8 / 30
7
7
リネットがバーストン伯爵家に帰り着いた時にはもう夜になっていたが、チャールズとエル、姪のミリアムが揃って出迎えてくれた。
馬車から降り立つリネットにチャールズが手を差し出す。
「おかえり、リネット」
兄が困ったように笑うのを見て、リネットの涙腺が崩壊した。
「おにいさま~うええ~」
チャールズは胸に顔を押しつけて泣くリネットの頭をゆっくり撫でてくれた。
兄からの手紙にはアリシアの件の後に、セルダがリリアと婚約を解消し、自分の選んだ令嬢を妃とできる事を条件に王太子となる事を受け入れたと書いてあった。
ただセルダの選ぶ令嬢が誰かは公には明かされてなく、セルダが自分で口説き落とす事、身分を使って相手の令嬢に押し付ける事がないようにと取り決められたそうだ。
学園の冬期と春期の間の休暇中に行われる立太子式までに口説き落とせなければセルダの妃候補は改めて議会が決めることになり、リリアの結婚相手は王家が責任を持って決める事となった。
でもきっとセドリックもリリアも…私だって…知っているんだわ。
「リネットさん、おかえりなさい。疲れたでしょう?」
エルがリネットの手を握ってくれた。
「お義姉様…」
「リネちゃん~ミリぺこぺこよ~」
エルに抱かれたミリアムがチャールズと同じようにリネットの頭に手を伸ばす。思わずふふっと笑みが漏れた。
「…ミリアム、ご飯食べずに待っててくれたの?」
「うん!」
「ありがと。お兄様もお義姉様もありがとう…」
-----
「今日はお忍びだから堅苦しい挨拶はいらないよ。リネット嬢」
リネットがゴルディ家の別荘から家に戻った翌日、セルダがバーストン家にお忍びで訪ねて来た。
「セルダ殿下」
セルダの待つ応接室に重い気持ちで向かったリネットは、セルダの満面の笑みに迎えられて驚いた。
「…色々と驚かせたり困惑させたりした自覚はあるんだ。これでも」
セルダはばつが悪そうに頭を掻く。俯いた紫の瞳がいつもより青く見えた。
リネットはすうっと息を吸い込むと、意を決して喋り出した。
「あの!何で私なんですか?どこが良いんですか?本気なんですか?いつからですか?私婚約者いるんですけどご存知ですよね?リリアとセドリックには私の事伝えたんですか?」
聞きたいと思っていた事が全部口から溢れた。
こんな一度に聞くつもりはなかったけど、まあ…聞き逃すよりは良いか。
こほん。と小さく咳払いをして、リネットは目の前に置かれた紅茶を一口飲んだ。
セルダはクスクスと笑いながら
「最初はね、生徒会のサポートに来てくれたリネット嬢の淹れてくれた紅茶が美味しいなあと思ったからなんだ」
と嬉しそうに言う。
「だからいつも休憩の時にはリネット嬢を指名してお茶を淹れてもらってた」
「そういえば、そうでしたね」
リネットも頷く。そういえばセルダ居る時はいつもリネットにお茶を淹れるように言っていたと思い当たる。
「きっかけはそんな些細な事だけど、同じクラスだし、段々見てたらかわいいな~と思うようになって」
「かわっ!?」
「そうしたら、ずっとリネット嬢にお茶を淹れて欲しいな~コロコロ笑うところを見ていたいな~と思って。学園を卒業しても…つまり好きなんだなあ、と」
「すっ…」
セルダが真っ直ぐにリネットを見ながら微笑む。
あまりにセルダが嬉しそうなのでリネットは赤くなりながら絶句してしまう。
「でも口に出すつもりはなかったんだよ。もちろん態度にも出してなかったと思うし。決められた通りリリア嬢と結婚する事にも不服はなかったしね。」
「だっ…だったら…」
「兄上が『真実の愛』を見つけて、遠い将来にでもその娘と結ばれる可能性ができたのを見ると、私も堪えられなくなったんだ」
笑顔から一転、真面目な表情になり、真っ直ぐ自分を捉えるセルダの視線にリネットはごくりと息を飲む。
「真実の愛」の連鎖…。
「リネット嬢がセドリック・ゴルディ殿と婚約している事ももちろん知っている。セドリック殿とゴルディ侯爵とは昨日話して、リネット嬢に求婚する許可はもらったよ」
セドリック、許可したんだ…。
昨日の、リネットの顔を見ないセドリックを思い出し、リネットの胸はツキンと痛んだ。
セルダは立ち上がると、リネットの前に跪き、手を取ってリネットを見上げる。
真っ直ぐなセルダの紫の瞳に真剣さと甘さを見つけ、リネットは頭がくらくらしてきた。
「リネット嬢…私は貴女が好きだ。私の妃になる事を真剣に考えてみて欲しい」
リネットがバーストン伯爵家に帰り着いた時にはもう夜になっていたが、チャールズとエル、姪のミリアムが揃って出迎えてくれた。
馬車から降り立つリネットにチャールズが手を差し出す。
「おかえり、リネット」
兄が困ったように笑うのを見て、リネットの涙腺が崩壊した。
「おにいさま~うええ~」
チャールズは胸に顔を押しつけて泣くリネットの頭をゆっくり撫でてくれた。
兄からの手紙にはアリシアの件の後に、セルダがリリアと婚約を解消し、自分の選んだ令嬢を妃とできる事を条件に王太子となる事を受け入れたと書いてあった。
ただセルダの選ぶ令嬢が誰かは公には明かされてなく、セルダが自分で口説き落とす事、身分を使って相手の令嬢に押し付ける事がないようにと取り決められたそうだ。
学園の冬期と春期の間の休暇中に行われる立太子式までに口説き落とせなければセルダの妃候補は改めて議会が決めることになり、リリアの結婚相手は王家が責任を持って決める事となった。
でもきっとセドリックもリリアも…私だって…知っているんだわ。
「リネットさん、おかえりなさい。疲れたでしょう?」
エルがリネットの手を握ってくれた。
「お義姉様…」
「リネちゃん~ミリぺこぺこよ~」
エルに抱かれたミリアムがチャールズと同じようにリネットの頭に手を伸ばす。思わずふふっと笑みが漏れた。
「…ミリアム、ご飯食べずに待っててくれたの?」
「うん!」
「ありがと。お兄様もお義姉様もありがとう…」
-----
「今日はお忍びだから堅苦しい挨拶はいらないよ。リネット嬢」
リネットがゴルディ家の別荘から家に戻った翌日、セルダがバーストン家にお忍びで訪ねて来た。
「セルダ殿下」
セルダの待つ応接室に重い気持ちで向かったリネットは、セルダの満面の笑みに迎えられて驚いた。
「…色々と驚かせたり困惑させたりした自覚はあるんだ。これでも」
セルダはばつが悪そうに頭を掻く。俯いた紫の瞳がいつもより青く見えた。
リネットはすうっと息を吸い込むと、意を決して喋り出した。
「あの!何で私なんですか?どこが良いんですか?本気なんですか?いつからですか?私婚約者いるんですけどご存知ですよね?リリアとセドリックには私の事伝えたんですか?」
聞きたいと思っていた事が全部口から溢れた。
こんな一度に聞くつもりはなかったけど、まあ…聞き逃すよりは良いか。
こほん。と小さく咳払いをして、リネットは目の前に置かれた紅茶を一口飲んだ。
セルダはクスクスと笑いながら
「最初はね、生徒会のサポートに来てくれたリネット嬢の淹れてくれた紅茶が美味しいなあと思ったからなんだ」
と嬉しそうに言う。
「だからいつも休憩の時にはリネット嬢を指名してお茶を淹れてもらってた」
「そういえば、そうでしたね」
リネットも頷く。そういえばセルダ居る時はいつもリネットにお茶を淹れるように言っていたと思い当たる。
「きっかけはそんな些細な事だけど、同じクラスだし、段々見てたらかわいいな~と思うようになって」
「かわっ!?」
「そうしたら、ずっとリネット嬢にお茶を淹れて欲しいな~コロコロ笑うところを見ていたいな~と思って。学園を卒業しても…つまり好きなんだなあ、と」
「すっ…」
セルダが真っ直ぐにリネットを見ながら微笑む。
あまりにセルダが嬉しそうなのでリネットは赤くなりながら絶句してしまう。
「でも口に出すつもりはなかったんだよ。もちろん態度にも出してなかったと思うし。決められた通りリリア嬢と結婚する事にも不服はなかったしね。」
「だっ…だったら…」
「兄上が『真実の愛』を見つけて、遠い将来にでもその娘と結ばれる可能性ができたのを見ると、私も堪えられなくなったんだ」
笑顔から一転、真面目な表情になり、真っ直ぐ自分を捉えるセルダの視線にリネットはごくりと息を飲む。
「真実の愛」の連鎖…。
「リネット嬢がセドリック・ゴルディ殿と婚約している事ももちろん知っている。セドリック殿とゴルディ侯爵とは昨日話して、リネット嬢に求婚する許可はもらったよ」
セドリック、許可したんだ…。
昨日の、リネットの顔を見ないセドリックを思い出し、リネットの胸はツキンと痛んだ。
セルダは立ち上がると、リネットの前に跪き、手を取ってリネットを見上げる。
真っ直ぐなセルダの紫の瞳に真剣さと甘さを見つけ、リネットは頭がくらくらしてきた。
「リネット嬢…私は貴女が好きだ。私の妃になる事を真剣に考えてみて欲しい」
あなたにおすすめの小説
ANGRAECUM-Genuine
清杉悠樹
恋愛
エマ・マクリーンは城で開催される新年の祝賀行事に参加することになった。
同時に舞踏会も開催されるその行事に、若い娘なら誰もが成人となって初めて参加するなら期待でわくわくするはずが、エマは失望と絶望しか感じていなかった。
何故なら父からは今日会わせる相手と結婚するように言われたからだ。
昔から父から愛情も受けた記憶が無ければ、母が亡くなり、継母が出来たが醜い子と言われ続け、本邸の離れに年老いた侍女と2人暮らしている。
そんな父からの突然の命令だったが背けるわけがなく、どんな相手だろうが受け入れてただ大人しくすることしか出来ない。
そんな祝賀行事で、運命を変える出会いが待っていた。魔法を扱う部署のマギ課室長レナート・シルヴィオと、その義妹、ホノカ・シルヴィオと出会って。
私、こんな幸せになってもいいんですか?
聖獣というもふもふが沢山出て来て、魔法もある世界です。最初は暗いですが、途中からはほのぼのとする予定です。最後はハッピーエンドです。
関連作品として、CLOVER-Genuine(注:R18指定)があります。
ANGRAECUM-Genuineは、CLOVER-Genuineのその後という感じの流れになっています。
出来ればCLOVER-Genuineを読んだ後にこちらを読んで頂いた方が分かり易いかと思います。
アルファポリス、小説家になろう、pixivに同時公開しています。
能ある妃は身分を隠す
赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。
言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。
全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。
婚約破棄され泣きながら帰宅している途中で落命してしまったのですが、待ち受けていた運命は思いもよらぬもので……?
四季
恋愛
理不尽に婚約破棄された"私"は、泣きながら家へ帰ろうとしていたところ、通りすがりの謎のおじさんに刃物で刺され、死亡した。
そうして訪れた死後の世界で対面したのは女神。
女神から思いもよらぬことを告げられた"私"は、そこから、終わりの見えないの旅に出ることとなる。
長い旅の先に待つものは……??
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?
ねーさん
恋愛
アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。
何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。
何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。
「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…
秘密の多い令嬢は幸せになりたい
完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。
完結が確定しています。全105話。