかも…」
リザが思い出しながら言うと、オリーは頷く。
「あの『恋心』がゲームの強制力で作られた物なのは分かるの。今はその気持ちがない事も」
「オリー様…」
ゲームがリセットされて、サイモンは「ローズへの気持ちはなくなった」と言う。
実際に、その通りなのだろうとオリーも感じている。
「それでも、サイモン殿下が私を見る瞳に、熱がないのは変わらないの…」
リセット以来、サイモンの瞳に熱が帯びる事はないのだ。
サイモンはオリーを大切だと言う。
オリーも確かに大切にされているとは思う。
「…怖いの」
「オリー様」
リザはオリーの手を握る。
「…王太子殿下と公爵令嬢の結婚だもの。恋とか愛とかではないのはよく分かってる。分かってるのに…熱のない瞳で見られ続ける覚悟が決まらないの」
オリーはリザの手を握り返した。
「それに、いつかまた殿下が熱を帯びた瞳を誰かに向けたら?また、私はそれを一番近くで見なくてはならないわ…それが怖くて怖くてたまらない…」
ゲームのリセットの話を聞いて、オリーはサイモンを好きではなくなった振りをした。
覚悟を決める時間が欲しかった。
それでもしもサイモンから婚約解消をと言われたら、それは受け入れようと考えていたのだ。
あの日
サイモンの友人であるゴヴァンがサイモンとオリーの定例茶会へ学園の女生徒を連れて来た。
「サイモン、紹介するよ。生徒会の一年のサポートメンバーのローズ。エンジェル男爵家の令嬢だ」
「はじめまして!ローズ・エンジェルです!」
元気よくそう言ったローズは、オリーから見てもものすごくかわいかった。
「ああ」
いつも通りアルカイックスマイルを浮かべているサイモン。
オリーはそれでも違和感を覚えた。
…殿下?
「ニューマン先生、今日はどうしてローズさんをお連れに?」
オリーが聞くと
「ローズが俺が王太子殿下と友人なのが信じられないと言うもんだから。ローズがサイモンに会いたいと言うし」
「そうですか…」
ニューマン先生が女生徒の名前を呼び捨てに?
それに「サイモン殿下に会いたい」という人を、軽々しく殿下に会わせる人ではなかったのに…
だからこそ、サイモンとゴヴァンは長年の友人なのだ。
「ゴヴァンは今まで私に会いたいと言う者を誰でも連れて来るような真似はしなかった筈だが?」
サイモンもそうゴヴァンに向けて言う。
その間もサイモンはローズを見ていた。
表情は変わらない。いつもの感情の読めない笑顔だ。
いや、むしろオリーやゴヴァンの前でもこの表情でいるのは珍しいとオリーは思った。
「いや、俺だって誰でもは連れて来ないさ」
ゴヴァンは照れたように言う。
もしかして、ニューマン先生はローズさんを好きなの…?
まだ一年生で幼いと言っても良いくらいの子なのに?
サイモンはローズから視線を外すと、今度は決してローズを見ない。
さりげない様子なのでゴヴァンやローズは気付かないだろう。
ローズは上目遣いでサイモンに話し掛けていたが、サイモンがまったく話に乗らないので「おかしいな?」と小さく首を傾げていた。
暫く話した後、ゴヴァンがローズを伴って退出する。
扉が閉まる瞬間、サイモンがローズの後ろ姿に視線をむけた。
「…あ」
オリーは思わず声を漏らしてしまう。
微かに、ほんの少しだけ眉を寄せ、ローズの後ろ姿を見る、サイモンの瞳。
「オリー?」
扉が閉じて、視線を動かしオリーを見るサイモン。
…まさか。
でも、私を見る瞳と、ローズさんの後ろ姿を見る瞳が…明らかに違う。
「オリー?どうした?」
気が付くと、オリーの頬に大粒の涙が流れていた。
サイモン殿下が私を見る瞳には、熱がない。
オリーはその事実に打ちのめされたのだった。
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「…あれから、サイモン殿下はローズさんの事を『ローズ・エンジェル男爵令嬢』と呼んで、決して『ローズ』とも『ローズ嬢』とも呼ばなかったのよ。そうする事でご自分の中で線を引こうとされてたんだと思うの」
一通り話して、ハンカチを目に当て、鼻をすんすん言わせながらオリーが言う。
「そう言われたら、確かにそうだったかも…」
リザが思い出しながら言うと、オリーは頷く。
「あの『恋心』がゲームの強制力で作られた物なのは分かるの。今はその気持ちがない事も」
「オリー様…」
ゲームがリセットされて、サイモンは「ローズへの気持ちはなくなった」と言う。
実際に、その通りなのだろうとオリーも感じている。
「それでも、サイモン殿下が私を見る瞳に、熱がないのは変わらないの…」
リセット以来、サイモンの瞳に熱が帯びる事はないのだ。
サイモンはオリーを大切だと言う。
オリーも確かに大切にされているとは思う。
「…怖いの」
「オリー様」
リザはオリーの手を握る。
「…王太子殿下と公爵令嬢の結婚だもの。恋とか愛とかではないのはよく分かってる。分かってるのに…熱のない瞳で見られ続ける覚悟が決まらないの」
オリーはリザの手を握り返した。
「それに、いつかまた殿下が熱を帯びた瞳を誰かに向けたら?また、私はそれを一番近くで見なくてはならないわ…それが怖くて怖くてたまらない…」
ゲームのリセットの話を聞いて、オリーはサイモンを好きではなくなった振りをした。
覚悟を決める時間が欲しかった。
それでもしもサイモンから婚約解消をと言われたら、それは受け入れようと考えていたのだ。
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