転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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「リザ様はロイド殿下のお気持ちをお疑いだそうですよ」
 ロイドの侍従、アベルが言うと、書類へサインをしていたロイドの手がピタリと止まる。
「気持ちを?」
「ロイド殿下はリザ様を大切に思っていらっしゃるのでしょうが、それが恋愛感情なのか、贖罪なのか分からないと」
「リザがそう言ったのか?」
「そう言われていたと、リザ様の侍女から聞きました」
 ロイドはペンを持ったまま顎に手を当てた。
「なるほど」

 リザが定例茶会のため訪れると、アベルに温室へと案内された。
「温室?」
「はい。今日はこちらで」
 アベルが温室のガラス扉を開けてリザを中へと誘う。
「…え?」
 リザが中に入ると一面のかすみ草が目に入った。
 テーブルの上にはベージュピンクのバラが飾ってある。
「リザ」
 ロイドが奥からリザの近くへ歩いて来る。
「ロイド…これは?」
 ベージュピンクのバラにかすみ草、体調不良を理由に定例茶会を休んだリザに贈られたお見舞いと同じ取り合わせだった。
「俺の中のリザのイメージなんだ」
「かすみ草が?」
 ローズの引き立て役。あの時のリザはそう解釈したが…
「いや、バラが」
「バラが!?」
 リザは心底驚いた声を上げる。
「…色合いが、さり気ないのにとても存在感があって。リザみたいだなってずっと思ってた」
「ええ…?」
 私が、バラ?さり気ないのに存在感?
 ロイドはリザの前に跪くと、リザの手を取った。
「態度で示すだけでは一番大切な事が伝わらないと知ったので、言葉でも示す」
「ロイド…?」
「俺はリザが好きだ」
 ロイドはそう言うと、リザの手の甲に口付けた。

 リザの頬が赤く染まる。
「…俺に前世の記憶がなくても、きっとリザを好きになった」
「こんな地味な女なのに?」
「地味かな?」
 ロイドはリザの手を取ったままリザを見上げる。
「地味でしょ?」
「俺はかわいいと思うが」
「…趣味が悪いわ」
 ロイドを睨むリザは、耳まで真っ赤だ。
「そうかな?前世が日本人だから日本的な顔立ちが好みなのかもな。…でもリザをかわいいと思う男は俺だけで良いんだから趣味が悪くてもかまわない」
「あう…」
 真っ赤になって口をパクパクするリザの手の甲にもう一度口付ける。
「リザ俺と結婚してください」
「…婚約してるじゃない」
「そうだけど、改めて。後、リザとイチャイチャしたい」
 ロイドはそう言うと微笑んだ。
 リザはロイドに取られていない方の手で顔を押さえる。
「…破壊力が半端ない」
「ん?」
「転生してまで生で見たいと思うヒロインの気持ちもわかる…」
「リザ?」
 リザは手の隙間からロイドを見る。
「笑った顔…他の女に向けたら離婚する」
「リザ!」
 ロイドは立ち上がると、リザを抱きしめた。

-----

「かすみ草には意味があるの?」
 温室でお茶を飲みながらリザはロイドに聞いた。
「小さくてかわいいだろ?これもリザのイメージ」
「ええ?私小さくないわよ?」
「身長じゃないが…後は花言葉かな『幸福』とか」
「…小さくてかわいいは納得がいかないけど、幸福なら納得できる」
 うんうんと頷くリザに、ロイドは言う。
「『永遠の愛』とか」
 そしてにっこりと笑う。
「……えい?」
 みるみる赤くなるリザに、ロイドは言った。
「笑うだけでリザが照れるとは、良い事を知った」
「や~め~て~」
 テーブルに突っ伏して悶えるリザ。
「リザは?」
「ん?」
 突っ伏したままのリザにロイドは問い掛ける。
「リザは俺の事、好きか?」
「……」
「いや、今好きじゃなくても構わない。いつか好きになってくれ」
「…ロイド」
 突っ伏したままリザは言う。
「うん?」
「私、ロイドの事好きとか考えた事なくて…」
「うん」
「私、紫のドレスとか着て『私が殿下の婚約者です』みたいな主張するのも苦手で」
「うん」
「…でも、卒業パーティーで、ヒロインに断罪されて国外追放になるかもって思ったら、ロイドの婚約者でいる間にどうしてもあの色のドレスを着なくちゃって…」
「うん」
 ロイドは立ち上がると、テーブルに突っ伏すリザの傍らにしゃがみ込む。
「…こんなの、好き以外の言葉、当てはまる?」
 リザがほんの少し顔を上げて、ロイドをちらっと見る。
 わずかに見える頬も、耳も首も真っ赤で、涙目になっていた。
「当てはまらないな」
 ロイドはリザの腕を解くとリザの背中に手を回す。
 リザはロイドの首へ抱きついて、肩に額をつけた。
「…照れるリザ、超絶かわいい」
「ばか」
 ロイドは首へと抱きつくリザの腕を優しくほどく。

「リザを引っ張って来れて良かった」

 そう言って微笑むと、ゆっくり唇を重ねた。




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