「運命の番」と言われましても。

ねーさん

文字の大きさ
17 / 51

16

16

 エーリックがクロフト伯爵家の王都屋敷に帰ると、すぐにエリシアが駆け寄って来た。
「お兄様、エステルは大丈夫なの?」
「エリシア」
「ううん。大丈夫なはずがない。だってレオナルト殿下は獣人だもの、立派な体躯で筋骨隆々で……エステルは怖いと思っているわ。双子だからわかるの」
 離れていても強い感情は伝わって来るのだとエリシアはエーリックに訴える。
「そうだな…確かにレオナルト殿下に手を握られたりする度に少し怯えているように見える」
「手を!?」
 エリシアはまるで自分が男性に手を握られたかのように嫌悪の表情を浮かべ、胸の前で自分の片手を隠すようにもう片方の手で押さえた。
「好きでもない相手に手を握られるなんてゾッとするわ。……お兄様、エステルを護ってね。お願い」
「もちろん。今日はラインハルトが来るから帰って来たんだ」
「ライルが?」
 エステルが学園に行っている間がエーリックの休憩時間となり、その時間エーリックは近衛騎士隊の詰所の休息所で睡眠を取っている。
 学園が休みの日にも同じくらいの時間に他の騎士と交代して休憩しているので、エーリックがクロフト伯爵邸に帰って来るのも久しぶりだ。
「ライルにお兄様や私たちとの接触も控えるように、なんて国のお偉い方たちも勝手が過ぎると思ってたけど…今日は大丈夫なの?」
 自室がある二階へ向かうエーリックに着いて、階段を上るエリシアは心配そうにエーリックを見上げた。
「ヴィラン殿下を通じてエステル本人以外となら多少の接触は良いと許可を取ったそうだ」

 エーリックは部屋で追加の着替えなどを纏め、エリシアもエステルに渡す物をエーリックに事付けるよう準備をして、二人で階下へ下りた頃、ラインハルトが乗った馬車が到着する。
 迎えに出たエーリックとエリシアの姿を確認すると、馬車から降りたラインハルトはふと頬を緩めた。
「エーリック兄さん、エリシア」
 しかし次の瞬間には口元を引き締める。
「ラインハルト…眠れていないのか?」
 目の下に隈があるラインハルトを邸内へと促しながら、エーリックは気遣わし気に言った。
「エステルが国公認で他の男に口説かれている状況で眠れる訳がない……眠れば嫌な夢ばかり見ますし」
「そうか」
 エリシアとエステルほどではないが、ラインハルトにも誘拐事件の心的外傷トラウマは残っているからな…
 エーリックは自分と変わらない背丈の幼なじみであり弟分でもあるラインハルトの頭をポンポンと叩く。

 応接室に入り、長ソファにラインハルト、向かいの一人用ソファにエーリックとエリシアがそれぞれに座った。
「アンから学園でのエステルの様子は聞いているんですけど、王城ではどうしていますか?……レオナルト殿下とは…?」
 ラインハルトは不安そうに問う。
「さっきお兄様にも言ったけど、エステルはレオナルト殿下を『怖い』と思ってるわ。私にはわかる」
 エリシアがそう言い切ると、ラインハルトは眉を下げた。
 エステルに怖い思いなど二度とさせたくなかったのに…
 ラインハルトは拳を握りしめる。
「今の処、エステルはレオナルト殿下に好意を持ったりはしていないよ」
 エーリックの言葉にホッと息を吐くラインハルト。エーリックはラインハルトを見ながら話を続ける。
「獣人にとって『運命の番』とは出会った瞬間から互いに強く惹かれ合うものらしいから、エステル…ヒトが『運命』だと獣人同士とは勝手が違い、レオナルト殿下も戸惑われたりもどかしく思われたりしているようだ」
「それは……お気の毒ではあるけど、こちらだって戸惑っているし、もどかしく思っているわ」
 エーリックがレオナルトを擁護したと感じて、エリシアは唇を尖らせた。
「そうだね」
「……」
 エーリックは苦笑いをしながら、ラインハルトは無言で頷く。
「エステルをうちにも帰さないなんてまるで監禁だわ。家族は会いに行けるって言われても、私は……王城になんて行けない……」
 悔しそうに眉を寄せるエリシアの眼に涙が浮かんだ。
 家では気丈にしていても、父と兄とラインハルト以外の男性がいる場では恐怖で恐慌状態になり、身体が震え、涙が出て、吐き気がする。
 だからエステルに会いに行く事ができないエリシアは、双子の窮地に何もできない自分に嫌気が差していた。
「泣かないでエリシア。もどかしいのは俺も同じだよ。エステルが怖がっているのに傍にいる事もできない……黙ってエステルを奪われるつもりなどないのに、今、俺にできる事がないんだ」
 ラインハルトは苛立ったように拳で自分の腿を叩いた。





感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、もう頑張りません 〜静かな公爵に放っておかれたら、本当の人生が始まりました〜

あう
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

前世社畜の令嬢、『複式簿記』で没落領地を即黒字化!〜冷徹補佐官と最強の仕事中毒パートナーになり極上ハーブ茶で王都席巻〜

黒崎隼人
恋愛
前世、ブラック企業で過労死したアリア・ローズは、没落寸前の男爵令嬢として転生した。 目を覚ますと、そこは借金まみれで破綻寸前の領地。このままでは修道院送りのバッドエンド……! 「冗談じゃないわ。私の平穏な老後は、私がこの手で掴み取る!」 前世の知識と異常なまでの仕事への情熱を武器に、アリアは立ち上がる。 どんぶり勘定の帳簿に『複式簿記』を導入し、悪徳代官の不正を暴き、領地の特産品であるハーブ茶の包を改良して王都へ売り込む! そんな彼女を最初は冷ややかに見ていた有能な若き補佐官ルーク・ウォレン。 しかし、彼女の底知れぬ知識と熱意に当てられた彼は、やがて彼女の「最強の仕事中毒パートナー」となっていく。 夜の執務室、二人きりで飲む琥珀色のハーブ茶。数字の羅列から始まった冷徹な関係は、いつしかかけがえのない絆へと変わっていき——。 「私があなたの隣で数字を弾き出す。そのための、終身契約です」 前世社畜の令嬢と冷徹補佐官が織りなす、痛快な領地再建&じれ甘ラブストーリー、ここに開幕!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

平凡な令嬢と平凡じゃない友人たち

ぺきぺき
恋愛
身分問わず優秀な学生が通う、王立学園。その中で目立たない茶髪にハシバミ色の瞳を持ち、真ん中よりちょっと下くらいの成績の、平凡な伯爵令嬢であるはずのセイディ・ヘインズはなぜか学園の人気者たちに囲まれて平凡ではない学園生活を送っていた。 ーーーー (当社比)平凡なヒロインと平凡じゃない友人たちが織り成す恋愛群像劇を目指しました。 カップル大量投入でじれもだラブラブしてます。お気に召すカップルがいれば幸いです。 完結まで執筆済み。 一日三話更新。4/17完結予定。←すみません、一日ミスしてました…。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

年下なのに俺様な婚約者が、私にだけ甘すぎて困っています

由香
恋愛
婚約者は年下で、生意気な俺様系公爵令息。 ——のはずだった。 「勝手に離れるな。お前は俺の婚約者だろ」 社交界では冷酷無慈悲と恐れられる彼は、なぜか私にだけ距離が近く、甘く、そして独占欲が強い。 これは政略結婚。情なんて必要ない——そう思っていたのに。 気づけば私は、彼の言動に振り回され、そして少しずつ、その不器用な優しさに惹かれていく。 年下なのに強引で、俺様なのに甘すぎる婚約者と、愛でるはずが溺愛されていく令嬢の物語。

元の世界に帰らせていただきます!

にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。 そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。 「ごめんね、バイバイ……」 限界なので、元いた世界に帰らせていただきます。 ・・・ 数話で完結します、ハピエン!

王都を追放された公爵令嬢、辺境で財政革命を起こす

緑緑緑
恋愛
婚約破棄を告げられたその瞬間、公爵令嬢リュシア・エーベルハルトの意識はすでに左遷先の帳簿の上にあった。 王妃候補として費やした十数年。磨き抜いた政務の知識と、数字を読む眼。「冷たい」「可愛げがない」「民を思う心がない」と切り捨てた元婚約者には、彼女の持つ本当の価値が理解できなかった。 だが、辺境グラナート領では違った。リュシアは歯に衣着せぬ物言いと、感情を挟まない数字の論理で、静かに、しかし確実に不正へ切り込んでいく。 「帳簿は嘘をつかない。嘘をつくのは、人です」 最初は懐疑的な目を向けていた領主の息子ロルフも帳簿を前に並んで戦う内に、気づけば彼女から目が離せなくなっていた。 王都を追放された令嬢が、領地を救い、国を変え、そしてただ一人の男に溺愛される——これはそんな物語。