16 / 51
15
15
五人で食事をしている間は、お兄様やメルソロ様やヨルグ様も一緒に会話を楽しめるんだけど、その後、サロンに移動して、そこでレオナルト殿下と二人きりにされるのが……
もちろんサロンの扉の外にはお兄様とヨルグ様が控えているのはわかっているんだけど、それでも二人きりは二人きりだもの、緊張するし、嫌な感じはちっとも薄まらないし、切り上げるタイミングを計るのも難しいし、正直この時間がとても苦手だわ。
エステルは隣の一人用ソファに座るレオナルトをチラッと見る。
レオナルトは今度の週末には観劇に行こうとエステルを誘い、その演目について話していた。
「その海賊たちの冒険譚は獣国でも人気のある演目なんだ。エステルは見た事があるか?」
「いえ。観劇自体あまり行った事がなくて」
エステルが首を横に振ると、レオナルトは驚いたように目を開く。
「そうなのか?観劇や演奏会はデートの定番だろう?婚約者に誘われなかったのか?」
「それは…」
「誘われなかったんだな。つまり、あの男は婚約者を蔑ろにしていたという事だ」
それは私が人が多い場所が苦手だから。と続けようとするが、被せるようにレオナルトが少し声を大きくして言った。
「違います!」
エステルが強く言うと、レオナルトが眉を顰める。
ライルは私を大切にしてくれているわ。
例えそれが責任感からであっても、大切にされている事に間違いはないもの。
レオナルトの表情が不機嫌そうに見えて、エステルは「怖い」と思う。それでも腿の上に置いた手を握りしめてレオナルトを見た。
「ライルを『あの男』なんて言わないでください」
レオナルトは目を見開くと「はあ」と息を吐いて俯き、自分の頭をワシワシを搔く。
「…悪かった」
手を下ろすと、両手を腿の上に置き、エステルに向かって頭を下げた。
「エステルの婚約者だから、嫉妬してしまった」
顔を上げたレオナルトは眉を下げ、しょんぼりしている。
「今後もライルの事を悪く言わないでいただけるなら、許します」
エステルがそう言うと、レオナルトはパッと笑顔になって「わかった!」と言った。
「そろそろ部屋に戻りますね」
「エステル」
エステルが立ち上がろうとすると、レオナルトがエステルの手首を掴む。
ゾクッと悪寒のようなものが走り、エステルは身体を強張らせた。
「いつもより早くないか?もう少し…」
「試験勉強をしたくて」
「そうか…それは仕方がないな」
エステルの手首を掴んだ手を指の方へ滑らせると、レオナルトはエステルの手の甲へ唇を寄せる。
挨拶。
これは挨拶よ。
エステルは自分に言い聞かせて思わず引きそうになる手を留めた。
レオナルトの唇が軽くエステルの手の甲に触れる。
「エステル、おやすみ」
ニコリと微笑むレオナルト。
「おやすみなさい。レオナルト殿下」
エステルも微笑みを浮かべた。
-----
「どうも打ち解けてくれないんだよな…」
レオナルトは滞在する部屋に戻ると、ドサリとソファに座ると一人呟く。
獣人同士なら「運命の番」イコール「恋人」で、相手に婚約者がいたり結婚していたり同性だったり歳の差があったりの状況によってはすぐに結ばれるのは難しくとも、互いに強く惹かれ合う事は例外のない事実だ。
しかしヒトは「運命」を認知できない。
結ばれるにはその心を手に入れなければ…
わかっているが、もどかしいな。とレオナルトは思った。
目の前にいるのは愛しい「番」。
エステルの何もかもがかわいいし、綺麗だし、好きだ。
あの良い匂いのする身体を抱きしめたい。そして口付けて、思うさまに触れたい。
なのにエステルは手に触れただけで身を固くする。
俺の「運命」なのに。
ラインハルトという、俺の「番」の婚約者。
あいつとの婚約のせいでエステルが俺に心を許してくれないのだろう。
あいつはエステルをデートにも誘わないくせに、エステルはあいつを慕っているようだ。
婚約者を「あの男」と言ったら、エステルに怒られた。
「怒った顔もかわいかったな…」
エステルはあいつを「ライル」と呼んでいる。
……羨ましい。
俺も「レオナルト殿下」ではなく、エステルのかわいい声で「レオナルト」とか「レオ」とか呼ばれたい。
俺がエステルを呼び捨てにする許可は早々に取り付けたが、あの時も「エステルと呼んでもいいか?」と言うと困った表情をしていたっけ。頼み込んだらようやく頷いてくれたけど。
困った顔ももちろんかわいかったが。
三か月の内の二週間がもう過ぎてしまった。あと二か月半…
その間にエステルの心を得る事ができるだろうか?
いや、できるかどうかではない。愛しい「番」を残して帰国する選択肢など、俺にはないのだから。
五人で食事をしている間は、お兄様やメルソロ様やヨルグ様も一緒に会話を楽しめるんだけど、その後、サロンに移動して、そこでレオナルト殿下と二人きりにされるのが……
もちろんサロンの扉の外にはお兄様とヨルグ様が控えているのはわかっているんだけど、それでも二人きりは二人きりだもの、緊張するし、嫌な感じはちっとも薄まらないし、切り上げるタイミングを計るのも難しいし、正直この時間がとても苦手だわ。
エステルは隣の一人用ソファに座るレオナルトをチラッと見る。
レオナルトは今度の週末には観劇に行こうとエステルを誘い、その演目について話していた。
「その海賊たちの冒険譚は獣国でも人気のある演目なんだ。エステルは見た事があるか?」
「いえ。観劇自体あまり行った事がなくて」
エステルが首を横に振ると、レオナルトは驚いたように目を開く。
「そうなのか?観劇や演奏会はデートの定番だろう?婚約者に誘われなかったのか?」
「それは…」
「誘われなかったんだな。つまり、あの男は婚約者を蔑ろにしていたという事だ」
それは私が人が多い場所が苦手だから。と続けようとするが、被せるようにレオナルトが少し声を大きくして言った。
「違います!」
エステルが強く言うと、レオナルトが眉を顰める。
ライルは私を大切にしてくれているわ。
例えそれが責任感からであっても、大切にされている事に間違いはないもの。
レオナルトの表情が不機嫌そうに見えて、エステルは「怖い」と思う。それでも腿の上に置いた手を握りしめてレオナルトを見た。
「ライルを『あの男』なんて言わないでください」
レオナルトは目を見開くと「はあ」と息を吐いて俯き、自分の頭をワシワシを搔く。
「…悪かった」
手を下ろすと、両手を腿の上に置き、エステルに向かって頭を下げた。
「エステルの婚約者だから、嫉妬してしまった」
顔を上げたレオナルトは眉を下げ、しょんぼりしている。
「今後もライルの事を悪く言わないでいただけるなら、許します」
エステルがそう言うと、レオナルトはパッと笑顔になって「わかった!」と言った。
「そろそろ部屋に戻りますね」
「エステル」
エステルが立ち上がろうとすると、レオナルトがエステルの手首を掴む。
ゾクッと悪寒のようなものが走り、エステルは身体を強張らせた。
「いつもより早くないか?もう少し…」
「試験勉強をしたくて」
「そうか…それは仕方がないな」
エステルの手首を掴んだ手を指の方へ滑らせると、レオナルトはエステルの手の甲へ唇を寄せる。
挨拶。
これは挨拶よ。
エステルは自分に言い聞かせて思わず引きそうになる手を留めた。
レオナルトの唇が軽くエステルの手の甲に触れる。
「エステル、おやすみ」
ニコリと微笑むレオナルト。
「おやすみなさい。レオナルト殿下」
エステルも微笑みを浮かべた。
-----
「どうも打ち解けてくれないんだよな…」
レオナルトは滞在する部屋に戻ると、ドサリとソファに座ると一人呟く。
獣人同士なら「運命の番」イコール「恋人」で、相手に婚約者がいたり結婚していたり同性だったり歳の差があったりの状況によってはすぐに結ばれるのは難しくとも、互いに強く惹かれ合う事は例外のない事実だ。
しかしヒトは「運命」を認知できない。
結ばれるにはその心を手に入れなければ…
わかっているが、もどかしいな。とレオナルトは思った。
目の前にいるのは愛しい「番」。
エステルの何もかもがかわいいし、綺麗だし、好きだ。
あの良い匂いのする身体を抱きしめたい。そして口付けて、思うさまに触れたい。
なのにエステルは手に触れただけで身を固くする。
俺の「運命」なのに。
ラインハルトという、俺の「番」の婚約者。
あいつとの婚約のせいでエステルが俺に心を許してくれないのだろう。
あいつはエステルをデートにも誘わないくせに、エステルはあいつを慕っているようだ。
婚約者を「あの男」と言ったら、エステルに怒られた。
「怒った顔もかわいかったな…」
エステルはあいつを「ライル」と呼んでいる。
……羨ましい。
俺も「レオナルト殿下」ではなく、エステルのかわいい声で「レオナルト」とか「レオ」とか呼ばれたい。
俺がエステルを呼び捨てにする許可は早々に取り付けたが、あの時も「エステルと呼んでもいいか?」と言うと困った表情をしていたっけ。頼み込んだらようやく頷いてくれたけど。
困った顔ももちろんかわいかったが。
三か月の内の二週間がもう過ぎてしまった。あと二か月半…
その間にエステルの心を得る事ができるだろうか?
いや、できるかどうかではない。愛しい「番」を残して帰国する選択肢など、俺にはないのだから。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、もう頑張りません 〜静かな公爵に放っておかれたら、本当の人生が始まりました〜
あう
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
前世社畜の令嬢、『複式簿記』で没落領地を即黒字化!〜冷徹補佐官と最強の仕事中毒パートナーになり極上ハーブ茶で王都席巻〜
黒崎隼人
恋愛
前世、ブラック企業で過労死したアリア・ローズは、没落寸前の男爵令嬢として転生した。
目を覚ますと、そこは借金まみれで破綻寸前の領地。このままでは修道院送りのバッドエンド……!
「冗談じゃないわ。私の平穏な老後は、私がこの手で掴み取る!」
前世の知識と異常なまでの仕事への情熱を武器に、アリアは立ち上がる。
どんぶり勘定の帳簿に『複式簿記』を導入し、悪徳代官の不正を暴き、領地の特産品であるハーブ茶の包を改良して王都へ売り込む!
そんな彼女を最初は冷ややかに見ていた有能な若き補佐官ルーク・ウォレン。
しかし、彼女の底知れぬ知識と熱意に当てられた彼は、やがて彼女の「最強の仕事中毒パートナー」となっていく。
夜の執務室、二人きりで飲む琥珀色のハーブ茶。数字の羅列から始まった冷徹な関係は、いつしかかけがえのない絆へと変わっていき——。
「私があなたの隣で数字を弾き出す。そのための、終身契約です」
前世社畜の令嬢と冷徹補佐官が織りなす、痛快な領地再建&じれ甘ラブストーリー、ここに開幕!
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
平凡な令嬢と平凡じゃない友人たち
ぺきぺき
恋愛
身分問わず優秀な学生が通う、王立学園。その中で目立たない茶髪にハシバミ色の瞳を持ち、真ん中よりちょっと下くらいの成績の、平凡な伯爵令嬢であるはずのセイディ・ヘインズはなぜか学園の人気者たちに囲まれて平凡ではない学園生活を送っていた。
ーーーー
(当社比)平凡なヒロインと平凡じゃない友人たちが織り成す恋愛群像劇を目指しました。
カップル大量投入でじれもだラブラブしてます。お気に召すカップルがいれば幸いです。
完結まで執筆済み。
一日三話更新。4/17完結予定。←すみません、一日ミスしてました…。
隠された第四皇女
山田ランチ
恋愛
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
年下なのに俺様な婚約者が、私にだけ甘すぎて困っています
由香
恋愛
婚約者は年下で、生意気な俺様系公爵令息。
——のはずだった。
「勝手に離れるな。お前は俺の婚約者だろ」
社交界では冷酷無慈悲と恐れられる彼は、なぜか私にだけ距離が近く、甘く、そして独占欲が強い。
これは政略結婚。情なんて必要ない——そう思っていたのに。
気づけば私は、彼の言動に振り回され、そして少しずつ、その不器用な優しさに惹かれていく。
年下なのに強引で、俺様なのに甘すぎる婚約者と、愛でるはずが溺愛されていく令嬢の物語。
元の世界に帰らせていただきます!
にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。
そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。
「ごめんね、バイバイ……」
限界なので、元いた世界に帰らせていただきます。
・・・
数話で完結します、ハピエン!
王都を追放された公爵令嬢、辺境で財政革命を起こす
緑緑緑
恋愛
婚約破棄を告げられたその瞬間、公爵令嬢リュシア・エーベルハルトの意識はすでに左遷先の帳簿の上にあった。
王妃候補として費やした十数年。磨き抜いた政務の知識と、数字を読む眼。「冷たい」「可愛げがない」「民を思う心がない」と切り捨てた元婚約者には、彼女の持つ本当の価値が理解できなかった。
だが、辺境グラナート領では違った。リュシアは歯に衣着せぬ物言いと、感情を挟まない数字の論理で、静かに、しかし確実に不正へ切り込んでいく。
「帳簿は嘘をつかない。嘘をつくのは、人です」
最初は懐疑的な目を向けていた領主の息子ロルフも帳簿を前に並んで戦う内に、気づけば彼女から目が離せなくなっていた。
王都を追放された令嬢が、領地を救い、国を変え、そしてただ一人の男に溺愛される——これはそんな物語。